表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

探偵は車椅子で推理する



平常院へいじょういん 琴鳴枯ことなかれは世間ではちょっと有名な

車椅子探偵だった。


遅い。


約束の時間を40分を過ぎているというのに一行に現れない友人に苛立ちを覚えながらも待ち続ける。

読者の諸君にここで誤解のないように宣言しておこう。

決して私が車椅子だから学校まで誰かに付き添って欲しい訳ではない。中学生ならば友人と一緒に学校行くとかそんな約束は誰だってするだろう。

しかし、気まぐれで実行したものの面倒なだけではないか…。

私の友人であり助手である暁絃あかつき いとによれば私がいつも利用している通学路では遠回りだと抜かしたのがきっかけだった。


「お前の車椅子ならあの神社のでかい階段を昇れるだろう。神社からの抜け道を通れば楽に学校に着く。」

ここで説明しなければならない要素がひとつある。私の使っているこの車椅子は私の手によって改造が施されている。

見た目はその辺の車椅子と変わらんが、階段はもちろん、塀や堀だって飛び越えられる代物だ。私がちょっと有名になれたのもこいつのおかげだ。

しかし、その名声は全く不本意の産物だった。

四年前に交通事故で両足を使い物にならなくされて以来、私は思った。

「これが私の本来の姿なのだろう」

あるべき姿。自惚れの報い。自分にとって他の者より「プラス」になるものを持っていたとしたら、それはいつか

「マイナス」によって「清算」される。


➕➖=0


これがこの世界の仕組み。幸福は不幸で、不幸は幸福で、これに気づかない人間はきっと不幸を嘆くことしかできないのだろう。

「運命」人は生まれ落ちた瞬間が始まりではない。理解した時こそ始まりだ。

よく祖父が言っていた言葉だ。この障害はハンデではない、正当なる執行なのだ。

滑稽かもしれんが、あの日から私は自分を信じるしかなくなってしまった。

正直に言えば、こんな形で評価はされたくはなかった。



「……すまん。寝坊した。」


振り返ると今さっき起きたと言わんばかりの気だるそうな顔つきの友人が立っていた。しかし、すまんと言う

その声にはあまり悪びれた感情は含まれていない。

「寝坊するにしても、度が過ぎるんじゃないか?今何時だと思っている。年がら年中遅刻しているお前と違って!私は毎朝定時には教室に入っているんだぞ。」

「……。」

説教はいいから遅刻したくなきゃ歩き始めないか?というような目だった。

こいつ…。本当は私を馬鹿にしているのではないか?

