♯1 運命は我々を導き、かつまた我々を翻弄する
とりあえず今回は戦闘無しです
視界の右端に突如現れたのは、黒塗りの大型車だった。
うっかり赤信号を渡ったのかと思ったけれど、そうでは無いらしい。目の前では青い光が灯っている。
瞬き。
目前に映ったのはアスファルトに舗装された地面だった。とても温かかった。それが日照りで熱された地面のせいか、それとも━━。
地面には、バケツをひっくり返したかのように赤い液体が飛び散っていた。最初、これは何だろうと数秒考えた。いや、数秒どころか一秒にすら満たない時間だったのかもしれない。
鉄の匂い。
そして気づいたのは、鈍すぎる身体の駆動。痛みはなかった。
だが、何か沈んでいくような不快感が体の根幹から拭えない。
道路の上に横たわる自転車。遠ざかる黒塗りの大型車。地面に焼き付いた、タイヤの跡。
次第に、何も聞こえなくなった。
鉄の匂いも、身に染みる温さも耳鳴りも、もう何も感じない。
視界すらも、終演の緞帳が徐々に降りてきていて。
あぁ、死ぬんだなと。
ただただそう悟った。
消えていく意識、身体から削がれ落ちていく感覚。最後の最後にその視覚が捉えたものは。
陽に照らされ爛々と輝きたなびく金色の長髪と、
「 」
今にも泣き出しそうに唇を震えさせる、見知らぬ少女の顔。
今の聴覚では少女の言葉を聞き取れなかったけれど。何故そんなにも苦悶の表情を浮かべているのかも分からなかったけれど。いつの間にそこに居たのか分からなかったけれど。
手を伸ばそうと、必死に藻掻く。微動すらしない役立たずの右腕を、それでも必死に。
美しかった。作り物なんじゃ無いのかと言うほどに、見事な美。鮮明に像を映さない朧気な視界からでも分かるほどの。
原始的な欲求なのかもしれない。惹かれるように、引かれるように。助けてほしい、それ以外の理由も多分に含みながら、懸命に。
僕の右腕が辛うじて、僅か数センチ程持ち上がる。そこから少しずつ震えながらも手が伸びていく。
ーーあと、あと二十センチ。
少女は静かに、手を差し出す。僕の力なき手が懸命に、その少女の白く細い手に伸びていき、指先が微かに触れたーー。
あ。
視界は無情にも閉ざされ、身体は電源が落とされたかのようにピクリとも動かない。最後の最後、海馬に刷り込まれた情景は、世界が黒に閉ざされる寸前に、それでもなお輝いている長い金色の髪だった。
走馬灯は流れず。
自責の念、この世への未練を感じる前に、僕は力無く闇に呑まれていく。
この瞬間、倉田ヒロと言う一人の少年はその短い生涯を唐突に終えてしまったのである。
✕ ✕ ✕
これは今朝あるいは昨夜に見た夢の一幕だ。そしてこの一ヶ月で既に五回、今回も含めれば六回、再生された夢でもある。
夢と言うのは基本的には無茶苦茶な内容ばっかりで、予知夢を除けば基本現実に一切則さないものばかりだ。突然人形に追いかけられる夢だったり、目の前にケーキで出来た巨城が現れたり……とか。
ヒロが見た夢で最も酷かったのは、雲から巨大な納豆がボトボトと、空を覆ってしまいそうな程大量に降り注いだ奴だ。あれ以来、納豆が怖くて怖くて仕方がない。
夢の中で自分が死ぬ、なんて非情な展開も珍しいことではない。なぜなら夢だから。その人が無意識の中で創造した世界なんだから、今回の夢も別段おかしな夢ではないのだ。ある一点を除けば。
その一点というのが非常に奇妙な話で、この夢の内容がまさしく、今年のゴールデンウィークのある日のヒロの体験談だということだ。つまりは現実であった話。
決して妄言ではない。
あの夢が、"事故"として現実に起こり得た証として、ヒロの家の倉庫には処分をまだしていない、あの日ボロボロになった自転車が格納されているのだから。
色んなことが分からずじまいだった。どうして、あれだけの損傷を受けて、ヒロが生きているのだろう。ただ、一つはっきりしていることはーー。
「…………痛い」
