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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
二章 Patchy Parental Love : Overwriting
21/43

#18 歓迎会 Ⅲ

よろしくお願いします!


 『Trashy Rebellios』地下。


 ここには、もはや学校の体育館同然の巨大な一部屋がある。


「…………なんでこんなに広いんですか」


「そうする必要があったから、かなぁ?一代目店長にしか分からん」


 ヒロの問いに答えたのは神谷だ。


「こんだけ広いと、土地代とか相当なもんなんじゃ……」


「その点はご心配なく」


 心配ない…………つまりは、それだけの金持ちなのか? ヒロは、そう予測する。


「払ってないからし、払わないから」


「駄目じゃないですかソレ!」


(犯罪じゃねぇか!)


 そう、立派な犯罪である。つまり無断で地下室作ったということだろう。


「世の中には素晴らしい言葉がある……『バレなきゃ犯罪じゃない』ってね!」


 ゴミのような発言をしたのは後藤だ。


「……それ社会人としてどうなんですか……」


ヒロ、神谷、後藤の三人は、今例の巨大な地下室に居る。模擬戦開始時間まであと数分。少しでも、ヒロの緊張を紛らわそうとしてくれているのか、こうして、雑談を交えてくれているのだ。


「ま、たしかに勝手に地下を開拓したわけだが、別に下水道や地下鉄なんかの阻害にならないようには設計してあるし。あとはバレないように少々小細工も。でもここなら十分なスペースがあるし、ノブや茜が居る限り近所迷惑にもならないし」


 うん……でもまぁアウトだよね、やってること。今の言い方的に、ノブナガさんや煌上の能力は隠蔽工作向きってことなのかな。


 ヒロはふと、そんな予測を立てた。


「まぁそんなわけでヒロっちは存分に暴れてもらっていいぜ?もっとも、霧島の剣撃には手も足も出ないだろうけどね…………お、ご相手様のご登場だ」


 音も無く、ヒロの後ろ三メートルほどの距離に装束姿の霧島は立っていた。いくら喋りに夢中になっていたとはいえ、アンノウンの鋭敏な五感を持つヒロが気配を全く察知できなかった。やはり、相当な実力者なのだろう。


「やぁやぁ、やっぱり霧島は五分前行動だねぇ。ちょうど今五分前になったよ」


「そんじゃま、後藤。俺らは観戦席にでも行きましょうか。頑張れよ倉田」


 ササ~ッと後藤と神谷は体育館部屋から出ていく。この部屋には観戦席、体育館のギャラリーがある。戦闘の巻き添えにならないよう、頑丈そうな壁やガラスで体育館と隔離する設計となっている。


 部屋の中には、今はヒロと霧島、あとは霧島と一緒に部屋に入ってきたらしい鳴海の三人が居る。


 あと五分、何かしてないと緊張に呑まれそうで、かといって、霧島に話しかけれる勇気なんてものは無いので、自然と幼馴染の方へ出向くこととなる。


(べ、別にビビってなんかないろ!)


「おっす鳴海」


「あ、ヒーく……じゃなかった、倉田くん。どしたの……なんて分かりきったことか。お互い大変な境遇ですねぇ」


 長年一緒に居る幼馴染というのは、やはり安心するものだ。どうにも、日の浅い関係というのは立ち回りが難しい。


「鳴海は、その、能力ちゃんと使えるようになったのか?」


「あーまぁ、能力自体は鎖出すだけだし。問題は、うまく振り回せるかどうかってことなんだけど」


 なるほど。これまで争い一つない平穏な人生だった故、暴力的な行為には慣れてないのだろう。つい最近まで一般人だった鳴海が、団長と言われるまでに成し上がったアンノウンとやり合うなんて、なかなかに無謀なことだ。


