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Overwrite~普遍世界の改編者~  作者: アルマ
一章 Seven Days : Overwriting
11/43

♯9 心配

前回不穏な形で終わりましたが、その続きです。

さて、こっからどんどん話が暗くなっていきますよ…………(多分)


 木曜日。


 それはヒロにとって最も嫌いな曜日だ。いや別に、木曜日の時間割が気にいらないとかそういうわけではなく。ただ単に木曜日を英語で覚えるのが苦手だっただけで。


 中学時代から英語に苦手意識のあったヒロは、最初単語の綴りや発音を語呂合わせや当て字、その他諸々を駆使してマスターしようとしていた。日曜日は太陽の日、月曜日は揉む日。火曜日はジュースって感じで水曜日はウエンツ○○をクチャクチャに読む。金曜日はフライの日。特に好きなのが土曜日で、『お(satu)ある(r)で~(day)』なんて風に覚えたものだ。しょうもない話である。。


 しかし木曜日だけは、ヒロの頭ではどんなに捻ろうと、揺すろうともいい感じのが思いつかず。中一のテストで木曜日を英語で書けという問題、全く覚えてなかったのでとりあえず『woodday』と書いといたのだ。勿論、返却されたテストには、赤くバツ印が付けられていた。


 何故こんなふざけたくだらん回想に浸っているのかというと。


 教室の中で、本来右隣りに居る筈の幼馴染が居ないからだ。


 昨晩ショッピングモール前で別れたきり、顔を合わすことはなかった。今日の朝、登校前に鳴海の家を訪れたが、昨日帰ってきてはいないらしい。友達の家に泊まりに行っているのかもしれないが、なんとなく得も言われない不安が募る。


 昨日置いて行ってしまったヒロが元凶なんだろうけれど、、無事だろうか。


 本当に、友達の家に泊まってるだとかなら安心できるのだけれど。近頃は何かとストーカーやら監禁なんかがニュースに取り上げられているため、そこら辺の危険を嫌でも考慮してしまう。


 そのせいか、授業も耳を通り抜けていくだけ。教科書を読み進める、目が滑る。たとえ名有る英雄の冒険記を世界史の先生が語ろうと、脳内には不安の靄がウゾウゾと蠢くだけ。今だって、もしも授業中じゃなかったら、先生の目が無かったら、きっとジッとしては居られなかったろう。いや、むしろ世間体など気にせず走り出したい。それが出来ないのは、世間体に囚われることしかできないヒロのヘタレさだ。


 そうやって、幾つもの苦悶と葛藤と焦燥とを孕ませたまま、間延びした一日を過ごす。いや、むしろ呆気なく過ぎ去ったか。今日の学校での出来事など、放課後になった今振り返ることができないのだから。それほどに曖昧な記憶なのだ。


 ならば、どこまでも圧縮することはできよう。それほどに中身の無い一日だったのだから。


 項垂れるように、おぼつく足を動かして自転車置き場へ。心配という感情が、ここまで心を蝕むものだと改めて学んだ。


 鍵を開く動作も無気力ならば、自転車を動かす動作もまた無気力。


 字の如く空なヒロは、そのまま帰路半ばまでの一切が飛ばされたされたように思われた。


 普段と違う道を走れば気も晴れるかと、思いっきり遠回りの道を乗り回したりもしたけれど、なお強く気が曇る。自分がこんなにも心配性だったことに、驚かされる。


 結局いつもと変わらぬ道を渡っては、いつものように廃工場の横を通って降谷橋を目指す。


 降谷橋が遠目に見えてきた辺りで、ヒロは路上に大量の何かがぶちまけれているのが見つけた。キャベツ、ミンチ肉のパック、食パン、卵、その他諸々ーーそして、それらを詰めていたであろう○オンのレジ袋。


 ひどく家庭的な品物ばかりで、そこから主婦が落としていったのだろうかと推測する。ありえない話ではない。自転車の前籠から何かの拍子に落とす、荷物を大量に抱えた人がその中の一つの袋を落っことす、など様々な状況は想像できる。


 ヒロはキャベツその他諸々を拾い上げる。この道は、所謂裏道のようなもので人通りが異様に少ない。狭いので車も通れないため、潰されているものは特に無さそうだ。邪魔なので撤去しようと、落ちていたレジ袋に食品をポイポイ放り込んでいく。