昨晩に刻み込まれた、左腕の傷跡を突いた途端、神経を迸る熱のような痛み。これがあるってことは、ここは決して夢の世界ではない、現実だと言うことだ。
「急にどうしたの?」
右隣から。
声の主を見れば、隣の席の女生徒、鳴海花音の心配げな顔がそこにはあった。
「ああ、いやなんでも。ちょっと怪我が痛んじゃって」
「怪我? え、その痛そうな傷……どうしたの?」
「あ、ちょっと転んじゃってさ。自転車漕いでる時に」
「自転車でこけたくらいでそんな酷い傷になるもんなの?」
鳴海の発言はその通りだ。なにせ、ヒロの左腕の傷跡というのは、五センチ程のやや深めな切り傷に、さらにその傷口が多少火傷でグロテスクになっているのだから。事実、この怪我は自転車によるものでは無い。
「それに、絆創膏してないし。うん、絆創膏でどうにかなるスケールの傷じゃ無いんだけどね。それでも応急手当の類の形跡が一切見られないのはどうかと思う」
「一般家庭の救急ボックスには、せいぜい擦り傷を紛らわせる程度の手当て道具しかないでしょ、普通。こんな大きめの怪我を覆い隠すほど大きな絆創膏は入ってないよ」
「そう言われたらそうだけど。でも消毒くらいした方が良かったんじゃ。あとガーゼか何か当てとくとか。ん?そもそも病院に行けばよかったんじゃ…………」
「行くのが面倒だったし、なにより怪我したとき結構遅くだったから病院やってなかったし。それにこの年で自転車乗ってコケたなんて人に言うのはプライドが許さなかった」
「私にさっき、自転車でコケたって言ったの誰だったっけ?」
「…………てへ☆」
「キモいよ、それは」
「はい…………」
轟沈。ヒロの精一杯の可愛い顔は轟沈した。
しかし、昨晩は怪我の具合がもっと酷かった。見てせいぜいギョッとする程度の負傷にまで回復したのは、単に異常な回復力からだ。
怪我の原因が「すれ違った男からが突然猪みたいな形した変な炎を飛ばされたんです」なんて、医者に言ったところで、相手にされないだろう。
「倉田くんにプライドなんてあったの?何処までも拘り無くて、無気力な君に」
「む。失礼な。何を根拠にプライドが無いと」
「だって倉田くん、競争心というか、向上心というか…………そういうの無いじゃん?下克上的なこと食らっても平然。理不尽な理由で雑用押し付けられてもそこまで嫌な顔しないし、授業のサッカーでシュート空振っても気にしないし。あ、そういえば福田くんから聞いたけどこの前授業で五回くらい空振ったんでしょ?緩いパスを」
「…………いやぁ?相手へのハンデだから!こう、なんというか僕の気遣いだから」
「はいはい」
「手厳しいですね、反応が」
しかしなるほど、そう見るとたしかにプライドの「プ」の字もないな。
だが、プライドが全く無い人間って捉えられるのは、ヒロとしても些か不本意である。
「いや?もしかしたら外に出さないだけで、僕も相当自尊心の塊かもしれないよ?」
ヒロの反論は、「うん、それはない」という毅然と言い放たれた一言のもとに没落した。
「あ、端から全否定なんですね!酷いと思います!」
「ていうか、自尊心があったにしろ無かったにしろ、倉田くんがそれを暴露してまで周りに主張することなんてないでしょ。斜め上な考え方で自分を納得させて諫めちゃうだろうから」
「あーなるほどね」
そんな状況が、ヒロは容易に想像できてしまった。
納得。超納得。よくヒロの事を分かってらっしゃる。なにせ、幼稚園来の付き合いだ。家族を除けばこれ程までに深い関係は無いだろう。なんなら日頃仕事に忙しく家に居ない両親より、もはや常に一緒にいる鳴海の方が過ごした時間は長い。
幼い頃から見知っていたので家族同然の関係で、実際夕飯を共にすることも珍しくはない。男女の幼馴染とは、思春期くらいになると変に意識しちゃって気まずくなるパターンが多いものだが、ヒロらの場合はそれはなかった。なにせ家族同然、姉弟のような関係なのだから。
