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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
一章 Seven Days : Overwriting
7/43

♯5 這怒ノ夢 Ⅰ

さて、ようやくシリアス方面に進み始めます(今回はまだ微妙ですが)

よろしくお願いします


 暗い。とても暗い。そして深い。


 上も下も横も、何も分からないというのに、しかし恐ろしく深いことだけは感じてとれた。口の端から血塊が噴き出し、身体からは血が漏れ出る。必死に血を掬おうと、あるいは傷口を抑えようとしても、ヒロの腕はピクリとも動かない。


 溢れるがまま、摩滅していく血液。伴って、意識と熱とが失われ、そのまま身体が死んでいく。


 事故だった。本当に、不慮の事故だった。


 『死』とはきっと曖昧にしか表せないものだ。何せ、こういう物だと明確に言い表せるのは、書き記せるのは『死』を体験した者だけで、『死』に触れていない者が死にゆく者を表現するとすれば、きっと推測の感覚でしか言い表せない。だから、死にゆく感覚を代弁できる単語は、この世にはない。きっと、あるとすればあの世の中だけだ。


 だから、ヒロの今の感覚はどうにも言い表せず、せいぜい『自身の身体が死んでいっている』という点以外、何も定かではない。どう表現をすべきか。どういう表現が適切か。一つ言えるのは、体験したことの無い感覚、ということだけ。


 次第に意識が蕩けていく。


 思考を編んでいくも、徐々にその端が朧気になり、何を考えていたかも分からない。眠気とも似た霧が、意識を蝕んでいく。そんな今にも霧散しそうな意識のせいか、自分でも嗤ってしまうほどにすんなりと『死』を受け入れていた。


 突然、機能を失くした筈の視覚が、目前に迫る光を捉える。


(温かい)


 冷え切った身体に滲み込んでいく、優しい熱。あれほど酷かった出血も痛みも、安らいでいく。揺蕩うように、光を目一杯に浴びて、より多く癒やされようと。


 朧気な意識は、ただ夢中に目前の光だけを求めていく。この光の前には、如何なる快楽も歯が立たない。ただ純粋に、身体を癒やす。染み渡る感覚が心地良い。まるで温泉に浸かっているかのような。


 気付けば、身体が軽い。まるで、身体が作り替えられたかのような。そんな錯覚をしてしまうほどに。


 いや、錯覚ではなかった。比喩的な表現でもなかった。あながち、間違っていなかった。


 両目を見開く。


 左腕が、人間じゃない。形は同じなのに、表面が血通った人間の肌ではない。紅く暗い、見るからに硬い結晶体、あるいは金属に覆われている。目を見開いて凝視する。


(なんだ、これは)


 結晶体は左腕に留まらず、徐々にその規模を広め、身体の左半身を覆っていく。顔も左半分が覆われ、視界が限定される。そのまま、右半身にも立ち込めーー。


 何、これ。ちょ、これ、剥がれないっ。


 動きの鈍い右腕を、懸命に酷使して、肌と結晶の隙間に指を突っ込むも、右腕ごと結晶に呑まれてしまう。結晶の進行を抑えるすべもなく、また結晶を剥がすこともできない。先程までの天に召される気持ちが心機一転、地獄に堕ちたかのような絶望に、脳内で顔を引き攣らせる。


(止まれ、止まれよ)


(やめろ、助けて)


 悲痛の叫びは功を得ず。覆われ、蝕まれ、呑み込まれ。最後に右目すらも、閉ざされる。


 再度の暗黒。残されたのは意識だけ。


(出れな……ッ!! なんだよ、これ。出して、だしてよ)


(暗い、何も見えない。おい、助けて)


(剥がれろ。剥がれてくれよ。出して、苦しい!)


 先程まで、しかと『死』を想定していたにも関わらず。『死』を受け入れていたにも関わらず。いやに意識が、鮮明になったが故に。ヒロは本当の意味で理解する。これから死ぬのだと。


(いやだ、死にたくない。まだ死にたくない)


(僕が何したっていうんだ。出してよ。これで終わりなんて!)


