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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
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♯32 孤独の兎


「ブラック飲めるんだ、相良ちゃん」


 自動販売機近くにある小さな公園のベンチに腰掛ける、ヒロと相良。


 相良はコクリと無言で頷く。


「相良ちゃんは、今何年生?」


「………………小学三年生、です」


 独り言かと思えるほどの小さな声。


 相当の人見知りらしく、相良の頬は真っ赤である。


「小学五年生でブラック飲めるって早いな……僕なんて、その頃まだカフェオレすら飲めなかったから」


「………………」


 ヒロはとにかく困っていた。


 話が全く続かないのだ。質問には多少答えてくれるも、相槌だとか向こうからの質問が無いせいで、一向に話が展開していかない。


 特別コミュ力が高かったり、年下の扱いが上手いわけではないヒロは、どうにも距離を詰められずにいた。


「…………あ、相良ちゃん。学校、楽しい?」


「…………最近行ってないので。危ないから」


「そっか。暴走寸前、だもんね…………」


 相良はコクリと頷くも、そのまま黙り込んでしまう。


 ヒロの心は沈み込む。


 もはや、会話が続かない要因は相良の人見知りではなく、自身のコミュ力不足だと思い始めている。事実、上手く会話を回せている気はしない。


 どうにかネタを拾おうとヒロは相良を見、縫いぐるみに目が止まった。


「その縫いぐるみ、誰から貰ったの?」


 相良はすぐ隣に座らせていた縫いぐるみを抱き上げると、長い間を挟んで、


「……………………パパから。去年の誕生日に」


「なるほど、誕プレか。凄く大事にしてるんだね」


「………………最後(・・)の、パパからのプレゼントだから」


 ヒロは言葉が詰まった。


 ″最後″と言うのが、どういう意味を孕んでいるのか。ヒロが真っ先に思い浮かべたものは、″他界″という二文字だった。


「私、ずっとこの縫いぐるみ持ってる」


「…………大切な、お父さんからのものだもんな」


「それもあるけど、それだけじゃないの」


 相良は縫いぐるみの顔を此方に向けた。


「…………この縫いぐるみ、呪われてるの」


「…………え?」


 ヒロは耳を疑った。


「縫いぐるみに、パパの魂が取り憑いているの」

 

 ヒロは目も疑った。


 可愛らしい熊の縫いぐるみの両目が、赤く光ったように見えたのだ。

 

