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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
一章 Seven Days : Overwriting
9/43

♯7 勉強会という名の地獄

今回はまたも鳴海回ですね。やはり幼馴染属性は強いw

よろしくお願いします


 ヒロは今、喫茶店の席に座っている。


 ちょうど、月曜日にも訪れたばかりの、あの喫茶店だ。


 天候も、店内にかかるBGMも、あの日とほぼ変わらない。暖かな日差しとゆったりとした曲調が合わさって、心地よい眠気を誘い、ついウトウトと微睡みかけてしまう。


「こ~ら、寝ない。勉強する!」


 机を挟んだ向こう側から叱責の声をかけられる。虚ろな目で窺えば、居るのは毎度おなじみの幼馴染。腰に手を置き、「もう!」と頬を膨らませている。


 今日は先日の約束通り、鳴海との勉強会だ。六限の授業を乗り切って、「いざ征かん、自由たる放課後へと!」と脳内で謳っていたところ、鳴海に腕を引っ張られて強引に連れて来られてしまった。


「ふぁい。というか、そろそろ休憩……」


「始めてから十分も経ってないでしょうが。こんなんじゃ英語の成績なんて伸びないよ!」


 ど正論もど正論、反論の余地がない。


 思わず頭を掻く。


 だがしかし、嫌いなものを継続的に視界に留めておくのって結構鬱なものだ。英語という、日本語とはかけ離れた文化圏の言葉が何百も綴られた英文ほど、英語嫌いなヒロの頭を苦しめるものはない。


 解こうかなと、必死に文を読み進めるも、見たことの無い英単語が登場すれば、そこから先がチンプンカンプンになる。あるいは、見たことない用法を見れば、ややこしいうっとおしい邪魔くさい! と地団駄を踏みたくなる。


 要は、身体が英語と相性が合わない、生理的に無理というやつだ。鳴海は、基礎がなっていないだけとか、中学の内容を思い出してとか言うけれど、正直どう足掻いたところでもう伸びる気がしない。長文が暗号としか読めなければ、リスニングは子守唄にしか聞こえない。


「英語って言うのは大きくは伸びない。ちょっとずつちょっとずつ、苗木が大樹に育つように成長していくもんなんだよ?コツコツやってかなきゃ取り返しのつかないことになるよ?」


「そう言われましても、ねぇ?いろいろ忙しいご身分でして」


「帰宅部が何言ってるの……」


(そうだった。僕ってば帰宅部でした☆)


 帰宅部って部活動してるって感覚が無いせいか、自分が帰宅部という部活に入っていることを忘れてしまうよな。


「はい、次この問題。これ解けたら一旦休憩にするからさ。頑張って!」


 ………………やりますか。


 無理やりやる気を奮い起こし、シャーペンを握る。


「……ふぁい」


 目の前に羅列されたアルファベットの海を見やる。日本語訳せんと、数個の英単語を掬い出すも。


「う………………うん?」


 あ、えっと……ここが多分現在完了って奴だから、……ん?現在完了ってどういう意味だったか。現在の完了だから…………んん?現在の完了ってなんだ?「只今完了しました!」ってことか?つまりは任務完了の意なんだよな?いやでもなんか違う気が…………。


 混乱し始めた頭を捻るも、何も思い出せない。全く日本語訳が出てこないので、助けを求める目で鳴海を見やる。


「現在完了が分かんないって……」


 呆れ顔を返された。


 ひどく、落胆したような呆れ顔を返されてしまった。そんな顔で見られましても、ド忘れしたのは仕方がない。人間だもの、何でも覚えていられるわけではない。


「ここがこうでしょ?それで、この前置詞があるから…………」


「ほうほう。あ、そこがそうなってこうなって。なるほどなるほど、分からん」


 呆れ顔は返されなかった。


 ただ、ただただ両手で顔を覆い、苦しそうに悶えている鳴海の姿がそこにあるだけだった。ポツポツと、「どうしてこうなるまで英語嫌い拗らせてしまったの…………」と震える声が聞こえてくる。失礼すぎません?


