戦の準備をするしかない
俺とエリックさんは長い時間話し合った。
百科事典を漁り、他にも使えそうな武器や戦法などを、全てプリンターで紙に印刷する。
戦争となれば、「準備しすぎ」ということはない。
それに勝てるとは限らないので、最悪の事態も想定しておく。
夜遅くまでかかったので宮殿には戻らず、俺達はそのままクルーザーに泊まることにした。
遅い夕飯を二人で食いながら雑談をしていた所、
「ところで海彦殿は、大人の上映会を開こうとしておったようじゃが……」
「ええ、亜人の村ではことごとく失敗しました……見ますか?」
「うむ!」
観客は王様一人だけではあったが、エ○ビデオ観賞……もとい、大人の上映会は初めて成功した。
そうだよなー、個室でやりゃーいいんだよな、誰にもバレないわ。
ちなみにタイトルは、「クリーニング、○○ちゃん」。
かつてビデオデッキの普及に貢献したとされるキラーソフトである。
王様……いや、エロオヤジは満足してくれた。
次の日から、戦の用意は始まる。
とは言っても俺は直接関わらないので、いつものように電子書籍の通訳をして、現代知識をみんなに教えるだけだ。
村よりは人が多いので教室が作られ、人間や亜人と子供達も聞きに来るようになる。
俺の現在の職業は講師。
空いた時間には無線で異界人に呼びかけていたが、返信はない。
すぐに反応があるとは思っていないので、根気よく呼びかけを続けるつもりだ。
あと俺は確認のため、ロリエに未来を占ってもらった。
「……魔物の群れが襲ってくるのは間違いないわ、海彦お兄ちゃん。何時かはわからないけど、近いうちに必ず来るわ。それと勝敗の鍵はお兄ちゃんが握ってるみたい」
「そうか、俺の行動次第か……」
「うん、未来は人の選択で変わっていくの」
ロリエから聞いて、俺は本気になる。
魔物が亜人の村に攻めてくる可能性もあり、フローラ達が殺されるかと思うとゾッとする。
そんなのは絶対に見たくない!
運悪くヘスペリスに来たとはいえ、世話になったのは確かだ。その恩は返さねばならない。
今のうちに、とにかく準備するのだ。
籠城――城や塔に立てこもるとなれば、やはり食料の備蓄がなくてはならない。
干物・燻製だけでは心許なく、長期保存にはクルーザーにもあるアレが必要だった。
生活にはかかせない家電、「冷凍冷蔵庫」である。
そこでドリスから電話で、エリックさんに製作を頼んでもらうことにする。
もうアルザスと村々との電話回線はつながっていた。亜人達の仕事は早く、鉄道の開通も近い。
「チャールズさん、引き受けてくれた?」
「うむ、父様は承諾してくれた。もう冷蔵庫は作っていたのじゃから問題ない。ただ、愚痴をこぼされたわ……」
「何て?」
「『家電品の改良ばかりやらされて、儂の作りたい物がさっぱり作れん。カカアめー!』じゃと……」
「……まあ奥さんはわがままだからなー。でもチャールズさんの技能は凄いから、頼るしかないんだ。励ましてやってくれドリス」
「わかったのじゃ」
数日もすると、ドワーフ村から蒸気圧縮冷凍機が運ばれてくる。
ドワーフ職人も金型を持って来てくれた。
冷媒ガスがまだ無いので、今は空気を使って循環させる冷凍機械だ。
圧縮機を動かすのに、電動機式と蒸気タービン式の二種類が用意された。
早速、ハイドラとリンダが精霊召喚して使ってみると、
「冷えるー! 気持ちいいわん!」
「やっぱり、冷凍は便利だわさ」
冷凍機にはもう一つ利用目的があった。それは「氷」を作ることである。
宮殿地下の氷室を拡大して、氷を使って食料を貯蔵しておくのだ。
鮮魚や生肉は腐らずにすみ、地下室は冷たいので機械がなくても保存できる。
冷凍機は増産されて、やがて一部の漁船にも取り付けられる。
氷は民間にも出回り、ある食べ物となる。かくはん機と冷凍庫の副産物だ。
かき氷とアイスクリームの誕生。
「つめたーい! 美味しーい!」
チョコレートを加えれば、女達は食べるのにもう夢中だ。
アルザスでアイスクリームは飛ぶように売れ、いくら作っても足りなくなる。
それと同時に、アイスティーも広まっていく。
何せアルザスは南方なので毎日が暑くて喉が渇く。季節も夏といってよかった。
……まあ腹を壊す者が続出するのは、ご愛敬である。