 心が必死に訴える。魂が怒りを主張する。それに合わせてか、結晶はより強くヒロを締め付ける。


(助け、助けてくれ。僕を…………)


 懇願。


 苦痛から逃れようと必死に縋る。どこに居るとも知れぬ神に。


(あぁ、やめろ。僕をこれ以上殺さないで。)


 結晶の鎧の中、藻掻く事も許されず。だがこの状況を受け入れることもできず。喚く子供のように、叫び狂うその様は滑稽か。


 『人生は夢である。死がそれを覚まさせてくれる。』というある偉人の名言がある。僕が何を望もうと、何を夢見ようと、『死』はそれら総てを否定する。叶わなくなる。僕がどれだけ『生』を望もうとも。


 それが怖いから喚く。必死に。


(僕は死にたくない。なんで死ななければならない)


(僕を助けて)


(僕をこの鬱陶しい枷から解いてくれ)


(僕は生きたい。生きていたい。こんなところで死にたくない)


(僕は信号を守ったのになんで)


(社会の規則を破ったのはあの車だ)


(なんで、あいつらは生き延びるんだ)


(僕を助けてくれ。助けを呼ぶでもいい。なんで、逃げるんだ)


(僕をどうして見殺しにするんだ。轢き逃げするんだ(


(あいつらの、あいつらのせいだ。許せない。許さない)


(僕は死ぬべきじゃない。死ぬべきはあいつらだ)


(そうだ、()は死ぬべきではない)



   ✕ ✕ ✕



 またこの夢か、と思った。


 自室のベッドの上。寝癖だった髪を掻き毟り、窓の外を見る。陽光は寝起き眼にはまだ刺激が強く、目を細める。もう、朝か。


 苦しいだけの夢。悪夢。自身の惨たらしい心象を見せられているようで、気味が悪い。夢でありながら、実際に起こり得た事柄に擬えているためか、現実にあったことのようにも感じてしまう。


 昨日見た夢とは繋がっている話のようで、この夢の内容がかなりヒロの内面に偏ってもののために、記憶に残ってはいない。


 ヒロは眠気を覚まそうと、一階の洗面所で顔を洗う。冷水がヒロの顔を潤し、眠気を払う。


 リビングに行けば、もう両親は仕事に出たようで、机の上に朝ご飯が用意してあった。よほど忙しかったのか、弁当も作る時間が無かったようで昼飯用に惣菜パンもいくつか置いてあった。


 朝食の献立はトーストにスクランブルエッグ、ウインナー、コンソメスープだ。スープをレンジで温めて、ラップを外して朝食を取る。


 ニュースを見ようとテレビを付ける。ちょうど、昨日学校の放送で流れていた殺人事件を取り上げられていた。


 大雑把にまとめると、学校周辺で『亥田修二』という男が殺された、というものだ。犯人と争った形跡があったということ以外、何も判明していないらしい。目撃情報すら、一つも。


 学校周辺で殺人事件があったとなると、いい心地はしない。何より、この家は十分学校の近所。犯行現場からもそう遠くない。できるだけ早く、警察には犯人を捕えてほしいものだ。


 朝ご飯を食べ終え、学校の支度をすると丁度いい時間になった。家から学校までの距離が短いと、ある程度時間に融通が効くのが利点だ。なにより自転車通はスピード出せば、ある程度遅刻を回避できるし。なので必然的に家を出る時間は遅くなる。


 未だ取れない眠気に眼を擦りながら、家の外に出れば。


「倉田くん、おはよう」


「…………早いな。おはよう」


 玄関の前に立っていたのは鳴海。すっかり昨日の夜とは切り替わっているヒロの幼馴染は、ヒロを見るや否や、早く行こっと促す。こ、コイツ……さり気に自分の荷物をヒロの自転車の籠に入れてやがる。


 ヒロと鳴海は大抵、一緒に登校する。昨日は鳴海が委員会の用事で早く出たため別々の登校だったが、それは稀だ。最初のうちは教室内でいろいろとあらぬ噂が流れていたものだが、今では『当たり前』になっていた。 


 ちなみに、大半の噂を流したのは友也である。マジ処す。


 自分の自転車の籠に入れろよな……と小さく毒づきながら玄関の鍵をかける。ヒロの言葉に対して、「私より遅かったから、その罰」とにへへと笑う。


 たとえ家の中でなくても、人前であっても、元の性質の子供らしさは時折発露する。それこそ、『人前での鳴海花音』しか知らない人からしたら、唐突の『子供っぽい鳴海花音』は相当なギャップだろう。つまりはギャップ萌え。幼馴染であるヒロですら、未だに耐性はつかない。


「さ、行こっか。倉田くんの全国模試、どんな結果かな~」


「あ……!」


 忘れてた。そういや今日返ってくるって昨日話してたな。絶対マトモな結果ではない。


 いつもの通学路を進む足取りが重くなる。ちなみに、今ヒロ達は自転車から下りて、押して歩いている。と言うのも、鳴海が自転車に乗らず進み始めたので、それに習っただけなのだが。自転車が「解せぬ」と嘆いている気がした。