だから、どんなに鳴海が可愛くなろうとも、優秀になろうともこの関係は揺らがないのだ、多分。
実際問題、鳴海花音と言う少女は可愛くなった。「ヒーくん」ってパタパタと、ヒロの元へ走ってきた頃も可愛かったが。可愛かったけど、今はだいぶ大人らしくなった。
赤みがかった茶髪を短めのツーサイドアップに縛り、幼く優しげな顔つきや人柄は周りを和ませる。ちょっと小柄で華奢で、でもそれなりに出る所は出て引っ込むところは引っ込んでる。性格もいい奴だし、成績もいい。これでモテないわけがない。
「あ、話脱線しちゃったね。それで、その怪我の話だけど」
「またその話に戻るんですね。大した怪我じゃないし別に気にしな「いやいや大した怪我でしょ」…………価値観の相違と言うやつだな」
「そんな見てて痛々しい傷を大したことない傷と言えてしまう倉田くんの価値観が狂ってるんだよ」
「ぐ、たしかに」
一般人とは価値観狂ってて仕方ないだろう。跳べばビルからビルへと飛び移れるくらいには異常なのだ。僕まじスーパーマン、なんてヒロは自身を嘲笑ってしまうレベルなのだ。
「もうあと十分で昼休み入るから保健室で診てもらったら?」
「今更過ぎるだろ…………もう閉じてるんですがね傷」
腕の傷は見た目グロテスクだけれど、もうかなり回復している。今更見てもらってもせいぜい菌が入らないよう傷を覆って貰える程度だろう。
「それもそうだけど。でも一応。悪化したら怖いしさ。一人が嫌なら付いて行ってあげていいよ?」
「お前はオカンかよ」
クスクスと口を抑えて笑う鳴海。
「ーーで、本当のところは?」
「…………貴重な昼休みを保健室の先生と過ごしたくないですはい。あと歩くの面倒くさい」
「理由が碌でもないなぁ相変わらず。まぁそれが倉田くんだよね」
その後、授業は恙無く遅々と進行し、定時どおりのチャイムの音で終わりを告げた。
昼休み。
この高校、県立降谷高校は敷地内の各所に食事スポットや憩いの場が設置されていて、多くの生徒は昼食をそこらで食べる。食堂で食べる人も多い。その為教室はかなりガランとしている。
わざわざ昼飯を食べる為に移動するのが面倒なヒロはもちろん、教室派だ。鳴海はクラスメイトに教室の外へと連れてかれていった。「あいつ結構アクティブだな~」と思いながら、弁当を持って教室派の友達の元へ歩いていく。
「飯食おうぜ、友也、野村、福田」
「十秒遅かったな。もうとっくに食べ始めているぞ!」
「もう弁当箱の蓋を開けて、唐揚げを一つ食べ終わってしまったぞ!」
「俺は唐揚げじゃなくて卵焼きを口に入れてしまったぞ!」
「「「勝ったぞガハハ!!」」」
妙にテンションの高いお出迎えを受ける。一句一句が大声だったため、ガランとした教室で無駄に響いた。多分壁越し廊下越しに隣の教室にも聞こえただろう。
目の前でやや目立つようなことをされたため、ヒロは少々、羞恥心に溜め息をつく。
「…………何が言いたいんだ三人共、と問いただしたいんだが。何で今日テンションこんなに高いの君達」
乱雑に並べられた三つの机に、ヒロは追加で自分の机をくっつけて、机四つ分の大テーブルを作り上げる。
「いやなに、俺ら三人の絆が遂に以心伝心を成し遂げてしまったというね。テンションが上がり過ぎちまったってわけさ」
と戯けるのはヒロの友達その一の高村友也。猫目に小柄、短髪の、悪戯好きヘラヘラ野郎な友達だ。
「へえ。以心伝心って感じの出来事あったの?」
「お答えしよう!実はだな…………」
ヒロの問いに興奮気味に応じたのは野村雅夫。大柄で横も縦も幅広く面積をとる、柔道部員。ちなみに、その隣で飯をひたすら掻き込んでいるのは福田秀平。野村とうってかわって細身なバスケ部員。
「俺達全員弁当に梅干しが入っていたんだ!」
「至極しょうもねぇんだけど、どう反応すればいいの?」
聞かなきゃよかった、とヒロは後悔した。
(この三馬鹿におもしろ珍回答を期待した僕が馬鹿だったよ!)