「…………ん?」


 最後に食パンを拾い上げたところで、右手の触感に違和感が。ツルツルとしたビニルの袋の表面の中、その一部に何かがこべり付いているような。視線を落とし、観察すれば、赤茶色い何かが凝固していた。それが、まるで血が固まった跡のように見える。


「…………血、なのか?」


 ポツリと漏れた言葉が、妙に現実味を感じさせて。ヒロの思考はそこに釘付けになる、自然と。周りを見ると、黒いアスファルトの各所に小さな赤い滲みができているのが見て取れた。かなり広範囲に点在して、それこそ鼻血や擦り傷などではとても流し得ない血の量だ。よほどひどい怪我か、もしくは事故か。


 つい、最悪の過去を想像してしまう。幼馴染が、この出血に関係しているのではという。


 頭を掻く。


 いかん、悪い癖だ。悪い方へ悪い方へ、つい思考が流れていくのは。そのくせ、暇なときは暇な時で、都合の良いことを妄想してしまう。真人間らしい、平凡な性質だろうけど、どうも、これを自然だと認めることができない。


 ヒロは警察に連絡をしようかと考えたが、さすがにこれだけでは何が起こったのか分からない。血が付いてたってだけで警察が動くわけがない。別に、何かの拍子に血が飛び散るのは珍しいことでもない。


 誰かの落とし物を詰め込んだレジ袋を道中のゴミ箱に捨てることで、あの血痕の謎とのおさらばとした。


 ブーッブーッ。


 ポケットにバイブレーションの振動音が。


 一定間隔に震うポケットに手を突っ込むと、メールを受信したらしいスマホが、その旨をバイブレーション機能で伝えたらしい。ロック画面をスルーして、メールを開く。そこに書かれた文を見て、ヒロはハッとした。


「これ、は………………?」



  ✕ ✕ ✕



 とある高層マンション、その屋上はプールとなっている。


 だだっ広い屋上の面積の半分をプールが占め、もう半分の敷地にはパラソルや椅子が並べられている。高級マンション故の、豪華なオプションと言うやつか。天井は、今でこそ何もない、開放的なものであるが、雨天時はガラス張りの天井が壁からせり出して、天候を気にせずプールを興じれるような設計となっている。そこら中から気温湿度調整用のファンやらが設置されてるのを見るに、季節外れだが冬でも楽しめそうだ。


 五十階分ほどの高さを持ち、横幅も奥行きも十分な尺を持ちうるこのマンション、きっと住人も多かろう。日中なら、常に一人二人はプールに居ても可笑しくなさそうな人数は、きっとこのマンションで生活している筈だ。


 しかし、このプールには一人とてマンションの住人は居ない。


 マンション四十階以上の階層は恐らくガランとしていることだろう。確認はしていないが分かる。


 むしろ、そうでなくてはならない。


「ノブナガさぁん、ここまで私を追いかけてくるたぁよほど本気のようですねぇ」


「そういう君は、俺の前に立っている。つまり、俺と殺り合うだけの着ぐるみを得たって事だろう?」


 信永に相対するのは、マントに身を包んだ小柄な人間。マント人間の声から、恐らく若い女性と聞き取れる。しかしマントに付いたフードを深く被っているせいか、顔を伺うことはできない。


「この()整えてるの、ノブナガさんでしょ? 凝ってますね、いやぁ、どんだけ殺りたいんですか、私を」


「君、この前と比べて偉く饒舌じゃないか。丁寧な言葉遣いがひどく似合わないが。叩きのめされる覚悟ができたのか」


 マント人間は両手を軽く上げる、とぼけるような仕草で応じる。


「ま、前置きはこれくらいでいいでしょう。語るような仲でも無いですし。私としてはさっさとこれ(・・)に馴染んでおきたいんですよ」


「馴染む間もなく、その一首くらいは奪ってみせようか」


 言うや一閃。


 地を這うような、低空を凪いだシャベルの一振りは、マント人間の脚部を狙う。風切り音は、およそ人間には出し得ない轟音。プールの中を木霊する。


 マント人間は跳ねるように、軽々と後ろに飛び退けると、パラソルを足場にもう一度跳躍。信永と大きく距離を取る。


「いきなりとはせっかちな。まぁ前置き云々言い出したの私なんですが!」


 信永は、マント人間を追うように駆ける。プールサイドの滑りやすさなどまるで気にならないというような、尋常じゃない加速力だ。


 シャベルが高速で乱舞する。周囲の物という物が、切り刻まれるか、その風圧に耐えきれず吹き飛ばされるかの二択。


 プールの水は激しく波立つ。


 マント人間は距離を置きながら躱しつつ、時折虚を突くように打撃を入れ込もうと接近する。アンノウンの敏捷力なら、この異常な速度のシャベルの嵐の中でさえ、縫うように掻い潜ることはできる。


