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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
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♯26 大崇信マウル・オックスファルド


「大崇信マックス・オックスファルド…………?」


「マウルにございます。倉田ヒロよ」


 嗄れた顔が、人の良さそうな笑みを浮かべる。


「私めは、貴方にカリバーン教が何たるかをご教示せんと、こうしてやってきた次第であります故、暫し時間を頂いても?」


「悪いけど、先輩は私とデート中なのでお引き取りを」


(え、やっぱりデートだったの!?)


 煌上は、ヒロを抱きかかえたまま毅然と言い放つ。煌上の一言は、ヒロの心だけでなく、マウルの心をも揺さぶった。


 突然、マウルが頭を抱えてその場で悶始める。あまりに急だったのと、不気味すぎる動作に、ヒロは自然と身体を引く。


「あぁ、なんと穢らわしい! あぁなんたることか。王統べる世界において、庶民たる我々が愛情などに身を任すなど、まさにまさに獣の所業……人間たる威厳は失われたか! 我々は王に仕えるために生を与えられた。なら、この命の一時に、一切の私情などあってはならないというのに…………」


「は、はぁ…………」


 ブツブツと呟き始める男に、ヒロはつい狂気の類を感じ取ってしまう。


 コソコソと、煌上に「もう放っといた方がよくね?」と言うと、煌上は、


「…………無理ですね。最初の逃走で撒けなかった時点で、正直今更走っても変わらないです。あの男、マジでウザい奴なんで」


「あぁなんと不躾な口なこと……この私めを「ウザい」などと低俗な言葉で罵るか! 煌上茜……やはり貴方は王を尊び、教を尊ぶ正しい心を持ち合わせていない。ならばその五体、即座に王の世から消し去るべきであろう!」


「先輩、投げますよ!」


 ヒロの身体は、いつの間にか宙へと投げ出される。五メートルほど先の壁に激突し、思わず「ヴェッ!?」と声が出る。


 煌上がヒロを投げ飛ばしたのと、マウルが音もなく跳躍したのは同時だった。


「王の為の世界に、貴方のような不届き者は不必要なのです! 早々にこの世から立ち去って頂きたい!」


「なーにーが、王の為の世界だぁぁぁ!」


 マウルがマントで手元を隠しながら、空中でナイフを五本投擲。煌上は、それを身体を捻りながらの小ジャンプで躱し切る。


 地面に突き刺さった小振りのナイフのうちの一本を煌上は蹴り上げて、ナイフをキャッチ、即座にマウル目掛けて鋭い一投。マウルは傍の建物の壁の上を走って躱す。


 ここは周囲が建物で囲まれていて、人気がない。戦場としては、衆目の目につかないという点では、それなりの好条件だ。


「何ボサッとしてるんです、先輩! ほら早く立ってくださいよ! コイツの動きさっさと止めて離れましょう!」


「え、あぁ…………おう!」


 服の汚れを払い、身体に蒼鉄を纏う。


 意識を右手に集中させ、掌から蒼鉄を生成。飾り気のない、刃渡り一メートル程の剣が出来上がる。


(……やっぱり最近、凄く調子がいい)


 マウルの背後から剣を持って斬りかかる。


「初々しい動きですなぁ」


 マウルの回し蹴りは剣を捉え、そのままヒロの手から弾き飛ばす。


「ッ!」


 マウルは振り向きざまにナイフを三本投擲。ヒロは咄嗟に腕を交差して顔面を覆い、防御の体勢を取る。


 カン、カン、カァンッ


 蒼鉄の鎧は、金属の甲高い音を立てつつナイフを弾き飛ばす。ヒロが顔を守っていた腕の交差を解きつつ、正面を見ると、


「隙ありですぞ、倉田ヒロ」


 肉薄していたマウルの膝蹴りが、ヒロの顔面を捉える。


 鼻や口から血を噴き出させながら、背後の壁にまて吹き飛ばされ、衝突。視界を確保するため、疎かにしていた顔面の防御を突かれ、身悶えする。


「貴方は、新たな我らの仲間になりうる芽。宣教師として、宣教の弁一つ述べず、貴方を殺すことはありません。ですが、今はひとまず眠っていただきましょうか!」


 マウルはヒロに馬乗りになると、ナイフを突き刺そうと振り上げる。


(やばい、顔痛ぁ…………じゃなくて、回避…………!!)


