おかあさんとぼうけん
今日は童話です!
「アヤちゃん、起きて」
優しい声でアヤちゃんは目を覚ましました。
辺りは真っ暗。目を開けているのにまるで夜みたいでした。
「おはよう、アヤちゃん」
起き上がったアヤちゃんの目の前には女の人がいました。暗くて、ぼんやりとした輪郭しか見えなかったけれど、それが誰だかアヤちゃんにはすぐわかりました。
「おかあさん。おはよう」
しかしそこでアヤちゃんは不思議に思います。アヤちゃんにとって、「おはよう」は、朝に使う言葉です。夜にこうやって起こされるのは初めてのことでした。
それに、ここが家の中だとすれば周りは電気を消した時よりもずっと暗いし、足元もごつごつとしたものがたくさん転がっていて、でこぼことしています。
「ここはどこ?」
アヤちゃんがそう問いかけると、おかあさんは笑いました。
「忘れちゃったの? ここは魔女の森で、私たちは冒険に来たの。今は、魔女から取り戻した『大事なもの』をおとうさんに届けるために帰っている最中なのよ」
アヤちゃんはおかあさんの話を聞いて、そうだったと思い出しました。早くお家に帰らないと、と思ったアヤちゃんはしかし、そこで途方にくれます。
「お家はどっち?」
辺りは真っ暗で、代える方角が分からなかったのです。
「こっちだよ」
困ってしまったアヤちゃんの代わりにおかあさんが暗闇の先を指さしで教えてくれました。
「わかった」
アヤちゃんは急いでそっちへ走ろうとしました。しかしそこでおかあさんに呼び止められます。
「ここはデコボコみちで危ないから、ちゃんと靴を履かないといけないよ」
アヤちゃんは慌てていて、靴の踵を踏んでいました。確かに靴が脱げてしまえばデコボコと尖った石で足を切ってしまいます。おかあさんの言う通りだと思ったアヤちゃんは靴をきちんと履き直しました。
「それから、走って転んでしまっては怪我をしてしまうから気を付けて進まないと」
「わかった」
怪我をして動けなくなればそれこそ魔女の思うつぼです。アヤちゃんはこれにも頷きました。
「それとアヤちゃん、ハンカチはある?」
「あるよ」
アヤちゃんはおとうさんから貰ったハンカチを出します。
「この先は魔女の毒が雲の怪物になって頭の上を飛んでいるの。だから間違って雲が口に入らないようにハンカチで口を隠して、しゃがんで行くのよ」
「わかった」
アヤちゃんは物知りなおかあさんのいう事をきいて、ハンカチで口を隠します。
そしておかあさんと一緒にしゃがんで、道を進みます。
途中で地面がゆらゆらと揺れました。
「魔女が怒って魔法を使っているの。ここに隠れて。
アヤちゃんとおかあさんは机のような形の小屋に隠れました。小屋の屋根に固いものが落ちてガシャンと音がしましたが屋根が防いでくれたので二人は怪我をしませんでした。
暗い森の中を二人で進んでいると、前から風が吹いてきました。先がうっすらと光っているようにも思えます。
しかし、その時、アヤちゃんの後ろからもっと強い光が近づいてきます。真っ暗で心細かったアヤちゃんにとって、それは何だか心強いもののように思えました。
「おかあさん、あっちの方がきれいだよ」
アヤちゃんは後ろを見てそう言いますが、おかあさんは首を横に振りました。
「あれは魔女が騙そうとしているのよ。このまま前へ進まないと、大変な事になっちゃう」
おかあさんは前を指で指しました。
「あと少しでお家よ。あの光の場所でお父さんが待ってるの」
「お父さんが?」
おかあさんは頷きます。
「いい? 大きな声で呪文を唱えるの」
おかあさんは大切な呪文を教えてくれました。アヤちゃんはわかったと頷くと、小さな光へ向かって歩きながらその呪文を繰り返しました。
「たすけて、たすけて、たすけて――!」
その時です。
小さかった光が急に大きくなり、アヤちゃんへ近づいてきました。そして――
「いました! 女の子です!」
アヤちゃんがハッとした時、知らない男の人が現れました。
男の人がアヤちゃんを抱っこして少し歩くと、道路の上で下ろしてくれます。
光の先の景色は、森なんかではありませんでした。
代わりに、周りには見慣れた建物がたくさん並んでいます。普段と少し違ったのは、それらが崩れていたり、赤く光っていたり、もくもくと黒い雲が出ていたりした事でした。
「アヤ!」
不思議に思っていると、アヤちゃんのもとにお父さんが走ってきました。
おとうさんはアヤちゃんをぎゅっと抱きしめました。そこでアヤちゃんはふと思い出します。
「お父さん、おかあさんは?」
「おかあさん?」
「さっきまで魔女の森を一緒に冒険してたの。魔女から逃げる方法を教えてくれたんだよ」
アヤちゃんは久しぶりに会えたおかあさんの話をおとうさんにたくさんしました。
それを静かに聞いていたおとうさんは、やがて「ああ」と小さく呟き、微笑みました。
「アヤを守るために、お空から戻ってきてくれてたんだね」
おとうさんは、取り戻すことが出来た『だいじなもの』を抱きしめながらそういったのでした。
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