「それに今日は火曜日だから、小テストあるかもね。英語の」


「うぐぅ…………」


 降谷高校は進学校なので、無駄に小テストが多い。週に三回は何かしらのテストがあると考えてもいい。ことに、英語を最も苦手な教科とするヒロとしては、英語の小テストが一番キツい。不合格だと再試があるので、ある程度点数取っておかなければならないのだ。


 唐突に、家に帰りたい欲求が増幅した。もう無理だ、今日を無難に過ごすなんて叶いっこないさ。僕も帰ろう、皆帰ろう、美味しいご飯にホカホカのお風呂、暖かい布団が待っているお家に。


 でんでんでんぐり返ししてやろうかと考えていると、袖を引っ張られる。


「…………ん、どうした?」


「いやぁ、よく考えたらここら辺で殺人事件起きたわけじゃん?」


「起きたらしいな。ニュースでもやってたし」


「だからいつ襲われても大丈夫なように、倉田くんを盾にしようかなって」


「僕をボディーガードにしようなどとは、なんと神を恐れぬ愚行よ。万死に値するぞ」


「ごめんちょっと何言ってんのか分かんない……」


 これは、あれだ。咄嗟にネタをぶち込もうとして、変な日本語になって場を白けさせちゃう、あの事例だ。


「あ、でも倉田くんボディーガードにしても役に立たなそう。こんな細腕で人を守ろうなんて、とてもとても」


「うるせぇ。僕は帰宅部だからな、筋力なんて無くてもどうにかなるんだよ。というか、なんで僕守る側なんだよ……」


「いやいや、筋力無かったら私守れないじゃん。盾役なんだからパワー無いと」


「いやボディーガードじゃねえから……」


 まぁ実際のところ、今のヒロは、身体能力の面で言えば、本職ボディーガードの人間を遥かに超えている。こんな細腕でも、本気出せば車一つ持ち上げたりできるのだ。(未検証)


「でも筋肉無いとモテないよ?女子ってなんだかんだ男子の筋肉に『頼れるかどうか』を見出す生き物だから」


「筋肉で頼れるかどうか見分けれるとか、女子すげーな」


「もちろんそれ以外にも雰囲気とか、実績とか……あと経済力?」


 マジかよ。高校生のうちから財布の温かさに目をつけてんのかよ。現金過ぎない? 今時の女子高校生。


 若干の絶望感に打ちひしがれる。


「…………でも筋肉あって損はないよ?今夜から筋トレ始めてみたら?」


「面倒くさいので却下っす」


「だよね、うん。そう言うと思った」


「さすが幼馴染、分かってらっしゃる。でもこうなるとモテる要素ないよな。筋肉無くて、無気力で、筋肉無くて、コミュ力も無し。おまけに漫画アニメの分野に知識が広めで、且つ筋肉ゼロときた」


「筋肉引きずりすぎでしょ」


 十字路にて、赤信号のため停滞中。


 未だに一度も漕がれることのない自転車。まだ時間には多少余裕があるので、フルで歩き登校さえしなければ遅刻にはならない。最も、周りの人間からしたら、漕いでいない自転車ほど無駄で邪魔なものはない。

 

 そして自転車を押している、ヒロですらも、正直さっさと漕いで学校に行ってしまいたい。だが、隣の幼馴染はあくまで一貫して、自転車を押して登校する気のようで。


 信号が青に変わり、歩道を進む。一ヶ月経った今でも、信号や歩道なんてものを渡る時に、どうしても嫌悪感が拭えない。つい、車に轢かれてしまうのではないかと警戒してしまう。


 ヒロの懸念が表情に漏れていたのか。


「倉田くんは筋肉ないまま、気力ないままでもモテるよ」


 鳴海は心配しなくても大丈夫! と自信満々に言いのける。


「ソースは何だよ……」 


「さて、何処でしょう」


 鳴海は悪戯っぽく微笑む。上目遣いのまま目が合うと、つい男心は大きくぐらついてしまう。


「一つ断言できることは、少なくとも無気力無筋肉でも気にしない変わり者が一人は居るってことかな」


 さ、そろそろ急ごうか。


 ようやく自転車を漕ぐことにしたらしい鳴海は、自転車に颯爽と跨ると、速度をグイグイ上げていく。


 変わり者て。あくまで、無気力無筋肉は通常の価値観ではプラス評価にはならないのかと。 

 

