剣士が育てたもの
「み、見事…」
そう言って倒れる武者。
俺はそいつの首を刎ね、髪を掴んで持ち帰る。
西国最強の剣士。
多くの剣客から恐れられ、挑んできた名だたる剣客は全員首を切られ殺されてきた。
戦があればそこに歩兵として参加し、多くの首級を上げる。
俺がいる陣営が必ず勝ち、戦場には首のない死体が多く転がるほどだった。
だが俺はあくまで戦いを楽しんでいるので見返りは求めず、あくまで無名で通っていた。
流れ者のただの兵士であり、それでも誰も近づかない。
俺には不要なものだ。
だが、そんな俺にも人の心があったと思う。
「剣を教えてください!」
志願したのはただの小僧。
俺の住処に上がり込んできて面と向かって言ってきた。
俺は最初相手にもせず、ただ水を飲んでいた。
「帰れ、ここに小僧の求めてるもんは無い」
1週間。
2週間。
1ヶ月。
毎日のようにどこからともなく現れては俺に剣を教わろうとしてきた。
しつこさとその折れない態度には流石の俺も折れた。
「良いだろう、だが俺の剣術は適当だ。お前が想像するものより拍子抜けたものだぞ、それでも着いてこれるか」
「はい!」
小僧の返事は力強かった。
それからは小僧に無理やり剣術を教えた。
聞くとこの小僧、どうやら親を殺されて孤児らしく今まで乞食のような生活を送っていた。
それを知ると俺はそいつを養子に迎え、息子として育てることとした。
15年。
歳月が流れると共に、細く弱々しかった小僧が屈強な青年に成長した。
俺はそいつに教えることはもう無いと告げた。
免許皆伝とやつだ。
だが青年は。
「貴方は自分が殺した人の顔を覚えておりますか?」
「……そうか」
今まで見たこともない眉間に皺を寄せた青年の顔を見て俺は悟った。
いや、知っていた。
薄々そうだと思っていた。
何も言わずに俺は真剣を持ち庭に出る。
青年も同じように剣を持って俺の後をついて来る。
庭に着くと俺は剣を抜くと鞘を投げ捨てる。
青年は鞘を腰に下げてから剣を抜いた。
「いざ…」
「お父様の仇…!」
勝負は一瞬だった。
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この世界はまだ争っていた。
人もいた。
日本の昔の風景に似た世界だったが魔法の切符は過去には戻れない。
あくまで異世界を渡る切符だ。
なので似ていてもここは異世界だ。
私はこの広大な世界で長い時の中あの人を探していたが、この世界にはいなかった。
次の世界に行こうと思い始めていた。
でも私はあるものを見つけた。
どこかのボロボロの家。
その家は見た目の割に広い。
門番もいないその家にふと入ってみた。
引かれたように。
庭先では和服のようなものを着た2人の男がいた。
だが1人は血を流して倒れ、もう1人はすぐそばで膝を落とし泣いていた。
決闘。
私は瞬時にそれが分かったが、どうもただの決闘ではない。
私は気になり、彼らに近づく。
「これは一体何事ですか?」
「……旅のお方か?見慣れぬ服装だな」
「はい、遠いところから来ました」
「そうか…粗末なものを見せてすまない」
そう謝る青年を見てから、私は死んでいるおとこをみた。
その人は年老いて髪も白くなり始めていた。
「この方は貴方の大切な人ですね」
私がそう言うと、青年は悔しそうに歯を噛み締め、地面に頭をつける。
「あぁ…この人は俺の親父を殺し! 病弱な母さえも病死させたやつだ! だから俺は復讐するべくこいつの養子になって、こいつの剣を覚えて奪った!! ガキの頃からの夢が叶ったはずなんだ! 叶ったはずなんだよ……」
青年は顔を上げる。
その顔は鼻水と涙でグシャグシャとなっていた。
「……でも、俺は全然嬉しくない……俺は…これだけの為に生きてきたのに……」
悲痛な声を上げながら語るそれは私の知っているものだ。
「……良い人だったのですね」
私がそう言うと青年はもう我慢出来ないといった風に立ち上がり、死体には目もくれずに家の中に入っていった。
私も無視して。
私はそんな彼を見送ると、倒れていた彼の大切な人の剣と鞘を拾い上げ、紐で腰に下げた。
多分、この剣をあの人は拾わない。
いや拾えない。
「…復讐は、虚しいですね」
一度人を殺したことがあるからわかる。
状況や相手が違っても、青年の心には酷い傷をつけただろう。
魔法の切符。
異世界と異世界を繋ぐ魔法道具。
次に進む道が出来ると、私はそこに足を向ける。
と、その前に私はあの死体となった剣士に告げる。
「あなたはおそらく人を殺すほどに強かったんですね。服の下から見える所には古傷ばかりです。でもこの剣や鞘には傷が一切無い……あの人と出会って変われたんですね」
返事はない。
だが剣の塚が何もしてないのにカチャと鳴った。
おそらくこれが返答だろう。
「あの人は大丈夫ですよ。貴方を殺して泣いてるんですから、これからは人を殺さないでしょう。この剣は届けますよ、貴方のような人がたくさんいますから…同じ過ちは繰り返してはいけませんしね」
私は最後にそう言ってから道を進む。
次の世界へ。