 しかし、信永はその接近を許さない。シャベルと信永との間にマント人間が入った瞬間、即座に地面を目一杯踏み込む。床のタイルはその衝撃に剥がれ、裂け、飛ばされ、地面はひび割れる。


 この動作はあくまで軸足の踏み込みである。


 踏み込んでいない、もう片方の足がマント人間めがけて突き刺すような蹴りを放ち、それを躱そうとマント人間は信永から離れる。


 数メートルの距離なら、その脚力とシャベルのリーチで攻撃し、シャベルの当たらぬ懐程の至近距離なら体術で。その完璧な信永の攻めの算段に、マント人間は攻勢になかなか乗り出せない。


「マントが邪魔で本気を出せないのなら、脱ぐ時間くらいはやるが」


 重めの一振りを放つ。


「あらお優しい。紳士ですねぇ! でも結構ですよ」


 からかうように笑いながら、信永の一振りを躱す。地面に叩きつけられたシャベルは、地面を深く粉砕していく。破砕音は爆音、その音がプール内に響き渡る。


 瓦礫が舞い、一瞬信永とマント人間との間に視界の遮断が発生。もちろん、そこを突かない手はない。


 豪快に振り回されたシャベルは、マント人間の喉元に迫る。マント人間は咄嗟に身を反って躱すも、しかし躱しきれず右肩にシャベルが掠める。いくら浅くとも、異様な破壊力。シャベルは軌道上のマントを、肉を抉りとる。結果、マント人間の右肩からは赤い雫がポタポタと垂れる。


「肉弾戦ではやはりノブナガさんの方が上ですね。ま、知ってましたが」


「能力を使ったらどうだ? "借り物"とはいえ、君の能力だろう」


 信永は連撃を放たんと、シャベルを低く構える。力を込める足腰も低く構え、地面がミシミシと軋む。


「使ってもいいんですけど、そのシャベル対策にはならなさそうなんです。相性的なもので」


「そうか。ならこちらはお前に対しての能力使用は禁止してやろう。もっとも、使ったところで大きく戦況が変わるものでもないが」


 「いやいや、ご謙遜を」と笑うマント人間めがけて、突進を遂行。地面を力強く踏み込み、矢の如き速度で肉薄する。


 その推進力をそのまま攻撃に生かさんと、放たれた第一撃は突き。シャベルの先端の速度は音速をも遥かに超える。


 身を捩り、見事躱しのけるマント人間目掛けて、水平の払いによる第二撃。マント人間の体を掠めるシャベル。しかしまだ浅い。第三撃、第四撃…………凪ぎ、払い、縦斬り、払い、蹴り、突き、兜割り、斬り上げ、蹴り、凪ぎ、払い…………。


 休む間もなく放たれる連打はマント人間の身体を掠め、しかし未だ直撃に至らず。


 信永は歯噛みしつつ、さらに連打を加速していく。それはもう、アンノウンの敏捷力を以てしても回避し難い程にまで達していた。


「…………今回の君の着ぐるみは、運動能力がかなり高めのようだな。本気ではないとはいえ、ここまで躱し切ったことには絶句ものだ」


「これ以上があるなんて、さすがノブナガさん。ただのアンノウンでは無いんですね……」


 「ふん」と鼻を鳴らし、シャベルで払う。マント人間はマントを翻しながら後ろに大きく跳躍、パラソルの上へと飛び移る。


「んじゃま、能力開帳しましょうか」


「お手並み拝見といこうか…………。ッ!?」


 信永を襲う突風。即座に身を屈め躱す。頭上を通り過ぎる際に見えたのは、高速で振り回された一本の"鎖"。


「まぁ当たりませんよね、たとえ不意打ちでも。やっぱ勝てそうにないなぁ、あはは」


 マント人間の右裾から伸びている、長さ十メートル以上の銀の鎖。その鎖をカウボーイ風に頭上で振り回しながら、笑う。


「その鎖が君の能力か」


「この鎖、真の能力は相性的に意味ないんで、ノブナガさん相手じゃただの鞭なんですがね。けど頑張って善戦してのけますよ?」


 振り回されていた鎖が、突然信永の方へと放たれる。長物は、末端ほど速度が高いため、鎖先の楔の速度は目視し難い。シャベルで払い飛ばして鎖を弾くも、弛んだ鎖はマント人間の操作によって再度突撃をかます。


