不幸を呼ぶ女
この前の騒動は俺のジンクスの暴走ということで収まった。一応3名の上級生には謝罪した。上級生はあの能力を間近で見ていたせいか何も言ってこなかった。
「けど、あれで収まってよかったね」
煉は肩をなでおろした。
「確かにな。まぁジンクスによる騒動はこの学校ではよくあることだし」
「僕のせいで楽を巻き込んでほんとにごめん」
「いや、多分今回の騒動は俺のジンクスの悲観的な主人公体質によるものだと思う。
「けど、今回は僕の後ろのハイジンクスの空飛ぶ卵によるものだし」
「俺のジンクスは多くのもの巻き込むからどっちかわからんって」
そんな話をしながら俺と煉が廊下を歩いていると、一人で歩く長髪の黒髪の冷たくどこか悲しそうな女性を見かけた。すると噂が聞こえた。
「あの子よね。不幸を呼ぶ女って呼ばれてるの」
「そうそうあの子といると不幸になるから皆近寄らないのよね」
俺たちは授業まで時間もなかったのでそのまま教室に戻った。俺の席は窓際の一番後ろ、漫画の主人公がよく座ることから主人公席と呼ばれている場所だ。俺は比較的にこの席になることが多い。身長が大きいということもあるし苗字が50音順で後ろの方ということもある。ただ一番は悲観的な主人公体質によるものが大きいと思う。もしこの席ではなかった場合、横の席が空いていて転校生が座る場合が多い。そしてトラブルに巻き込まれる事が多かった。
学校も終わり、俺と煉は学校に帰る途中あの廊下ですれ違った女に出くわした。その子は男にナンパされていた。
「君、かわいいねえ。これからどこいくの。もし、よかったらどっか行こうよ」
俺はナンパしている男の前に飛び出した。
「嫌がってるだろう。やめとけよ」
「なんだ、お前」
俺は相手の腕を掴んだ。相手の腕にいともたやすく壊れていくのが俺にはわかった。ミドルジンクスでも普通の人に使えば凶器になる。
「うわー」
ナンパ男は一目散に逃げた。
「大丈夫」
俺個人としては紳士的に声をかけた。
「私を助けてほしいなんて頼んでません」
「そうだな。お前を助けるつもりなんてなかった。あいつを助けたんだよ」
彼女は一瞬、驚いた顔をしてからすぐに元の冷酷な顔に戻った。
「……いいから私から離れて」
「で今度は俺を助けようとしているのか」
上から植木鉢が落ちてきたのを頭から破壊する者を出したたき割った。
「すいません!当たりませんでしたか」
上にいた植木鉢を落とした奥さんが声をかけた。
「なんとか大丈夫でした」
俺はそれに返事した。
「まぁ話を聞けって不幸を呼ぶ女さん 」
「……なんで私のジンクスを知ってるの」
「廊下の噂で聞こえただけ。そのジンクス消したいんだろ。もしよかったら協力するけど」
「……わかった。どうすればいいの?」
「そういえば名前は?」
「菊池 麻衣。あなたは?
「俺は雷堂 楽、でこいつが進藤 煉。じゃあとりあえず空き地に行こうか」
「どうしていくそこに行く必要があるんですか」
「歩きながら説明する。煉はどうする?来る?」
「行くよ」
「じゃあまず俺のジンクスについて説明する必要があるな。俺のジンクスは破壊する者はなんでも壊せるものは壊すことができる。さっきみたいに植木鉢をたたき割ったりしたのがそれだ。ただ俺のジンクスは俺の言うことをほぼ聞かない。さっきみたいにジンクスの出てくる場所を指定してすぐに戻す場合のみいうことを聞く。この場合いうことを聞くというよりは目の前にあるものをただ壊しているといった方が正しい。一番肝心なのがこの能力は相手のハイジンクスにも効くということだ。一般的なハイジンクスの戦いで相手のハイジンクスを倒した場合、体を休めればすぐに元に戻る。ただ俺のハイジンクスは違う。相手のハイジンクスを倒した場合もとには戻らない。壊れたままというのが正しい。相手はその能力を失う。ただ勘違いしてほしくないのは、俺の能力は相手の能力を壊すことで消す能力ではないということ、もしお前自身がその能力を治す気があればいつでも治るということだ」
「でなんで空き地に行く必要があるの」
「俺の能力はいうことを聞かない。お前の能力は不幸を呼ぶ女。そのハイジンクス同士が街中で戦ってみたりすればある程度察しがつくだろう。それに街中だと不幸になる攻撃が察知しずらい。空き地だと不幸なパターンが限られるからな」
ある程度、歩くと草しか生えていない。住宅業者の看板が立っている空き地が見つかった。
「ここならどう?」
彼女が訊いた。
「無理。上に電柱が立っているから、危ない」
「……そうだね」
そうして歩き出すと川沿いの空き地が見つかった。
「ここは?」
「ここなら大丈夫だと思う。川には近いけど急にあふれ出すような感じでもないし、上に電線とかもないから。煉は離れてて、菊池さんも俺から距離をとって、俺の能力も敵味方関係ないから」
煉は遠くから二人を見守った。二人は一定の距離を置いた。
「じゃあ、やるよ。100%のジンクスできて、そうじゃないと完全に壊したことにはならないから」
俺は彼女に確認した。
「うん」
二人はハイジンクスを出し合った。彼女のハイジンクスは手を胸の前でクロスさせ肩を掴み、泣いていた。そのジンクスを黒い禍々しいオーラが包んでいた。
「楽ー」
大声で煉が叫ぶ。そちらを見ると2トントラックがこちらに突っ込んできた。運転手は居眠りをしていて起きる様子もない。
避けられない。
俺は足から破壊する者を出した。クラッシャーはすぐに地面を抉り出し、そこで俺はしゃがんだ。車は抉り出した土にぶつかりながら俺の髪をかすめるように過ぎ去り、川に落ちた。
「キャー」
彼女の叫び声が響く。その叫び声で彼女の能力も悲しんでいるように感じた。
「煉、運転手を頼む。俺はこのジンクスを止めるから」
「わかった」
煉はすぐにハイジンクスの空飛ぶ卵で空を飛びそのまま川に飛び込んだ。
俺は彼女のジンクスの前まで走り、すぐに破壊する者を出した。破壊する者は彼女のジンクスを叩き壊し、彼女のジンクスは安らかな顔で消えていった。
「煉」
俺はジンクスを壊した後大声で川の方に叫んだ。煉は運転手を抱きかかえた状態で川から顔を出し、そのまま空飛ぶ卵で空に飛び、空き地まで運んだ。運転手の人は無事だった。運転手の方に礼を言われ、車のことで警察に電話している最中にめんどくさそうなので俺たち3人はその場を去った。
「あの人も私のせいでこんなことに巻き込まれたのかもしれない」
「お前のせいなんかじゃない」
「僕もそう思う」
「でも……」
「そんなこと言ってるとせっかく俺が倒したお前のジンクスがまた治るだろ。だからこの話はこれで終わり」
「……うん」
「今日はほんとにありがとうがございました」
「そんなのいいって」
「じゃあ私はこっちなので」
「じゃあまたな」
「……またね」
俺たちは彼女と別れた。