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破壊する者

「ジンクスは例えば、雨が降りやすい雨男(レインマン)が代表的なものとされています。逆に晴れやすい晴れ男(サニーマン)なんてものもあります。このとき、晴れ男と雨男両方が対峙した場合、より能力の高いものが優先的にでます。この時、能力が拮抗している場合には曇りになります。私たちはこのジンクスの能力をデータ化して、皆さんのジンクスの成績としています。この値をジンクス値と呼んでいます。ジンクスには自分だけが意識しているロージンクス、相手も意識できるミドルジンクス、能力が具現化されたハイジンクスがあり……」

 優しい女性の先生の長い話が続いていた。ジンクスの復習の授業ほど面倒なものはないと俺は思った。この世界の誰もが知っている当たり前のことを授業で聞かされるのはたまったものではない。

「では、皆さん瞑想の時間です。自分の中のジンクスをイメージしながら瞑想を行いましょう」

 俺のジンクスは山ほどある。物が壊れやすい(破壊する者(クラッシャー))、トラブルメーカー、巻き込まれ体質(悲観的な主人公体質(グリーフヒーロー))、必ず貧乏くじを引く(確約された不幸者(アンラッキーメーカー))、他にも数多くのジンクスがあるがミドルジンクス以上とこの学校で確認されたのはそれだけだ。見た通り碌な能力はない。この能力を伸ばすために瞑想するなどまっぴらごめんだ。

 ハイジンクスが発見されてから世界中がハイジンクスの研究に没頭していた。世界のエレルギー問題をも解決することができると呼ばれるハイジンクス。ハイジンクスはこの世界にはなくてはならないものになっていた。砂漠の地方ではハイジンクスの雨男が重宝され、逆に雨が降り続く地域や作物の収穫時などは晴れ男が重宝された。他にも数多くのハイジンクスが世界中で活躍されている。

 ジンクスはわかっていないことが多い。例えば仮想現実の不幸予測(デスブログ)である。デスブログはそれに書かれたものは呪われるといわれ不幸なことが起こるといわれている。これは元々そうなる運命のものがそうなった未来予知によるものなのか、それともそのブログに書かれたことで不幸になったものか、はたまたただの偶然なのかは未だに解決には至っていない。しかもこのブログが意図してそのものを不幸に陥れるために書いたのか、ただブログを書いたらそのような結果を招いたのかも定かではない。

 ようやく長いジンクスの授業が終わった。

「楽、ごはん食べに行こう」

 声をかけてきたのは煉だった。煉は煉という名前にふさわしくない身長の低く弱い可愛らしい男だった。煉は自分が何のジンクスを持っているのかわかっていない。普通ジンクスがないものはこの学校には入ることができないが、蓮の後ろには翼の生えた斑点模様の卵が音を立てず翼を揺らして飛んでいた。これがハイジンクスと呼ばれるものである。一般の人からも視覚できるジンクスの塊、これが入学の決め手である。ジンクスは本人が自覚していなくても具現化する。一応この学校でも煉のジンクスについて調べてみたが特にこのハイジンクスにより何かが変わったということもなく何のジンクスかわからないという結果である。一応俺たちはこの卵を今はスカイエッグと呼んでいる。

 ハイジンクスは基本的には本人の意思で消したりできるが煉はどうしてハイジンクスが自分にあるか理解できていないため消すことができない。ただこれはこれで問題でこの学校に入るものでもハイジンクスは珍しく、疎まれることが多い。だから学生生徒はハイジンクスを消しておくのが原則である。ジンクスの能力も人に言わないのもルールである。過去にジンクスがばれていじめの対象になったり、人を不幸にする能力(デスブログなど)でその人が避けられるといったことが多く発生した為である。

 煉と食堂へと向かう最中に紙の前に人だかりができていた。

「今回のジンクス値が発表されてるよ」

 煉はそういうと人だかりのところに向かった。人だかりをかき分けて進むとこの前受けたジンクス値の結果が張り出されていた。

 全校生徒全員が採点をされて張り出される。ジンクス値測定は能力値の高い順に順位をつけられている。

 この学校に入ってすぐの俺の成績は全校生徒300人中150位と平均的ではなく、下のほうである。測定不明者が数多くいるためである。代表的なのが煉でジンクス値測定不可能と今回も書かれていた。今回の測定不能者は全員で50名だった。

