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鬼兵  作者: tama
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三話

一部語りが変わるので説明したいと思います。

主人公等の登場人物の語りの場合、一人称は俺や私です。そして人物の台詞の場合、その台詞の人物の呼び名を言うようになっています。

例えば、「おなかすいたなぁ~。」と如月が言った。

と言っている場合は基本的に登場人物の語りです。

しかし、登場人物ではない、第三者視点での語りの場合

「おなかすいたなぁ~。」と如月夏希(・・・・)が言った。

と言うように人物の名前をフルネームで言うようにしています。

これらの点に注意してご閲覧ください。

「まずは足に神経を集中させるんだ。それから飛んでみろ。」

「え、えらそーに言わないでくれる!?」

「ちっ…。」

「舌打ちするなぁー!」

 俺は如月夏希(きさらぎなつき)という女子生徒にエアジャンプの練習に付き合わされている。いきなり言ってきた挙げ句貴重な昼休みを潰され、更にこの反抗的な態度。ここまでされれば俺の気分も悪くなってくる。というか、何故俺なのだ。他にいるだろう。


「あん!もう!!全然出来ないじゃない!!」と彼女は言った。

 今日はエアジャンプのテストであるため一刻を争う状況だ。彼女にとっては、だがな。

 ちなみに練習場所は校舎の屋上である。ここは生徒の立ち入りは自由でいつでも来ることができる。七階建ての校舎なのでかなりの高さがあり、隣町がうっすら見える程だ。


「あー!!もう休憩!!」

「……」

 俺は彼女の自由さに少し呆れながら屋上の鉄格子の際にある段差に座った。如月は俺の隣に座る。

「はぁ……なんでこうなるのかな……。」と如月は言った。

「あんた、感謝しなさいよね。」

「なんでだよ。」

 もう意味がわからない。何故感謝なんてしなければならないのだ。自分の自由を奪われてまで練習に付き合わされ、文句を言われるこの状況でどうやって感謝をするというのだ。頭が悪いのか?

「なんでって……学校一美少女であるこの私と一緒の空気を吸っていられることをよ!!」と如月が言った。

「自分で言うことなのか?」

「そもそも!あんたのその態度がおかしいのよ!如月家の息女であるこの私に対してとる態度なの!?」

「如月家?」

「……まさか…知らないの?」

 全くわからない。俺は世間には疎いのだ。

 俺は首を振った。すると彼女はため息を吐いた。

「はぁー。世間知らずも良いとこね。いい?如月家はこの日本国屈指の財閥なの!私はそこの娘!!分かった!?」と胸に手をあて言ってくる。

「ふぅーん。」と俺はさも興味が無いように言ってみせた。まぁ、本当に興味がないのだが。

「な、なによ…!驚きなさいよ!!」

 ぐぐぐ…と悔しそうに歯を食いしばる如月。そして、まだ負けていないというように口を開いた。

「ま、まだあるわ!父親に鬼兵隊最高司令官である遠藤卓司(えんどうたくじ)を持つのよ!!」

「なに?」

 流石にそれは知っている。鬼兵隊に入ろうとしている者で知らない者はまずいないだろう。

 遠藤卓司、33歳という若さで鬼兵隊最高司令官に任命され、過去で培ったその圧倒的強さと知識で鬼との戦いを最大限に鎮圧させることに成功している。

 昔の話では"鬼殺しの鬼"という異名がつき、『オリジナル』によって猛威を奮ったそうだ。

「ふふん!どう?凄いでしょ!お父さんの『オリジナル』だって私が受け継いでるんだからね!」と誇らしげに言った。

「あ、オリジナルっていうのはね―――」


『オリジナル』

 それは基礎超能力や、応用型超能力に当てはまらない個人の超能力のことを示すものだ。

 これは誰もが持っているわけではない。明確な理由は判明していないが遺伝や適性によって決まる。

 オリジナルには覚醒期というものがある。これはオリジナルの存在が判明する時期の目安のことをいう。主に15歳~18歳の間で覚醒することがある。

「――っていうものなの!」と如月がさっき俺が説明した通りに言った。

 更に説明を付け加えると、オリジナルには種類がある。大きく分けて二つ。

 一つ目は火や雷などの自然からなるもの。

 二つ目は伝説の生き物を型どったもの。

 以上となる。しかし、例外があり神の力を宿ったものがある。ちなみに俺はこれだ。


 如月は説明し終わるとどや顔をしながら胸を張っている。

「――で、何が言いたいんだ?」と俺は言った。

「え?そ、それは……」

 如月は声を詰まらせる。

 疑問だった。

 何故そこまでして目立とうとするのか。自分の親がどうとか、自分の能力がどうとか。


「そんなことより、練習を開始しよう。良いことを思い付いた。」と俺が言うと、如月は不思議そうな顔をして首を傾げた。

「ここに立ってくれ。」

 俺は鉄格子の前に立つように指示をした。

「え…あ、うん…。」

 如月が鉄格子の前に立つ。俺は後ろから如月を抱き抱えた。俗にいうお姫様だっこというものだ。

「へ!?ちょっ!!…やめなさいよ!!!」と如月は、顔を真っ赤にしながらじたばたする。

「……人は…」

「え?なに??」

「人は危険な状況にあうと普段では出せない力を発揮できるらしい。」

 火事場の馬鹿力、というものだ。

 そのまま俺は如月を……






 落とした。






「きゃぁぁぁあああああああ!!!!」


 それに続いて俺も飛び降りる。


「さあ!!足に意識を集中させろ!!!」


「無理に決まってるじゃない!!!!」


 このままでは死んでしまうと判断した俺は、エアジャンプをし、落下を加速させ如月を抱き抱える。そして再びエアジャンプをして減速させ、着地した。


 バッチーン!


