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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
22/43

#19 歓迎会 Ⅳ

よろしくお願いします

 ヒロの首元目掛けて放たれた、霧島の居合斬り。


 十メートルあった距離が、一秒と経たずに詰められた。


「ぬぉっ……!?」


 反射的に右腕を上げ、刀を防ぐ。完璧ではないとはいえ、ある程度は蒼鉄で覆っていたため、ヒロの右腕が斬られることも無かった。


 だが。


「わ、割れ……!」


 斬撃の重さのせいだろう。蒼鉄の篭手に亀裂が入り、破片が飛び散る。さらに右腕のガードはふっ飛ばされ、ヒロの体勢が崩れてしまう。


(なんなんだ今のはーー!? 本当に、コレが刀一振りの威力なのか?)


 霧島は流れる動きで斬撃を繰り出し、ヒロは咄嗟に左手で防ぐも、やはり先と同じように蒼鉄に亀裂が走る。


 そんなこと意にも介せず、放たれる第三撃ーー。


 蒼鉄をどんどん生成し、篭手を修復しつつ、霧島の斬撃をどうにか耐え続ける。


「守りだけは、得意のようで?」


「攻める余裕ないですもん!」


 ヒロのリソースはほぼ全て守りに向いており、とても攻撃に転じれる余裕はないのだ。少しでも守りを緩めれば、一瞬で斬撃がねじ込まれてしまうだろう。


 問題は、予備動作の小ささ。一撃一撃がかなり大振りなのに、その間隔が殆ど無いせいで、とんでもない密度の連撃となっているのだ。さらに、刃の軌道が、あまりに速すぎて捉えられない。


 放たれた突き。


 右腕を穿たんと、刃で突かれ、その衝撃で大きく、後方へ吹き飛ばされる。蒼鉄の篭手の、一点だけが大きく削られ、あと僅かでも削られていたら、ヒロの右腕に刃が到達していたであろう。


「くそっ……全く避けられない!」


 ふき飛ばされたのに乗じ、ヒロは自らバックステップで距離を置く。


 ーーしかし、霧島は一瞬で距離を詰める。


 いきなり目前にまで接近され、ヒロは思わずたじろぐ。対して、霧島は、あくまで毅然とした様子で、刃を振るわんと構えている。


 ヒロは両腕でガッチリガードを固め、次の連撃に備える。一応、頭部や胴体、脚にも、最低限の蒼鉄を覆った。


「防御が、甘い!」


 両腕の隙間に切っ先をねじ込まれ、ヒロの右腕は弾き飛ばされる。


 ガラ空きとなった右半分の胴目掛けて、放たれた一閃。


 胸元の蒼鉄が大きく刳れる。あと一歩、前に居たなら、肉に達していた。先程までの斬撃よりも遥かに重く鋭い一撃。


「なる、ほど……さっきまでは準備運動だった、と」


「……まだ準備運動中ですが。生憎と」


 繰り出される連撃。脊髄反射と言わんばかりの反応速度で、ヒロは防ぎ続ける。


(なんか今日、凄く蒼鉄の制御が楽だ。おかげで、なんとか食らいつけているわけなんだけども、そろそろキツくなってきた……)


 いくら手慣れた、自身へのコーティングとはいえ、蒼鉄の生成には集中力を要する。少しでも脆い構造にしてしまえば、篭手はあっさり砕け散るだろう。


 ヒロは、限界まで思考を加速させ、刃の嵐を必死に防ぎ続けていた。


「ここまで粘るとは、かなり頑丈のようだな」


「……そう、思う、……なら、そろそろ、終わり、に、しま…ッウォ!? ……しませんか?」


「まだ度肝を抜かされていないんだが。君をただサンドバッグにしてるだけなんだが。これでは、合格とは言えないな」


 もう息も絶え絶えなヒロとは違い、霧島の呼吸は全く乱れていない。


 なおも続く刀の連打に、蒼鉄の破片が舞う。


(腕が痺れてきた…………!!)


