戦いの準備をすすめるしかない
「発射!」
「おおっ!」
「速い!」
ボン、と音を立てて発射された物は、一瞬ではるか彼方に飛んで見えなくなった。
目で追えた者はその速さに驚いている。
試射は大成功、作ってくれたリンダとドリスのおかげだ。
速度と飛距離は十分だが、素早いフタバ竜に命中させるには、ある程度近づく必要はあるだろう。
第二射と行きたい所だが、すぐには撃てないんですよー。
これはボウ銃の弦の巻き上げ並みに遅く、ひどい欠点である。それでも使える物なのだ。
しばらくみんなには、待ってもらう……。
ようやく蒸気がたまってから、今度は木に向けて撃つ!
ドカン、という音ともに太い木に穴が空いていた。
「やった!」
「すげー! これなら勝てる!」
獣人達を中心に歓声が口々に上がった。
今まで奴に手も足も出なかったので、勝機が見えて嬉しがっている。
雅とミシェルも感心しながら見ていた。
「ボウ銃も凄かったですが、これはそれ以上ですわ!」
「これなら、フタバ竜も倒せるな海彦!」
「アルザスで作ってもらっているのは、これより性能は更に上のはずだ」
「おおっ!」
「見ての通り、問題なのはタンクに蒸気が溜まらないうちは、撃てないことなんだ。だから連射は無理。しかも……」
「一発撃ったらクルーザーは動けなくなる。フタバ竜に襲われたら一溜まりもないわ。すぐに出せる絶倫だったらよかったのになー」
「リンダ……卑猥な比喩は勘弁してくれ。まあ、今回クルーザーは予備戦力だ。主力船は撃っても動けるはず。ただ他にも面倒くさい注文をつけたからなー……多少時間はかかると思う」
「大丈夫ですわ海彦様。お父様は徹夜で船を作るでしょう。きっと間に合いますわ」
「アルザスにもドワーフはいるのじゃ。きっと上手くいく」
「そうだなドリス。みんなに任せるしかない」
ドリスの言葉に誰もが肯く。やはりドワーフの技術は信頼に足るからだ。
一族の誇りもあるだろう。
それから数日、特訓の日々が続く。
ボウ銃はフタバ竜に少しは効果があったので、モーターボートに乗っての射撃訓練をする。
俺は陽動をしてもらうつもりでいた。機動戦に上手く組み込めば、作戦は上手くいくはず。
フタバ竜に見立てた大きな的を作り、湖に立てて攻撃する。
操舵が上手い者と射撃が上手い者が、小舟に乗って訓練をしていた。動きはなかなかのものだ。
そして獣人達と人魚達も秘密特訓……秘密でもないか。ただ重用な役割があり、影の主力と言える。
獣人ならではの素早い戦法で、アマラの動きが一番良かった。
族長の娘は伊達ではない。見ていた俺に気づき、側に飛んできた。
「アマラ、調子は良いようだな」
「うん、全部海彦のおかげだ。こんな戦い方、アマラには思いつかなかった。武器も知らなかった。アマラ、自分の力におごって、一人で神怪魚を倒せると思っていた……でも倒せなかった……自分の無力差を思い知った」
「偉い! それに気づいたなら、大したもんだ。俺だって最初は現代釣り具だけで、勝てるものと意気ってたからな。世の中思い通りにはいかず、誰だって失敗するんだよ。一人の力は微々たるものだが、みんなで力を合わせれば必ず勝てる!」
「うん、アマラ頑張る……あと、終わったら必ずお礼するからな、海彦」
「いらんいらん、気持ちだけもらっとくわ。まずはフタバ竜を倒そう」
「分かった……」
アマラは何か言いたそうにしていたが、訓練に戻っていった。
夜にはみんなを集めて作戦会議。
基本案はあるが、詳細を詰めておく必要はあるのだ。
特に力を入れてるのは、「撤退」に関してだった。戦って絶対に勝てるなら苦労はない。
負けた場合を想定しておかないと、酷い目にあうだろう。犠牲者は一人も出したくない。
ニュクス湖の湖図をプリンタで印刷して、拡大模写してもらった物を作戦図として使っている。
絵の上手い者もおり、地形は手に取るように分かる。
テーブルに広げた作戦図に書き込み、フタバ竜と船の模型をおいて、俺達は作戦を練る。
「何故だか分からんが、奴は小島から離れようとはしない。ある程度離れると、戻っていく。深追いはしてこないから、危なくなったら逃げれば助かるだろう」
「ええ」
「あとは機動戦をしながらの持久戦、奴を休ませず疲れさせる。丸一日……では足りないか? 神怪魚のスタミナはいつも想像以上だ。三日間、戦う覚悟はしよう。弱ったらケーブル銛を打ち込んで、ハイドラ達の雷撃部隊でトドメだ!」
「まかせてん。フタバ竜をいかせてあげるわん」
「ただ夜の攻撃はどうしよう? 暗くて見えなくなるから危険だ」
「それでしたら、かがり火を焚いて光精霊を使えば良いと思います。海彦様」
「いえ夜目が効く者が多いから、月と星明かりだけで十分よ。むしろ暗闇を利用したいとこね」
「なるほどな、一応松明も用意しておこう」
アイデアと意見はつきない。みんな本気で知恵をしぼる。
俺達は決戦に向けて、着々と準備を整えていた。