「倉田くんはどうなの。あの紅葉さん、って人すっごぉく強そうだけど」


「そうなんだよなぁ。絶対あの人強えよな。刀持ってるのが様になりすぎてるっていうか……」


「何か作戦とかあるの?」


「相手の能力が分からん以上、何も思いつかないね。あぁでも、『刀』限定の対策ならあるよ一応」


 作戦とは言ったものの、そんな大層なものがヒロの頭にある筈もなく。あるのはせいぜい、こうなったらいいな、といった程度の希望論だけ。


「へー。やっぱ考えるもんなんだねぇ、そういうの」


「絶対実力じゃ勝てない気がするからなぁ……無い知恵絞ってやらざるをえんのですよ、生憎と」


「そういうもん?」


「多分、そういうもん。…………あ、もう時間かぁ。んじゃ鳴海、ちょっくらやってきますかね」


 模擬戦開始まで、残り一分。


「じゃあ倉田くん、頑張ってね。死にませんようにって祈っとくから」


「おう。頑張りますわ~」


 鳴海が観戦席へと退散していく。体育館にはヒロと霧島の二人だけとなる。


「ーー堂々とイチャイチャしてましたね」


 毒づくような一言に、つい、ヒロは視線を逸らす。


「べ、別にイチャイチャなんかしてないろ! 通常運転だ!」


「それはどこの方言? まぁそれは置いとくとして、アレが通常運転だと思うと、お二方のプライベートには踏み込みたくないな。……ちょっと、いやだいぶ気持ち悪い」


「そういちいち鋭いこと、言わんでくださいよぅ……。今僕結構いっぱいいっぱいなんですから。突然の模擬戦とか!」


 そう、急なことだったのだ。少なからず、ヒロにとってはつい先程、勝手に話が決まってしまったのだから。


「私は君の能力を知っている。だが君は私の能力を知らない。その断片すら掴んではいない。違うか?」


「そうですけど」


「やはりそうか。つまりこれはフェアではない。私は極力、君に能力を使い過ぎないようにはするつもりだが、やはり知らないのは不利だろう」


(それはまぁ、たしかに)


 内心、ヒロは納得した。


 アンノウンにとって、相手の能力の情報は重要だ。能力を知ることで、優位に立つことができる。武術などには付け焼き刃の知識では対抗できない。だが、能力に関して言えば、相手の能力の弱みを上手く自分の能力で突くことができれば、大きく勝利に前進する。


何せ、互いに『特異(一撃必殺)』を持ち得ているのだから。


「今から私は君に、私の能力『纏風(ストームメイル)()殺戮者(デストロイヤー)』を見せよう。私対策のヒントにするといい」


 そう言って。


 霧島は座禅を組むと、大きく息を吸った。ゆっくりと、時間をかけて。


 どうやら深呼吸をしているらしい。座禅と併せて、集中力を高めているようだ。


 ヒュウゥゥ……


 静寂の中、微かに聴こえる風の音。


 ヒロの前髪が、風によって動かされた。


 ここは室内で、何より地下。風などある筈もない。


 風の軌道に沿って、ヒロが視線を動かすと、どうやら風の起点は、座禅を組む霧島のようだ。風は霧島の方へと流れ行き、霧島の周辺にて収束していく。


 次第に、目で見て取れる程の空気の渦が、体育館に生み出された。渦の中心は、相変わらず座禅を組む霧島。


「これが、私の能力の一端。周囲の風を私の身体に纏わす。纏った風は、こんな風にーー」


 ブォンッ


 体育館に轟く、突風の音。


 あれほど渦巻いていた風が瞬時に、霧島の全方位へ放たれる。全方位に風が分散したため、威力が下がるのは道理。しかし、その微風(・・)を受けたヒロの身体は、踏ん張りぞこねたとはいえ九メートルは飛ばされ、尻餅をついている。


「もっと風を集め、一点に集中して放てば、アンノウンの身体を穿くことも可能」


「う、穿…………!?」


(やべぇ能力じゃないですかぁーーー!!)


 身体を起こし、服の乱れを直す。


 字の如く、度肝を抜かされた。幸い、ふっ飛ばされただけでダメージはないが、あんなものを見せられては、接近しようという気も起こらない。


「安心して。今回の模擬戦は、あくまで君の実力を測りたいだけ。だから私は基本刀しか使わない。私に能力を使わせることができたら、合格点」


 よかった、と少しヒロは安心した。接近したら風で飛ばされる、なんてことがあったら、ヒロの口撃手段がなくなってしまう。なにせ、ヒロの能力も近距離でなくては戦えないのだから。


 霧島は百円玉を取り出すと、


「十メートル離れ、私が百円玉を投げる。この硬貨が地面に落ちた瞬間、戦闘開始だ。いいな?」


「あ~はい、本当に模擬戦するんですね……」


 ヒロは項垂れながらも、霧島との距離を十メートルくらいに調節して構える。


(百円玉が落ちた瞬間、突進してやる!)


