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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
28/43

♯25 突然の呼び出し


 土曜日の朝十時半。


 都会サイドど真ん中に位置する、市内最大の駅ーー降谷駅。駅は地上五階建て、地下二階建ての縦長構造になっており、数年前に改築されたばかりなので、外見は新築のようにピカピカだ。


 ヒロはその降谷駅前広場のベンチに腰掛けている。ついさっき、呼び出されたのである。


 急いで自転車を走らせ、駅についたのが十時数分。それからずっとここで待っているのだが、ヒロを呼び出した後輩は、まだ来る気配がない。


「アイツ……呼んどいて自分は遅れてくるとか、どうなんだよ…………」


 ただ待っているだけなのは暇なので、ヒロはスマホゲームで時間を潰していた。が、どうしても『休日に女子から呼び出される』なんていう不慣れなイベントが発生しているため、ヒロの心は自然とスマホから離れていく。


(もしかしたら、到着が遅れているのは身支度に時間がかかっているのかもしれないな。「すみません、オシャレな服選んでたら、時間がかかってしまいまして」みたいな)


 ありそうな理由ではある。男子女子問わず、高校生にもなれば多少は身嗜みに気を配るのは当たり前なのだ。


(いや、あるいは…………「先輩と初めてののお出かけなので、ちょっとドキドキが止まらなくて」みたいな! 実はいつの間にか、僕煌上の好感度稼ぎまくってたりして。いやいや、もしくは「あれぇ? もしかして先輩、待ってる間寂しかったんですかぁー? そうですかそうですか、先輩って寂しがりやだったんですね。仕方ないので、一緒に一日過ごしてあげますよ」みたいに言われたりして)


 詰まるところ、ありえない妄想を次々と生み出し、勝手に舞い上がっているのである。


 なにせ、女子に遊びに誘われたのだ。多少の勘違いが起こることは、きっと仕方のないことなのだ。


「すいませーん、おまたせしました!」


 後ろからかけられた声に、ヒロは妄想の世界からハッと我に帰る。


 振り返れば、金色の髪をショートポニーに結わえた煌上が立っていた。服装は黒いキャップに黒白のパーカー、ショートパンツ。


「…………どうしました?」


「え、あ…………いや…………」


「あーもしかして先輩、私に見惚れてました?」


 図星だった。


 普段と違うショートポニーは新鮮で、服装の配色と相まって金色が映える。ショートパンツなので、スラッと伸びた長い足が多く露出し、色白の肌のきめ細かさがよく見て取れる。


 すぐ傍にいつも鳴海が居るせいで、自然と育まれた(ハズの)美少女耐性も、あえなく轟沈。基本的に落ち着いた服を好む鳴海とは、ファッションの方向性が違うことも、敗因に上げられるだろう。


 それにしたって、煌上が周囲の目を惹く存在であることに変わりはなかった。


「にしたって、先輩? 後輩をいやらしい目で見るのはよくないですよ? 正直、キモいです」


「あ……ごめん。……いやキモいは酷くないか!?」


「正直に、と私は前置き入れましたので。まぁ、私が可愛すぎるのがいけないですかね?」


 きゃるん☆ とポーズを決めて笑う煌上を見て、一種の魅了状態に陥っていたヒロは目が覚める。


 ああ、やっぱ可愛くない奴だ、と。


「ささ、行きましょ行きましょ。あんまりこんな所でダラダラしてると、いろいろと時間が厳しくなっちゃいますので」


 煌上に背を押され、ヒロは駅中へと進まされる。


「いや遅れたの君だからね!? てか今から何すんの!」


「それは、後のお楽しみですよ~。あ、あと三分で電車来るんで急いでください」


 二人は、主に煌上のせいで周囲の視線を浴びながら、ホームへと歩を進めていった。



   ✕ ✕ ✕



 降谷市のお隣ーー美山原市まで、電車で五駅の距離である。


 美山原駅にて電車を降りた二人は、駅前の大通りを歩いていた。


「ーーそんなわけで、先輩にはある程度強くなってもらって、ウサちゃんの暴走を鎮める手助けをして欲しいわけなんですよ」


 神谷からの頼まれごとを成し遂げるために、新人の戦闘力も強化しておきたいそうだ。


 なんでも、暴走中のアンノウンは時間経過や気絶などによって暴走を解除できるそうだが、暴走状態のアンノウンは短時間でもかなりの被害を生んでしまうため、後者を選ばざるをえないらしい。