「罰として私を押して歩け。例の階段までな。」

「…了解。」


朝のひんやり肌寒い空気が頬を伝い…もとい、大気が切り裂かれているのを感じる。

「待て待て待て‼︎なんてスピードで押してるんだ!」

実際に乗ったことはないが、ジェットコースター並みではないだろうか。急げとは言ったがこれでは拷問だ。

「ちょっとは加減と言うものを覚えろ!馬鹿助手!」

「急げと言ったのはそっちじゃないか。」

「私はたとえ歩ける様な体でもジェットコースターだけは死んでも乗らないと心に決めてるんだ!!たとえ疑似体験 でもな!!だから……」

「おっと。段差だ」

ふわりと無重力が私を襲った。

「ひいいぃ!!馬鹿!阿呆!殺す気かっ!!」



暁の言う階段は真月まがつ神社と言われる近所の古びた神社のものだった。随分と昔に建てられたのだろう。

柱も床も朽ちかけ今にも穴が空きそうなレベルだ。

私はこの町で育ったが、参拝客は一度も見たことがない。

時折巫女らしき女性が手入れをしているのを見かけることはあったが、これまた奇妙なほど顔立ちが整った女性だった。

肌は血が通っているのか疑うほど色白で、人形めいた美しさはあったものの私には人間らしさが感じられず、気味の悪いものに映った。

「ここを通るのか?気が進まんな…」

階段にを見上げながら私はため息をついた。

「おやまあ。平常院さんとこの琴ちゃんじゃないのぅ」

見ると歳のわりには筋肉隆々で、いかにもジョギング中だと言わんばかりに肩で息を切らした人が話しかけて来た。

ちなみに紹介しておくと、彼は貴船美知雄きふね みちお60歳。

若い頃はトライアスロンにはまりホノルルトライアスロンに出場したとかしてないとか。謎の多い爺さんだ。

「おはようございます貴船さん。今日も精が出ますな」

「んふ!今日は絶好調なのよぅ❤︎このままブラジルまで行っちゃいそうなく・ら・い!」

キャラの方も謎の濃さである。

「先に上まで行ってるぞ、琴」

暁は軽々した足取りで階段を駆け上がって行った。

「絃ちゃんも元気ねぇ〜。でも二人ともここ通って学校行くのぅ?あたしがおぶってあげようかしら?」

腰をクネらせながら顔を近づけてくる。こわい。

「ご…ご心配無用です。私の車椅子ならこの程度の階段わけありません。なんならどちらが先に上がれるか勝負します か?」

「んま〜魅力的な口説き文句ねぇ〜。なんだか燃えてきちゃったわ❤︎」

負ける気はしない。私は車椅子を通常モードから四輪モードへ変形させ、出力を最大近くにした。

「暁。審判を頼む」

階段上の暁に審判を任せ、二人は同じ位置についた。緊張が走る。そう言えばこの爺さんの実力を見るのは初めてだ。

身体つきからしてトライアスロン選手だったと言うのはデマじゃない気がする。

「あたしが勝ったら自転車の修理一回タダにしてね❤︎」

あんたの場合修理より買った方が安い気がするがな。と心中で突っ込まざるを得ない。


「Lady go!!」

「ドラララララララララララアアアアァアアァ!!!!!」


「なにィィィィ⁉︎」

「…!」


老人の脚力……なのか?……あれは

私は呆気に取られた。まるで特大の音響装置から発せられるド級の低音を真正面から受けた様な、脳を揺さぶられる衝撃を身に感じた。

大気をも震わせる雄叫びをあげ階段を破壊せんばかりに駆け上がって行く。化け物かあの爺さん。


「琴!!最大アクセル!!」

暁の声に我に返った私は、最大出力120キロでアクセルを踏む。

「ぐぅっ!!スピード違反ものだな!!」


もはや神社の配慮は考えていなかった。通過した後、跡形が残っている確率は絶望的だった。

(やった!並んだッ!!)

鬼の形相で階段を蹴る妖怪になんとか追いついた。いや、まだ油断してはならない。相手がもう加速しないとは限らない。

(残り三段で……勝負だ!!)


「ゴールまで残り僅かだ……。スピードは五分五分。どうなるこの勝負……」

暁もこの時ばかりは額に汗が伝った。


二人が同時に三段目に差し掛かった。爺さんも車椅子も限界が近い。

しかし、負けるわけにはいかない!!


「ドララァァァァァァァァアァアァァァ!!!」

「うらぁぁぁぁにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


野獣の様な咆哮と裏返った変な奇声が入り混じり、二人は勢い余って空を舞った。


「はあっ……はあ……。あ〜ぁ…。」

「ドゥハッァ!!ブハァ!!ヴァ〜ァ……。」

走り切った貴船さんはもはや完全にオッサンだった。

「……暁…。どうだ…。」


「…僅かな差だが、琴の勝ちだ。」


「いやァァ〜ん❤︎悔しいィィィ〜!!」


いやァァ〜ん❤︎悔しいィィィ〜!!。じゃねぇよ!!妖怪高速ジジイッ!!

と二人は声に出さずに全力で突っ込んだ。


「あたしもまだまだねぇ。よーしお昼からはジムでジャンジャン鍛えるわよッ!次は負けないんだから❤

琴ちゃん。また誘ってね!」

貴船さんはそう言い残すと鼻歌混じりにスキップを踏み神社を後にした。


「…あの人本当に妖怪だったりして。」

「……。」

言い返せる気力も私には残されていない。自分で仕掛けてなんだが、ちょっと後悔していた。しかしこれだけは言おう。


「あんな妖怪がいたら、この町は今頃廃墟同然だ。」



つづく


あ、言い忘れたがこの日二人とも遅刻した^o^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