♯16 歓迎会 Ⅰ
二章からは文量少なめでいきます!
よろしくお願いします!
「乾杯」
カランと、グラスの打ち付け合う音が響く。
盛大な歓声も喝采も起こりはしないが、かといってお通夜ムードというわけでもない。
ただ、ヒロも鳴海も突然の展開に順応していないだけで。
「大した物用意できてないけど、是非寛いでくれ」
黒髪メガネのインテリ系男性ーー神谷が、ヒロに料理を勧めてくる。
ここは、『Trashy Rebellious』。都会サイドに位置する、ほとんど客足のないバーだ。客足がない理由は、あまりにも立地が悪いからである。
都会サイドの中でも一際人気のない区画の、その裏通りにあるのだから。むしろ、こんな所があったなんてヒロは初めて知った。つまりはそういう穴場なのである。
さて、これがなんの歓迎会であるか、ということだ。
この歓迎会の主役は恐らく、ヒロと鳴海である。昨日ーー日曜日にここに加入する流れになったヒロ達を祝う会らしく、今日放課後突然呼び出されたのだ。
部屋の中には僕達含めて七人居る。ヒロ、鳴海、神谷、信永、後藤、霧島、煌上の七人。
「本当は、あと数人メンバー居るんだけど、一人はこの店の一室に引きこもり中、一人は連絡不通、一人は自宅謹慎……ではないな、でもまぁ、とにかく事情があって無闇に外出させられないんだ。他にも何人か、似通った理由で来てない。中途半端な集まり具合での歓迎会になっちゃってごめんな」
申し訳なさそうにする神谷に、隣の鳴海は慌てて
「いえいえお気になさらず! あ、このお肉美味しいです。どんな味付けを?」
「あぁ、コレ? これは自家製の出汁を使ってるんだ」
「自家製ですか!? あ、少し甘口なんですね」
「そうそう、俺はスパイシーなのがあまり好きじゃなくてさ」
どうやら神谷は料理好きらしく、鳴海と料理話で盛り上がり始めた。
喋り相手も居なくなったわけで、完全に手持ち無沙汰。やることもないので、ヒロは料理に手を伸ばす。
歓迎会は、立食ブッフェ形式となっている。皆が立ち歩きながら、各々で料理を取って食べていくアレだ。神谷曰く、椅子とかセッティングしなくていいから楽らしい。もっとも、料理の品数がとんでもなく多い故、今のままでも十分すぎる手間はかかってそうだが。
「うむ、美味い」
焼きそば、味がしっかり付いていて美味い。思わずもう一口と、どんどんトングで装ってしまう。
「私にも装ってくださいよ、先輩」
振り返ると、後ろには金髪少女、煌上茜が空の皿を持って順番待ちしていた。
「え、あぁ、ほい」
「ありがとうございます」
皿の上を焼きそばが満たし、それを美味しそうに頬張る煌上。
「先輩って凄く可愛い幼馴染お持ちですよね。もしかして彼女だったり?」
煌上の視線につられて、鳴海を見る。いつの間にか神谷だけでなく後藤も巻き込んで、楽しそうに談笑している。
「まさか。生まれてこの方リア充の仲間入りしたことございません」
「そうなんですか。高校生ともなれば、浮いた話の一つ二つあるものだと聞いていたんですが」
「それ迷信な。モテない中学生が、自分を慰めるために高校生活に縋ってるだけだから」
「たしかに、私まだ彼氏できたことないですね。まぁ女子校だし、そもそもサボりがちなので年頃の男子との交流なかなか無いんですけどね」
「なるほど、女子校だとそういう弊害あんのか」
校内に男子が居るのと居ないのとでは、恋人作りの難易度も変わるだろう。手軽と言ってはなんだけど、身近に男子が居る方が恋の発展早いだろうし。
「私はあんまし弊害に思わないですけど。言い寄ってくる男子が居ないっていうのは凄く楽ですけどね。ほら、私こんなですし」
そう言って、煌上は右の掌を広げる。
「!」
瞬間、バチリと白いスパークが迸ったのが見えた。
「ーーうっかりで、もしも他人を傷つけたら。私の能力、オンオフが激しすぎるんで、うっかりじゃすまないんですよ」
「そうか。うん、そうだな。満身創痍の人間をあっさり完治させれる程の凄い能力だもんな。暴発、怖いもんな」
いくら癒やしの力と言えど、暴発すればどうなるのか。少なくともヒロには理解できない。だが、よくないことではある筈だから。
「先輩もですよ? 先輩の能力も、暴発したら洒落にならないですから」
「あ~まぁそうだな。ま、物体を覆うだけだからそこまで被害でないだろうけど」
「え。物体を覆う、だけ…………」
「うん。基本的には覆うだけだな。めっちゃ硬くなる」
やけに神妙な顔をしている煌上の反応に、首を傾げる。
ヒロの能力は、あくまで武器や鎧を作ったりするのが主だった用途であって。棘を出す攻撃を除けば、ヒロの能力自体には殺傷力は薄い。たとえ暴発しても、速攻で解除すればいいだけの話だし。
「…………そうですね、そうでした。先輩の能力は覆うだけの能力でしたね」
