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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第二章 砂漠王朝編

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第49話 星の導き

 「んーいい揺れ心地や。いつでも眠れるなぁ」

 「本当ですね。……それに“これ”があるから温度も快適です。」


 移動する箱の中に七人のヒト。

 欠伸をするトラ。

 そして耳の尖ったエルフの男性、レンジさんがブレスレットを顔の前に持ってきてそう言った。


 それはここにいる全員が同じように身につけている、耐暑用の魔道具である。魔法の力で体感温度をマイナス20度する現実世界であったらどんなに高値でも買い手がつきそうな道具。砂漠を歩く前に港で買ったものだが、これがないと動くこともままならない。


 ちなみに市販でよく売られている安いものがブレスレット型であるらしく、金を積めばオンオフを簡単にできたり、好みの気温までリミットなしで下げられ、洒落たネックレスでも同じ効果を得られることができるのだとか。


 それはまだ関係のないことか、とマイナス20度でも少し暑さを感じる、だが初夏のようで心地よい温度の中で世間話をしながら目的地へ揺られていた。


 車なんてない……とは言い切れないが、いままでこの世界でそんなものを見てこなかった俺を動かしているのは一匹の動物、サンドキャメルだ。

 カルナ曰く砂漠の生物の生態系の中で上位に位置する、砂漠で生きていく上でなくてはならない、人間と共生する生物である。

 

 元ネタは明らかにラクダのようだが、足の速さが尋常ではなく、人間だったら足が砂に取られてしまうようなところも、まるで地面がコンクリートのように軽快に跳ねて目的地── バーグラファミリーのアジトに向かっている。


 あの作戦会議兼トラベラー顔合わせ会が開かれたのち、班分に用意されたおそらくレベルの高い高級なサンドキャメルたちの車に乗らされた。

 

 これから待ち構えるのは、マフィアとの対決、誘拐事件の解決、薬物売買の押収といったように並大抵の人生では関与できないような重たい内容で気が沈む……はずだったが、どうしたことか俺にはその感情に浸ることはできなかった。


 なぜかと問われれば、それは邪魔するように脳内と隣の席でずっと話しかける二人のせいとしか言えないだろう。


 「そうだユウキ。暇つぶしにあたしが占ってやるよ。面白いもんが見れるぜ。」

 『おお本職の【占い師】じゃないか!ユウキ受けてみろ。我も知りたいやってみたい』


 アメリアに変に気に入られてしまったのか、キャビン中の座席も横を占領され、興味深そうに話しかけてくる。

 しかしその話の内容は、なにか秘密を抱えていると恐らくバレているはずなのに、その秘密に踏み込むことはせず、好きな食べ物はなんだとか、好きな風景はなんだとか、どこか変わった質問をしてまるで俺を対象として人間観察されているようだった。

 別に嫌なわけではもちろんないため、こちらからも話しかけ、最初から近かった距離はさらに縮み、ついさっきアメリアからお互い呼び捨てすることと敬語を外すことを強制されたのだった。

 

 「占い……か。あんまりやったことないかも。どうやってやるの?」


 彼女の職業は【占い師】。

 占いとよばれてパッと出てくるのは朝の天気予報番組だが、古代から人間はいろいろな方法で未来を予測していたことも知っている。

 

 彼女は一体どうこの世界で占うのか。


 「使うのはさっきあたしの武器に決めた水晶玉。タロットでも数秘術でもない、ただの星読みさ。」


 ほっ、と彼女は水晶玉を揺れる膝の上におきながら、全ての力をその水晶玉一点にあつめるように、両手を震わせて強く念じる。

 

 そして水色に透き通っていたその中身が、ゆっくり、段々と黒く、黒く染まっていく。

 

 それは濁っているのではない。

 

 綺麗な、宇宙の色。

 どこまでも人を吸い込んでしまいそうな情景が、その水晶玉に映し出されていく。


 「……すごい。」

 「な。実は【占い師】の初期スキルはこれだけなんだ。水晶玉に星を浮かばせてマークするスキル。こっからがあたしの仕事。ユウキ、何年何月何日に産まれたか言ってみろ。」

 

 なるほど彼女は【占い師】だから占いできるのではなく、現実の方でも星座占いができるのか。

 それにしてもこの世界にも「星」が存在するのかと、宇宙空間まで精巧に作られているとんでもないゲームなのかと、第二の人類の移住場所というトラの仮説を思い浮かべその規模に震えながら俺は答えた。

 その情報は個人情報そのものだったが、彼女ならば大丈夫かとどこか思う自分がいる。


 「2017年10月10日。」

 「よし、んじゃあ天秤座……ライブラか。……へぇ、なるほどな。おもしろい。」


 アメリアは興味深い結果が出たと言わんばかりに意味ありげに笑った。気になってその水晶玉を彼女からの目線で覗き込むと、無数に写っていた小さく光る星たちのなかで、10個程度の星が強く大きく光る。そして更に互いの光を繋ぐように線が結ばれ始める。


 「天秤座の形は知ってるな。」

 

