疑似恋愛
「ああ、ルカちゃん、すっごくよかったよ」
小さなシャワールームの中で、たぷたぷとお腹をはずませながら、男は言う。
私は何も言わず、少し恥ずかしそうに微笑みながら、男の背中を洗っていく。
「この仕事は長いの?」
「何でこんな仕事してるの?」
「普段は何してるの?」
「本当はいくつ?」
男の質問に、笑って適当に答えながら、私はシャワーをとめ、身体を拭いていく。
「ルカちゃん、今日はもうこれで終わり?」
「―――はい、今日はもうこれで終わりです」
時刻は23時をまわっている。
終電までには帰らなければいけないので、今日の仕事はこれで終わりだ。
入り口まで見送ると、男は振り返って言った。
「いつも何曜日に入ってるの?」
「―――えっとまちまちですけど、だいたい土日ですかね」
「またきてもいいかな?」
男はゆっくり私の目をのぞきこんで言う。
どうやら、気に入られたらしい。
「―――またきてくださいね」
私はとびっきりの営業スマイルで、男にそっとキスをしてあげた。
「わ、ルカちゃん、絶対くるね!」
私は、笑顔で手をふって男を見送り、肩をおとした。
男が見えなくなるのを確認し、アウトコールをすると荷物をとりに待機所に向かう。
「あれ、ルカちゃんおつかれさま」
荷物をとって化粧をなおしているとミカさんがやってきた。
「お疲れ様です。ミカさんまだあがらないんですか?」
「今日はラストまでなんだよ~もう帰りたい!」
ミカさんは、私とは違って小柄で可愛らしい女の子だ。
年は多分私より少し下ぐらいだろうか?とても、こんな仕事をしているようには見えない。
―――まあ、私も人のこと言えないけれど。
最近付き合って1年になる彼氏がいるとか言っていたっけ。
意外にも、こういう仕事をしている女の子には、彼氏がいる事が多い。
(私は、彼氏ができたらやめるけどなあ………)
「お先に失礼します」
ミカさんに手をふり、事務所に向かう。
今日は全部で3本。その分お金になるのはいいけれど、やっぱりキツイ。
「ルカちゃん、お疲れ様」
事務所につくと、店長が待っていた。
明細に目を通し、名前を書いていく。
「どう、この仕事なれた?嫌なお客さんとかいたらすぐ行ってね!」
私がこの仕事を続けているもの、店長のおかげだ。
いつも女の子を気遣い、心配してくれる。
私は微笑んで「大丈夫です」とだけ言った。
たまに嫌なお客さんも勿論いるけれど、それだけではない。
こんな仕事をしてなかったら、出会えなかったであろう人も沢山いるし。
いろんな人の、普段は他の人には見せないであろう顔を見れるのも意外と楽しいものだ。
いや、そう思わなければやっていられない、というのもあるけれど。
―――そして、もう1度会いたいと思う人もいる。
私はお金を受け取ると、次のシフトを伝え、慌てて駅まで走った。
ゆっくりしていたら、もう終電を逃しそうだ。美樹が待っている。
帰りに美樹の好きなプリンでも買って帰ろう。そう思いながら私は電車に乗るのだった。