   ✕ ✕ ✕



「おかえり、ヒーくん!」


 いつも通り、笑顔でお出迎えをする幼馴染。


 ヒロはぎこちなくもどうにか笑顔を作り、


「ただいま、鳴海」


「今日の夕飯…………なんだと思う?」


「…………このだしの匂い、素麺?」


「む、一発で当てられた。アンノウンは鼻が利くからなぁ。夕飯当てクイズの難易度大幅に下がったよね~恨めしい!」


 ヒロがリビングに入ると、食卓にはやはり美味そうな食べ物が何皿も並べられている。


 熱くなりつつあるこの季節、素麺や素麺に合うおかずで構成された献立はありがたい。


 いつも通り、二人は机を挟んで席につく。


「いただきます」


 冷えた素麺は、この季節の気温も相まってとても美味しい。だしは丁度いい、ヒロの好みの味加減だ。


 もはやヒロの胃袋は完全に鳴海に掴まれているのも同然である。


「うん、やっぱり幸せそうに食べるねぇ。ヒーくんは」


「そりゃ毎度毎度、ピンポイントで好みの味付けなんだもんなぁ。しかも丁度いい献立だし」


「やっぱり長いこと幼馴染してるだけのことあるでしょ」


「いやぁ、マジお世話になってます。頭が上がりませんて、はい」


 「ふふん」と、得意げに笑う鳴海。


「もう家事全般私に頼りっきりだもんね~。ヒーくんがもしひとり暮らしなんて始めたら、一週間後には餓死してそう」


「べ、別に料理くらいできるぞ僕!」


「カップ麺と、レトルトカレーと、あと他に何作れる?」


 ニヤニヤと、鳴海は口元を手で隠しほくそ笑む。


「…………ゆで卵」


「茹でるだけじゃん」


「…………仰る通りで」


 家事に関してで、ヒロが鳴海より優位に立つことはないのである。


「それで?」


「ん?」


 素麺を啜るヒロに、鳴海は頬杖をついて問いかける。


「何かあったの?」


「え? …………いや、特に何も無いけど?」


 カチ、カチ、カチ。


 時計の針の音が、秒刻みで部屋に響く。


「ま~た、嘘つくの?」


「…………バレた?」


「長いこと幼馴染してるだけのことあるでしょ」


 ヒロは微妙な顔をするしかなかった。


「なんでバレたの?」


「見てりゃ分かるよ、幼馴染だもん。表情ぎこちないことくらい、パッと気づける」


 ヒロは頭を掻いた。


 どうやら、心を読むことに関しても、ヒロが鳴海より優位に立つことはないようだ。


「それで、今度はどんな隠しごとがあるの? 夕凪さんとの会話のこと?」


「いや…………それはあまり無いな。あの人との会話は、なんかこうドッと疲れたって感じだから」


「それじゃあ、他に何かあったの?」


 素麺をだしに浸しながら、鳴海は問いかける。


「話してよ」


「重い話だよ? 多分」


「別にいいよ。ほら、カモンカモン」


「帰りにさ、相良ちゃんに会ったんだよね」


「へぇ、相良ちゃんに。それで?」


「バーではあんまり喋れなかったから、少し喋ろうかなって思ったわけです」


「…………ほほう。男子高校生が幼女に手を出そうとした、と。犯罪の臭いがしますねぇ」


 ジト目をすると、鳴海は「冗談、冗談だよ~」と笑う。


「それで、喋れたの?」


「いやぁ、最初全く話続かなくてさ。最低限しか口を開いてくれないもんだから、どうしたもんかって困ってたんだよね」


「ま、ヒーくんそこまでお喋り上手じゃないからね。妥当だね」


「でもさ、縫いぐるみの話題になったら口数が激増したんだよね」


「良かったじゃん。そっか、小さい女の子は縫いぐるみが好きだから、相良ちゃんも話しやすい話題だったのかな」


 ヒロは首を横に振り、


「そんな楽しげな感じじゃないよ。他界したお父さんの話だった」


 ヒロはポツリポツリと話す。


 公園での、ヒロと相良の会話の内容を。



   ✕ ✕ ✕



「呪われてる…………って、どういうこと?」


 ヒロは縫いぐるみの眼光にたじろぎながらも、相良に問う。


「…………私、普通のアンノウンじゃ無いんです」


「普通……じゃない?」


 ヒロは首を傾げる。


「アンノウンは、凄く運動できるし、魔法みたいなことできる。でも、私は他のアンノウン達よりも力も無いし、凄いこと全然できない」


「………………」


「アンノウンなのは私だけど、本当にアンノウンなのは私じゃないの。私はアンノウンなのに、でもアンノウンなのはこの縫いぐるみなの」


 さらにヒロは首を傾げる。


「いや、ちょっと待って。え、どゆこと? ごめんもっと詳しく」


「…………パパが死んだとき、パパは生き返ったの。でも、パパの身体じゃなくて、この縫いぐるみに魂が入っちゃって。不完全だけど生き返っちゃったから、アンノウンになっちゃった」


「生き返ったりするとアンノウンになる可能性がある…………って聞いたな」


「でも、身体は生きてるものじゃないから、アンノウンにはなりきれなくて。縫いぐるみをだだっこしてた私が、少しだけアンノウンになっちゃったの」


「少し、だけ?」


「だんちょーが、言ってたの。縫いぐるみが七割、私が三割なんだって。どういうことか分かんないけど」


「…………中途半端ってことだよ、多分ね」


 そんな半端にアンノウンになることがあるのかと、ヒロは驚く。


「でもそうすると、縫いぐるみが物凄いパワー持ってることになる、よね?」


「…………私ができるのは、この縫いぐるみを、大っきくして戦わせることなの。ビーム出したり、引っ掻いたり、バリアしたりさせることかの」


「ビーム? バリア? …………この縫いぐるみが?」


 引っ掻くのはまだ分かるも、何故そんな近未来的兵器を備え付けているのか。


 一見、縫いぐるみはツギハギがあるも、本当にただの熊。キャノン砲も何も付いていない。


「でも、この縫いぐるみだんだん言うこと聞いてくれなくなっちゃって。だんちょーは、次大きくしたら確実に暴走するって。私を食べちゃうんだ…………って」


 相良は視線を落とす。


「こんな所に閉じ込められちゃったから、私が戦わせたから、私がパパを怒らせてばかりだから。だから、パパ怒ってるの」


「…………そう、なんだ」


「だから、だんちょーにお願いしたの。この縫いぐるみが悪いことしたら、パパを殺してって」


「………………いいの? それで」


「パパが悪い人になるのは、もう嫌なの。だから、お願いしたの」


 悲しい表情をする相良。


 啜り泣く音。


 こんな小さな子が、親を案じて親を殺してほしいと頼み込んだ。それがどれほど辛いことか、ヒロには到底わかり得ないけれど、きっと苦しいことだろう。


「お父さん思い、なんだね」


「…………ううん。パパが死んだのは、私のせいだから。私が言う事を聞かなかったから、ちゃんと言われたとおりに逃げなかったから、だから殺されちゃったの」


「殺された? …………一体誰に」


「バスに乗り込んできた怖い人達。銃持って、顔隠してて真っ黒な服で、「金をよこせ」って」


「バスジャックってことか。それは━━」


 ━━災難だったね。


 そう言おうとしてやめた。これを言ってしまったら、相良の悲しみを軽い言葉で表してしまったら、なんとなくいけないと思ったから。


 縫いぐるみを撫でる相良の表情は、とても辛そうだった。


「パパは優しい人じゃなかった。ママが家から出ていっちゃってから、もっと怖くて厳しくて。でも、怖い人たちを私が怒らせちゃったから、パパが撃たれちゃったの」


 ヒロは口を閉ざした。


 否、閉じざるを得なかった。


 気の利いた言葉など一切思いつかなくて、むしろ逆効果になるであろう言葉ばかりが飛び出てしまいそうになったから。


 かわいそう、だなんて同情が無意味だなんて、ヒロには分かっていた。


「パパごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…………」


 ギュッと縫いぐるみを抱きしめ、ブツブツと謝り続ける相良。


 ヒロには何一つできることがなかった。


 目の前で自分を傷つけている女の子に、助けの手を伸ばすことはできなかったのだ。


「悪い子で、不出来な子で、ごめんなさい」

読んでいただきありがとうございます!


もうテスト期間終わりましたので、これからは通常ペースに戻ります!


今回は割と相良多めでした。


相良の能力はとりあえずぶっ飛んだものになってるので楽しみにしといてください!


次回は多分水曜日投稿しますね!

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