珍回答というか、気分が沈む沈解答だな!なんてしょうもないことを考えてしまったヒロも、きっとこの三馬鹿共と同類何だろうけれど!
「しょうもないとはなんだ、しょうもないとは!全員の弁当に同じ物が入っていたんだ!これはもう以心伝心としか言いようがないんだ!」
「そうだそうだ!これは奇跡だ!」
梅干しが弁当箱に入ってるのなんて大して珍しくもないだろう。それこそ、卵焼きや唐揚げレベルには弁当箱に出没しているだろう。
「…………そういえば、倉田って鳴海さんと仲良いよな」
福田が話題を切り替えようとしてくれたのか、しかしヒロ的にはなんか面倒くさそうな話題を出してくる。
たしかにな、と野村が頷き、幼馴染だもんな~、と友也。
「そこんとこ、どうなんだ?」と福田。
「そこんとこ、とは?」とヒロ。無論とぼけである。
「分かるだろ?」と再度、福田。
あ、不味い。めんどくさいパターンに入りました。
「「「鳴海の事、どう思ってんの?」」」
ニヤニヤ全開の三人に詰め寄られる。
(はい、やっぱりそうなりますよね)
高校生とは男女問わず、恋愛に興味津々の生き物なのだ。
「どうと言われてもな…………」
「はやく言ーえーよー」
「暴露しろよ~」
「暴露! 暴露! 暴露!」
ガラリと空いた教室の中、窓側後方の端は手拍子と掛け声で活気づいている。傍から見たらギョッとする光景だろう。何せ四人中三人が立ちあがり、一人の学生を囲うようにして踊り歩いているのだから。囲われている一人の生徒であるヒロとしては、相当にうっとおしいと言わざるを得ない。なんなら恥ずかしい。
これ以上続くと余計イライラしそうなので、致し方ない。
「はぁ…………分かった、言うよ」
「お?じゃあ鳴海さんのことは好き、嫌いどっちなんだ!?」
「好き、嫌い、どっち?えらべぇ」
踊りを止めて接近する男三人。むさ苦しい。ええい、近寄るな。ヒロは軽く睨みをきかせながら、
「好きか嫌い、どっちかって言われたら好きだが。トイレ行ってくる」
そう手短に述べて、さっさと教室から脱出する。廊下に出た途端、背後からオーッと大歓声が上がって、ギョッとする。言わなければよかったかな、と後悔しかけるけれど、実際鳴海を幼馴染として、友達として好きなのは本当のことだ。
ヒロは正直に本心を言ったまでであって、決して間違ったことはしていない。僕マジ正直者。正直の頭に神宿るという諺があるし、これは幸先いいですね! ヒロは中途半端なポジティブを発動させる。
廊下をのんびりと歩いていく。廊下の各所に置かれたベンチに点々と生徒が居るが、気にせずスルー。トイレに行き着く。
うちの高校はそれなりに新しい為、設備はそれなりに整っている。トイレもちゃんと小綺麗に掃除されていて、清潔感溢れるトイレとなっている。
さっさとトイレを済ませて、洗面所へ。手を洗うついでに鏡を見る。高校生らしく、身だしなみを整えることも兼ねて。
「いつ見ても、冴えないな…………」
鏡に映ったのは、もう見慣れ過ぎた少年の顔。生まれつきの色素の薄めな髪と肌、無気力そうなタレ目、特別目立ちも悪目立ちしないバランスの鼻梁と口元。
髪が伽羅色の時点で相当に目立ちそうなものなのだが、しかし僕という存在がが嗅ぐわせる雰囲気が「気怠そう」なせいもあって、あまり目立たない。それどころか、ちょっとしたオタク属性も持ち合わせているのでので陰キャラ側に寄っている。
もちろん、この髪色でさらに明るい性格なら派手なキャラとして通用しただろうが。
素のヒロは、そこら辺に居そうな男子高校生だ。実際、ゴールデンウィークのあの日以前の僕はまさにその通りだ。