「…………させるかぁ!」


 煌上が背後からマウルに蹴りを放つ。ノールックでマウルは跳躍し回避。そのまま二つの壁の間を飛び交い、ヒロ達を翻弄する。


「ああもう、何やってんですか先輩」


 煌上は、頭上にて壁キックしまくっているマウルを警戒しつつ、ヒロの顔面に黒い電撃を流し込む。


「おお、相変わらずの治癒速度。サンキューね」


 鼻に付いている血を拭き取ると、地面に落ちてる蒼鉄の剣を拾い構える。


「さて、煌上茜(教敵)が居る前では、ゆっくりと宣教も出来ぬ故、このような汚い場所で失礼ですが宣教の弁を語らせて頂きますよ」


 そう言いつつ、マウルは大量のナイフを連続投擲。


 まさにナイフの雨。降り注ぐそれらを、ヒロは蒼鉄でガード、煌上は軽々と避けてやり過ごす。


「ところで倉田ヒロ。この社会は腐っていると思いませんか?」


「は? いやそんなん、知らないけど!」


「先輩、あんな男の言うことなんて無視してください! 反応しちゃ駄目です」


 煌上の指摘に、ナイフを防ぎながら首肯する。


「社会の方向性を築く役割を担う、公正であるべき政治家達の、日々相次ぐ横領等不正。朝刊を読めば、いくらだって、社会の膿を読み取ることができる。日本は不正に満ちている! 腐っている!」


 嗄れた声が場に響き渡る。


「何故、こうも社会は落ちぶれるのか。政治や法を担う者達の中から、何故こうも不正が発覚してしまうのか。何故か。…………とても簡単なこと。日本のリーダーが、ただの民草から選ばれた、ただの人間であるが故なのです!」


「うぉっ!?」


 いつの間にか、頭上からヒロの懐へと迫っていたマウル。彼の掌底はヒロの脇腹を捉える。


「効くか!」


 蒼鉄の鎧にはばまれ、ヒロにはさしたるダメージが無い。懐の宣教師の足目掛けて、ヒロは剣を振るう。


「ですから、貴方の剣は初々し過ぎるのですよ、倉田ヒロ」

 

 剣を握る右腕をマウルに掴まれる。その細腕からは想像できる筋力に歯噛みしつつ、左拳でマウルの顔面を狙う。


「人々を導く者は、特別でなければならない…………そう思いませんか?」


 ジャランと音を立てて、ヒロの目の前に差し出されたのは銀色の鎖。


 それを視界に捉えた瞬間、ヒロの身体は奥底から震え始める。


「あ…………うぁ、ぁああ…………!!」


「人間とは、やはり欠陥だらけの生物ですな。ただ見ただけで、こんな風に悶えてしまうのですから」


 ヒロは頭を押さえながら、後方へよろける。


 思い出したくなくても勝手に再生される、地獄のような光景。自身の身体が鞭打たれ、砕け散る様は、頭に浮かんで離れない。


(いやだ、死にたくない……死にたくなないない死にたく、ない……)


「どこもかしこも欠落した存在が、多数を統べるなど愚行にも等しい。ボロが出るのは当然の結果ですな。やはり、人の世を統べるのは、神に選ばれし″王″でなくてはならない。全知全能、あらゆる人間を凌駕する完全な存在である″王″こそが、我々を導くべきなのです!」


 ヒロの目の前で、マウルはニタニタと笑いながら鎖を左右に揺らす。その度に金属の擦れる音が鳴り、ヒロの耳から心を蝕んでいく。


「先輩! 落ち着いてください!」


 煌上がヒロの下へと駆け寄ってくる。


「能力を温存した異教徒(煌上茜)など、我々からしたらさしたる障害にもならないのですよ」


 パチン、マウルが指を鳴らした途端、空中から黒マントが三人降ってきた。


「ッ…………!」


三人の新手に、煌上は阻まれる。


「…………鎖、嫌だ嫌だ嫌だ……近づけない……で…………見せるな、見せないで…………」


 自身が殺されていく様が脳内でリピートされ、ヒロの精神は緩やかに崩されていく。震えは止まらず、吐き気や頭痛がヒロを襲う。


「我々は″真の王″を求める。そのための″選定″、我々は選定剣(カリバーン)を用いて、″王″を求めるのですぅ…………。虫食われた社会を変えるべく、神に与えられたあるべき世界に辿り着くべく…………!!」