 信永は、シャベルの柄をぶつけて軌道を逸し、マント人間へと接近する。長物は往々にして、近距離では力を発揮し難い。シャベルも十分にリーチ長めなのだが、鎖と比べれば接近戦向け。鎖のリーチの異常な長さを逆手にとって攻めようとする。が、


「残念でした、ノブナガさぁん!」


「してやられたか」


 地面には、信永の足元を囲うように鎖が置いてあった。マント人間は鎖を振り回す際、鎖に"余り"を作っていたのだ。その余りを輪状で地面に置いておいた。後はーー。


 マント人間は思いっ切り鎖を引っ張る。その瞬間、余りの輪は急速に縮み、締め付けようとする。信永の右足を。


「くっ、厄介な」


 シャベルを地面にぶっ刺し、その衝撃で、あるいは支え棒にして、強引に飛び上がる。右足を捕らえられることは避けたものの、シャベルの棒部分をガッシリと鎖の輪が締め付ける。


 信永は舌打ちしつつ、シャベルを強く引っ張る。鎖の束縛から逃れようと。しかし、きつく縛られたシャベルは微動だに意図通りに動かず、むしろマント人間の方に引き寄せられていく。


「捕まえましたぁ。これで武器失いましたね!」

 

「…………なるほど、その能力はだいぶ使いこなし始めてるわけだな」


「えぇ、昨晩から練習しましたからね、必死に。それより、よそ見してていいんですかぁ!?」


「!?」


 背後から楔を付けた鎖が襲いかかる。信永はシャベルを一旦離して身を翻し、楔を躱す。そのまま回転力を利用して独楽のように数回回転しつつマント人間に接近。勢いを余すことなくパワーに変えて右ブロウをマント人間の腹へ放つ。左脇腹を仕留めた右拳は、たしかな感触を感じながら思いっ切り振り抜く。マントを、脂肪を、筋肉を、めり込み進んでいく。


「ブフゥッ!? なな、なななんづーぅ!?」


 ふっ飛ばされ、プールの中に強引に押し入れられたマント人間。プールの端から端まで、二十五メートルを瞬く間に移動する。


「シャベルを封じた所で、俺のパワーに対して防御がガラ空き不味いだろう」


 緩んだ鎖からシャベルを取り返すと、プールの方へと言葉を投げかける。かなりの感触だ、いくらアンノウンと言えど直ぐには動けまい。並のアンノウンならば。


「ゲホッゲホ。ゲーホッホッ、ホホッホーー…………やっぱ格闘じゃ勝ち目薄いかぁ」


 プールから軽々と飛び上がってプールサイドに降り立ったマント人間は、つまりは並のアンノウンでは無いということか。


 たった数秒で動くとは、当たりどころが良かったのか、よほど頑丈だったのか。


「子宮潰す気ですかぁ? 少子高齢化の御時世に、貴重な産み手にーー女の子になんて事するんです」


「演技言論がわざわざ白々しいぞ、君」


 迫る鎖をシャベルで弾き飛ばしながら、からかい声を上げるマント人間に小さく叱責する。


 何度弾こうとも即座に迫る楔を脊髄反射かのような反応速度で迎撃し続ける。


 マント人間は細かい攻撃の連打の中に数発、重く大振りな一撃を潜ませる。それら全てをシャベルで弾き、隙あれば接近する形でマント人間をジリジリと追い詰めていく。


「わわっ、こんだけ打ち込んで未だ直撃ゼロとか。ノブナガさんの反射神経その他諸々どうなってんすかねぇ?」


「その口振りは君には似合わんと言っているだろう。寒気がする」


「それはもうホント、すいませんねぇ。……………………うるせぇんだよなぁぁぁ。昔最強だったコミュニティ所属だからっていい気になんじゃねえぞノブナガァァ!! お前らの時代はもぅおわってんだよぉぉぉぉ!!」