 ボクサーのような構えで霧島を睨みつける。霧島は刀使いらしく、居合いの構えだ。


 霧島は、毅然とした表情で一言告げる。


「投げるぞ」



   ✕ ✕ ✕



「ユージはどっちが勝つと思う?」


 団長は、窓越しに霧島とヒロの姿を見ながら、後藤に問う。


「そ~っすね、能力の相性だけなら抜群にヒロっちでしょ。風使いにとってあの鉱石は相性最悪。風ではまず、あの鉱石壊せないっすからね~」


 いくらヒロが未熟とはいえ、あの鉱石の重量・硬度は十分な程高い。どんな突風でも、恐らく吹き飛ばすことはできないだろう。


「でも、それは風使い(・・・)としての霧島であって、刀使い(・・・)の霧島なら話は別っすよ。霧島の刀の技量なら、戦闘ド素人なヒロっちを防戦一方まで持ち込める。そうなりゃヒロっちは鉱石で身を固めるくらいしかできないから、模擬戦の結果はドロー。あわよくば霧島が打ち勝つっす」


「え!?倉田くん負けるんですか!?あの鉱石じゃ刀防げないんですか?」


 話を聞いていた鳴海が、隣の後藤に問う。後藤は「まぁ見てなさいな」と笑い、代わりに逆隣の煌上が質問に答える。


「ーー先輩の鉱石、霧島先輩の刀防ぐくらいの防御力はありますよ。ただ、うっかり防御が手薄になれば、やばいってことです」


 「見てからのお楽しみにしましょうよ茜っちー」と嘆く後藤を無視し、鳴海は祈るように、幼馴染を見つめる。ヒーくんが死にませんように、と。


「さ、始まりますよ、鳴海先輩。あのコインが落ちたら試合開始です」


 窓ガラスの向こうでは、霧島がと百円玉を取り出していた。


 つい窓ガラスの向こうを見入る鳴海。ボクサーっぽく、シュッシュッとシャドーボクシングしながら構えている幼馴染の無事を、ただひたすらに強く祈っている。


「投げるぞ」



   ✕ ✕ ✕



 キィン


 宙高くに飛んだ百円玉。照明の光を反射しつつ、緩やかに高度を上げていき、そして空中で上昇が止まる。


 百円玉の上昇しようとする力と、重力とが拮抗したためだ。


 重力が打ち勝ち、百円玉は徐々に降下していく。アレが、地面に落ちた瞬間、僕は戦わなくてはならない。


(速攻あるのみ、もう、なんとかなるさ精神でやるしかないか)


 両脇を締め、昔ボクシングの中継で見た、ボクサーの動きを体現しようと思う。相手が距離を詰める前に、蒼鉄で両腕を覆い、突進。これが、ヒロの思い描く速攻の形だ。


 もうコンマ数秒で百円玉が落ちる。


 ヒロは緊張を押し殺して、戦意を沸き立たせようとする。……相手に対して、あらぬ恨みを抱くことで


(アイツは僕のプリンを食べた、アイツは僕のプリンを食べた、アイツは僕のプリンを食べた……)


 勿論、霧島からしてみれば冤罪である。


 チャリン


 百円玉が落ちた。


「遅い」


「ッ!?」


 ヒロは唖然とした。


 いつの間にやら目の前に霧島が肉薄していた。


 同時に、放たれた右払いの一閃は、ヒロの首に吸い込まれるように、美しい弧を描いていく。


(な、なんーーっ!?)


 かくして、ヒロと霧島との、唐突な模擬戦は幕を開いたのである。


読んでいただきありがとうございました!

今日で地獄の宿題テストが終わったので、ちょっとずつ一章を改稿していこうと思います!


次回は金曜日か土曜日の昼くらい、ですかね。


よろしくお願いします!

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