 少しガッカリするヒロが居た。



   ✕ ✕ ✕



「危な。あと二分遅かったら遅刻じゃねえか」


「間に合ったんだから良しとしようよ。何事にもポジティブシンキンッ!!」


 ちょ、こいつ~とヒロは項垂れる。


 遅れた元凶(自転車を途中まで漕がなかったという意味で)の分際で、悪びれなく自分の席に着席する。途端に、教室の女子の数名が鳴海のところに寄って行っては、楽しそうに談笑を始める。


 ヒロも席に着こうと、自分の机に座る。リュックを机の隣に掛け、教科書類を引き出しに突っ込んでいると、声をかけられた。


「おいヒロ。知ってるか?」


 見れば、スマホを片手にした友也が傍に立っていた。


「なんの話?」


「昨日のあの事件のことだよ。あれ目撃情報とか何もないらしいじゃん」


「あー、朝テレビで言ってたような……」


「おう、知ってたか。でな、ここからが本題なんだが」


 とっておきのネタらしく、友也はグイッと近寄ると、小声で話し始めた。


「俺の叔父がな、見たんだと」


「…………何を?」


「犯行現場」


 友也の目を凝視するも、ひどく真剣な眼差しだったので、虚言ではないように思える。だが、虚言出ないとすれば、彼の叔父は早々に警察に連絡すべきなのだが。


 ヒロの表情、あるいは視線から察したのだろう。「あー」と頭を掻きながら、


「叔父が見た犯行現場ってのが、どうにも夢で見てるかのような感じらしくてな。叔父が昨晩うちに遊びに来てたときに聞いたんだが、どうにも自分の目を疑ってたんだ」


「夢でも見てるかのような?どゆこと?」


 まさか犯行現場に自分が居合わせるなんて、思っても見なかった! …………そんな意味かと推測するも。


「朝のホームルーム始めるぞー」


 担任の一声に、友也の叔父の話が遮られる。


 時計を見れば、もう朝休みは終わっていた。


 ガヤガヤと喋りながらも、談笑を切り上げ自分の席へと引いていくクラスメイト達。それに習って、自然と友也も戻らざるを得なくなる。後でな、と友也は一言残し、自分の席へと戻っていった。


 夢のような…………か。まぁたしかに、目の前で人殺しなんかが起きたら目を疑うだろう。気が動転するし、冷静な対処はできない筈だ。


 もしも。


 友也の叔父が死体の第一発見者として警察に連絡していたら、警察には友也の叔父が知り得る限りの情報が入った筈だ。それこそ、目撃情報として。しかし、ニュースでは目撃情報は何もなかったと報道されている。


 『目撃情報が無かった』ではなく『(有力な(・・・))目撃情報が無かった』なら話は別だが、前者なのだとしたら友也の叔父は警察に連絡していなかったことになる。


 第一発見者として事情聴取されるは、やはり少し怖いし、人死を見て動転している中、冷静に警察に連絡しろってのも酷だろう。きっと、ヒロだったらとりあえず死体現場から逃げ出してしまう。


 ヒロがボーッと、先程の会話について推測を立て続けている間にも、ホームルームは進んでいく。もちろん、ホームルームの内容など上の空。なので、いつの間にか自分の名前が呼ばれていたことにも全く気づかなかった。


「倉田くん、前行って、前!」


「はい?」


「呼ばれてるんだよ!」


 耳元で、何やら鳴海が小声を発しているようで。意識を現実に引き戻して、周囲を見回す。なるほど、出席番号順に教卓に紙を取りに行っていたらしい。ヒロの番になっても来なかったので、先生がヒロの名を呼んでいたようだ。


 あ、すみませんと教卓の先生の所まで行って、紙を受け取る。なになに…………。高校生全国模試…………個票?


 何度見ても、白いゴシック体で紙の上の方に書かれた文字は変わらない。個票、個票だって!?


 ヒロの頭は、途端に真っ白になった。


「何点だった?倉田くん」


 席に着くなり、鳴海が尋ねてくる。ヒロの返答を今か今かと待っているのか、若干そわそわしている幼馴染に急かされて、自分の結果欄を見る。概ね、記載されていた内容は。


 ・国語総合……偏差値50.7 校内順位182/285

 ・数学総合……偏差値53.9 校内順位113/285

 ・英語……………偏差値42.1 校内順位275/285


 イングリッシュウウウウウウウウウ!!?? ホワァァァイ!!??