「…………うん、そだね。一旦休憩しようか」


「問題解き終わってないけど、いいの?」


 自分でも分かる、愚問だったと。声を絞り出す余裕すら無いということか、同情やら諦観やらがグチャグチャに混ざったような、心底苦しそうな顔を向けられる。苦々しくも、必死に微笑もうとする彼女の頬は引き攣っていた。


 眉を、私じゃどうすることもできなくてすまない、とでも言うかのように八の時にしている。


 つまりは、お手上げサイン。彼女の、恐らくは凡人のそれとは遥かに凌駕している筈の懐の許容量を、これまた遥かに上回る程のヒロの馬鹿さ加減に対する。


 はい、すいませんでした。英語わかんなくてすみません。こっそり英語の授業中スマホゲームしててすみません。英語の提出物を毎度答え写ししてすみません。英語のテスト、さらっと解いたあとは残った時間を睡眠時間に変換してすみません。英語の教材のCD、一切使うことなく棄ててしまってすみません…………(以下割愛)。


 心の中で両手を合わせ、必死にペコペコ頭を下げる。その謝罪文の殆どが、目の前で頭を抱える幼馴染ではなく、学校の英語教員に対してなのは、気にしてはいいけない。


「ちょっと、十分間休ませて…………」


「あいよ」


 問題を必死に解いていたはずのヒロは、せいぜい眠気が多少蓄積した程度で済んだ。対照的に、基本的には傍観、わかんないことがあった時にだけヒントを言う係に徹していた筈の鳴海はひどく疲れ果てていた。むしろ、きっとヒロの数倍糖分を消費していた。


 鳴海のそのくたびれ燃え尽きた姿を認識すれば認識する程に、自責の念や罪悪感が重石のようにヒロの心に積もっていく。申し訳無さからか、ある種の焦燥のようなものに、身体の中心が急速に冷え込んでいくかのような苦しさがたしかに、ある。


 ヒロは居たたまれず、思わず間を保とうとカフェオレ(シュガー三本入り)に口を付ける。


(うむ、ちょうど良い甘さ。この苦々しい空気が無ければ、もっと美味しかったのですが。もっとも、その空気作り出したの僕なんですけどね!)


「倉田くん…………あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」


「あい、なんでしょう?」


「眠い、疲れた、怠い」


「……………………………………………はい」


 弱々しく首を縦に振ることしか、申し訳なさすぎてヒロにはできない。


「だから、今日は奢ってね」


「はいよ」


 鳴海はニコッと微笑むと、店員を呼びつけてあれやこれやを注文し始める。


 注文数が三を超えたあたりかヒロの背中に冷や汗が。


 今月も半分を超え、お小遣いの大半を使い果たしている今、鳴海による出費額が残りの半月の命運を分ける。


 鳴海の矢継ぎ早の注文は止まることを知らず、内心止まれ止まれ止まれ止まれ…………!! と念じるしかない。


 財布が悲鳴を上げている。ヒロも、悲鳴を上げている。


 ーー結果、テーブルに、サンドイッチやパンケーキなどのサイドメニューが七皿が並べられた。


 いやこんなにも誰が食うんだよ。男子の僕でも食える気しないんですけど!


 そう心の内で、ヒロは嘆く。


 サイドメニューはその大半がパン系、つまりは炭水化物。しかもデザート系も含まれているため、糖分も多い。

 

 …………太るぞ、と言うと叱責と説教を食らうのは確かなので、そこは静かに瞑目する。とはいえ、インスタ映え云々の被写体にされた後に残されてしまうのも店に迷惑なので、一応問うておくこととする。


「こんなにも頼んで、食べれるの?」


「美味しい物は別腹だから大丈夫~」


 そういってサンドイッチを美味しそうに頬張る。


(その幸せそうな顔を見て、つい温かい気持ちに………………なるわけないでしょ。別腹の領域をどう見ても超えてんだろ。お前のその恐るべき別腹だか何だかのせいで、僕の財布の中の野口が抹殺されちまったんだよ! 野口ェ…………)