 マウルはそういうと、空を見上げ陶酔する。両手を天に向けて広げている。


「ああ、もう! ものの見事にやられてんじゃないですよ先輩!」


 無言のまま襲いかかる三人の黒マントの攻撃を、煌上はうっとおしそうに捌く。


「あんたらの意味分かんない理想のために、一体どれだけ犠牲者を出せば気が済むんだよ!」


「いえいえ、煌上茜。あれは犠牲などという無価値なものではないのです。贄ですよ、生贄。″王″の資質を持つ者に辿り着くための生贄ですな。この倉田ヒロもまた然り。″王″にとって、重要な存在足りえますので」


 追い詰めるのはもう十分でしょう、マウルは鎖をしまうと、


「煌上茜。貴方が我々に対しそこまで憤るのは、やはり我々の崇高な目的の為に、貴方から離れていったあの方(・・・)が関係あるので?」


 マウルは煽るように、ニヤリとほくそ笑む。


 煌上にとって、その一言は堪忍袋の緒を切るには十分だった。


「…………あんたらを、私は絶対に許さない。まずはマウル、あんたをここで…………!!」


 煌上の掌には独特の形状、装飾の片手斧が。


 煌上の右腕から斧へ、白い電撃が伝っていく。眩い白光を帯びた斧を構え、煌上は一言紡ぐ。


「ーー能力開帳」


 斧から解き放たれた幾本もの電撃の白帯は、壁や地面の表面上を迸り、マウルや黒マント三人に襲いかかる。


 マウルは跳躍し、身体を捻ることで電撃を回避するも、黒マント三人は避け切れず、電撃が直撃する。


「ぐ、ぁああぁああ……ぁああぁ……!!」


 身体を伝う電撃に、転がり悶える黒マント達。見れば、足や腕がボロボロに朽ちている(・・・・・)


「能力を使われては、ただの宣教師たる私には手が負えませんな。ここは一度退くとしましょう。倉田ヒロにカリバーン教の何たるかは軽くレクチャーできたことですし」


「…………逃がす、かぁ!」


 煌上は斧から全方位に放たれている白帯を、マウル一点に集中させる。巨大な光の奔流となった白いスパークを見るなり、


「相変わらず、禍々しい能力ですな。しかし大司教の一人となり得た″当たり″だったというのに…………残念で仕方がありませんな」


「煩い!」


 壁を蹴り、マウルは器用に電撃を躱す。この場を囲む高層の建物の屋上にまで上昇すると、マウルはよく響く声でこう言い放った。


「近い未来、我々は貴方方異教徒の組織を潰しにかかるでしょう。イスラムで言うところの、聖戦(ジハード)というアレですな。″王″を愚弄した罪は重い、死を以って償うこととなるでしょう。ゆめゆめ、お忘れなきを」


 マウルは姿を消した。


 残されたのは煌上とヒロと、負傷した黒マント三人。


 激昂状態の煌上は、マウルを追おうと走り出すも、


「…………はぁ、はぁ…………」


 ヒロの苦しそうな声に我に帰る。


「……………………大丈夫、ですか。先輩」


 煌上がヒロに話しかけるも、返事がない。


 代わりに、ドサッという音が場に響いた。


「え、ちょ、先輩…………!?」


 地に附したヒロ。思わず、煌上は駆け寄る。


「しっかりしてくださいよ、先輩ーー!!」


 意識のないヒロを呼びかける声が、人気ない路地裏に響いていた。


読んでいただきありがとうございました。


少々やべぇ奴が出てきました。これからもこんな感じのやつがたくさん出てくると思いますが、よろしくお願いします!


どうでもいい話ですが、本日登校中に″バードメテオストライク″を食らいました。要はあれです、空中の鳥から地上の僕へと、白い一撃が放たれたわけです。無事、右肩をやられました。


次回は、部活の都合的に土曜になるかと思われます。よろしくお願いします!

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