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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
24/43

♯21 這怒の夢 Ⅲ


「ここは、学校…………?」


 ヒロは今、見慣れた廊下のど真ん中に突っ立ている。


 行き交う人達は楽しそうに談笑を交え、あるいは急いた様子で早歩き。至って普遍な、ありふれた風景だ。


 スマホを取り出して時計を見れば、今は昼休みの時刻。なるほど、食堂や購買なんかに出向く人が多いのだろう。かなり人通りが多いのも、理解できる。


 突然、ドンッと押された。


 道行く人を押し退け、走っていく人影。そうとう慌ただしい様子だ。


「…………あれは、僕?」


 走って行った生徒は、明らかに僕だった。


「どういうこと、なんだ…………?」


 この学校に、ヒロ似の生徒は一人としていない。なにせ、生まれつき伽羅色の髪色で、だからこそ髪染め禁止の降谷高校でも、見た目の点で言えば目立っているのだから。


「おい、ヒロ。急にどうしたよ、走り出して」


「…………友也?」


 ポンポンと肩を叩かれ、振り返ると、猫目短髪少年の友也が居た。


「おうよ。お前のダチにして、降谷市を牛耳る宿命を背負った男、高村友也だぜ!」


「そんな大層な設定持ってる高校生、そんないねぇよ……」


「まぁまぁ。それより、いきなり昼飯も食べずに教室出るなんて、どしたの」


「え?」


(本当に、どういうことだ?)


 ヒロは首を傾げる。


「スマホ見てからスッゲェ慌ただしい感じだが。なに、エロサイトから請求来ちゃったか? ドンマイ!」


友也の言葉から推測するに、ヒロはどうやら昼食中にいきなり抜け出したらしい。スマホを見た後、突然。


 そんな行動をした覚えが、ヒロにはあった。


「なぁ、今日って何曜日だっけ?」


「え? 金曜日だが。日本全国民がフライを食うことが義務にされる予定の日、だが」


「金、曜日………。あ、まさか!?」


 頭に浮かび上がる、一つの仮説。


 ヒロは、無意識のうちに走り出していた。


「あ、ちょ、ヒロ!? カムバーック、カムバーック!!」



   ✕ ✕ ✕



「くそ、何処に行った……僕!」


 建物の屋根の上を走る。()は、人目につくのを恐れて一般人くらいの速度で走っているはずだが、ヒロはアンノウンの異常な身体能力をフル解放して探し回る。


 僕が走るルートは分かっている。


 なぜなら、今ヒロがいる場所は、過去のーーあの悲哀な金曜日だからだ。どういう原理でこうなったかは知らないが、あんな目には二度と会いたくない。どうにか、この世界の僕を救わなければならない。


 もしもヒロが金曜日に通ったルートと、僕が走るルートが変わらないのであれば、きっと見つけられる筈だ。


 必死に目を見開いて周りを見回す。


 見失っている間にも、僕もヒロも、倉庫にどんどん近づいて行っている。


『無駄な足掻きだと、気づけないのか』


 ヒロは、ただひたすらに走る。もう二度と、自分が苦しまないように。鳴海が苦しまないように。


「何処だ何処だ、何処だ…………。ッ! 居た!」


 人気のない栗山橋を必死に走り抜けている僕を見つけ、ヒロは全力で追いかける。


 思いっきり僕の頭上を飛び越えると、ヒロは僕の十メートルほど先に着地。


 走ってくる僕を止めようと、 


「止まれ僕! 一旦止まれーーっ!!」


 しかし、僕は止まることなく走ってくる。


「このまま倉庫に突っ込んだって、地獄を見るだけだ、止まれーーっ!!」 


 ヒロの言葉が届いていないのか、僕は目すら合わない。


 僕は必死の形相だった。


 強引にでも止めようと、ヒロは両腕で押さえ込もうとする。僕は、脇目も振らずに一直線にヒロの方へ向かってくる。


「止まってくれーー!!」


 ヒロの両手は、僕の身体を押し戻した筈だった。


 だが結果として。


 僕はヒロの身体を透過し、そのまま走り去っていく。


 行き場を失った両腕。


 駄目なんだって。


 ただ助けに行くだけじゃ、誰も助けられないんだって。僕に、一人で鳴海を救う力は無いんだって。


『そうだ、僕は弱いんだ。何かに抗うことなんて、到底できやしない。自分に何かが成せるなんて、僕は無力の癖に傲慢だ』


 地に膝を突き、そのまま項垂れ、四つん這いになる。地面にポツポツと垂れた雫の痕は、きっとヒロの涙だろう。


 このままじゃ、僕はまた地獄を見る。


 たとえこの世界が夢であったとして、幻想であったとして、それでも傷つけられるのは僕だ。倉田ヒロなのだ。あるいは、鳴海花音なんだ。鳴海なんだよ。


「誰か、誰か…………助けてくれよ」


『そうやって、何時だって頼るのは他人か』


「もう、あんな目には…………」


『あんな目に合いたくないのなら、僕が選ぶべき手段は一つだろう?』


「もう一度、止めに行かなきゃ」



   ✕ ✕ ✕



 目前にて繰り広げられる惨劇を見て、ヒロはむせび泣く。


 自身の体躯は、幼馴染の姿をした外道によって、宙高く打ち上げられ、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、鎖に打たれている。