しかし、あの日から一ヶ月程過ぎた今、ヒロは普通の高校生であって、普通の高校生ではない。
あの日からもう一ヶ月。
あの日からまだ一ヶ月。
あの日━━ヒロが死んだ日、運命は大きく変わってしまった。別に学校生活は一切変わっていない。今まで通り、ダラダラと過ごすことができている。しかし。
ヒロの身体はもう人間をやめている。その事に初めて気づいた時、絶望に打ちひしがれた。あんなにも漫画的展開に焦がれていたというのに、奇跡的にその展開と遭遇したというのに、ヒロが得たのは満足感ではなくて絶望感だった。
人は、自分が他者と違うという事に対し、どう感じるのか。違うものを持っていると優越感に浸るのか、それとも、誰にも理解されないんじゃないかと苦悩に陥るのか。少なくとも、ヒロは後者だった。
そもそも、何故僕が生きているのか。あの怪我で、あの出血量で。
ヒロが目を覚ましたのが病室なら、救急車に運ばれて助かったんだと理解できよう。しかし実際に目覚めたのは道路も道路、ちょうど車に轢かれた事故現場だった。
傷は全治していて、服も元通りになっていて。事故は夢だったのかと自身の記憶を疑った。でもタイヤの跡はしっかりと道路に焼き付いていて、近くのガードレールや電柱には車が掠めたような形跡もあった。
ヒロの身体は道路の端、車と衝突しない位置に動かされていた。誰かが僕を助けたのかという考えに行き着き、重体の僕を治せる人間━━医者がたまたま通りすがったのかとも考えた。
だが。今考えれば。
重体の人間を医者が見つけたところで、医療道具が無くてはどうしようもないのでは。第一、現代の医療で人間の損傷を瞬く間に全回復させることができるのか、否か。
少なくとも、ヒロの負傷具合は、素人目には医療云々で、どうこうなるレベルではなかった気がする。
それが、今ではこの通り元気も元気。気怠げな点を除けば、完全に元気だ。
意識が消える直前に現れたあの少女。
もしあの少女がどうにかしてヒロを救ったのだとしたら。万に一つもない話だろうが。だけど彼女が救ってくれたのかどうかはともかく、近くにいた彼女なら、どうやって蘇生したかは知っている筈だ。
あの日からの一ヶ月間のヒロの目下の目標は、とりあえず彼女と出会えたら、あの事故について話を聞くことだ。どうやって助かったのかが分からないまま、体感的に第二の人生を送るのは非常に気味が悪い事だから。
ーー何より、もしも僕にとってあの少女が救世主なら、感謝の句の一つ二つ言わなくては気がすまない。
ハンカチで手を拭き取り、髪を軽く直して、自分の教室に戻る。すると、ヒロが戻ってきたのを見るやいなや、ニヤニヤと薄気味悪い笑みをする友也達に迎え入れられた。その後は応対が面倒な程に、恋バナが続き、ゲッソリとした心持ちで午後の授業を受けなければいけないのかと思ってしまった矢先だった。
黒板の上に備え付けられた、丸い掛時計の横のスピーカーから聞こえてくるくぐもった声。この声は、教頭か。焦りを多分に含んだ声で告げられた連絡事項、その中身は。
『━━学校周辺にて事件が起こりました。生徒は直ちに自身の教室に入り、ホームルームの後に帰宅しなさい。本日は居残り学習、部活は禁止とします。また、教員は職員室に集まってください。繰り返します。学校周辺に………』
読んでいただきありがとうございました!
誤字脱字等の報告をくださるとありがたいです。
明日投稿する第二話は戦闘メイン回です、よろしくお願いします
自分の語彙力とエイム力を強化したい今日この頃