 その言葉に俺は頷いて返事をする。

 彼女の水晶を覗き見する俺に気付いて苦笑するアメリアはそれを持ち上げて、正式に俺に光る星、星座を見せる。

 俺の誕生星、線で浮かび上がる天秤。

 その両皿には異なる星。

 色は同じ、だが輝きが異なっていた。

 位置する星の数が異なっていた。

 

 「天秤は間違いなく──傾いている。」

 

 果たしてそれはいいことか。

 冗談だと思ってはじまった占いだが、彼女の雰囲気とここが現実世界でないことによって気づけば緊張感を持って彼女の次に続く言葉を待っていた。


 「ユウキの運命は、すでに均衡を失っている。感情と理性、正義と犠牲、愛と復讐。どちらか一方が大きくなりすぎだ。」


 『……ほう。』

 思わずカルナの呟きと共に唸る。

 それは、あまりにも思い当たる節があった。

 ただの星占いだけで、ここまで。


 「このままでは、天秤は壊れ制御が効かなくなる。──つまり人生の選択権を失い、運命を“選ばされる”。天秤は心そのものだ。失った運命、あり得た可能性を取り戻したいのなら、真実を見る勇気を持て。」


 真実。

 アメリアの言葉が強く反芻する。

 家族の死。俺はまだそれを受け入れられていない。

 だから「真実を見る勇気」……?


 いつのまにかカルナの声もスズの声も響かないほどそれは俺に深く考えさせていた。


 「……ま、こんなとこだな。さっきも言った通り占いなんて暇つぶし、ただの遊びだ。当たるも八卦当たらぬも八卦、程よく信じてみればいい。」


 必ずしも占いは当たるものではない。だがそれは俺のこれからの人生の中で特に気を付けていけなければいけないことだと密かに誓った。


 「……そっか。でもありがとう。楽しかったよ。」

 「ふふん、それならよかった。また占いたかったらいつでも言えよ〜。今はないがタロット占いもできるし、どの馬が勝つか、どの数字がいいかギャンブルの占いもいける。」


 役割を終えた水晶をアイテムボックスの中にしまい、彼女はそう胸を張ってどこか自慢げに言った。俺はその言葉の中に、そういえば気になっていたことがあった、と思い出されて質問をした。


 「アメリアはどうして最初から【占い師】と【賭博師】なんて職業選んだの?」


 戦闘職と非戦闘職があることはしっており、おそらく人間らしく生活するため、となれば、この世界に元々住む人間は非戦闘職の人の割合の方が多いだろう。

 しかしゲームとしてここにやってくるトラベラーは、剣と魔法の世界で戦闘をするためにやってくるのではないか、と俺は勝手に思っていた。

 

 「みんなみたいに武器を使う【職業】を選ばなかったのは戦いが嫌いなわけじゃないさ。むしろ好きだ。こんなところにフラッと来るぐらいには。」


 ……確かにこの車の行き先はマフィアの本拠地だった。


 「──あたしがこの世で嫌いなもんは二つある。それは安定した生活と決められた運命。」


 指をVサインのように二つたてて、俺の顔にとんでもない近さでそれを見せつける。気圧されて後ろに引きながら彼女のローブ越しの目を見ていた。

 

 「スリルのかけらもない生き方なんて誰がしてやるか。予測できない人生こそ面白いんだ。ここはせっかく手に入った第二の人生なんだろ?だからあたしはどこまでも自由に生きる!」


 水色の瞳が赤く燃えるようだった。

 

 「あたしは占い師。だがそれは神が定めた運命にしたがって生きるために未来を見るんじゃない。占いが示す『絶対に当たらない運命』の結末を見るためにあたしは所持金持ち物、自分の魂まで全てを賭ける!決められた世界を否定するためにここにいる!」


 それは誰よりも情熱的で、理性よりも直感を貫く確固たる願い。

 世界の否定。

 死の運命を変えたいためにここで生きる自分と一体何が違うって言うんだ。


 『誰にも予測できない人生を歩むためにあえて運命を占う……。ハッ!やはり旅をすると面白い者と出会えるな!』

 

 全くその通りだ。数多のトラベラーが第二の世界に第一の世界では得られなかった夢を追い求めてやってくる。誰かの野望や願いの熱を面と向かって会話できるというのはとても面白い。


 「なるほど。戦いよりもスリル。だから【占い師】と【賭博師】なんだね。……うん。とても素敵だと思う。」

 

 そう至って真面目に言葉が返ってくるとは思わなかったのか、一瞬だけ鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、破顔して彼女は俺の肩を叩いた。

 

 「ふはは!そうだろそうだろー!……あぁ本当にいい出会いだ。砂漠か森か。あのときこっちの道を選んでよかった。」


 それは彼女が今この国にいる訳だろうか。

 あのヘルメットを被ってから世界に降り立ってここに至るまで、きっと彼女は直感に従ってやってきたのだろう。自らの意志で動くアメリアの過去を想像する。


 「なぁ、ユウキはなんかやりたいこととかあんのか?この世界で。」

 

