表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第四章 湖めぐり旅2
123/243

嫌な予感しかしない

「ふー、よしいくぞー! さあ仕留めてくれるわ!」


 エリックさんは竹水筒で水をゴクゴクと飲み、手で口元をぬぐう。


 クルーザーから主力船に乗り移り、前線へと向かった。


 順番にアマラ達も小船に乗り、俺達から離れていく。かぎ爪を手にはめて振り回していた。


 腹が満ちれば、やる気も出るし気合いも入る。

 


 残ったフローラ達も、見てるだけでは我慢できなくなる。


「うー海彦、私達も参加した方がいいんじゃない? ボウ銃くらいは撃てるわよ」


「そうねん、私も戦いたいわん!」


「だわさ!」


 狩人の血が騒ぐのかもしれないが、俺は女達を押しとどめる。


「だめだ。ハイドラの出番は一番後だし、まだ何が起きるか分からん」


「うー、けちんぼ!」


「……ずいぶん慎重になったわね? 海彦」


「いっつも、土壇場どたんばでひっくり返されて痛い目をみてるからな。悪いが我慢してくれ。それに前線はエリックさん達で十分だから、割り込むとかえって邪魔になる」


「仕方ないわね」


 女達は不満そうだ。しかし俺は心を鬼にして妥協だきょうはしない。


 確かに作戦は順調で、フタバ竜は見る限りでは弱ってきており、一気に仕留めたくなる。


 それでも不安材料は二つあった。


 一つはロリエの占いで、は良くなかったのだ。当たるから始末が悪いんだなこれが。


 そしてもう一つは……作者の野郎がすんなり終わらせるとは思えないのだ。


 絶対、俺に嫌がらせをしてくるに決まってる。ふざけんなー!


(ふっふふふふふふ……)



 俺の不安をよそに、フタバ竜への攻撃は休むことなく続き、とうとう奴もへばってきた。


 明らかに動きが鈍くなっていて、反撃すらしてこなくなる。もうグロッキー状態だ。


 だがここで焦ってはいけない。慌ててはいけない。


 叔父の言葉を思い出し、慎重に攻めるように伝令に伝達してもらう。


「了解しました。勇者さま!」


 フタバ竜はもうハリネズミ状態だ。大量の青い血が湖を染めていた。


 やがて長い首が湖に沈み、ついに動かなくなる。背中のコブだけが浮かんでいた。


「よっしゃー! あと一息!」


「これだけ刺されば当然じゃ!」


 それでもフタバ竜は小刻みに動いており、完全には死んではいない。


 ここにきて俺も腹をくくり、最後の攻撃をすべく銅鑼を叩いて合図する。


 夜を待たず、決着がつきそうだった。

 

「全艦隊集結! トドメを刺すぞ、囲い陣形だ!」


「おおおおお!」


 リンダに言って、クルーザーも前線に出す。


 これが戦争だったら降伏勧告をするところだが、生憎あいにくと神怪魚は人ではない。


 全艦による一斉射の後に、雷撃部隊を投入するつもりだ。


 ここまでくると電撃は必要ないかもしれないが、用心に用心を重ねる。


 発射準備が完了すると、戦士達は次々と手を上げて知らせてくれた。


「よーし、撃て……えっ!?」



 攻撃する直前、フタバ竜が俺達の前から消えた。


 自ら潜ったわけではなく、何かに引っ張られるように、水の中に引きずりこまれたのだ。


 俺はまたか、と思って顔をしかめる。


「おいおい、また別な神怪魚でも現れたか? 横取りされたか? 勘弁してくれよー!」


「違うわ海彦。霊道アウラが開いた様子はないし、瘴気ミアスマの色は変わっていないわ」


「じゃー、一体何事が起きたんだ? うーん……シレーヌすまない、見てきてくれるか?」


「はいです――う!」


 俺が偵察を頼もうとしたその時!


「パオオオーン!」


「ばかな!?」


 水しぶきを上げてフタバ竜が再び姿を現した。それも艦隊の真後ろから!


 消えてから時間はさほど経っていない。それなのに一瞬で俺達はうしろをとられていた。


 しかも、フタバ竜の傷が一切なくなっており、刺さっていた矢と銛もない。


「信じられないわ!」


 動揺は味方全体に広がってしまう。大混乱になるのは無理もない。


 俺だってわけが分からない。誰か教えてくれー!

 こうなったら逃げる他はなかった。


「全軍撤退! 全艦逃げろー!」


「うわあー!」


 とは言ったものの後をとられた時点で、小船の何艘なんそうかは体当たりを食らい撃沈されていた。


 混乱は収まらず、負傷者が増えていく。防御魔法も間に合わない。


「ちいぃ! テレサさーん! 落ちた人の救助をお願いしまーす!」


「分かりましたー!」


 まずは人魚達に救出を頼む。


 あとは何とか態勢を立て直そうと、俺は大声で指示するが……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