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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第四章 湖めぐり旅2
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戦いの準備をすすめるしかない

「発射!」


「おおっ!」


「速い!」


 ボン、と音を立てて発射された物は、一瞬ではるか彼方かなたに飛んで見えなくなった。


 目で追えた者はその速さに驚いている。


 試射は大成功、作ってくれたリンダとドリスのおかげだ。


 速度と飛距離は十分だが、素早いフタバ竜に命中させるには、ある程度近づく必要はあるだろう。


 第二射と行きたい所だが、すぐには撃てないんですよー。


 これはボウ銃の弦の巻き上げ並みに遅く、ひどい欠点である。それでも使える物なのだ。


 しばらくみんなには、待ってもらう……。


 ようやく蒸気がたまってから、今度は木に向けて撃つ!


 ドカン、という音ともに太い木に穴が空いていた。


「やった!」


「すげー! これなら勝てる!」


 獣人達を中心に歓声が口々に上がった。


 今まで奴に手も足も出なかったので、勝機が見えて嬉しがっている。


 雅とミシェルも感心しながら見ていた。


「ボウ銃も凄かったですが、これはそれ以上ですわ!」


「これなら、フタバ竜も倒せるな海彦!」


「アルザスで作ってもらっているのは、これより性能は更に上のはずだ」


「おおっ!」


「見ての通り、問題なのはタンクに蒸気が溜まらないうちは、撃てないことなんだ。だから連射は無理。しかも……」


「一発撃ったらクルーザーは動けなくなる。フタバ竜に襲われたら一溜まりもないわ。すぐに出せる絶倫だったらよかったのになー」


「リンダ……卑猥ひわい比喩たとえは勘弁してくれ。まあ、今回クルーザーは予備戦力バックアップだ。主力船は撃っても動けるはず。ただ他にも面倒くさい注文をつけたからなー……多少時間はかかると思う」


「大丈夫ですわ海彦様。お父様は徹夜で船を作るでしょう。きっと間に合いますわ」


「アルザスにもドワーフはいるのじゃ。きっと上手くいく」


「そうだなドリス。みんなに任せるしかない」


 ドリスの言葉に誰もがうなずく。やはりドワーフの技術は信頼に足るからだ。

 一族の誇りもあるだろう。



 それから数日、特訓の日々が続く。


 ボウ銃はフタバ竜に少しは効果があったので、モーターボートに乗っての射撃訓練をする。


 俺は陽動をしてもらうつもりでいた。機動戦に上手く組み込めば、作戦は上手くいくはず。


 フタバ竜に見立てた大きな的を作り、湖に立てて攻撃する。


 操舵が上手い者と射撃が上手い者が、小舟に乗って訓練をしていた。動きはなかなかのものだ。


 そして獣人達と人魚達も秘密特訓……秘密でもないか。ただ重用な役割があり、影の主力と言える。


 獣人ならではの素早い戦法で、アマラの動きが一番良かった。


 族長の娘は伊達ではない。見ていた俺に気づき、側に飛んできた。


「アマラ、調子は良いようだな」


「うん、全部海彦のおかげだ。こんな戦い方、アマラには思いつかなかった。武器も知らなかった。アマラ、自分の力におごって、一人で神怪魚を倒せると思っていた……でも倒せなかった……自分の無力差を思い知った」


「偉い! それに気づいたなら、大したもんだ。俺だって最初は現代釣り具だけで、勝てるものと意気ってたからな。世の中思い通りにはいかず、誰だって失敗するんだよ。一人の力は微々(びび)たるものだが、みんなで力を合わせれば必ず勝てる!」


「うん、アマラ頑張る……あと、終わったら必ずお礼するからな、海彦」


「いらんいらん、気持ちだけもらっとくわ。まずはフタバ竜を倒そう」


「分かった……」


 アマラは何か言いたそうにしていたが、訓練に戻っていった。



 夜にはみんなを集めて作戦会議。


 基本案はあるが、詳細を詰めておく必要はあるのだ。


 特に力を入れてるのは、「撤退」に関してだった。戦って絶対に勝てるなら苦労はない。


 負けた場合を想定しておかないと、酷い目にあうだろう。犠牲者は一人も出したくない。


 ニュクス湖の湖図をプリンタで印刷して、拡大模写してもらった物を作戦図として使っている。


 絵の上手い者もおり、地形は手に取るように分かる。


 テーブルに広げた作戦図に書き込み、フタバ竜と船の模型おもちゃをおいて、俺達は作戦を練る。


「何故だか分からんが、奴は小島から離れようとはしない。ある程度離れると、戻っていく。深追いはしてこないから、危なくなったら逃げれば助かるだろう」


「ええ」


「あとは機動戦をしながらの持久戦、奴を休ませず疲れさせる。丸一日……では足りないか? 神怪魚のスタミナはいつも想像以上だ。三日間、戦う覚悟はしよう。弱ったらケーブル銛を打ち込んで、ハイドラ達の雷撃部隊ショッカーでトドメだ!」


「まかせてん。フタバ竜をいかせてあげるわん」


「ただ夜の攻撃はどうしよう? 暗くて見えなくなるから危険だ」


「それでしたら、かがり火を焚いて光精霊ウィルオウィスプを使えば良いと思います。海彦様」


「いえ夜目が効く者が多いから、月と星明かりだけで十分よ。むしろ暗闇を利用したいとこね」


「なるほどな、一応松明(たいまつ)も用意しておこう」


 アイデアと意見はつきない。みんな本気で知恵をしぼる。


 俺達は決戦に向けて、着々と準備を整えていた。

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