おにぎりは美味い
蒸気砲の元ネタは捕鯨砲、ただ火薬がないから銛を発射するのに蒸気を使ったのだ。
発射したのは、平頭銛――先端を尖らせずに平面にしたものだ。
ボウ銃の矢の鏃も同様に先端を削ってある。
これだと飛距離は落ちるし、奴には刺さらないと誰もが思うだろう。
ところが丸みを帯びているフタバ竜は、尖っている矢ほど刺さりにくく、ほとんどの矢が滑って弾かれてしまうのだ。つるりんとね。
そこで「刺す」ことよりも、「当てる」ことを重視する。
この点も鯨漁と同じだ。
蒸気砲の威力と速度があれば、先端が平面でも関係なしに突き刺さるのだ。
さらに俺が注文をつけた点は、砲筒に螺旋状の溝を彫ってもらったことだ。
銃身の中にあるライフリングである。
これで銛は回転しながら飛ぶので、安定性がまして威力が上がるのだ。
蒸気砲の唯一の弱点は連射がきかないことで、蒸気が蒸気タンクに溜まらない内は撃てず、クルーザーでは蒸気がなくなってエンジンが止まってしまう。
そこで主力船には動力を二つつけた。移動用の電動機と攻撃用の蒸気機関。
あとは火と雷の二人の魔法使いが精霊を召喚し、それぞれ動力を動かしてもらう。
これで砲手は攻撃に専念できる。
良いことずくめに見えるが、主力船にも弱点はあった。
やはり船体が大きく小舟よりは重いので、船足はやや遅く小回りが利かない。
操船ミスで離脱が遅れた一隻が、フタバ竜に追いつかれそうになる!
そこに、
「やあああああ!」
「ブオオオオ!」
小舟に乗っていたアマラが、フタバ竜に飛びかかって新たな武器で斬りつけた。
武器は今までの骨爪にあらず、手にはめているのは鉄のかぎ爪で、鋭い切れ味をもっている。
アマラの怪力も加わり、フタバ竜の皮膚を切り裂いた。リンダ製は半端ではない。
反撃される前にアマラは素早く飛び去る。
「アマラちゃん、こっち!」
「うん!」
水の中にいるシレーヌが大きめの樽を抱えていて、それに向かってアマラは飛ぶ。
樽を踏み台にし、ジャンプして小舟に戻った。
俺が考えた作戦は、「ぴょんぴょんゲーム」だった。獣人族の跳躍力を生かした戦法である。
プール遊びの応用で人魚達が樽を支えてくれれば、ドボンと湖に落ちることもない。
まあ兎というよりは、見た目は豹だが。
獣人と人魚のコラボレーションだ。人魚達が樽を移動させて、獣人達に声をかけていた。
アマラは葦で足場を作って戦ったようだが、何度も同じ場所に着地したので、そこを狙われてやられてしまった。
たった一人だけだったのも、まずかったと言える。
そこで人魚達には樽をランダム移動してもらい、的を絞らせないよう工夫した。
跳ね回る獣人達にフタバ竜は翻弄されて、どこを攻撃すればいいのか分からなくなる。
人魚を狙っても、樽を囮にされて逃げられてしまう。
獣人達は主力船が攻撃に戻ってくるまで陽動し、ダメージを与えていた。
こうして連続攻撃は永遠と続く――絶対に奴を休ませる気はなかった。
一時間おきに部隊を交代させるので、俺達は休めて余裕がある。
昼過ぎ、主力部隊の面々は昼食を食べながら、戦況をながめていた。
「もぐもぐ、なかなかしぶといのう。まあいい、ありったけの銛をぶち込んでくれるわ!」
「でござるな、ここまでは勇者殿の作戦通り。それにしてもコレは美味いでござる!」
「がつがつ、アマラもっと切り刻む! アイツが倒れるまで!」
「パクパク、うんうん!」
飯を食いながら、過激な発言をしている。みんな血の気が多すぎるわ。
食べているのは、「米」の握り飯。竹の皮に包まれみんなに配られていた。
弁当を作ってくれた、アマラの婆さんと奥様達に感謝だ。
ニュクス湖にきて稲を発見した時、俺は涙した。
「こんなに嬉しい物はない!」
やはり米は日本人のソウルフードであり、毎日の食事にはかかせない。
あえて言おう、麦飯はまずいと!
ちなみにクルーザーにあったお米は、全部女達に食われました。大食らいどもめー!
もし女達が大食い選手権にでたら、誰が優勝してもおかしくはない。
俺は自生している稲を刈り取ってもらい、脱穀・脱稃して精米した。
手間がかかるので、手ではやっとられん。
機械を動かしてくれる、精霊さんがいて本当に良かった。
獣人達は稲が食べられる物とは知らず、採集もされていなかったが、これからは田んぼで作られる予定だ。
炊いた米はモチモチ感があって甘く、日本米に引けを取らなかった。
こうしてみんなが美味そうに、おにぎりを食べている……中の具についてはノーコメント、聞かないでください。
ここに梅干しはありません……。