「そそ。あ、そういえば。あの野郎ってどうなったの?」
「あの野郎? …………あ、灰崎のことです?」
「うん。まずどうやって僕と鳴海が助かったのかすら分かってないんだよね。イマイチ。でも多分、灰崎を倒したのは煌上達だろ?」
「え?…………あ、あ~うん。そう、私達が戦闘不能にして、今は然るべき場所に送りましたよ」
「然るべき場所…………? まさか、警察!?」
「いやいやそれは無いですよ。鉄枷、鉄格子くらいじゃアンノウンを拘束できないですし。もしもの時、警官じゃアンノウンと太刀打ちできないでしょ。ちゃんと、アンノウン専用のそういう場所があるんですよ」
「はぁ…………いろいろあるもんなんだな」
思わず感心してしまう。そんな施設まであるなんて、と。
「当たり前です。アンノウンという存在を世間に漏れないようにするために、最低限の規則や施設は必要ですから。まぁ、そこら辺無視して好き勝手暴れてる迷惑なアンノウンも多いんですけど」
最低限の規則や施設、か。アンノウンにとって常識であろうそれを、ヒロはまだ知らないのだ。
「コミュニティに入るってことは、アンノウンの世界に居場所を作るってことです。そこら辺の事情はこれからちゃんと知ってもらいますので。とりあえずは…………仕方がないので私が教えてあげますけど」
(ちょっとめんどくさそうにされましてもねぇ……)
「お手柔らかに頼むよ、煌上」
「それは無理です」
「これからよろし…………………え、今なんて?」
「無理です」
「え」
まさか断られるとは思ってなかったので、唖然とせざるをえない。
「私、人に教えることにかけてはなかなかに荒々しいので、そのお願いは聞けません。聞きません」
「あ、そう…………」
「ま、どうしてもと言うならともかく、基本的に私は辛口ですよ。覚悟しててくださいね」
「…………それが冗談であると、僕は願うしかないね」
正直、今のヒロの顔は凄く苦々しいって感じだと思う。
なんだろう、敬語は使われているのに、話し口調も別に荒々しいわけでもないのに、なのに煌上と喋っていると先輩後輩関係あったっけ? と、つい考えてしまう。
まぁ、ヒロが真に敬意を持たれるような、大層なことをやってのけてはいないので、仕方のないことのような気はするが。
「ま、折角の歓迎会です。私だけじゃなく、いろんな人と交流してみてください」
煌上がヒロの体を百八十度回転させ、背中をポンと叩く。いや押し出すと言うべきか。ポンという擬音語には到底似つかわしくない威力に押し出され、僕は前方へよろけてしまう。
「うおっ!? ………………痛ぅ…………」
誰かとぶつかる。その拍子に鼻頭をぶつけたので、ついつい呻く。
ヒロを押し出した煌上を少々恨みがましく思いつつ、ぶつかった相手への謝辞文句を口に出そうと、相手の顔を見上げると。
謝辞文句が音として形作られる前に、音もなく霧散していった。
ヒロの目の前に立っているのは、黒髪ポニテ装束剣士ガールーー霧島。
ややツリ目気味なその双眸は、バッチリとヒロを捉えている。
真顔でヒロを捉う少女の顔があまりにも険しかったので、即座に頭の中にある危険レーダーは作用する。
ヒロの脳に刷り込まれた印象は、″触れたら殺られる、近づいたら殺られる″というどこまでも殺伐なイメージだった。そのため、自然とヒロの身体は凍りつく。
(ちょ、あ、……ど、どうにか謝らなくては!)
しかし口はガコガコと不器用に動くだけで、まともに発音することすらままならない。
それほどに、霧島の纏うオーラが、プレッシャーが剣呑なのだ。
霧島の桜色の唇が、ピクリと動いたそのコンマ一秒にも満たないであろう一コマが、ヒロの内情をよりドン底へと陥れる。
と、同時に。
ご都合主義過ぎるヒロの頭は、″もしかしたら霧島さんって案外優しい人で、「大丈夫?」なんて言って助け起こしてくれるかもしれないぞ!″という未来を想像し得た。
「ーーあとで、お手合わせ願えますか」
(…………へ?)
霧島は、そう一言述べると身を翻し、奥のテーブルへと向かっていった。
(……………………へ?)
お手合わせとはつまり、決闘か何かのことだろうか。
ヒロの脳は瞬時に把握した。
あかんコレ、殺される奴や…………と。
読んでいただきありがとうございます!
二章スタートしました!
二章は『Trashy Rebellios』加入した後の話ですね。新キャラめっちゃ出ます。細かな設定めっちゃ出ます。下手したら説明回が結構出るかもしれませんが、楽しんで読んでいただけたらと思います!
次回は明後日の十四時に投稿ですかね……(何気に初めて、毎日更新解除且つ真昼投稿ですね)
一応冬休みの宿題しつつ、書き溜め作っとこうかなと思います。
これからも『Overwrite~普遍世界の改編者~』をよろしくお願いします!!