「夕飯入るの?コレ」


「だから、別腹何だって!倉田くんは心配せずに、ただただ黙ってお金を払って英語を勉強すればいいの!」


「まさかの金づる扱いなんですが僕…………」


 驚くほどケロッと金づる扱いされたもんだから、思わず項垂れる。言った当人は夢中にサンドイッチやらなんやらを頬張っては「美味しい~」と弛んだ顔を見せる。


(どうだ、人の金で食った物の味は。実に美味かろう? その幸福感のために僕の野口がレジに徴収されてしまう事を忘れることなかれ)


 心の中から無限に湧き上がる皮肉は、決して外に出ることはない。ただ、ヒロの精神状態を散々に掻き立てまくるだけだ。


 往々にして、「別腹だから!夕飯も食べれるから!」とか言って間食を貪り食らう奴は、夕食の時に「もう無理…………(ゲップ)」とか呻いて、苦しんで、腹を擦って、味すら感じれなくなる程に地獄的な満腹感と戦うのだ。挙句無茶しすぎて、口を抑えてトイレに駆け込み、リバーストルネードする事となる。あれは地獄だ。紛うことなき地獄の責め苦だ。


 真に無駄な時間を割いている間も、目の前の幼馴染はパクパクと食べ続けている。一口食えば美味いと言い、二口食えば幸せそうに微笑み、三口食えば珈琲を挟み…………仕草の一つ一つが純真な子供、と表現できるようなもので、故に微笑ましさも感じられる。


 もう、ここは考え方を変えることにする。


(これは正当な出費だ、鳴海と言う美少女クラスメイトの幸せそうな顔を、数千円ポッチで拝見できるのだ。他のクラスメイトでこんな鳴海を見た事がある奴、居るか?居ないよな? 何せ幼馴染特権によって成り立ってるんだからな! 勝ったな、ガハハ)


 なんて醜い理由付けと正当化を反故にしても、十分にこの散財は無駄ではない散財だとカテゴライズできるだろう。


 なにせここ最近、ヒロは二日おきに家事を手伝ってもらっていたのだから。そのうえ、今は英語の勉強を見てもらっている。お礼にしてはまだまだ足りていない。むしろ、本来もっと多額の…………最強の福澤諭吉を幾人召喚しなければ釣り合わない気がする。七人の福澤諭吉を召喚し、一人の少女(鳴海花音)お礼(お機嫌取り)する……それが福澤戦争。


 この長い長い空白な時間を、勉強で埋める気にはなれなかったので、チラと窓の外を見やる。


 喫茶店があるのは田舎サイド、特にここはやや高度のある場所に立っている店のため、窓側の席からなら街の景色を見下ろすことができる。田舎の長閑な雰囲気は、絶景と言うわけではないが、しかし心をたしかに安らげてくれる。


 もっとも、風景だとか歴史的建造物だとか絵画とか、静観を楽しむべき対象には大概精通しておらず、動きのあるものや耳にも訴え掛けてくるものにどうしても関心がいってしまう性質のヒロとしては、もはや見飽きた風景を見るだけで時間を潰すことはできない。


 逃避先は、ポケットの中の四角い板状の端末に。ポチポチと、液晶画面を指で叩き、ゲームに時間を費やす。


 画面上で繰り広げられている引っ張りハンティングに勤しんでいると、テーブルをコンコンと叩く音。テーブルの向こうの少女の方へ視線を向ければ、全て食べきったらしい鳴海が、こちらに微笑みかけていた。


「ご馳走様、倉田くんありがと」


「お、おう……………」


 完食していた。


 男子でも呻くような量の食べ物が、跡形もなく平らげてあった。


「他の人達とご飯食べる時も、こんなに食うの?」


 ヒロの素朴な質問に、鳴海はあからさまに顔を赤らめると、もじもじしながら、「普段はこんながっつかないもん。倉田くんの前だからがっつけるだけで」とぽしょりと呟く。気心知れた相手だからこそ曝け出せる本質って事なのだろう。別に、珍しい話ではない。


