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新しい関係

作者: 森崎桜菜

 年上とか、年下とか、高校二年生の良幸よしゆきにとって、どうでもいいこと。

 しかし幼馴染の高校三年生の花撫かなでにとって、大切なことだった。


「たまには後輩らしくしたらどう?」

「後輩らしく?」

「そう!私のことを呼び捨てにする。敬語を使わない。注意をしたら、逆に怒る。どういうこと?」

「知るか。花撫が年下みたいだから、先輩らしく少しは振舞ってみたらどうだ?そしたら、俺の態度が変わるかもな」


 生意気な態度を見せながら、花撫の部屋のベッドでゴロゴロ寝転がっている。

 良幸と勉強をするために花撫は家に招いたのに、これでは全く意味がない。


「良幸、猫じゃないのだから、そろそろ勉強をしよう?」

「嫌だ」

「どうして?」

「今はそんな気分じゃない。寝かせろ」


 良幸が昼寝を始めようとするので、花撫は布団を取り上げて、納戸に布団を置きに行った。

 それに対して、良幸は怒っていた。


「俺の布団を返せ」

「返さない。あ!」


 布団を取り戻そうとする良幸が通ることができないように花撫は立ち塞がる。


「邪魔」

「何のためにここに来たの?」


 テスト後だったらまだしも、テスト前なのに、良幸は教科書を開こうとしない。仕方がないから良幸を放って、花撫だけ勉強することにした。

 ノートを広げてペンを走らせていると、背中に重みを感じた。


「良幸、重い・・・・・・」

「俺は重くない」

「そりゃあ、のしかかっているのだから、良幸は重くないよ」

「そうじゃなくて、俺の体重」

「ああ・・・・・・」


 花撫は暴れても無駄なことがわかっていたので、抵抗することなく、教科書の問題をそのままノートに書く。

 良幸は後ろからそれを抱きしめた状態で見ていた。


「さっき・・・・・・後輩がどうとか言っていたけれど、お前の成績は俺より低いじゃねぇか」

「やっ・・・・・・それは・・・・・・」

「この間も中学生に間違われていたしな」

「相手の視力が悪いのよ」


 一週間前、花撫が天気が良かったので、街を散歩をしていると、複数の中学生に声をかけられた。

 必死で遊びの誘いを断っているときに、店から出てきた良幸が彼らを追い払ってくれた。


「そんなに私を先輩と認めたくないの?」

「あちこち抜けているから、認めようがない」


 花撫は何かとトラブルに巻き込まれることが多い。

 ナンパのことを含め、別の日には大雨の中を花撫と良幸が歩いていると、車が走ってきたせいで前身びしょ濡れになったこともある。


「雨のことだったら、私は悪くないもの・・・・・・」

「俺達が小学生だった頃に動物のふれあいセンターへ行ったときに、ひよこをうっかり落としたことだってあるだろ?」


 花撫は言葉に詰まって、何も言い返すことができなくなった。

 それは花撫も忘れておらず、残酷なことをしてしまったので、後悔しているから。


「ううっ・・・・・・」

「あのひよこ、泣いていたぜ?痛くて痛くて仕方がなかったのだろうなー」


 花撫の耳元で良幸が話し続けるので、花撫は耐えられなくなって、逃げようとした。

 だけど、良幸は花撫を縛りつけているので、花撫は逃げるどころか、動くことすらできない状態に陥っていた。


「良幸の意地悪!」

「俺はただ、昔話をしているだけだろ?」

「どれも私が耳を塞ぎたくなる話ばかりよ!」

「じゃあ、塞いだらどうだ?」


 両腕も上げることができないように、良幸にしっかりと抱きしめられている。

 持っていたペンがコロコロとテーブルの上を転がった。


「できない・・・・・・」

「俺に好きなようにされたいからか?」

「違う!」

「俺の望みをお前が叶えるのなら、これ以上しない」


 このまま何もしないのは嫌だったので、花撫は良幸の願いを聞くことに決めた。


「私のできることだったら・・・・・・」

「キスしよう?」


 花撫に上を向かせるために良幸は顎に手を添えて、唇を重ねた。

 頬が熱くなることを感じながら、花撫は瞼を閉じていると、重なった唇はゆっくりと離れた。


「物足りなさそうだな?もっとしてほしかったか?」

「ち、違う・・・・・・どうして、急に?」

「いつまでも俺を子ども扱いしようとするからだ。ずっと我慢していたんだ」

「ずっと?」


 鼓動がキスをしたときと同じくらいに高鳴っていた。


「嫌だったか?」

「ううん」


 花撫は嫌な気持ちではなかった。むしろ触れられて嬉しい気持ちでいっぱいになった。

 怖がっていないことを知った良幸はもう一度、花撫の唇にキスをした。


「私が年齢にこだわっていたのは、これのせいだったのかもしれない」

「何だよ?」

「私達の距離」


 花撫は無意識に良幸と距離を置いていた。いつまでも抜け出すことができないから、良幸への想いを幼馴染として、後輩として好きだと、封じ込めていた。

 だけど、良幸も花撫が好きで、花撫も良幸が好きであることがはっきりとわかった。


「花撫、お前のことが好きだ。幼馴染を卒業して、俺の恋人になって?」

「はい!良幸、好きだよ」

「やっと踏み出すことができた」


 良幸と花撫は抱きしめ合って、幼馴染の線を越えて、新しい関係に進み出した。


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