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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
42/43

♯39 七月九日


 七月九日金曜日、夜。


 明日はコミュニティのメンバーの暴走鎮火作業があるので、ヒロは早めに寝ようと支度をしていた。

 

 汚れてもいい服を選んでベッドの傍に用意しておき、目覚まし時計をセットして、明日の朝困らないよう万全な準備を整えておく。


 ガチャ。


 ふいに、下から鍵の開く音が聞こえてきた。


 なんとなく、鳴海だろうかと思い、ヒロは階段を下りて迎えに向かう。


 廊下を曲がり玄関を覗くと、そこには幼馴染の姿はない。


 長らくしっかり見れてなかった、ヒロの両親だった。


「あれ? 今日泊まり込みの徹夜じゃなかったの?」


「え、あ~面倒くさかったから、体調不良ってことで抜け出してきたの。ノルマの半分もやってないけど」


「右に同じく」


 母の最悪な発言に、父も同調する。


 いくら普段ブラック企業で死ぬほど働いてると言えど、サボってはいけないだろう。


 ヒロは呆れるような眼差しを送る。


 ヒロの両親は年の割にはまだ若く見える見た目をしている。

 

 父の茂は、デスクワークが主な割に、やけにガッシリとした身体つきをしており、サッパリとした短髪も相まってスポーツマンに見えなくもない。


 母の加奈子は、サボり癖とは対照的に、スーツをきっちり着こなすかっこいい系の人だ。実際作業スピードは速いらしいが、だるくなった時に『サボる』という選択を取るのも速い。