 ポトリ。


 何かが目の前に落ちてきた。赤くて気持ちの悪い、そんな物体が。


 それ(・・)を、ヒロは拾い上げる。


「右、腕…………? ………………うわぁぁぁぁぁ!?」


 自分から遠ざけようと、ヒロは思いっきりぶん投げた。


 それは、右腕の肘から先だった。状況的に、きっとヒロのものだろう。


 次いで、ポトッポトッと降り注ぐ脚の一部。


 こみ上げる吐き気を抑え込んで、宙で踊り狂う僕の体躯に目をやれば、もうあっちこっちがグチャグチャだった。


 なんとか人としての形は残っているも、関節という機構は大方失っているように見える。誰がどう見たって、それはもう死に体の類だ。


 灰崎は、もう嗜虐遊戯(直上トス)に飽きたのか、鎖を消し去った。

 

 力なく墜落する、嗜虐人形(マリオネット)


 とうに意識という名の吊り紐などありもしない。あの時、あんなボロボロになっていたなんて、ヒロは知り得なかった。


 だからこそ、むせび泣く。


 とめどなく襲いかかる吐き気と絶望は、抑えることができない。ガタガタと震え、自分の身を強く抱き締める。


 そうでもしなければ、きっと平常を保てなかっただろうから。


 瓦礫の中に埋まった僕は、きっともう立ち上がれない。


 今、ゆっくりと、気絶している鳴海ににじり寄っていく外道に、抗える者なんてここには誰も居ない。


『僕が弱いせいで、僕も鳴海も死んじまう、なぁ?』


「…………まだだ、まだ。煌上達が助けに来てくれる、筈だから」


 そうでなくては、今ヒロが生きているわけがない。ヒロと鳴海は、煌上達によって救われ、だからこそ、生きて日常に戻れているのだから。


 きっとすぐ、あの皮肉屋な後輩達が助けに来てくれる。目の前で死にかけている僕を、ヒロを救ってくれるーー。


『煌上ちゃんに任せっきり、そんな弱い奴に、俺は席を譲らされてんのか? ふざけんなよ』


「…………弱くて何が悪いんだ。ただ力が弱いからといって、それだけで不幸になるわけじゃ、ない。もう、弱肉強食の世界じゃないんだよ、日本は。弱ければ弱いなりに、幸せに生きられる道に進めばいいんだ」


『その結果がコレとはな』


「……こんな世界に踏み込まなければよかったんだ。こんな、力で優劣を競う世界になんか…………」


『そんなもん、後の祭りだ。どれだけ今、僕がほざいた所で何も変わらんだろうが』


「…………じゃあ、どうすればよかったんだ」


『簡単な話さ。二つあるぜ? 鳴海を諦めれば、ここでこんな目に合わなかった。違うか?』


「鳴海を捨てる選択が、幸せなわけ『鳴海も所詮、他人だろうが。僕の命より、大切なものじゃあない』」


『人間、一番大事なのは自分だ。どれだけ綺麗事を取り繕っても、綺麗に生きようと心がけても、自分よりも価値あるものは、どこにもない。少なからず、僕にとってそうな筈だ』


「自分の身大事の為に、鳴海を捨てるなんて……!!」


『見捨てなかった現実(目の前)も、見捨てる仮定(自己優先)も、両方鳴海は死ぬんだぜ? 鳴海が死ぬのは変わらない、ならせめて、無傷な自分(・・・・・)を選ぶべきだろう』


「煌上達が、僕を助けに……『助けなんて来てねぇじゃねえか、今。見ろ、もうあと数秒で鳴海殺されるぞ』……!!」


 長い問答の中で、横たわる鳴海の目前に立っている灰崎。鎖を鳴らし、今にも鳴海を殺してしまいそうだ。


「煌上、頼む来て! ノブナガさん、後藤さん、神谷さん、霧島さん!! 来て。早く来て今すぐ来てすぐにでも来て…………鳴海が、鳴海がぁぁぁ!!」


『誰も来ない。誰も、そんな都合よく助けになんて来れねぇんだよ。そんな都合いい世界じゃねぇんだよココは。仮面つけたライダーも、カラフルなヒーロー戦隊も、素顔隠した美少女戦士だって、何処にも居やしねぇんだよ』


「じゃあ、じゃあじゃあ鳴海が! 鳴海が死んじゃうだろう!! このままじゃ!!」


 声を張り上げる。ヒロと鳴海を救ってくれた、誰かへ声が届けたくて。


 しかしこの世は無情だ。


 鎖が風を切り、鳴海の首へと迫っていく。


 誰も何も、鳴海を守るものはない。


「鳴海ィィィィィ!!」


『焦るな。方法は二つと言ったろう』


 灰崎の右腕を穿つ、紅い何か。


それはどうやら、鋭利な刃物の類のようで。どこからか投擲されたらしい紅いナイフの一撃は、鎖の一振りを中断させるには十分な威力だったらしい。


『あと一つ、二人とも命を救われて、俺もハッピーな最高で最低な手段があるぜ?』


「何だよ、それは…………。頼む、鳴海を救えるのなら……」


 ムクリ。


 瓦礫の山から立ち上がる、一つの人影。頭部のシルエットに二点、赤く輝く光点が。


『交渉は成功だ。今回は初体験サービスだ、無償で目の前のゴミ屑を殺ってやる』


 殊更、先刻のマリオネットの比喩は正しかったようで。


 ムクリと立ち上がった人影は、力無く両腕を垂らしたまま、フラフラとよろつきながら、灰崎の方へと歩いていく。


『この手段を選んだのはお前だ、僕。だから……』


 人影は、体の欠損部を紅い鉱石で継ぎ足すと、即座に灰崎へと飛びかかった。


『目を逸らすなよ』


読んでいただきありがとうございました!


これからは毎週水・日曜日投稿にしようと思います!(執筆が追いつかない……泣)


かなり重い話が続いていますが、多分次も重くなると思います。楽しみにしててください(ゲス顔)


これからも宜しくお願いします!

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