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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第四章 湖めぐり旅2
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総指揮官をやるしかない

 そしてエリックさんが、四隻の主力船を連れて戻ってきた。補給船も一緒だ。


 予定より三日は早く、やはり急いでくれたのだろう。


 主力船の全長は十一メートル、船幅は三メートル弱で細長い木造船。乗員は三名。


 電動の船外機が後部にあり、船首には小型の蒸気機関と新兵器が設置されている。


 船は前後のバランスが上手くとられていて、機動戦闘にはもってこいだ。


 鉄船は防御力はあったが、船足がなかったせいで逃げられず、鰐鮫に体当たりをくらい横倒しにされた。

 ……あれは苦い経験だ。


 やはり敵の攻撃は避けるべきで、もう遅い帆掛船ほかけぶねで戦う気はなかった。


 動いていれば、そうそう当たるものではない!



 船と武器が来たからといって、俺達はすぐには戦わない、フタバ竜とは戦えない。


 なぜなら主力船のならし運転と、連係訓練もしないうちに敵に挑むのは愚かだから。


 負けは許されない戦いなので、慎重に事を進める。


「うー、我慢だ」


 誰もが早く戦いたくてウズウズしているが、俺はみんなに我慢してもらい、一週間の訓練をすることにした。


 夜には模擬訓練シミュレーションで技能を高め、かがり火を焚いての夜間演習もする。


 多数の小舟ボートが参戦するので、もう艦隊と言っていい。こうなると湖が狭く感じる。


 案の定、訓練中は船同士が何度もぶつかって、喧嘩がたえなかった。


「てめー、どこ見てやがる!」


「そっちこそー!」


「お互いにゆずりあえ! 基本は面舵で避けろ!」


 なだめる指揮官は俺、クルーザーから大声で指示を出す。


 戻ってきたエリックさんに、俺は総指揮を頼んだのだが……断られた。


「神怪魚と戦い慣れとる海彦殿が指揮官に相応ふさわしい。儂は最前線に出る!」


「拙者も先鋒せんぽうにて戦いたいでござる!」


 おっさん達は好戦的で、止めても無駄だった。

 トップだからこそ威厳を示す必要もあるのだろう。単に戦闘狂なのかもしれないが……。


 ただ二人とも、命令するだけの威張り屋の卑怯者ではない。これは尊敬に値する。



 こうして俺は指揮官をおしつけられた。嫌なんだけどねー……他にやる人がいない。


 王様と族長には前線指揮を任せることにして、あまり前に出ないようには言った。


 女達も前線に出たがるが、本陣のクルーザーの護衛ということで我慢してもらう。


 俺達は予備戦力であり、不測の事態(イレギュラー)に備えるためだ。


 切り札の雷撃部隊も後方で待機して出番待ち、最後の最後に動く。


 勝手に動きそうな雅はミシェルに見張らせていて、親衛隊には伝令役を頼んでおいた。


 アマラとシレーヌだけが前線で戦うことになる。心配だけどねー。


 二人は戦力として必要だったので仕方ない。俺はくどいくらい忠告をしておく。


「あくまで陽動だからな、無理はするなよ」


「アマラ分かった。疲れたら下がる」


「はい海彦さん!」


 こうして一週間の訓練は終わり、あとはフタバ竜との決戦あるのみ。


 前日の夜には奥様達に頼んで、男達には絶対に酒を飲ませず、夜更かしもさせなかった。


 騎士団はともかく、正式な軍隊ではないので規律はゆるい。宴会すんなー!



 明朝。


「全艦隊出撃!」


「ウオオオオオー!」


 朝霧の中、戦士達が船に乗り込み、フタバ竜討伐艦隊(フリート)は出撃する。


 小舟ばかりで艦隊というのも変だが、戦う気分を盛り上げるために名付けた。


 軍事行動で作戦名をつけたりするのも、格好つけだと俺は思っている。


 英雄ヒーローにでもなりきってないと、恐怖に押しつぶされて、命がけの戦いなんぞやっとられんわな。


 まあ俺達の場合は、人の生存権がかかっているので誰もが必死である。


 今はニュクス湖だけの危機だが、次はセレネ湖が被害を受けることになる。

 ここで阻止せねばならない。


 目指すは、フタバ竜の根城である小島。ゆっくりと、なるべく静かに俺達は近づいていく。


 日が昇り霧が晴れていくと、奴の姿が遠くからでも見えた。


 俺は双眼鏡で寝ているのを確認し、右手を上げて全軍に合図を出す。


 艦隊は攻撃陣形を作りながら、一気に間合いを詰めていく。


 フタバ竜が首を上げた。小舟のモーター音に気づいたのだろう。

 俺は直ぐさま号令をかける。


「攻撃開始! 突撃ー!」


「うおおおおおおー!」


 雄叫びとともに戦いが始まる。


 まずは三(そう)小舟ボートが先陣を切り、フタバ竜に肉迫する。


 主力船の出番はまだ先だ。


「くらえ!」


 小舟に乗っている射手達が、ボウ銃を一斉に撃つ!


 数本の矢が当たりはしたが、刺さらなかった。やはり皮膚は固くて頑丈だ。


 それでも、かすり傷はついていた。


「プオオオーン!」


 フタバ竜は咆吼を上げて、怒り狂う。どうやら完全に目を覚ましたようだ。


 まずは挨拶代わりの先制攻撃ファーストアタック、戦いはまだ始まったばかりだ……。

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