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探偵はダンボール箱で推理する2/3

「それよりそっちのお前さん。暁と言ったが、もしや親父さんは

 あかつき さかきじゃないか?」

「!?…父を知っているのか?」

途端に辺りにいるホームレス達がざわつき始めた。

「榊さんの娘さん!?」

「そう言えば、なんとなく似ておる。」

「暁…名前が一緒じゃと思っとったけど。そうか、榊さんの娘さんじゃったのか!?」

真田も驚きを隠せない様子だった。そこへ古玉が続けた。

「さっきの戦いの面構えでわかった。知り合いどころか、榊は俺らの

 親友だ。俺らホームレスは食料や道具の調達で町をうろうろする。だから

 この町で起こったことは大抵知ってるし、仲間にも共有している。

 この町を庭だと思っているのは、野良猫と鴉共と俺らホームレスだけだ。

 そんなホームレスの情報網を榊は高く買っていた。そこらの情報屋より信頼

 できるとさ。その代わり煙草や美味い酒を振舞ってくれた。まあ、ヤクザの若頭となると

 潰しに来る奴が後を絶たないと愚痴を聞いてやったり、サツから匿ってやったりもしたな。

 ま、持ちつ持たれつって関係だった」

「雅組があこまでデカくなったのは半分わしらのおかげってもんじゃ。カカ!」

暁は懐かしそうに話す古玉達の話を黙って聞いていた。

と言うか、暁の家族は私の思い描いていた家族とは結構違うものだったのだな。

まあ濃い家族だとは思っていたが、世間ではいろいろな家族があるもんだ。

「…ちょっと不器用な人と思っていたが、なるほどそんな面もあったのか。あの人。」

そういう暁の横顔は少し寂しそうだった。

「ワンワン!!ぐるるる~」

突然、シロップが威嚇の様子で公園から走り去った。何かを見つけて

追いかけて行ったような感じだった。

「私が捕まえてくるから、暁はここにいていいぞ。」

「…そうか?手こずるようなら連絡してくれ、すぐに行く」

「このちくわ持ってけ。喜んでついて来るわ」

私は古玉からちくわを受け取り、シロップを見失わないように後を追った。


「くそ…こっちに来たのは間違いないのにな」

もう夕方5時くらいだろうか、私はシロップ見失ってしまった。

仔犬の体力は底なしなのだろうか。私はあきらめて暁に電話をしようとケータイを取り出した。

「…ワンワン!」

「ん?鳴き声?」

次の角を曲がったところから犬の鳴き声が聞こえた。シロップか!?

私はケータイを持ったまま角を曲がった。

「ワンワン!ぐるる~…」

「…そんなに警戒しなくてもいいじゃないか……」

そこには、民家の玄関先にちょこんと座っているシロップと黒い学ランを来た

青年が立っていた。先ほどの鳴き声はこの青年に吠えていたシロップのものだろう

「…………そこの君」

青年が声をかけてゆっくりこちらを向いた。西日が逆光になって表情がよく

見えない。うっすら笑っているようにも見えるし、無表情で怒っているようにも

見えた。黒い学ランにロウファー。まるで影がそのまま起き上がって喋ってるみたいで、気味の悪い人間だ。

「…この子の…飼い主?」

いやにゆっくり喋る。

「いや…しかしその仔犬を探していたんです。助かりました」

「…ここは古い友人の家でね……この子が吠えて来て近づけなかったんだ。

こちらこそ助かったよ…でも日も暮れてきたし、訪ねるのは今度にする」

犬が苦手なんだろうか?私は渡されたちくわをちらちらシロップに見せてやった。

「!!」

シロップ尻尾バタつかせて足にすがりついて来た。もう警戒した様子は

ない。よかった。大人しくついて来てくれそうだ。ちくわにかぶりついているシロップを抱き上げ、足速に立ち去ろうとする。

「ねえ」

シロップに気を取られているうちに黒い青年は目の前まで近づいてきた。気配を殺していたのか、全く気づかなかった私はギョッとした。

「…………」

「……」

沈黙が続く。何か言いたいのだろうか?車椅子、私、ケータイ、犬を順番に

観察しているように世話しなく瞳が動く。そして最後に、私と目があった。

何を考えているんだ。私は相手の思考が読めずに狼狽していた。

「…また、会えるかな?平常院さん……」

名前を呼ばれた。もしかしてただのファンか?それならジロジロ見てきたのも

説明がつくし、本人かどうか確かめようとしていたのかもしれない。

「…何か困り事なら、この町のよろずという修理屋に来てくれれば話を聞けます。

 この町に修理屋は一軒しかないから、すぐにわかると思います」

「……例の失踪事件」

「!」


「まだ見つかってないみたいだね……十人とも。死体はおろか所持品も見つからない。警察は何をしているんだろう?」

「…………さあ。公表してないだけかも………」

「……そうなのかなぁ……」

……何が言いたいんだ。こいつ。思わせぶりな態度だ。

「あんた、名前は?失踪事件の関係者なのか?」

「……僕は、かの 誠治せいじ

相手が名乗ると、一瞬だが。奴の影がぐにゃりと揺らめいた。

「なっ!!?」

今のは………なんだ?錯覚?

「また会おうね」

また相手が瞬時に移動したのか、耳元でそう言った気がした。

振り返っても、そこには影一つとして残ってはいなかった。

「それで…なんで連絡しなかったんだ」

「しようとしたんだ。何度も言わすな」

結局それからは龍野さんにシロップを返し、話は一件落着となった。

その日はもう遅かったので、明日教室で報告会をすることにした。

慌ただしい一日は終わった。暁は帰ると父親に煙草を持ち出したのがバレたが

訳を話すと困った笑いで許してくれたようだ。

「しかし、そいつは何者だったんだ?この町の高校はだいぶ前にブレザーに

変わったし、怪しすぎる。失踪事件の関係者だと私は踏んだ。悪い意味でな」

言っていることは真面目だがすごく眠そうだ。

「むぅ…しかし口調からして、また近いうちに接触してくる気がする。

 注意しておくに越したことはないだろうな」

「変なマネしてきたら言えよ…締め上げてやる……から…」

冗談とは思えないセリフを言いながら暁はすぅっと眠りについてしまった。

………まったく、頼もしいがあまり無茶はせんでくれよ。

眠った彼女の頭を撫でると。むにゃぁと突っ伏したまま背伸びをしたのだった。


つづく








どこだかわからない黒い部屋


「平常院…琴ちゃんか~…素敵な子だったな。

うん…特に『目』がいい。 『真実を追う瞳』はいつだって魅力的だ。

『僕達』によく似ている。目も脳も。近いうちにまた会いたい。

僕の『Dialogue in the Abyss』にも加わって欲しい。


…君もそう思うだろう?ツカサ」



暗闇は何も答えなかった


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