 蒼鉄で防いではいても、衝撃は腕に伝わる。徐々に、それが溜まってきたようだ。一撃防ぐ度に、ヒロは苦悶の表情を浮かべる。


 しかしまだ、一度もヒロは攻撃に転じることができてはいない。字の如く、防戦一方である。


(あと少し、まだ、まだ耐えろ…………)



   ✕ ✕ ✕



「……一方的、だな。やはり」


「そっすね。まぁ分かってたことっすけど」


 観戦しながら、信永と後藤はポソリと呟く。それを聞いた鳴海は、ついムッとなる。


「倉田くん、まだ負けてないですから!」


「ああ、すまない。貶すつもりではないんだ。むしろこういう展開になって当然なんだ」


 鳴海を信永は宥めながら、


「霧島は、言わば刀の達人だ。近接での、能力無しの戦闘なら、まず負けない。倉田はまだアンノウンとなって一ヶ月。その一ヶ月も、決して修練に明け暮れていたわけではない。故に近接で勝ち目がないのは当たり前なんだ」


 事実、ヒロは霧島の斬撃をギリギリ防いでいるだけで、一切の余裕もない。


「じゃあ、なんでこんな模擬戦を……」


「それはっすね、痛めつけるためっすよ」


「なっ!?」


 鳴海は、思わず立ち上がった。眉間に皺を寄せ、後藤を、Trashy Rebelliosのメンバーを睨みつける。


「もちろん、鳴海っちも団長にボコられてもらうっすよ?その後どんな扱いを受けるかは、あとのお楽しみ……」


 ジャラン。


 鳴海の右手首にはいつの間にか鉄輪が嵌められ、そこから銀色の鎖が伸びている。


「ここで、やるっすか?鳴海っち。生憎、俺強いっすよ」


「……私達を騙したってことですよね?」


 後藤も、鳴海に合わせて立ち上がる。


 両者睨み合い、不穏な空気が流れる。


「……いい加減にしろ、後藤」


「ふぁい」


 信永が、後藤を制する。


「すまない、鳴海。コイツの言ったことは、九割方冗談だ」


「そっすよ~後藤ジョークっす」


「…………え、冗談?」


 鳴海は、ポカンとする。


「……たしかに、負け試合は設定した。だが、それは新人を追い込むためなんだ」


「それじゃあ、痛めつけるのと大差ないじゃないですか」


「そうじゃないんだよ。俺らが新人を追い込むのにはちゃんと理由があるんだ」


 再び剣呑な空気を漂わせ始めた鳴海に、団長が話しかける。


「理由は三つ。一つ目、実力の確認。二つ目、追い詰めることで能力を包み隠さず発動させる。三つ目、これは……煌上のちょっとした検証」


「一つ目二つ目はまだわかりますけど、三つ目は…………?」


 鳴海は煌上に問う。煌上は暫し考え込んだ後、


「…………詳しくは後で話しますが、先輩の危険度(・・・)を把握したいんですよ」


「倉田くんの、危険度………?」


「はい」


「俺は、ヒロっちがそんな危険な存在には見えないんだけど、ねぇ?どうしてもって煌上が言うからさ」


 後藤はそう言って笑うと、


「ま、まだ戦闘は終わってないし、見守ってやりましょ」


 促されるまま、鳴海は座る。彼女の視線の先には、今戦っている幼馴染の姿。


 どうか、無事でありますように。


 何度だって、鳴海は幼馴染の身を案じるのだ。



   ✕ ✕ ✕



 両腕が軋む。


 次第に、胴体にまでダメージは溜まっていく。


 しかし、霧島の斬撃はまだ全力では無いらしく、今もなお、徐々に威力が上がっている。


 もう、何度目かも分からない蒼鉄の生成で、ヒロの集中力も途切れ始めている。


「動きがだいぶ鈍くなった。どうした、それが限界なのか」


「……まだ、やれます……っよ!!」