 何でだ。軒並み他の教科は平均超えてるのに、何故なんだ。


「倉田くん、英語、ドンマイ…………」


 鳴海の憐れむような声が耳に届く。その声が、本心からの憐れみだと声音で伝わったがために、余計惨めに思えてくる。


 いや、待て。英語の成績はたしかに悪い。だが校内でヒロよりも下が十人も居る。十人も、だ。

 

 人間、自分よりも劣った人間が居ると知ることで、幾分か自分の方がマシだと考えられるものなのだ。最下位ではないと、安堵できるものなのだ。


 ヒロより下が居る。


 なら、そいつらに比べたらまだ、英語ができるんだ!


「私偏差値上がってた」


 そう言って隣人は紙を見せびらかしてくる。横目で見て、ギョッとした。な、何だこれは……と。


 ・国語総合……偏差値64.3 校内順位8/285

 ・数学総合……偏差値77.5 校内順位3/285

 ・英語……………偏差値67.2 校内順位7/285

 ・総合順位……偏差値69.8 校内順位3/285


 何だそりゃ。校内順位オール一桁とか、ふざけんなよ。


 個票を丸めてスパーキングしてやりたい衝動に襲われる。下を見て、優越感に浸ることでヒロは自分の成績を守っていた。しかし、こうも身近に、格上の存在を見てしまえば。それはもう脳内阿鼻叫喚でしかない。


 何と声をかけていいのか、言葉を選ぶ間を長く空けて、非常に申し訳なさそうに慰められる。


「……国語も数学もいいじゃん。悪くないじゃん。偏差値五十超えてるんだよ?それって全国でも真ん中より上ってことなんだよ?英語はその、あの……これからが勝負だから!」


「同情するなら頭脳をくれよぅ…………」


「それは無理」


 ヒロの身体は萎れていく。だ、駄目だ。もう英語なんて分かんねーよ……。


「……大体、なんで英語なんかで勉強しなきゃならないんだ?」


「どしたの急に」


「だって、だってさ、ここ日本じゃん。僕日本人じゃん」


「うん」


「日本人には日本語って言語があるじゃん。日本で生活してる以上、英語分かんなくてもどうにかなるじゃん」


「そだね」


「なのに英語なんで英語なんか勉強しなきゃ駄目なんだ。無駄じゃん。そんなもの覚えているくらいなら、少しでも多くの書を読んで、我らが言語である日本語を極めるべきだろう!そうだろう!?」


「英語の勉強、頑張ろ?」


「ふぁい」


 個票を小さく折りたたむと、リュックの中に乱雑に突っ込んだ。ヒロは末代まで、英語という存在を恨み続けてやる。そう、固く決心した。それこそ、ダイヤモンドをも上回るほどに硬い決心だった。


「でもさ、受験で英語使わない所なんてまずないよ?それに会社に入ったらいやでも英語に触れなきゃならない時だってあるよね、きっと」


「…………仰る通りで」


「ここで英語から逃げちゃうと、もうどうしようもなくなっちゃうよ?最近は日本もとりあえずグローバルしとけばいいって感じじゃん?」


「まぁ、たしかに」


 どこの大手企業も『とにかくグローバル!』ってイメージが何故かあるわ。会社のホームページとかそこら中に『グローバル』って書いてある気がするし。これも、日本がワイドに物事を捉えるようになったからだろうか?


「…………頑張ろ?英語。教えてあげるから。なんなら、今日は無理だけど明日の放課後にでもしっかりと」


「……どうぞご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします…………」


 朝のホームルームはつつがなく終わった。ヒロは、自身の英語力に絶望以外の何も見い出す事ができなかったのである。ただただ、打ちひしがれる事しかできなかった。



   ✕ ✕ ✕



 朝のホームルームと一限目の間の僅かな隙間時間。


 友也はヒロに、いやに深刻そうな顔つきで語った。


「なんか、その、殺された亥田、だったか。その亥田をちょうど殺した瞬間を見たらしいんだが、どうにもおかしなことを言っててな」


「ほう」


「どうも━━亥田っていうタンクトップ男が二人居たらしいんだよ」


 ………………はい?

読んでありがとうございました!

次回はヒロの能力を少し詳しく説明する回です。

なんだかんだで毎日誰かしらがアクセスしてくれていて、凄く嬉しいです!(書き貯めしてる時は読んでもらえるなんて想像もしてなかった…………)

明日の深夜、また投稿しますのでよろしくお願いします!(早く一章の山場まで投稿したいよぉ…………)

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