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第3話 夏フェス行ったら猫が変身した

 日本語を流ちょうに話す猫クロエは、自分は猫じゃなくて人間だと言う。

 いや、どう見ても猫じゃん。

 納得できない顔の俺を見たクロエは、さらに弁明を続ける。


「何をバカなこと言ってるんですかー?それに猫がスコップを使えるはずがないじゃないですか!」


「だ、だよね?」


 あれ?何かおかしいな?会話が噛み合わない。


「それじゃ落としたスコップは誰の?あ、分かった!クロの飼い主のか?」


「何言ってるんですか!私は飼い猫じゃないですよ!」


 なぜか怒り出した。何を間違えたのだろう?

 とりあえず飼い猫じゃないのか。首輪付けてないしね。ノラ猫か?

 しかし、怒っているようだがその姿はどこをどう見ても猫だ。とても人間には見えない。

 分かったぞ!この猫は人間に飼われている時に、家族のように扱ってもらったせいで、自分の事を人間と勘違いしているんだ、きっと。


「もー!何で信じてくれないんですか?今は猫に変身してるだけですよ!」


「変身?クロは魔法使いなの?でもなんで変身したの?」


「私は魔法使いとかじゃないです。ただ猫に変身することができるだけです!蜂に襲われた時にビックリして、慌てて変身して逃げ出したんです」


「じゃあさ、本当に人間なら元に戻ってよ」


「えっ?それは……」


「どうしたの?戻れないの?」


「人前じゃちょっと……」


「なんで?」


「わ、分かりました。ですが、ちょっと目をつぶっててください!」


「目をつぶってて?いいけど」


 俺が手で目を隠すと、猫が呪文を唱え始める。

 もしかしたらこの猫が変身できるわけじゃなくて、どこかに隠れている女の子が出てくるだけかもしれない。

 そう思って、本当に人間に変身するのかどうかを確認するため、手の指の隙間から様子を覗き見る。

 すると、クロエの猫の身体が少しずつ大きくなってゆく。

 身体の体毛が消えてゆき、背中は肌色に変わっていく。

 みるみるうちにクロエは、人間の身体に変わっていった。

 本当に変身してる?!というか、裸?裸はまずいんじゃないか?!

 俺が指の隙間から覗く光景に焦っていると、そのうちクロエの身体が完全に人間の姿に変わる。そして目をつぶったまま立ち上がる彼女の体の周りに、少しずつ服が再現されてゆく。

 異次元に保管されていたのだろうか?一から作っているのだろうか?

 魔法の仕組みはよく分からないが、なんて便利なんだ?!

 そして彼女は遂に、完全に服を着た状態になった。


「目を開けてもいいですよ」


「あ、ああ」


 俺はびっくりした顔でクロエを見つめる。

 黒いショートカットに大きな瞳。

 俺はその見覚えのある容姿に、驚きを隠せなかった!

 そう。彼女は、俺が道に迷う前に会った、大きな岩に座って休憩していた女の子だ。


「君だったのか!」


「どう?信じてくれましたか?」


 なぜか自信満々の顔だ。


「疑って悪かった。本当に猫に変身してたんだな」


「やっと信じてくれたんですね」


「それにしても、服はどうなってたんだ?何もない空間からふわーっと出てきたよな?」


 俺がそこまで言うと、クロエは顔を赤らめる。


「もしかして……見てたんですか?」


「あっ……」


 その後、俺はクロエに顔を思い切りひっかかれた。


 ――クロエに散々怒られた後、俺からの提案で、クロエが落とした荷物を取りに行く事になった。

 もうそろそろ、蜂もどこかへ行ってしまっているだろう。

 クロエの荷物の中に入っているスコップでアロエを掘り起こして、村まで運ぶのを手伝ってやろうと思う。

 さっき降りて来たところの道を元に戻れば日本に戻れるかもしれないが、せっかく違う世界に来たのだから、すぐ戻るよりももうちょっとこの世界がどんな世界なのか見てみたい。


 そして俺たちは、クロエが蜂に襲われて荷物を落とした場所に向かって歩き始めた。


「いやー、突然裸の女の子に変身した時はビビったぜー」


 デリカシーのない俺は、その話題を引きずる。


「だから人前では変身できないんです!」


 顔を赤く染め、クロエはまだ怒っているようだ。


「だって見てなかったら、どこかに隠れてたクロと入れ替わったって疑うところだったじゃん?チラッとだけでも見たから、本当に変身できるんだって信じれるんだぜ?」


「もう知りません!」


 もうそれ以上その話題は話したくないという感じで、クロエは顔を逸らす。

 機嫌を損ねちゃったかな?


 そんな会話をしながら、クロエの案内で、俺たちは荷物を落としたという場所に向かう。


「ところでクロは何で薬草を探してるの?薬草屋さんなの?」


「あ、それはですね。先生が今度偉い人の治療をすることになったんですよ。それで先生のお役に立てればいいなあと思って、薬草を探しに来たのです」


「先生?」


「そうです。先生は村のお医者さんなんです」


「なるほど」


 クロエの話は要領を得ないな。アロエ運ぶの手伝って、その先生とやらに直接聞いてみるのがいいかもしれない。


「ところでカイさん、また蜂が出たらどうします?」


「何……だと?」


 確かにそれは怖い。

 クロエが蜂に襲われた場所の近くに、もしかしたら大きな蜂の巣があるかもしれない。だとしたら蜂が何匹も出て危険だ。


「そうだな……、もし危険だと分かったら荷物を諦める必要があるかもしれないな」


 そう言いながら俺は一旦立ち止まり、リュックの中を確認する。


「どうしたんですか?」


 クロエから質問に答える前に、リュックの中から目当ての物が見つかったので、俺はそれを取り出した。


「虫よけスプレー!」


「なんですかそれは?」


「ふふふ……。これをスプレーしておけば、虫が近寄って来なくなるという薬だ!」


 そう説明しながら、改めてスプレー缶に書いてある説明文を読む。


「えっと、効能、蚊、ブヨ、ノミ、イエダニの忌避。うん。蜂には効果がなさそうだね」


 一応取り出してみたものの、やっぱり蜂には役には立ちそうもなかった。

 物珍しそうにクロエが虫よけスプレーを覗き込んでいる。


「まあ、蚊やブヨに効くから、クロエにも吹きかけとくか。手を出して」


「はい?」


 不思議そうな顔で、両手を差し出すクロエ。俺はその華奢な掌に向けて、虫よけスプレーを噴射した。


「きゃっ!冷た」


 スプレーに驚いて両手を引っ込めるクロエ。その後自分の両手を見る。


「何もなってないみたいですけど……」


「虫が苦手な匂いが付いてるはずだよ。首すじにも吹いとこうか?」


「はい」


 目をつぶりあごをあげるクロエの首筋にもスプレーを吹きかける。二回目なので慣れたのか、今度は驚いたりはしない。


「よし。これで蚊とかに刺されずに済むよ。蜂には効果がないんだけどね」


 それから俺たちは移動を再開する。

 そしてクロエが「あの辺なんですけど」と言って指差した先にあったものを見て、俺は驚愕した。



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