四話
土曜日と日曜日も休暇となる。
俺たち生徒はこの二日間で一週間の疲れを落とすことになる。
俺は一日部屋でのんびりする――訳にもいかない。やるべきことがある。
とりあえず俺はゼウスと話をするために目を閉じる。
『やっと休暇がとれたか。』
「オーブは一体どこにあるんだ?」
俺は自分の身体に宿っている『オリジナル』の神である、ゼウスに話しかけている。
全能神ゼウス。
全宇宙と天候を司る神であり、"王"でもある。
最大の武器は雷とされているため、俺のオリジナルは雷の属性を持っている。
『オーブは中央大陸の王国にある。』とゼウスは言った。
オーブとは、オリジナルを宿すための《器》である俺がその原型を保つために必要なものだ。
エイザリアはこの大陸を治める国王が住んでいる国だ。
「わかった。今すぐ向かう。」
そう言って俺は意識を現実に戻した。
「バイクは……っと。」
俺は学校から外出届を出して、エイザリアへと向かおうとした。すると
「あれ、雷樹くん?」
霧島が声をかけてきた。
「奇遇だね。今からどこか行くの?」
「エイザリア。」と俺は簡潔に答えた。
すると霧島は驚いたような顔をして俺を見た。
「わ!雷樹くんもなんだ!」
「も?……霧島も行くのか?」
「そうなの!」パンッと両手を胸の前で合わせて霧島は、そう言った。
「一緒に行ってもいい?」と霧島が聞いてきた。
特に断る理由もなかったので共に行くことに決まった。
エイザリアへはバイクで片道1時間程だ。国道を通れば40分程で着くことが出来る。
俺は二人乗りのバイクを借りて霧島と乗る。
「しっかりつかまれよ。」と俺は言った。しかし、霧島は何故か顔を赤らめ戸惑っている。
「え、え、捕まるって……どこに?」
「俺に。」
「抱きつくってこと?」
「言い方が……。まぁ、そうでもいいが。」
その後霧島は、「はぃ……」と何処と無く弱気な感じで言って俺の身体に手をまわした。彼女の胸が背中に当たるがここは無視しておこう。
――40分後――
俺たちはエイザリアに着いた。
ここは大陸のなかで一番大きな都市と言われている。この町は活気に溢れており、沢山の店や、人々が溢れている。
「そういえば、霧島はなんでエイザリアに?」
「加奈子でいいよ。」
「ああ、わかった。で、何故エイザリアに?」
「……。」
ふむ。なんで返事をしてくれないのだろうか。心なしかムスっとしているように見える。
「……お、おい。」と俺は霧島に呼びかける。
するとこちらに顔を向け、ニコリと微笑む(が、微笑んでいるようには見えないくらい強張った笑みだ)
「…加奈子でいいよ。」と霧島が言う。
…あ、察した。どうやら佳奈子と呼んでほしいようだ。
「分かったよ、加奈子。」と俺が言うと、霧島もとい加奈子がニコォッと笑みを浮かべた。
「ふふっ。えとね、今日は話題の『モンブラン』を食べに来たんだよ!」
その後、加奈子が延々とモンブランの良さを語った。
さて、オーブの入手についてゼウスからまだ聞いていない為、聞かなければならない。
『オーブの取り方。じゃろ?それはな、そこの娘と"でーと"するんじゃよ。』
「は!?」と思わず叫んでしまった。
加奈子はビクッとしてこちらを見ていた。
「あ、いや…すまない。」
「う、うん。」
(どういうことだ?)
俺は心のなかで呟く。
『ほっほ。何も人助けしての"感謝"だけじゃないと言うことじゃよ。』
オーブは、人に感謝されることで生まれるものだ。今までは、主に人助けをして感謝され、オーブを供給してきた。
『まぁ、お前は若い頃の儂によぅ似とう。おなごの"えすこーと"ぐらい軽いもんじゃろ。』
確か、ゼウスは複数人の女性と交わり、沢山の子を産ませているとか。そんなのに俺が似ている?冗談はよしてくれ。
「雷樹くん」と加奈子が話しかけてきた。
「ん?」
「雷樹くんはなんでエイザリアに?」
む…どう答えようか。オーブを取りに来たなんて言うわけがないし、加奈子とデートしに来たなんてことも言えるわけがない。
「あー…そうだな、気分転換に…だな。」
自分でも思うぐらいにわざとらしい返答だった。
流石に怪しまれるか?
「そーなんだ!」
素直で良かったよ。そして加奈子は言葉を続ける。
「あ…う…も、もし…良かったら…」
「あ、そうだ。モンブラン、ついていっても良いか?」
加奈子の言葉を聞く前に俺は言った。
すると加奈子は凄く嬉しそうな顔をしてこちらを見た。
「うん!!」と言った。
――――――
しばらく大通りを歩いていた。すると前方に大行列が見えた。
「あれだよ!」と加奈子は興奮気味に言う。
一体何時間待たなければ行けないんだ…。そんな事を考えていると加奈子が話しかけてきた。
「今、何時間かかるんだろーとか、思ったでしょ?ふふっ…こんなこともあろうかとね、一ヶ月前から予約しておいたんだよ!」と自慢げに言ってきた。
「それは…凄いな。」
そして俺たちは大行列を尻目に、受付へと向かった。
「いらっしゃいませー。」
「あの、予約していた霧島ですけど…」
「ああ。霧島様ですね。今すぐ用意致します…。」
店員はそう言って品を用意しに行った。
その後、加奈子は会計を済まして俺の元へ帰ってきた。顔が優れていない。どうしたのだろうか。
「…ぅ…。」
目尻に涙を溜めている。
「ど、どうしたんだ?」
「ごめん…予約、一つしかしてないことに買ってから気付いたの…。」
「ん?ああ、大丈夫だよ。俺は別にいらないから。」
ほんと?と上目遣いで聞いてくる。彼女のきれいな黒髪が少し揺れる。彼女の整った顔はまるで魔力を持っているように人を魅了する。俺も年頃だ。美少女に見つめられでもすれば、流石に顔は赤くなる。
横で加奈子がモンブランを頬張りながら歩いている。一口食べるごとに幸せそうな顔をする。
どこに向かうでもなく、ボーッとしながらしばらく歩いていた。時間的にまだ昼で、人は多い。買い物袋を持っている婦人やアイスクリームを食べているカップルなど、様々な人がいる。
そんな事を考えていると俺の顔の前にモンブランの乗ったスプーンが差し出される。横を見る。
「あげるよ。最後の一口。」
ニコッと微笑みながら俺を見る。
俺は言葉に甘えて口に運んだ。
……ふむ。確かに、大行列が出来るのも頷ける。
「どう?」と加奈子が聞いてくる。
「うまい。」
「でしょ!?」
別に加奈子が作った訳でもないんだが…。
「さて…これからどうする。」と俺は加奈子に聞いた。
「あのさ…」
「ん?」
「せっかくだから…買い物…付き合ってくれない…?」頬を染めながら言う。
ほう。まぁこのまま寮に帰っても暇だから別に良いだろう。
『ほっほ、これが"らぶこめ"じゃな。』
神谷雷樹の聞こえない所で呟いたゼウスであった。