「まぁ、私日中はかなり真面目に働いたから」


「どうだか。昼休憩一時間前からコーヒーブレイクずっとしてたのは誰だったっけ」


「なんであなた、それ知ってるのよ!」


「いや、おま、部署隣だろ。窓越しに見えてるわ!」


「仕事もやらないで私ばっか見てるとか、ちょっと愛が重すぎてキッモーイ」


「仕事もやらない自分の妻に呆れてただけですー」


 結婚して十数年。


 結婚する前と何ら変わらない調子でいちゃつく両親に、ヒロは溜め息をつく。


 その事自体は決して悪いことではないのだが、両親が早帰りした時はほぼ毎度見ているので、どうにも呆れてしまうのだ。


 ヒロは両親を連れてリビングへ。


 お茶をコップに注いで机に出す。


「ありがとさん。気が利く息子になったもんだ」


「お茶用意しないと、グチグチ文句言い出すでしょ」


「あら、分かってた?」


 笑う加奈子に、ヒロは溜め息で返答する。


「それで? もう寝る準備万端なようだが、随分早いな」


「明日、ちょっと用事があって。早寝しとこうっていうね」


「……お? もしや彼女か」


「できてねぇよ」


「ついにヒロにも女の子できたのかぁ。母さん嬉しいよ……」


「うん、できてねぇんだよ」


 ヒロがいくら否定すれど、両親の会話の暴走は止まらない。どんどん話は盛り上がっていく。


「相手は誰だ? 花音ちゃんか?」


「そりゃ花音ちゃんでしょう。なんたって、ずっと一緒に居るんだし。通い妻までしてくれてるし。他の人からしたら入る余地ないわよ~」


「これで倉田家も安泰だなぁ。これは孫の顔が楽しみだ」


「花音ちゃんの遺伝子受け継いでるから、きっと美形よ。男の子でも女の子でも、きっとモテモテな子ができるわ~」


「花音ちゃんの遺伝子……相当頭良くなるよな」


「家事も何でもできるわよ。お手伝いもしっかりする、いい子に育つわ」


「いやでもな、ヒロが親だからな……」


「きっと子育てとか適当にするわよね……。家事子育て全般、全部花音ちゃんに押し付けそうね」


「まったく、ヒロには勿体無い奥さんだな! 俺が貰いたいくらいだ!」


「え、いま何、堂々と浮気発言かしら!? こんな美人な妻が居ながら!?」


「うわ、自分で美人って言っちゃったよ。てか冗談に決まってるだろ! 花音ちゃんクラスまでいくと、俺にも勿体ないわ!」


「何よ、じゃあ茂がもっとハンサムに生まれてたら、私じゃなくて花音ちゃん選んでだって言いたいの!?」


「うぉぅ、面倒くさいなコイツ」


「面倒くさい!? 私のこと面倒くさい、ですって!?」


 さすがにヒロには収拾のつかない言い合いになってきたので、黙ってチビチビお茶を飲んでいた。


 面倒な両親の口喧嘩の中に、次第にヒロの名前も登場し始めるが、変わらずスルーしていると、ふとある事が思い出された。


『私がパパを怒らせてばかりだから。だから、パパ怒ってるの』


『パパごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………』


 亡き父に取り憑かれた少女の弁によれば、父は少女を殺そうとしているらしい。暴走すれば、少女はぬいぐるみに喰い殺される、と。


 彼女の父の死因は自分にあると、彼女は悔やみ続けていた。


 成り行きで助けることになっただけの、まだ面識の浅い少女。ただ、少女の辛い身の上話を聞いて同情できない程、ヒロの共感性は低くはなかった。


「父さん母さん一旦ストップストップ!」


「なんだ、ヒロ! 今俺ら大事な話してんだ!」


「そうよ! ヒロはそこでお茶飲んで座ってなさい! …………あ、あとお風呂準備しといて」


「さり気にパシり入れんなよ……てか口喧嘩の内容しょうもねぇよ。ガキか!」


「親に向かってガキだと!? なんて口の悪い子に育ってしまったんだ……」


「育て方をミスったのよ…………貴方が。私でなく」


「おぉぅ、全責任俺に押し付けんなよな……それで、どうしたんだヒロ。突然口喧嘩止めにかかるなんて」


「あ、えーと、ちょっと聞いてもらいたい話がありまして…………」


 改まって話を聞いてもらうというのは少々気恥ずかしく、語尾に近づくに連れどんどん声が小さくなっていく。


 思わず俯いたヒロに対し、最初は首を傾げた両親。だが、すぐに頷き合うと、「話してみろ」と笑いかけてくれた。


「これは僕の友達の話なんだけど…………」


 ヒロはポツリポツリと、相良うさぎの身の上話を語った。アンノウンであることや、バスジャックに遭った事などはぼやかして。


 相良はあの日、自分が恨まれていると断言していた。自責の念に駆られ、謝罪の言葉を繰り返し続ける相良にヒロは同情した。


 と、同時に、相良の苦悩が的外れなのではないかとも思ったのだ。


 人の親でないヒロに、人の親の気持ちはわからない。


 相良の父が生前どう想っていたのか、ぬいぐるみとなってしまった現在、どう思っているのか。ヒロにははっきりとは分からない。