 だが、だとするなら、なんだか特別感というか、優越感というか、とりあえず幼馴染特権って凄い、そうヒロは思える。


 鳴海は「他の人には内緒だよ?」と念押しすると、突如体を乗り出す。


 突如迫る端正な顔に健全な男子高校生は、自然とたじろいでしまう。顔が近い。どれだけ顔と顔の距離は近かろうと、しかし視線は合わない。何故なら鳴海の視線はあくまでテーブルに並べられた英語の教材に向けられていたのだから。


 どうやら勉強の進行具合を確認していたらしい。勿論、休憩時間中一切勉強してないので、ノートには一単語とて新たに書き加えられてはいない。


「………ねぇ、倉田くん?」


「…………………なんでしょう」


 いい匂いが、優しく鼻孔を擽っていく。しかし、鳴海の溢した一言からは、優しさの『や』の字もない。


「明らかに十分以上は休憩時間があったのに、なんで一切勉強してないの」


「きゅ、休憩時間だった、ので?」


 可愛らしい幼げな顔が、今はムッとしかめられてヒロに迫る。テーブルに乗り出しているため、自然と前屈みの体制。強調されている胸元にどうしても目が行ってしまう。


(どちらかというと幼さ方面の可愛さを持ち、小柄な体型だと言うのに、な~んで実るとこは実ってるんですか、この野口キラー!)


「むぅ。たしかにそう言われるとそうか…………なら仕方ない、不問にしてあげよう!」


「有り難きご配慮、そして近い…………」


「え? …………あ、ごめ……」


 ようやく、自分とヒロとの距離に気づいてくれたか。赤面のまま無言で椅子に座り直した鳴海は、そのままサイドアップの片方の髪束をコネコネと弄って誤魔化し始める。


 その仕草は、可愛らしすぎるでしょうと、ヒロは思わず視線を逸してしまう。


 ヒロと鳴海は幼馴染だ。


 昔から一緒に居た身としては、ちょっとしたことでドキドキとはしないが、時折、鳴海が女子であると改めて思い知る事がある。女子に仲のいい人が他に居らず、女子耐性がさほど高くないヒロとしては、鳴海を異性と認識してしまえば、照れたり口下手になったりと一時的なコミュ力低下に苛まれてしまう。


 だからこそ、必死になって、異性であることから目を逸らしている。


 気まずい空気に閉口せざるを得ず、何一つとして換気に役立たないヒロとは違い、鳴海は一瞬の間の後、英語の教科書を取り出すと、


「じゃ、しようか。勉強の続き」


「うへぇ…………。ま、やるかぁ」


 空気が払拭された。


 おかげで、ぎこちない二人は、またいつも通りの幼馴染に戻ってこられる。どちらかが現実に返す一言を述べれば、それだけで互いに目が覚める。


 しかし、生物である以上仕方のないことなのだが、煩悩とは日常生活に害しか及ぼさない。突然現れてはドキドキを演出し、普段どうとも思わない女子にすら色気を感じてしまったり、目がよく合う異性を意識したり。


 無ければきっと平穏な日常を暮らせるだろうに、しかし煩悩が無い生活もどこか物寂しい。煩悩とは生きている限り向き合わざるを得ない。


 目前には、皿が片され代わりに英語の教科書やら参考書やらが並べられたテーブルが。どうしても、勉強から逃げられる状況にはない。


 仕方ない、やるか。シャーペンを握ると、ノートにさらさらとアルファベットやら日本語訳やらを書き連ねる。時折入る鳴海の説明に耳を傾け、スラスラとはとても言えない速度で問題を解いていく。



   ✕ ✕ ✕



 紆余曲折あったが、結果三時間にも及ぶ鳴海講座によって、僕の英語力はグーンとアップした! 寝て起きたらバフ切れてるだろうけど。


 喫茶店を出れば、もう太陽は落ちかけていた。紫紺のグラデーションがかかった空からは、ポツポツと星々が顔を出し始め、もう子供はお帰りの時間だと静かに告げる。吹きすさぶ風が幼馴染の髪を扇ぎ上げ、薫風を周囲に撒き散らす。