 俺は如月に思いっきりビンタされた。


「死んだらどーすんのよ、バカ!!」

「いや……俺がいたし大丈夫だろ。」

「そーゆー問題じゃなぁぁああい!!」

 如月目に涙をうかべながら叫んだ。

 これで火事場の馬鹿力なんてものは存在しないと証明出来たな。なんて考えながら泣き止むのを待っていた。

「もーあんたなんかに頼らないわ!!ふん!!」

 俺にそっぽをむけてどこかへ行ってしまった。

「……ちっ…。」

 苛立ちを隠しきれず俺は、思わず舌打ちをした。




 テストは学年全体で行われる。

 台から飛んでエアジャンプを一回するだけで良い、というシンプルなものだ。

 何故如月は焦るのか……それが今わかった。


「如月様!」「如月さーん!!」「如月さまぁー!」……

 如月の周りに生徒たちが囲んでいる。そう、彼女は人気があるのだ。その生徒たちにカッコ悪いところは見せたくない、ようはメンツが大事なのだ。

「す、凄い人気だね……。」と霧島が言った。

「……だな。」

「あの、今日は……頑張るから…。」

「あ、おう。」



 しばらくしているとテストが始まり、次々に生徒がエアジャンプを成功させる。

 特別難しい超能力でもないので一晩練習すればどうにかなるものだ。

 あ、霧島。成功したようだ。嬉しそうに小さくガッツポーズをして、こちらを見てきた。

 俺も少し微笑む。あくまで、礼儀的に…だ。




 時間がたち、如月の番になった。

「おお!如月さんだ!」

「どんな華麗なジャンプをしてくれるのかしら!」


 周りは期待の目に満ち溢れている。

 如月も微笑みながら上品に手を振る。しかし、顔は優れているとは言えない。

 全員が黙して見る。

「それでは、始めろ!」と先生が合図した。


 如月は飛ぶ。


 ―――着地。


 どうやら失敗したようだ。


「え…?」

「なんで…」

「あの如月様が…?」


 あたりはざわめいている。

 能力がある者が誰でも出来るような難易度の超能力が出来ないとなると当然の反応だ。


「如月さんって……あんまり凄くないのかな…?」


 と誰かが呟いた。それが聞こえたのか、如月はビクッとしてから顔を青ざめる。


「……どうしよう…」と如月夏希が言った。


 周りはそれだけで如月を見る目が変わった。

 如月は人気がある。しかしそれは、彼女が能力があるから。彼女が有名な財閥の息女だから。彼女が美少女だから。そんな上辺だけの評価をして、中身を見る人間なんて一人もいない。そう、彼女は……如月は――


 ――友達がいないのだ。


 だから彼女は上辺を気にする。上辺の自分が一つでも崩れてしまったら周りの人から冷たい目で見られるのを知っているからだ。だから彼女は必死になってエアジャンプを成功させようとする。"上辺の自分"を保とうとする。

 だが、それも今崩れ去り、周りの人間はどよめき、戸惑う。そして、如月夏希という人物像に失望する。そしてゆくゆくは――一人になるだろう。


「嫌……やめて…もう…もう…あんな思い(・・・・・)はしたくない…っ!」

 如月は頭を抱え俯く。

 周りの人間は冷めた目で如月を見る。


 俺は息を吸う。


「足に意識を集中させろ!!!」


 とにかく思いっきり叫んだ。


 如月を含め、周りは俺に注目し驚いたような顔で見ている。


「ら、雷樹くん…?」と霧島が言った。俺は霧島に構わずに言葉を続けた。

「空中に透明の地面があるとイメージする!そして飛ぶんだ!自分を信じろ!」

「雷樹…」

 如月は決心したように顔をキッとさせ、もう一度台に立った。


 如月は飛んだ。


 まるで妖精のようだった。


 彼女は美しく、可憐に飛んだ。


 誰もが見とれたことだろう。


 気がつけば彼女は着地していた。





 エアジャンプを成功させて。


「や…やった……出来た…!」と如月が言った。

 オオオオオっと歓声があがる。如月は照れたように頬を赤く染め、手を振った。

 俺は安心したようにホッと息を吐いた。

「うわぁ~。凄かったねぇ!」と霧島が言った。

「ああ。そうだな。」

 俺はそう言った。





 放課後。

 特にすることがない俺は寮に帰ろうとした。教室を出て、靴を履き替えて校舎を出ると、如月が待ち構えていた。

「あ、来た。」

「…」

 俺は無視して帰る。

「ちょっと!!待ちなさいよ!!」

 引き止められた。

「なんだ?」

「あ…えと、今日は…その…あ、ありが…と。」

 如月は顔を赤くし、礼を言ってきた。

「いや。」と俺は言った。

 そして俺が帰ろうとすると、「待って!」と再び呼び止められた。

 振り向いて言葉を待つ。言いにくいことなのか、なにやらモジモジしている。

「あ…あの…も、もしよかっ……たら、わ、私と……と…とも…」

 如月は顔をキッとさせた。

「わ、私の…下僕にさせてあげるわ!!」と腰に手をあて、反対の手で指差してそう言った。

「断る。」

「なっ――」

 そして俺は帰ろうと振り返った。

「ちょっと!待ちなさいよ!!ちょっ……待ちなさいってばぁー!」

 俺は如月の言葉を無視して帰る。

 俺と友達になるよりも他の奴を選ぶんだな。まぁ最も、その高飛車な性格を受け入れてくれる者が現れたらの話だが。


「待ってよぉー!!」


 その日の夕日はなんだかいつもより綺麗に見えた。


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