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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第二章 砂漠王朝編

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第51話 その檻を壊せ

 side:トラ


 ユウキたちが進んだ道とは反対に続く廊下を、トラベラーが4人、それぞれ武器を構えながら突き進んでいた。


 「……っ!曲がり角に二人いるわッ!」


 廊下の突き当たり、最奥へと真っ先に進むため、好戦的な性格をした女性トラベラー、アカリが先導する。彼女は突如襲ってくるマフィアの構成員の攻撃をなんとか手に持つ大剣で食い止め、後ろに続く男性三人に警告を発した。


 「了解!」「は、はい!」


 各々声を上げながら、アカリと鍔迫り合いをする剣持ちの一人をトラがドロップキック。後ろに控える杖を構え何かを喋るおそらく【魔法使い】をアッシュが弓で牽制、怯んだ隙をレンジが小斧で詰めに行く。


 「寝とけ!」


 トラの蹴りの威力は変わらず、大の男が一瞬で吹き飛ばされるほどの威力。すぐに行動不能になった。

 次は仲間の助けだ、と魔法使いの方に加勢しに行こうと走り始めたがもうすでにそこでは勝敗がついていた。

 レンジの銀色に光る斧が、魔法使いの持つ杖を裁断、微塵切りの如く幾十にも切っていたのだ。


 「降参か?」


 こくこくと素早く頭を振る魔法使いに、小さな斧──肉切り包丁を腰に納めアイテムボックスからロープを出してそいつを縛った。


 「ナイス、レンチン!それにアッくんもアカさんもようやった!」


 独特なあだ名で褒め言葉を告げ、四人は倒した敵を放置してさらに奥へと走り続けている。


 彼らと接敵した敵の数は計十人。

 もうすでに初めての戦闘の決着はついた状態であったのであり、前衛には体力の多いアカリが敵を引きつける役割、中衛にはレベルが高いトラ、そして【グルメエルフ】という食糧を集めることに特化した、練度の高い〈解体〉スキルを持つレンジが攻撃役を担い、後衛はアッシュが援護を行う固まったフォーメーションを組んで次々と攻略を進めていた。


 トラが持つ相手のステータスや肉体情報を暴くスキル〈看破〉によれば、総じて彼らは初級職。下っ端構成員であるため苦戦は強いられなかった。

 それもそうだろう、メイン戦力は今一階の大広間で争っている市長達に加勢しにいっているのだからとトラは考察していた。


 しかし、それでも生まれてから数十年レベルと共に生き続けたこの世界に住む住民と比べて、二週間程度の時間しかないのにかかわらずそれらを圧倒する『トラベラー』と言う存在の異常具合はわかるだろう。


 「ほんまに広すぎんねん!この城!アジトならもうちょ慎ましくあれ!」

 「激しく同意!戦うのは好きだけどインターバルなしの走り込みは私もきついわ……」


 文句こそ二人の口から垂れるものも、痛覚をほぼ感じないトラベラーであるからか本気に近い速度で駆けながらさらに次の敵と戦い始めていた。

 

 「建物の柱の年季的にここ数年でつくられたのものではないですね。数百年前、砂漠が上に重なる前に作られた遺跡か何かを再利用しているのでしょうか……。」


 そう答えたのは名前も種族も色物なグルメエルフ、デンシ・レンジだった。


 「ほー。なるほどなおもろいわそれ。……レンチンは世界観考察に興味があるんやっけ?」


 トラは彼との街中での出会いのやり取りを振り返りながら目を見てそう言った。


 「世界観というより……、私は料理が好きなんです。伝統料理とかあるじゃないですか。あれって結構その地の文化や地形、気候、発展具合諸々関係していて面白いんですよ。私はまだ今いる砂漠と隣の王国しか行ったことはないですが、このゲーム、かなり詳しく作り込まれているんです。だからその成り立ちを深く知るためにゲーム内の歴史を学ぼうかと。」


 自分とは異なる、だが少し似通っている面に初めて気付いた彼は笑顔で答える。


 「ええな、それ!今後面白そうな料理の情報あったらレンチンにも共有するわ。……というかオレ、情報屋クラン作ろうとしてんけど、まだメンバー誰一人も決まってないねん。これ終わったら一緒にやらん?」