 時刻はもう六時を超えていた。


「まだ思ったより明るいね。さすがもう六月」


「半分切ったしな、暑くもなってきてるし」


 お互いに自転車の鍵を差し込み、帰り支度を整える。幸いにも今日は時間割りの都合上、荷物が軽めに済んでおり、リュック一つで十分だったので、荷物は少ない。なんなら財布も軽い。


「そだ、この後ちょっと買い物付き合ってよ。今日ポイント五倍デーだから」


「なるほど、荷物持ちにしたいんだなそうなんだな」


「うんそうだよ~」


「せめて誤魔化してくれよ……」


 男子が荷物持ち等力仕事を任されるのは当然の流れ。仕方ないかと、潔く首肯する。


「じゃ、ササッと行こうよ」


「あいあいさー…………って、都会方面行くのか?」


「うん、○オン行こ」


(あれ? 水曜日って五倍デーだったかしらん?)


 普段買い物に行かないせいでどうにも思い出せない。まぁ鳴海が五倍デーって仰るのだから、きっとそうなのだろう。投げやりのスタンスで、トコトコと鳴海の後をついていく。やはり、自転車を漕ぐことはなかった。


 談笑を交わしながら町をゆく。


 田舎サイドには高層ビルなど高い建物は無く、木造の、いかにも老舗といった風の店舗が立ち並んでいる。風情があると表現すべきなのかどうかは知らんが、とりあえず見ていて歴史を感じたりする。


 降谷橋を渡れば、もう周りは老舗の類はなく、一変して都会の風景に。高層ビルや工場の類が多くなり、一際近代的な外面へと彩り変わる。都会特有のそれか、行き交う人々はやや忙しなく見える。


 長々と続く談笑に興じていると、巨大なショッピングモールの外貌がもう見える程に近くまで来ていた。目の前の十字路を越えれば、広大な駐車場の入り口に着く。


 歩行者用信号が青く点滅したのを合図に、漕がれることのない自転車を押して進む。大勢の進むに合わせて、流れに乗って道路の向こうへと。


 大勢のど真ん中に居るヒロと鳴海は、もちろん幾人もの他人とすれ違う。自転車が邪魔にならないように調整しながら、衝突を防ぎながら、ゆっくり進んでいく。ほら、今だって視界の左縁を金髪の女性が通り過ぎていく。


 …………金髪?


「わ、あの人めっちゃ綺麗じゃん」


 不意に、鳴海が驚いたような声を上げる。鳴海の視線の先を追ってみれば、道往く人々の群れの中に一つ、目立つ金髪が見て取れた。先程すれ違った人だろう。


「……………………………あ」


「どしたの、倉田くん?」


 既視感。

 

 海馬の中に保存された情報の中で、一際朧気で、しかし最もヒロが求めた物が瞬時に呼び起こされた。黒リボンのバレッタを飾った金髪は、黄昏の光を目一杯受けて、淡く発光していて。その様が、あまりに美しくて、そしてあの日僕を助けてくれたかもしれない御方のようにも見えて。


 ヒロは知らず知らずのうちに逆走していた。


「え、倉田くん? 買い物は!? そっちじゃないよ!?」


 背後から聞こえてくる声に若干の申し訳無さを感じるも、「すまん、急用を思い出した! この埋め合わせは、そのうち!」とベタな返答で謝る。人の林によって既に金髪の少女は視界に捉えられない。人の波を急ぎ足で逆走しながら、密集地帯の歩道を抜ける。


「どこだ、どこだ…………!」


 人混みを掻き分け掻き分け。ヒロは行方をくらました金髪の少女を探し始めた。

読んでいただきありがとうございました!

次回、主人公の人探し回です。とりあえず、走り続けます。ただただ走り続けます。

アンノウンの身体能力あったら持久走楽なんでしょうね。授業の持久走がめんどくさくて仕方がないw

次回もよろしくお願いします!

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