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俺は勇者じゃなくて、釣り人なんだが  作者: 夢野楽人
第三章 湖めぐり旅
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湖水浴場を素っ裸で歩いてはいけない

「何やってんだー!、ゴラア――――!」


 俺はフローラに両肩をつかまれ、くっついていた雅からひっぺがされる。


 かなり痛かったが、ファーストキスはせずにすんだ。助かった。


「残念、おほほほほほほ!」


「雅さん、湖水浴場で悪ふざけは止めてください。命に関わります!」


「すみません海彦様、でも足がつったのは本当です」


 俺が本気で強く言ったので、雅は頭を下げた。

 素直に反省してるようなので、これ以上は言わない。


 ただフローラの怒りは収まらず、「抜け駆けすんじゃないわよ!」と雅に食ってかかっている。


「まあまあ、抑えてフローラ」


 ミシェルが二人の間に入ってなだめていた。女同士の喧嘩は絶えず日常茶飯事だ。


 原因は俺がらみのようだが、どっちかの肩を持つともっともめるので、関わらないようにするしかなかった。

 女めんどくせー!

 三人から離れていくと、


「海彦お兄ちゃん、何かこっちに来てる!」


「えっ!?」



 ロリエに言われて湖を見れば、遠くの方で黒い物が揺らめいている。蜃気楼だ。

 それは砂浜に近づくにつれて、形が段々と見えてくる。


 水面に人が座っているように見えた。それは有り得ない、だとすれば……


「イカダか? アルザスにある小舟じゃないな」


 港でエリックさんから、あらゆる船を見せてもらったから分かる。


 となれば別の湖から来たのだろう。もしかしたら、漂流してきたのかも?


 ハッキリ見える所までくると、俺達はその姿に驚くしかなかった。


「なっ!?」


 お尻に尻尾を生やした獣耳少女が、木の枝をオールにしていでいた。


 乗っているイカダは木材ではなく、葦を束ねて作られているが、それもボロボロで今にも壊れそうである。


 もっと驚いたのは、イカダを後から押している少女で、どう見ても人魚だった。


「まじかよ……」


 初めて見る亜人に、俺はショックを受ける。映画やおとぎ話に出てくるような存在なのだ。


 ああやっぱり、ヘスペリスは異世界なんだなー、と熟々(つくづく)思う。


 エルフも亜人だが、もう見慣れた。


「もうちょっとだよ、アマラちゃん」


「うん……アマラ頑張る」


 やがてイカダが砂浜につくと、二人は俺達に近寄ってくる。

 人魚の尻尾が二本足に変化したので、俺達は目を丸くしていた。


 いや、ちょっと待て! そんなことよりも! 


 人前で素っ裸(マッパ)で歩き回るんじゃなーい! 


 俺が顔をそらし、右手で目を塞ぐと、


「はーい、お兄さん! 私といいことしなーい?」


「ぶっ!」


「じゃなかった。間違えちゃった。子作りはまた今度ね。私はシレーヌです!」


「アマラだ」


「幸坂海彦だ……じゃなくて! 服! 服着てくれ――て、持ってなさそうだから、バスタオルー!」


「はい、お兄ちゃん」


 ロリエが気を利かして、人魚のシレーヌにバスタオルを巻く。


 着るのを嫌がったが、何とか我慢してもらった。


 一応俺は男であり、股間が膨張ぼうちょうする生理現象は止めようがなく、両手でナニを隠すように押さえるしかなかった。


 海パンじゃ目立つんだよー!


 仲間達は駆け寄ってきて集まり、かがんだ俺の代わりに雅が声をかけてくれた。


「それで、お二人は何処どこからいらしたのですか?」


「ニュクスの湖だ」


「セレネ湖から西にある湖ですね。そんなに遠くからいらしたのですか? 大変でしたわね。それでアルザスにはどういった御用で? 何かお困りでしたら、できる限りお助けします」


 雅の対応は立派で、流石は王女といったところか。


 財も力もあるから、人助けでも何でもやれるだろう。


 俺の出る幕はないな、と安心――はっ! 嫌な予感が脳裏を走る。


「ありがとう。ニュクス湖に神怪魚ダゴンがでたんです。だから私達は勇者様を探しにきたんです」


「勇者、知らないか?」


「ブ――――!」


 俺は後を向いて吹き出すしかなかった。


 ああ止めてくれ、もう神怪魚なんぞとは関わりたくはない。


 人助けは仕事だが、化け物との戦いは本業じゃない。マジで命がけなんだぞー!


 まぐれで二匹は倒せたが、本当に運がよかっただけだ。それに俺の力だけじゃない!


 絶対に殺し合い(バトル)はやりたくねー! ……まてまて、慌てるな、焦るな俺。


 幸い俺だとはまだ気づいてないようだから、ここは素知らぬふりをしてやりすご……無理だった。


「コイツよ」


 フローラが俺を指差す。


 ふろーらアアアアアアアアアア――――!


 逃げられなくなった俺は、心の中で絶叫するしかなかった。

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