 穏やかな昼下がりのような、新たな始まりの会話……のように思えるが、そこには物騒な剣と魔法の音が飛び交う修羅場、ちょうど戦闘の最中であった。

 しかし心配はないと言わんばかりに、アタッカー二人は共に油断はなく易々と敵を無力化していく。


 「……それは嬉しい誘いですね。私が力になれるなら是非。」


 戦闘を終え汗を拭い、その次に彼はトラに握手を求めた。ええ、とまさかのあまりにも早い返答で驚きながらも、すぐに喜びの表情を浮かべ差し出された手を握り返す。


 「うおお、よっしゃ!他の二人はどう?みんなで同じ場所に固まるんじゃなくて、各々旅した先の美味しい店とか教えるぐらいでええから。」


 次の戦闘を探しに、四人は走り始め、彼は後ろを振り向きながら勧誘を続ける。


 「ええ!全然いいわよ!私は現実の鬱憤ばらしでここで死ぬまで戦えれば満足だから!アッシュは?どうするの?」

 「ぼ、ぼくも大丈夫です!ぼくは誰も行ったことのないような未踏の地を探しに冒険するのが目標なんです。情報を共有できるのなら、誘っていただけてこちらこそ嬉しいです……!」


 ここまでの予想はしていなかったプラスの返事に彼はわざとらしく、だが本物の涙を浮かべて笑った。

 

 「……あぁみんな夢があってええなぁ!──っしゃ!初期メン四人ってことでこれからよろしくな!」

 

 彼の一言に三人は敵地のど真ん中という状況とはあまりに掛け離れた雰囲気で、より一層絆が深まりだしている。

 まだ“クラン”というシステムに詳しくないアッシュがトラに質問をした。

 彼は走りながら後ろを向いてその質問の答えをしようとした。


 その瞬間だった。


 彼らは油断をしていたのか。

 絶対にしていないとは断言できないだろう。

 だがその結末は油断なんてしていなかったとしても変わらなかったのかもしれない。



 「──〈華麗なる誘拐〉」



 その空間で忽然と姿を消したのはただ一人。


 トラだった。



     ◇



 「ッ!?」

 突然切り替わる視界。

 わずかな明かりが足元を照らしていたあの場所と対比して、この場所に光など何もなかった。

 窓もない、締め切られた空間。


 トラの最後の記憶は耳元でなにかしらの言葉が囁かれ、その言葉の主が彼の肩に触れたこと。


 「……あいつの仕業やな」


 少年味のまだあどけなさが残る声、それは聞き覚えがある。

 そして自分をどこかに“移動”させた能力。

 『仮面』の男に違いない。

 カルナの言葉を思い出して、その異能の制約を考察しながら彼はアイテムボックスに眠るランタンを取り出した。


 あかりがなにもないのだから、まず重要なのは視覚情報であり、彼が魔力でランタンを灯す行為は当然のことだ。

 光が壁を反射し、その部屋の全貌が明らかとなる。


 「……檻、ね。……おい!ゼノン!どっかで見てんだろ!」


 石壁と鉄格子。それは囚人が幽閉される監獄のようで、トラは不快さを全面に出しながら壁に手を叩きつけて叫んだ。

 だが彼を捕らえた仮面を非難したその声は宛先に届かず、やたらと広い部屋にただ反響するだけ。

 返事が来ないことに苛立ちながら彼はこれからどう行動しようか、思考していた。


 「──する、ど──る?あのひとは───の?」


 その時、この空間内に自分以外の誰かがいることを証明する、微かで密かな話し声がトラの耳に入った。ん


 複数、人がいるようだ。そしてさらに仮面の男よりももっと声が幼い。ハリも元気も感じられない。

 トラはそれが自分と同じように牢に囚われた被害者だと信じて思い切って声をかけた。


 「おい!そこに誰かいるんか!?オレは仮面つけたやつに攫われた!おったら返事してくれ!」


 この際、聞こえてきた話し声の主がマフィアの構成員で看守だとしても構わない。警戒を解けるように彼は声を上げる。

 二度目の呼びかけ、今度は自分以外の誰かの言葉が返ってきたのだ。


 「──っ!う、うん!ここにいるよ!五人!みんな黒い服のひとたちにつれていかれた!」


 大きく、ハッキリと、確かに子供の声がトラの耳に聞こえる。彼は驚くと同時に次の言葉を叫んだ。


 「なんやと!……そっちに敵はいるか!?」


 この場所や境遇について説明を求めるよりも最優先に、彼はその子たちの身の安全を考えていた。

 「いいや、だれもいない!」と今度は別の男の子が答えるのをきっかけに彼は息を安堵するように吐き、そして決意するように深く吸った。


 ランタンの灯を少し強くし、部屋の側面や鉄格子の一面を見て檻からの脱出口を見つけようとするが、それらしきものはみつからない。

 だがしかし彼に焦る様子はなく、笑って何かを小さく呟く。


 それはある魔法。

 その名前は〈変身〉。

 

