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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
26/43

♯23 アンノウンの世界 Ⅰ


「もうちょいで、六月も終わりだなぁ~」


 隣で、友也が項垂れる。


 六月三十日水曜日、昼休み。


 福田と野村は部活関係で呼び出しを食らっているため、今日の昼ご飯は帰宅部同士、友也と二人である。


 相変わらず、ガラ空きな教室。その端っこにて、二人はダラ~と無駄に時間を浪費していた。


「六月、俺全然遊びに行けてねぇや~」


「宿題やり忘れて補習にかかったのが悪いよねそれは」


「いやほら、俺ってば凄い奴じゃん? 宿題なんてそんな雑事をやるのは気乗りしねぇんだわ~」


「何言ってんのこの人……」


 目の前のお馬鹿さんに、ヒロは思わず呆れ顔。


 凄い奴、というのがアバウトな表現すぎて、全然凄い奴という感じが伝わってこない。


「あーそうそう、昨日鳴海ちゃん、お前の家にいたらしいじゃん。…………なに、付き合ってんの?」


「なんでそんなこと知ってんだよ……。付き合ってるわけないでしょうが。僕と鳴海とじゃ、スクールカーストが違いますわ」


「はは、それはそうだな。お前、クラスの打ち上げとかたまに呼ばれないもんな~」


「そうなんだよなぁ。クラスのパリピとはそこまで喋らんから、当然と言えば当然なんだけどさ」


「その点、鳴海ちゃんはパリピ共に引っ張りダコ。山田を筆頭に、アプローチ大殺到! 勿論、俺もだぜ!」


「あ、お前もなんだ」


(山田を筆頭に……。まぁ、伝説を作った人だしね! 痛い意味で!)


 山田とは、鳴海に痛すぎる告白をし、あっさり振られたクラスのイケメンだ。


 本日は鳴海が登校しているので、山田のワックスと香水の量は、それはそれは酷いものだった。むしろ、なんで校則違反で取り締まられないのか謎なほど。


「ま、正直な話、鳴海ちゃん相手に本気で好意を抱いたところで、それは絶対空回りなんだけど、さ」


「そうなの?」


「そうなの。あ、そうだ。今日カラオケ行こうぜ。俺の凄まじく進化したボイパ、見せてやるよ」


「それ、わざわざ金払ってまでカラオケで見せる必要性あるのか……」


 カラオケに行くなら歌えよ……。


 言葉は腹の底に押し込めて、とりあえず呆れ顔。


 ただ、長らくカラオケに行っていないので、久しぶりのカラオケはやぶさかではないのだが。


「生憎と、先約がありましてね、本日は。また今度な」


「先約、だと…………。お前を遊びに誘う物好きがいるのか。…………あぁ、鳴海ちゃんか!」


「ハズレ。鳴海は関係ないぞ」


「ほほう。お前の愛人がどんな人なのかは興味は湧くが、今はソッとしておいてやる。樂しんでこいよ!」


「愛人どころか彼女も居ねぇんだよ……」


 ヒロは、自身の悲しい現実を口にし、そしてその言葉に絶望するのであった。



   ✕ ✕ ✕



「さて、今日足を運んでもらったのは、いくつか教えておかなければならないことがあってね」


 ヒロと神谷の二人は、ミニテーブルを挟んで椅子に腰掛けている。テーブルの上にはアイス珈琲の入ったコップが二つ。そのうち、片方は砂糖とミルクがこれでもかと入れられた、激甘珈琲だ。


 場所は、あいもかわらず『Trashy Rebellios』店内。時間的に営業時間ではないので、店内には一人とて客はいない。


「教えておくこと、ですか」


「うん。倉田も鳴海も、アンノウンについて全く知らないだろう? だから俺達が知りうる限りで、アンノウンについて教えておこうかなと。あと連絡事項もいくつかあるし」


「アンノウンについてなら、鳴海も一緒の方がいいんじゃないですか?」


 鳴海のアンノウン歴はまだ数日ぽっち。対して、ヒロは一ヶ月以上前からアンノウンに仲間入りしている。どちらかといえば、鳴海の方が知識は少ないのだが。


「鳴海は、今日は学友と遊びに行く予定があるらしいよ」


「…………遊びより、こっち(・・・)の方が重要な気がするんですが」


 鳴海はもう、人ではない。こちら側に踏み入れてしまった。なら、こちら側についてもっと知るべきであって、だからこそ、こういった機会はありがたいものなのに。


 ヒロは項垂れながら、幼馴染がすいません、と軽く謝罪する。


「あ~いいのいいの。あくまで、うちのコミュニティの方針は『普通の人間らしく生活する』なんだから。舞い込んできた火種を潰すことはあっても、基本的にはアンノウンの世界から離れておくのが、基本スタイルなんだよ」


 初めて聞いたコミュニティの方針に、ほーん、と脳内で反芻する。


「下手にアンノウンに関わらないためには、アンノウンについてよく知らなければならない。世の中、いつどこにアンノウンの琴線に触れるか分からない。その琴線を触れないよう(・・・・・・)にするために、俺らは最低限の知識が必要なんだ」

 