 ヒロは、なんとか斬撃の合間を縫って右パンチを繰り出す。


 ヒロとて馬鹿ではないので、徐々に霧島の斬撃のリズムは掴んでいくのだ。


 しかし、虚を突いたつもりの拳を、霧島は刀の柄で叩き、軽く逸らしてしまう。


 ガラ空きになった右半身目掛けて放たれる、強烈な斬り上げ。


 蒼鉄の鎧はついに、霧島の斬撃の前に砕け散る。ヒロの胴に、深さ一センチ程の縦傷が刻まれる。


 噴き出す血飛沫。


「うぐ、ぁぁぁぁ!? あ、………あああぁぁ!!」


 痛みに悶絶するヒロの腹に、遠慮なく放たれた蹴り。数メートルばかり転がされ、ヒロは血を吐き出す。


「倉田くん!」


 鳴海の悲痛の叫びが遠くの方で上がるも、ヒロの耳には届かない。


「……勝負あったな。新人にしては、まぁ長く保った方だ。その頑丈さは評価しよう」


 蹲るヒロへと、ゆっくりと歩を進めていく霧島。


「トドメはしっかりやる、これが私の流儀でな。悪いが寸止めで試合終了にさせてもらうぞ」


 ゆっくりと狭まる、二人の距離。


 ヒロはジッとタイミングを見計らう。


 狙うは、刀のリーチに自分が入ったとき。目に見えない速さの一振りが放たれる、コンマ数秒前こそが、ヒロの狙い目だ。


「これにて試合終了……「今だ!」」


 刀を掲げ、斬撃の準備を整えた霧島の、足元。


 地面についたヒロの手から、地面を這うように覆っていく蒼鉄は、そのまま霧島の足をも巻き込んで覆おうとする。つまりは足を地面に固定しようとする、ヒロの捕縛攻撃だ。


 しかし。


「…………私は、君と亥田・灰崎との戦いの動画を拝見している。もちろん、この技も想定済みだ」


「ッ!!」


 蒼鉄が足を絡め取る寸前、霧島は跳躍することで拘束を躱した。


「絡め手一つで勝負に勝つのは無謀。技とは、組み合わせることで初めて意味を成す」


 霧島の言葉に、ヒロはニヤリとほくそ笑む。


 そんなことは、もう鳴海の姿をした灰崎のお陰で学習済みだ。


 床が突如煌めく。


 正確には、床に散らばった蒼鉄の破片達が発光しているのだ。破片は大小様々で、大きい物では手の平サイズのものもあった。


 ヒロは、鳴海が割ったグラスの破片を見て、一つのアイデアが閃いていた。それは、わざと蒼鉄の破片を撒き散らす、というもの。


 恐らく、白兵戦において相当の手練であろう霧島は、容易く蒼鉄の装甲を砕くだろう。また、足拘束なんてチンケな技、対策方法などいくつもあるので通じるとは思えない。かといって、大掛かりな(トラップ)を堂々と用意するわけにもいかない。


 なら逆に、いっそ敵の攻撃力を利用させて貰おう。そう思いついたのである。


 実際、ヒロの想像通り、霧島の火力は凄まじいものだった。蒼鉄装甲の厚さ調整を僅かにでも誤れば、腕が斬り落とされていたかもしれない。


 だが、多大なリスクを背負って挑んだ罠設置は、こうして上手くことが運んだ。


 破片達が膨張、変形する。宙の霧島目掛けて伸びる、槍となって。


「ようやく、かかった……!」


「足拘束は、このための布石ということか……」


 空中では逃げ場が無いのだろう。四方八方から迫る蒼い槍達を刀一本で防ぐのにも無理がある。


 故に。


「見事、だ。倉田ヒロ」


 霧島は一言、そう呟いた。


読んでいただきありがとうございました。


一章大改稿、まだあまりできてませんが、極力早く終わらせたいと思います!誤字脱字誤用ありましたら、教えてくださると嬉しいです!


次回は日曜です!

これからもよろしくお願いします!

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