 だから、なんとなく、″親″という存在に聞いてみたかったのだ。


 『仲の悪い親子の、子供のせいで死んだ親の気持ち』というものを。


 ヒロの、重い話を、両親はしっかりと聞いている。時々「お~」だとか「うわっ」なんて声を漏らしつつ、質問なんかも交えて、ヒロの話に耳を傾けてくれていた。



   ✕ ✕ ✕



 七月十日日曜日。


 灰の荒野の中。


 黒マントを着た男十人が地面に倒れ込んだまま、動く様子はない。


 どうやら全員気絶しているようだ。男たちの手足には、蒼い結晶の枷の拘束が施されている。


 ヒロは、突如襲い掛かってきた黒マント集団を何とか捌き切ることに成功した。


 多勢に無勢な状況をどうにかできたのには、一人一人の動きがやけにぎこちなかったこと、蒼鉄の攻撃方法が基本的に変幻自在であること等、色んな理由が考えられる。


「この前のマウルたちの襲撃の方が、よっぽどキツかったわ~」


 肩で息をしつつ、ヒロは笑う。


 襲撃者をどうにか退けることができ、少し肩の荷が下りた気分である。無論、また、いつ襲撃者が来るかは分からないのだが。


「とりま、皆に連絡しますかね」


 スマホのスリープモードを解除来て、液晶画面を指で何度か叩く。


 電話帳から信永の番号を探し当て、電話をかけようとしたときのことだった。


 突如とてつもない強さの突風に打たれる。


 強風によって舞う灰に辟易しつつ、風が吹いてくる方を見れば、そこには目を疑う光景があった。


 黄金の巨大な竜巻が、荒野の上で猛威を振るっている。


 その様を見て、ヒロは唖然とするしかなかった。


 あのような、目で見える形での竜巻など生まれてこの方見た事も無かったし、黄金の竜巻が存在することなんて聞いたこともなかったためだ。


 そしてヒロは気づく。竜巻のある方角は、丁度鳴海が見張るよう指示された場所の方角と同じだったためだ。


「…………まさか、鳴海があそこで戦っているのか?」


 あの竜巻を敵アンノウンの仕業だと仮定すれば、勿論あの竜巻の標的は鳴海となる。


 ヒロの所には、特別手練と呼べる敵は来なかったが、あの竜巻の規模から推測するに、鳴海のもとには相当のアンノウンが居るようだ。


 少なからず、かなり距離のあるはずのここまで強風が吹いてくる程なのだから、あの竜巻のパワーは生半可なものではないのだろう。


 いくらあの″鎖″が強いとは言えど、鳴海はヒロよりもアンノウンとしての歴が短いのだ。


 ヒロは考えるより先に、身体が動いていた。


 持ち場を離れてはいけない、なんてことはすっぽり頭から抜け落ちて、ただひたすらに幼馴染の無事を祈って走り続ける。


 向かい風や、灰の地面の足場の悪さが影響してなかなか進めない。


 まだ遠くの竜巻の、徐々に小さくなって消えていく様を見て、ヒロはより一層焦りが募る。


 能力が解除されたということは、持続時間の限界が来たか、何らかの理由で能力が強制解除されたか、あるいは、鳴海にトドメを刺し終えたからか。


 とりあえずはこの三つであると推測される。


 だがいずれにしても急がなくてはならない。


 一旦は収まった強風、この機を逃すまいと、ヒロはとにかく全力疾走する。


 走りにくい灰の地面もお構い無く、足の疲労を物ともせず、ただひたすらに走り続ける。


「たしか、この辺だ…………」


 竜巻の中心地であろう場所にどうにか辿りつき、辺りを見回す。


 寂しい灰の荒野の風景が辺り一面に広がっている。灰一色の世界の中で、二点、荒野にそぐわない物が目に止まった。


「あれは…………まさか、鳴海か!?」


 やや遠くの方で、金髪の見知らぬ男が目に止まらぬ速度で何かをしているのが見える。


 瞬間、金髪男の目の前で突如、鳴海が膝をついて崩れ落ちた。


「!?」


 おそらく、とてつもない速度で鳴海を攻撃したのだろう。防ぐこともままならず、かなりのダメージを鳴海は受けて、倒れてしまったのだ。


 ヒロは蒼鉄で重々しく無骨なメイスを作り出すと、自分の人間離れした脚力を全開にして跳躍した。


 狙いは、鳴海の傍から歩き去ろうとする金髪男。


 柄を固く握りしめ、メイスを金髪男目掛けて振り下ろしながら、ヒロは思いっきり叫んだ。


「鳴海に、何をしたぁぁぁぁぁぁ!!!」


 メイスが金髪男の居た地面を叩くのと、ヒロの腹部に重い衝撃が加わるのとは、まさしく同時であった。

読んでいただきありがとうございました!


すみません、昨日投稿する予定だったのですが、遅れてしまいました。誠に申し訳ございません。


次回は多分、次の土日に投稿できる…………筈ですハイ。(もうじき大会なので、練習試合だらけなんですよね……)


これからも頑張っていきますので、よろしくお願いします!

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