 そんなことを、信永も言っていた気がする。アンノウンの生活を、踏み荒らしかねないとか、なんとか。


「だからこうやって、少しでもアンノウン間の軋轢を減らすために、可能な限り、円滑にアンノウン生活を送る術を教えてるんだ。このコミュニティの創設者の意向でね」


「創設者……? 神谷さんじゃないんですか? 団長だし」


 てっきり、ヒロは神谷がこの『Trashy Rebellios』という、アンノウンコミュニティ兼バーを創ったかと思っていた。なので、少々予想外の情報に、つい疑ってしまう。


「俺じゃなくて、前代の団長が創ったんだ。俺二代目ね。このバーを建てたのはたしかに俺だけど、メンバー集めたりなんだりしたのは前団長だ」


「バー一軒建ててる時点で、神谷さんが何者なのか気になるところなんですが」


 地下は勝手に開拓したと聞いたので、神谷さんが金を払って建てた部分は一階と二階部分。つまりは一軒家相当の規模。


 『Trashy Rebellios』の建っているここは、ひときわ人通りの少ない場所ではあるが、しかし一応は都会エリア。土地代は馬鹿にならないはずだ。


 神谷さんは実年齢二十八歳と言っていたので、まだ社会人としては若い方のはず。都会で一軒建てられるだけの資金を、どこから捻出したのだろうか。


「俺なんて大したことないよ、前団長と比べたら。なにせあの人、実質最強(・・)だったし」


「最……強…………?」


「そう、文字通り″最強″。市内、県内、地方内で常に最強だった。彼のチートっぷりと比べられたら、もう誰の戦闘能力だって霞んで見えるんだ」


 はは、と懐かしむような様子で、神谷は笑う。


 ヒロは、つい浮かんだ疑問をそのまま口にする。


「その前団長さんは、今何処に?」


 言って、ヒロは自分を馬鹿だと罵った。


 神谷が現団長ということは、前団長は団長を引退したということだ。そこにどんな事情があったかはわからない。裏切った、飽きた、譲った、預けた…………もしくは、死んだ。


 どんな事情があるかわからないが、デリケートな問題である可能性は高い問いだった。


 神谷の表情を見て、それを気付かされた。


 よほど根深い悔恨を堪え続けて、しかしその悔恨の末端に無遠慮に触れられた人が、人のみが見せられる、そんな顔。


「すいません、僕無遠慮に……」


 神谷は、珈琲を静かに啜ると、少々間を開けて、


「ーーあの人は強くて優しくて馬鹿だったから。だから、庇ったんだよ。…………弱い人を」


「…………庇っ、た……」


「さ、雑談はここまで。早くしないと営業時間に差し掛かってしまうからね。生憎と、かなりの長話になってしまうから、覚悟しておくように!」


 先程までと一転、人の良い笑顔を見せる神谷。


 きっとその笑顔はどこか翳りを色濃く残していて、だからこそ、それが無理して作り上げた笑顔(仮面)だとヒロには分かった。


「まず、アンノウンの起源についての説明、始めようか」


「あ、はい。お願いします」


「煌上からいろいろ聞いているとは思うけど、一応おさらいも兼ねて、始めから説明しよう。世の中の調和を見出しうる存在ーーアンノウンについて」


「はい」


「アンノウンとは、ゲームでいうバグだ。身体能力で言えば、ボクサーのパンチどころか、銃弾すら致命傷に至らない頑強さ。車と難なく並走できる敏捷性、二階建てくらいの建物ならひとっ飛びで屋根まで跳ぶことができる。それはもう、倉田も分かっているはずだ」


「アンノウンなりたての頃は、全く慣れなかったですけどね……」


「それはそうだ。人間業じゃないからね、こんなのは。アンノウンは、人の域を超えている。身体能力の上昇具合は、平均して元の十倍ほど。これには個人差があって、人によっては五倍程度の者もいるし、俺の知りうる最大最強は四十倍も居た」


「…………え、四十!?」


 ヒロ達が十倍程度、四十倍ってことは、さらにそれの四倍ということ。つまり、アンノウンを遥かに上回っているということだ。


 つい、唖然としてしまう。


「まぁ、そんな域に達しているのはたった一人だけで、その人除いた場合、最強は十五倍くらいかな」


 一気に落差は減ったが、それでも平均の一・五倍。大き過ぎる差だ。


「この数字は、アンノウンについて研究している自衛団体が割り出したもので、何を基準に求めたのかは公表されていない。だからあくまで目安として、ということだけど。全アンノウンが集計されてるわけじゃないだろうし」


「研究団体…………そんなのも居るんですね。え、僕実験台にされたりなんかは……」


「あぁ、アイツらは盗撮盗聴なんかで情報収集したり、能力使って計測してるだけだから、その心配はないよ」


 ホッと、安心する。もし突然拉致られて、色々と実験されてしまったら悲惨でしかない。


 いや、盗撮されてる時点で安心できないんですが!


 ヒロの視線での訴えは、どうやら伝わらなかったようで、神谷は淡々と続ける。


「俺が今から話すことの大半は、そういう奴らが長年かけて練り上げ、提供してきた推論なんだ」


「…………はぁ」


「もう一度言うけど、かなりの長話になる。だから、ちゃんと今のうちにトイレ行っとけよ?」


(僕もう高校生なんですが!?)


読んでいただきありがとうございました!


今現在、タロット要素を取り入れた異世界ものを並走して書いてみようかなーと考えてます。やる気次第ですが。


次回は水曜日投稿します。よろしくお願いします!


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