 突如語調を荒げ、鎖を振り回す。その圧倒的な密度の鞭撃は、マント人間を中心に半径十メートル程の結界を作ったかのような。


 その範囲に入れば、いくらアンノウンでもただではすまないだろう。


「これで、近寄れないなぁ!! ノブナガァァァ? テメェの能力じゃあどうすることもできんよなぁ!? 近づいてみろ、ミンチにしてやるぜぇ」


「……ほう。ようやくらしくなったじゃないか」


 吹き荒ぶ銀の嵐を眺め、信永は呟く。なるほど、たしかに物凄い密度の攻撃、さすがに躱せない。接近するのは危険だろう。だがーー。


「向かって来るんですか阿呆なんですか馬鹿なんですかぁ!? それとも奇策でも!?」


 咆哮するマント人間を嘲るように、口元に笑みが溢れる。


「ああ。…………いや」


 シャベルを突きの形に構え、身体を縮こませ、足元を踏ん張る。ググッと力を込め、しかしまだ溜め続けーー。


「奇策という程でもないがな」


「ムグぇっ!?」


 引き絞られた矢は、圧倒的速度で前方へ飛び出し、敵を穿つ。


 信永の身体はまさしくそれだ。


 恐ろしく高密度の鞭撃の中、その合間に生まれた一瞬だけの隙間を猛突進で突破する。その突きは、今までの他の信永の攻撃とは桁違いに疾く、鋭く、重い。狙うはマント人間の腹。避ける間もないほどの豪速は、烈風を伴ってマント人間を襲う。


「躱すのは厳しくても、一点突破はできるってこと、です、かぁーーーっ!?」


 結果。


 シャベルの先端はマント人間の左横腹を深々と貫き、そのまま突進力を利用して、信永はマント人間を通り抜ける。マント人間は高い敏捷力をフル稼働させて、どうにか急所直撃を躱すも、大負傷にさすがに吐血。ゴホゴホと、赤い咽せを起こす。


「あぁ……ガハッ。なんなな、なんつー速さだよ全く、ゲホッゴホッ、ヴッ、これ、さっぎの、いまの、ぼんぎ、がぁ………?」


「今の一撃はそれなりに本気だな」


「やっぱ、ばげ……もんだわ、あんだ…………」


 よろけながらも、地に臥すことなく立ち続けるマント人間。あと一撃入れれば戦闘不能にまで確実に持ち込める。信永はシャベルに付いた血を振り払うと、再度構える。


「ごりゃ、がでねーや。ゲホッゴホゴホッ、ぢくじょう、かなじいが…………にげざぜでもらうぜ!!」


 放たれた鎖は、狙い違うことなく信永の眉間へと直進。信永がシャベルで弾く、その、間に。


 マント人間は大ジャンプで屋上から飛び降りる。高さ五十階分を恐れずに。


「あばよノブナガさぁぁん。とりあえず目下の標的はアイツ(・・・)だからよぉ、アンタを殺すのはいい着ぐるみゲットしてからにしてやるぜぇ!! 首洗って待ってな!!」


「待て、逃げる気か!?」


 マント人間は鎖を器用に引っ掛け、ビル群を飛び回る。追いかけようと、信永が屋上の柵に手をかけた途端。


「さぁ泳ごう泳ごう!」


「依子、あんたの水着露出多すぎ~」


「そ、そうかなぁ……あれ? あそこに誰か居るよ?」


「!?」


 信永が振り返ると、水着の女性達が三人程、プールサイドに現れた。マンションの住人だろうか、いやしかし。


「…………"人払い"を破って行ったのか。厄介な」


 思わず歯噛みする信永。信永の心情を知ってか知らずが、水着の一般人達は「プールサイドめっちゃ荒れてんだけど」「え? あの人誰? こっち見てるよ?変態!?」「荒らしたのアイツじゃね?顔凶悪そうだし」「え、怖い…………逃げよ逃げよ」とヒソヒソ喋っている。


 はぁ、と溜め息をつくと、信永は毒素を抜かれたようにシャベルを下ろし、屋上から飛び降りる。「きゃあ!!自殺!?」と悲鳴が聞こえたが、無視。


「まさか一首すら刈り取れんとはな……攻めが甘かったか。そういえば、()()()………………?」


 マント人間が言っていた"アイツ"について、思案する━━までもなく、即座に正解が頭に過ぎる。


 着地したら、メールを打っておこう。


 これは彼にとって、きっと平穏な生活を送る上で伝えておくべき()()()()()()のはずだからだ。


 そう思いつつ、着地準備に乗り出した。

読んでいただきありがとうございました!

ノブナガさんが頑張りました!もっと上手く戦闘描写書けたらいいんですけどね……

それはそうと、一話一話の量が多すぎる気がするのですが、もっと量減らしたほうがいいですかね?(一章はもう書き終えちゃってるので減らせませんがw)その辺感想とかに書き込んでくれると嬉しいです。

次回の話ですが、先に言っときます。少々エグいです。

では。


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