第5話 夏フェス行ったら鑑定ができた
クロエは、俺のあげたペットボトルの水を、≪鑑定≫してもいいかと聞いてきた。
鑑定という言葉で思い浮かんだのは、以前TVでやっていた、専門知識を持つ人たちが美術品や骨とう品の真贋の判定をし市場価格を教えてくれるという番組だが、どうやらそういう鑑定とは違うようだ。
「値段とかじゃなくてですね、そのアイテムの名称や性能などが分かるんです。レベルが高くなればもっといろんな情報が鑑定できます。私はまだレベル1なので大した情報は分からないんですけどね」
「う……うん?分かった。いいよ」
クロエは、半分飲み干した「霊峰富士の天然水」を両手に持つと、一言「鑑定」と呟いた。
「こ……これは!!!す、すごいー!!!」
クロエが大興奮していた。なんだろう?この、他人の驚く顔というのものはとても面白い。
「何がわかった?ただの水だろ?ミネラルが豊富なのか?」
「た、た、た、ただの水じゃあないですよこれは!!!万能ポーションじゃないですか!!!」
万能ポーションとは?何を言っているのだ?
その後クロエに詳しく説明をしてもらった。
そもそも≪鑑定≫とは、特殊なスキル(個人が持つ魔法のような特殊な能力)の事だそうだ。
≪鑑定≫をすると、そのアイテムの情報が文字となって浮かび上がって見えるらしい。その鑑定結果は、鑑定した本人にしか見えないのだそうだ。
そして俺がクロエにあげたペットボトルの水「霊峰富士の天然水」の鑑定結果は万能ポーションで、体力と魔力を完全に回復させることができるらしい。
そんなバカな。
ペットボトルの中身は、間違いなく水のはずだ。ふたを開けていないし、中身が入れ替わっているはずがない。
だが、さっきの虫よけスプレーの異常な効き目を思い出す。もしかすると、日本から持ってきたものはここでは異常な効果がある可能性があるのかもしれない。
「鑑定ってどうやってやるの?」
「鑑定したいものを見ながら意識を集中して、一言『鑑定』って呟くだけですよ。でもスキルを持ってないとできないんですけどね」
「へえー、そうか」
できないと言われつつ、クロエに持たせた水を見ながら、ちょっと俺もマネしてみた。
「≪鑑定≫」
名称:霊峰富士の天然水
性能:万能ポーション[特]
効果:HP,MPを完全回復させる
突然俺の目の前に、三行の文章が浮かび上がる。
「うわ!出た?!」
びっくりこいた。
「えっ?カイさんも鑑定スキル持ちなんですか?!」
「いや、俺も初めて知った。てか万能ポーション[#特__とく__#]って!」
やはりクロエの言う事に間違いはなかった。俺にもクロエの言った通りの鑑定結果が見えた。
というか俺って鑑定ができるんだ。そっちの方がビックリだよ。
「でしょ?そんなすごいポーション、喉の渇きも潤してくれるかもしれないですけど、もったいなくて飲めないですよー!」
そうは言っても、すでに半分ほど飲み干している。
「そうなのか?それじゃスポーツドリンクはどうなんだろう?」
俺はさっき仕舞ったスポーツドリンクをもう一度リュックから出すと、そちらも鑑定してみる。
「≪鑑定≫」
名称:スポーツドリンク
性能:エリクサー[強]
効果:HP,MPを完全に回復させる
状態異常を回復させる
「待ってこれ?!」
何なのこれ?200円で気軽に買える(※フェス会場だと通常より高い)スポーツドリンクがエリクサーって?!
最高の回復アイテムじゃん、これ!
俺もしかして、この世界に持ち込んじゃいけない物を持ち込んでしまったんじゃなかろうか?
「キャー?!」
クロエも同じくスポーツドリンクを鑑定し、その鑑定結果を見て悲鳴を上げた。
「カ……カイさんって、何者なんですか?!」
クロエの驚きからして、やはりこの世界でも珍しいくらいすごい回復アイテムなのだろう。
やはり日本の物はこの世界ではすごい効果があると考えて間違いなさそうだ。
だとすると、俺が持ってきた他のものってどうなってるんだろう?
虫よけスプレーも、この世界だと昆虫を殺す強い効果があるのかもしれない。
「さっきのアロエはどうなんだろう?」
俺はさっき一枚ちぎったアロエをリュックから取り出すと、それも鑑定してみた。
名称:アロエ
性能:万能薬[弱]
効果:あらゆる状態異常に効果あり。
食用すれば胃腸薬として、傷や火傷の治療としても使える。
ふーむ。[弱]となっているが、これは元の世界の効果と同じぐらいじゃなかろうか?
日本で育ったアロエを持ってくると違うのか、それとも同じなのか?
それとも自然の植物の効能は同じなのかもしれない。
なかなかこの世界のルールって分かんないなあ。
俺の持ってる他の荷物はどうなんだろう?
続けて他の荷物を確認しようとした俺に、クロエが注意をする。
「カイさん、MPは大丈夫ですか?あまり続けて鑑定するとMPが無くなってしまいますよ?」
そう言われてみれば少し気だるい気もする。
「MPというと魔力みたいなものかな?確かにちょっとだるい感じがする。荷物の確認はいつでもできるし、後でいいか」
「ステータスを確認するといいですよ」
「ステータス?そんなゲームみたいな……」
「こうやるんです。≪ステータス≫」
クロエがそう唱えると、クロエの前に15インチディスプレイくらいの大きさの画面が浮かび上がった!