 そのウサちゃんなる少女とは、ヒロはまだ会ったことがない。暴走直前でかなり不安定な状態なので、極力人と会わないようにしているらしい。


 一応、全く面識がないのは互いに気まずいので、明日面会させてもらえるそうだ。どうやら、ヒロの土日は休日として機能しないらしい。


「………………はぁ」


 深々とついた溜め息に、どうしました? と煌上は問うてくる。


 いや、と断って、ヒロは内心、現実に絶望する。


「あ、もしかして先輩、デートとか期待してました?」


 ビクリ。


 ヒロの身体が僅かに跳ねる。


「うわぁ、わかりやす……。いやたしかに勘違いしちゃいそうな、突然の呼び出しでしたけど。でも先輩? 私が先輩に好意を抱くようなシーン、一つでも今までありました?」


「ゔ…………」


 悪戯な笑みを浮かべる煌上の言葉に、ヒロは呻くことしか応じる術がない。いや、応じる術がないからこそ、呻くことしかできないのだが。


「まぁそんな落ち込まないでくださいよ。先輩には可愛い幼馴染が居るじゃないですか。鳴海先輩と比べたら私なんて、天と宇宙の差ですよ」


「鳴海とはそういう関係じゃないんだよ…………。てか、天と宇宙ってなんだよ……どっちが上なの?」


 ヒロの問に対し、むふん、と煌上は胸を張って、


「それは先輩が決めることですよ。さ、あともう少しで目的地ですよ~」


 急かされるがまま、大通りを突き進んでいく。


 さすがに休日なので、人足も多く、そこら中から人の声が聞こえてくる。


 楽しげな談笑、小難しい仕事の相談、素人の必死の食レポ、ビラ配りの大声ーー。


 ありふれた風景が眼前に広がっている。そこに、特筆するような情は沸き上がらない。都会にとって、これこそが通常であって、特筆するような不可解なことはさしてない。


 せいぜい、道路を挟んだ向こう側の広場にて、大勢の人達が群がっていることくらいしか、特筆することはない。


「騒がしいな、あっちの方」


「そうですね。何かイベントでもあったんでしょうか」


 目を凝らして見るも、人が多すぎて向こう側が見えない。どうやら、人の群れの向こう側に人を惹き付けるものがあるようなのだが。


「ただちょっと煩すぎません? 見てください、あそこの青年なんか発狂したように声張り上げてますよ。うわ、あそこの人も。あ、あっちもですね……。ちょっと先輩、これ警察呼んだほうがいいんじゃないですか?」


「あーこれはたしかにヤバイよなぁ。でも本格的にヤバくなったら、そこら辺から警察が現れて止めにかかるでしょ。わざわざ通報するこたぁ、ございませんて」


 未だ警察は現れないようで、ワイワイと騒いでいる群衆。その騒音に引き寄せられてきた野次馬達も、次第に群れの中に入っていく。凄まじい速度で、人が集まっていく。


 何がそんなに人を集めているのか。


 ちょっと気になって、ヒロが歩道を渡って向こう側を覗きに行こうとした時だった。


 人の群れが一斉に十列ほどに整列し、先程の喧騒が嘘かのように、突然黙りこくってしまった。


 なかなかに奇妙な光景である。


 都会の一角にて、あれだけ騒ぎ立てていた群れが、突然規則正しく並び始めたのだから。まるで、整列の声をかけられた軍隊のような。


「なんだ? そういうパフォーマンスか? ちょっと見ていこうぜ」


 たまにネットで上がっている、街中でダンスパフォーマンスをする類のものだろうかと、ヒロは俄然、興味が湧く。


「……………………先輩、離れましょう」


 突然手を取られ、ヒロは硬直する。


 ヒロの手を握っている煌上の手が、やけに温かくて、柔らかくて、小さくて。


 あまりに突然だったので、心の準備ができておらず、つい赤面してしまう。


 だが、そんな初々しい反応を見せるヒロとはうってかわり、鳴海の表情はひどく険しい。ヒロの手を握ったまま、突然駆け出した。勿論、手が繋がっているので、ヒロも走り出す。


「ちょ、どうした煌上!? え、なに、トイレ!?」


「女子にそんなこと聞かないでください! 違います、あれは…………あれは、とにかくやばいんですよ!!」


 人目も憚らず、かなりの速度で走り出す。人の波をスレスレで躱し、大通りを外れて小道を進み、人目のないところでは堂々と屋根の上を渡ったりして、とんでもない速度で移動していく。


「あぁもう、先輩遅い! ちょっと抱きかかえますよ!?」


「え、ちょ、うぇぇ!?」


 突然グイッと引き寄せられると、流れるような動作でお姫様だっこの形になる。抱かれているのがヒロで、抱いているのが煌上という、逆お姫様だっこだが。


 煌上から香るいい匂いに、ヒロの頭はクラっとする。目の前には煌上の顔があり、健全な男子高校生たるヒロの心臓は爆音を打ち鳴らす。


「…………くそ、撒けなかったか」


 突然浮遊感がヒロを襲い、三階建て店舗の屋根から地上へ着地。


 建物が周りを囲い、殆ど日の届かない細道に着地したようで、人気がない。先の移動距離を踏まえると、美山原の中心街からは大きく外れたようだ。


 ヒロが煌上に抱きかかえられたまま、周りを見回していると、上から降ってくる人影が一つ。


 高速で飛来した人影は、物音一つ立てず着地すると、顔を上げた。


「いやはや、目があって数刻とせぬ内に姿を晦まそうとするとは、やはり主達は臆病者の集まりだ。実に嘆かわしい…………ああ、なんと憐れな…………」


 嗄れた声で、涙を拭う目の前の男。


 フード付き黒マントに身を包み、皺だらけの顔はどこか狂気じみたものを纏っている。顔つきから判断するに、五十歳程であろうか。


「…………なぁ、煌上。このおじさん誰?」


 ボソボソと小声で問うと、煌上は男を睨んだまま、


「一言で纏めると、超クレイジー宣教師、です」


「おやおや? そんな偏見が持たれてしまいそうな紹介はないじゃありませんか。私ほど、崇高に、忠実に、無垢に、潔白に、生きている人間は居りますまい! 初めまして倉田ヒローー紅き檻の人よ。私はカリバーン教大司教、大崇信マウル・オックスファルドと申します。以後、お見知りおきを」


 そういって、痩せ枯れた男はペコリと頭を下げた。


読んでいただきありがとうございます!


本編中で説明できるかどうかわからないので、これからTrashy Rebelliosのメンバーの能力を後書きで紹介しようかなと思います。


第一弾は信永です。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


物体、あるいは指定した空間に″人避け″を付与。正確には、人間の危機察知能力を刺激し、自然と付与された物体を避けるようになる、注意が向かなくなる。


一般人は、よほどのことがない限り寄ってこれない。アンノウンに対しても警戒心が掻き立てられ、一瞬くらいなら意識を逸らさせることができる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


次回は水曜日投稿です。よろしくお願いします!

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