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Crescente

本日、服装検査は行いません。

作者: 高里奏

 


「なぁ、聞いてくれよ」

 唐突に瑠璃が口を開いた。

 一体何事だ。

 わざわざ僕が週に一度の休日を愛しのレイフと二人で過ごそうと、彼女の好きそうな焼き菓子を買いに外に出た瞬間運よく、いや、運悪く戦闘馬鹿の瑠璃にとっ捕まるなんて。

「なに? 僕はこれからレイフのおやつを買いに行くんだ」

「女王の次は女かよ。お前ってさ、女に尽くすのが快感とかそういう人間だったか?」

 瑠璃は呆れたように僕を見る。

 ついでに君も女だろう。

 まぁ、彼女を女性と思いきれない僕が言うことではないだろうから黙っておこう。

「それよりさ、聞いてくれよ」

「なに」

「朔夜がさ、ちゃんと下着しろって煩いんだよ」

 は?

 今なんて言った? この女。

「ありえねーよな。大体外歩く時服着るのは当たり前だけどさ、服の下なんて誰も見ないじゃん。してもしなくても変わらないって」

「……ねぇ」

「ん?」

「なんで、それ、僕に言うの?」

 まずそれが理解できない。

「しかもなんで商店街のど真ん中で?」

 レイフに聞かれたら死ねる会話だよ。

 むしろ、騎士団の誰かに聞かれたら僕がこの変態の知り合いだって一日で国中に広まるじゃないか。

「いや、ジルなら私を理解してくれると信じてだな」

「出来ない。したくもない。って、君、一応女性だろ? 恥じらいってものはないのかい?」

「てめぇ、私を女扱いしやがったな? 一発殴らせろ」

 真っ直ぐ飛んできたこぶしをかわす。

 一応。一応女性だ。

 けれど女性扱いを酷く嫌う。

 理解できない。

 レイフだってカァーネだって公衆の面前で突拍子もなく下着の話はしない。

 ポーチェに至ってはレイフの着替えを目撃して赤面して逃げる程だ。

 そんな彼女たちと瑠璃を同じ分類に入れてしまっていいのだろうか?

 思わず首を傾げる。

「やっぱり理解したくないな」

「うっせーよ」

「って、君、あれ本気?」

「悪いか? 蒸れるしきついし落ち着かねえんだよ」

「……念のために訊くよ。さすがに下は穿いてるでしょ?」

「あ?」

 まさか……。

 訊かなかったことにしよう。

「……レイフが待ってるから帰るよ」

「菓子はどうした? 菓子は?」

「戸棚に焼き菓子があったはずだから今日はそれで我慢してもらおう。君の相手をしたら一気に疲れた」

 こんな変態の相手なんて。

「ジル、お前くらいしか私を理解してくれる友人はいない! 奢るから飲みに行こうぜ」

「僕の休日は君意外と過ごしたい」

「硬いこと言うなって、ダチだろ」

 最悪だ。この女。

 適当な理由つけて牢獄に放り込んでやろうか。

 いや、カァーネに返品される馬鹿だ。

 とっととくたばれよ。

「ほら、スペード・J・Aの情報もやるぜ」

「……奴の前に君を殺したい気分だ」

 仮にも女性だから我慢してるのに。

 女を殴るなんて目覚めが悪いじゃないか。

「いいだろ? たまにはさ」

 人の話を聞かない。

 ……なんで僕は瑠璃なんかの相手をしてるんだろう。

 振り回されっぱなしだ。

 でも。

 不思議と憎めない。

 嫌えないんだよね。

「カリヨンのベーグルサンドを一週間二ずつ遅れずに昼に届けることが条件だよ」

「え? ベーグルサンド?」

「……カァーネでさえ買いそびれる程人気らしいからね。きっとレイフも気に入る」

 なんて。

 瑠璃の脚に掛かれば簡単なんだろうけど。

「おおっ、流石友よ。私の愚痴に付き合ってくれる気になったか」

「君と公衆の面前でこれ以上会話したくない僕の気持を汲み取ってくれない? 友達だって言うならさ」

 瑠璃って女はとにかく下品だ。

 それを自覚してほしい。

「お前、今私のこと女だからって差別しただろ」

「たとえ君が男でもその手の話題は振らないでくれ。僕は服装が乱れた人間は好きじゃない」

「開襟のスペードとか? ああ、だから気が合わないのか」

 勝手に嫌な奴の名を出して納得する瑠璃の背中に蹴りを入れる。

「いでっ、なんだよ」

「奴の名を出すな」

「ちえっ。まぁいいけどさ。それより朔夜だ。あいつさ、昔っから女の子なんだから下着はしっかりだの脚を出すなだのうるせぇんだよ。お前からもなんか言ってやってくれよ」

「君は姉の服を借りて着れば良い。少しはマシになる」

「貧乳の朔夜の服じゃきついって」

「……それ、本人に言えば? もっと長い説教貰えると思うけど」

 まったく、ポーチェにでも説教させるか?

 いや、意味がないだろう。

「君ってさ、露出狂なわけ?」

「あ?」

「胸出しすぎ、足出しすぎ」

 別に法に触れてないから取り締まれないけどさ。

「夏になると臍まで出すし、雪が降っても脚出してるし」

「隠す必要が無いだろ? 完璧に鍛え上げたこの筋肉を! 触ってもいいぜ」

「いらない」

 そう言えばだれ構わず筋肉触らせたがるんだっけ?

 一度病院ラウレル連れて行った方が良いかもしれない。

「なんでだよ。見ろよこの筋肉! カモシカ顔負けだぜ」

「勝手に言ってなよ」

 本当に。

 なんでこんなのと知り合っちゃったんだろう。

 ごめん、レイフ。

 今日のおやつはしばらくお預けになりそうだよ。

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