「どうだった?」

 蓮は俺の顔を覗き込み聞いた。

「普通に悪いな。けど気にしてないし」

「そんなことないでしょ。自分のジンクス値がわるいのに」

「俺のジンクスを知ってるだろ。むしろ悪いほうがまだいい」

 煉だけにはジンクスを教えていた。

「まぁ確かにあのジンクスの中に伸ばしたいのはないけど――何か別のジンクスを考えるとか」

「まぁ確かにそれならありかな。といってもロージンクスも碌なのがないけど」

「どんなのがあるの」

「例えば俺の対応する店員がよくつり銭を間違えるとかミスをするとか」

「それはトラブルメーカーの延長線上の能力じゃないかな」

「まぁ確かに俺の周りではトラブルが起きやすいし、俺もトラブルの原因になりやすいけどそれもその能力のせいなのか」

「わからないけど、ジンクスはわからないこと多いしね」

「そうだな」

 そうこう言っているうちに俺たちは食堂に着いた。俺は券売所でかつ丼を買い、蓮はかけそばを買い席に着いた

「お前なんでハイジンクスだしたままなの」

 挑発的な態度で上級生が煉に絡んできた。

「このハイジンクス僕もしまえなくて」

 おどおどと蓮は答えた。

「ハハ。高校生にもなって僕だって笑えるな」

 後ろにいた取り巻き二名に言った。それを聞くと取り巻き連中も大げさに笑った。

「別にいいだろ」

 俺は声を張り上げた。

「よくねーよ。ハイジンクス出したまま、校則で禁止なんだよ」

「……一応、学校から許可はもらってます」

 蓮は振り絞るように答えた。

「許可があっても駄目なもの駄目なんだよ。表に出ろ」

連と俺は食べかけの飯をそのままに上級生に連れられて校舎裏に連れていかれた。

「こういう後輩には痛い目見てもらわないとな」

相手のジンクスがわからない以上迂闊な行動はできない。煉は自分のハイジンクスを背中につけた。

「それがおまえの能力か」

「知りません。とりあえずこれだけはできるんです」

ハイジンクスは背中に取りつき煉の体はふわりと浮いた。これはジンクスなのかなんなのか誰もわからない。

蓮が飛べるとはいっても攻撃手段が煉にあるわけでもなく。状況は不利のまま。

「煉、先に教室戻ってて」

「でも、楽が」

「俺なら大丈夫適当に帰るから」

「……誰か連れてくる」

「いや、いらないから。とにかく戻ってて」

「……わかった」

 蓮は空から教室へと戻った。

「ようやく、俺のジンクスを発動できる」

 俺は破壊する者(クラッシャー)のハイジンクスを自分の体から出した。このジンクスは体長が2メートル。人型だが、化け物といった方が正しく、特に腕は禍々しく壊す以外のことができない特化した形になっている。

「俺のハイジンクスには注意したほうがいい。俺も俺の中にしまう以外の止め方を知らない」

 煉は心配になって、戻って様子を見に来た。

 一撃で地面を抉り、校舎の壁を破壊し、敵を叩き付ける。これほどまで綺麗に物を壊す者を初めて煉は見た。ただ敵を倒すための力ではなく、あらゆるものを壊す力、それゆえに煉はその場には近づきたくなかった。その3人が見たこともないような顔で恐怖しているのがわかったからだ。

 このジンクスの厄介のところは壊すところ指定できないところだ。こいつには敵も味方もなく、俺以外のすべてのものを壊す。身勝手なジンクスだ。ただこいつは絶対に人は殺さない。倒す程度に留める。それが俺がわかっていることだ。

 上級生3名を破壊する者(クラッシャー)があっという間に片付け、俺は教室に戻ることにした。少し歩くと煉見えた。

「なんだ煉近くにいたのか」

「大丈夫だった」

 心配そうに煉が訊いた。

「大丈夫じゃなかったかもしれない。校舎の壁がめちゃくちゃだ。上級生は辛うじて生きてるけど」

「……楽には怪我はなかったんだね。よかった」

 俺たちは教室へと戻った。あとで先生にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。



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