 〈変身〉という魔法はキャラクリエイト時、人間以外の種族になった場合に必ずトラベラーがもらえるものである。それはまだ亜人や魔族は人間の下位存在であるという差別が根付く場所のある世界故の、管理者からの配慮であろうか。

 能力内容はその名の通り、人間姿から本来の姿になり、種族由来の力の本気を引き出すものである。

 

 彼は人間の姿から、大きく立派な翼が生えた【天狗】と成る。ここで自分の力の嘘をつく必要はない。


 格子から反対方向へと強く羽ばたき、上空からありえない速度で下降。

 インパクトの一瞬を鉄格子の脆い部分に集中し、運動エネルギー全てを使って破壊を試みる。


 用途的に早々壊れない設計をしているのか、一度ではそれは破壊されることはなかった。


 しかし2回ならばどうか、3回ならば。

 一撃で沈めるスタイルよりも、高軌道の連撃を得意とするトラは諦めずに何度も挑戦する。


 そしてついに数回目。


 獲物を閉じ込めるための鳥籠は、捕らえた鳥によって壊される。


 「ッ!っし、壊れたで!お前らどこにいる!?声伸ばしとけ!」


 暗闇のため牢が続くこの部屋の構造は詳しくわからない。

 ランタンを持ちながら、指示に従って発し続けられる声を頼りに彼は走った。


 そこへ辿り着こうと焦る一瞬。

 鉄格子越しの誰もいない牢屋が目に入る。


 そこは“誰もいなくなった”部屋。


 腐敗して骨だけとなった死体が寝転がっている。

 

 「──!?……っ、」

 

 トラは初めてこの世界で死体を見た。

 いや、彼は現実でもこんな死体なんて見たことはない。まともな現代人ならばみんなそうだ。

 しかしそれが死んでいるということは、トラベラーのため強すぎる刺激臭はゲームシステム側で規制されるその状態でも、嫌というほどわかる。


 彼は何を思っただろうか。

 ユウキと食事をしながら語られた獣人のNPCの話を思い出したのだろうか。

 それとも、彼の触れられたくもないある過去を思い出したのだろうか。


 想像以上の第二の現実としての生々しさを実感する。だがしかし、彼は現実逃避しておかしくもないその中でも、今自分にすべきことを思い出した。

 

 未だ聞こえる子供達の声、彼らをこの場所から救い出すこと。


 足だけでなく背中の羽も大きく羽ばたかせ、一直線に彼は駆けた。


 「ッ!おった!お前さんたち大丈夫か!」


 ついに救うべき声の主たちをトラは見つけ出した。

 手に持つランタンがなければ窓の光すらもない真っ暗闇のその牢屋には、五人の子供たちがうずくまって、こちらを見つめていた。

 子供たちには全員、手には錠、足には鎖がつけられて逃げられないようになっている。

 さらに酷い子には目に見えてわかる青い痣、赤い血が垂れている。


 彼は自分が撮った写真を思い出した。


 ユウキに見せた3枚の写真のその最後。黒服に暴行され、拉致られる寸前でなんとか撮影を果たしたその男の子がいる。

 

 彼は動揺して立ち尽くす選択肢は選ばなかった。いま自分は子供ら全員を助ける。それをするべきだと考えるまでもなく心で動いていたのだから。


 「よしッ!お前らちょっと離れとけよ!すぐにトラさんが助けたるから!」


 安心させるためだろうか。言葉は強くとも語気は柔らかく、自分で言われたことのない、とさっきまでいっていたはずの“トラさん”というあだ名を使い、彼らに名前を伝えた。

 

 やることは檻をぶち壊すこと。

 自分が抜け出した時と全く同じ、助走をつけて蹴り飛ばす方法。

 その時と全く同じステータス、手順。


 しかし込められた想いが違うのか、連撃する必要はなく、ただの一発で鉄格子を粉々に破壊したのだ。


 彼は泥臭く、手を伸ばして笑った。


 子供たちは彼を。救いの存在──ヒーローだと思った。


 「さぁ!一緒に行くで!みんなでまた地上に戻るんや!」



がんばれトラ

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