 それは、もちろんある。言葉に出して、再度確かめるように自分のためにも俺は答えた。


 「うん。この砂漠と山を越えて、最愛の人にもう一度会いに行く。」


 片時もユナを忘れることはない。

 目を閉じるたびに彼女の声を思い出す。


 そんな俺の返答を、アメリアは笑い飛ばすことなく「そうか。」と満足げに微笑んでいた。


 その後も談笑が続き、そしてある時、いままで微かに感じていた地面の揺れがぴたりとおさまった。


 サンドキャメルが立ち止まる。つまりもう目的地についたということ。

 

 「お!意外と早かったなぁ。──よし!お前さんたち!この班での最初で最後かもしれんクエスト!死なない程度に死ぬ気で!さぁ気張っていくでー!」


 そうトラが席を立ち、外に出る前にこの車の中にいるトラベラー全員をまとめあげ、鼓舞した。

 若いアッシュさんやアカリさんは元気よく、レンジさんは落ち着きながらも軽く笑って返事をする。

 アメリアもその掛け声にノっかって、これから訪れるだろう未知の出来事に期待を膨らませていた。


 そのレスポンスに違いが見られたのは、車の奥に座る甲冑を被った男性、ヨンガンさん1人だった。

 彼は返事を全くしなかったわけではなく、その逆、拳を強くあげ、ただ「あぁ」と小さく、だが重く、呟き外に吹き荒れる砂の嵐の奥を見つめている。

 

 ……それもそうだ。

 ヨンガンさんは唯一この中でトラベラーではなく、NPC、この世界に生きる人。3日後に生き返る俺たちとは違う、アンやアルスのように一度死んでしまったらもう二度と蘇らない。

 この先はマフィアの本拠地、きっと、避けられない被害が出る。ヨンガンさんにはさらにそこに息子がいる。

 トラベラーにとっては、トラが言ったように『クエスト』、ただのゲーム感覚だ。それが必死に生きる人にとって、命を賭ける場で遊ぶ愚者だと思われてしまうからそう考えてしまうのは間違ったことだ。……なんて俺は言うことはできない。俺もかつて、あの封印の間で、獣人を救うことをただのクエストだと一瞬でも思ってしまったのだから。


 『……それを気にするな、とは我は言わない。自分との戦いだからな。だが、我はユウキの選択を必ず手助けする。悪い奴は全員こらしめて、捕虜を全員救い出せばいい話だろう?』


 その言葉はトラベラーとNPCの間で思想と感情が揺れ動く俺にとって、それでも前に進めと背中を押すような、そんな天啓だった。

 

 『〜〜!』

 『スズもだとさ。……もう車には誰もいない。さぁ、いくぞユウキ。3人で勝つぞ。』


 本当に頼りになる相棒たちだ。

 死なない程度に死ぬ気で。たとえ首が落ちようとも、脳天が剣で貫かれようと俺は絶対に死んだりしない。諦めない。

 

 『DD』という謎の薬物、そして最初にトラに見せてもらった子供が誘拐される写真を思い出しながら、快晴、しかし風が吹き荒れまさに不吉な悪天候の砂漠へ一歩踏み出した。


 唯一バーグラの本拠地を知るトラが、だんだんと合流してくる各班たちすべてを先導する。


 視界も足元も悪い砂漠を大勢で行軍する。

 太陽が照り付けている。憎むように空を見れば、目前には空まで届くかのような山が聳え立っていた。


 『あれがランゴルチュア山脈だ。』


 そうか、あれが限られた人しか踏破できない、未開発区域。ユナに託されたものが眠る妖精の森はその山の向こう側。

 突っ切れば早く辿り着けるがそれは無茶な話、遠回りしてゆっくりとそこを目指す。

 

 この戦いに関わることも、寄り道で遅くなってしまう。けれど、許してくれユナ。絶対に子供たちを救ってみせるから。

 その山を決意と共に睨みつけながら、改めて歩を進める。


 そうやって数分。到着した先は蟻地獄のような、巨大な落とし穴。


 飲み込まれたら死しかないような、そんな自然の恐怖に満ち溢れている。


 ああそれは長年バーグラファミリーのアジトがわからなかったわけだ。ここに身を投げ込む人間は自殺志願者ぐらいしかいない。

 

 トラは仮面を収めた写真を数秒眺めた後。

 ──静かにその穴へ飛び込んだ。


 瞬く間に全身が砂に埋まって完全に見えなくなる。


 周囲は信じられないものを見るように、気でも狂ったかと呟く声が聞こえる。

 誰もその穴へと続こうとはしなかった。


 「トラベラーだから」「生き返るから」とだれかが口にするその空気の中、次に飛び込んだのは、他の誰でもない──俺だった。


 トラは空を飛べるからもし危険であっても帰ってくることができる、と言う情報を知らなかったとしても俺は同じ行動をしていただろう。

 それほど彼を信頼しているし、アメリアの言葉も頭を反芻している。

 リスクなんて、知ったことか。


 そこに人を救える道があるのなら、俺は臆せず飛び込んで見せるから。

 

 

ユウキ以外のトラベラー書くの面白いですね。

このゲームは誰もが主人公になり得ますから。

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