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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第二章 砂漠王朝編

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第47話 能力考察

 「それにしても【天狗】なんて面白いね、トラさん。」


 「まあこればっかりはただの運やけどなぁ。キャラクリの種族選びの時にランダムでルーレット引いたら天狗が当たっただけなんよ。」


 これまで帰り道に話したことは、俺の痛覚が強制的にオンにされることと、DDという薬物?を知っているかという相互確認。

 前者はそういえば言ってなかったっけ、と逆に疑問に思う俺に、喉を貫かれた時の痛みを想像して「ごめんなぁ」と涙を流すトラがおりこちらこそ申し訳ない気持ちになった。

 そして後者はお互い初めて聞いたことと、おそらくトラの写真のあの注射器の名前がDDというものの名前だろう、と結論づけて話は終わった。


 そして次には冒頭のように【天狗】についての話を俺から振ったのだった。

 

 「そんなことできたんだというか、それでいいのかというか、凄いというか……。」

 

 一目見て圧倒的な強さだとわかるほどに、便利で強力な【天狗】という種族が始めたキャラクタークリエイトのあの時間で選べたことに驚愕する。

 

 「いやぁそれにしてもかっこよかったな!〈変身〉なんか言ったりして!」

 「そうだね。まさか羽が生えて飛べるなんて。」

 「…………、………!?」

 「ドロップキックも、飛び上がっての踵落としもかなり洗練されていた。いい技だ。」

 「たしかに。俺がいらないほど強かったね。」


 俺たちはずっと会話をしながらスタスタと出口へ歩いていた。

 だから当然この瞬間も狭い路地を右に曲がったり左に曲がったりしている。

 それが故か、微妙な違和感を抱きながらも、それが本当におかしなことだということに、すぐには気付かなかった。


 「……いやまてまてまてまて、まって!?ユッキー!?この子は誰なん!?さっきまでおらんかったよな!?なんで当然のように会話しとんの!?!?」


 トラの出会った中で最大の困惑の絶叫を聞いて、ようやく俺は違和感の原因を探し始める。

 歩みを止めて人数を確認する。

 狭い路地には、三人。

 俺、トラさん、そして実体化したカルナ。


 「確かにいつのまに俺の体から出て………」


 と、カルナに問うように、無意識のうちにカルナとの問答を脳内で済ますのではなく口に出していた自身なら気づきながら言いかけると、またもや重大な事実に気づいて固まる。


 「ほう?トラとやら、もしや我が見えるのか?」


 そうだ。カルナの体は今はもう肉体を持たず魂と魔力で構成されているのだと言う。それは契約者である俺以外は魔力感知とやらを使わなければ見えないし声も聞こえない。

 じゃあどうして。……あぁ、さらに謎だらけになってしまった。


 カルナの言葉にブンブンと首を振ってトラは答えた。


 「見える見える。どえらい可愛い女の子が!」

 「おいおい聞いたかユウキ!見る目あるぞこいつ!」

 「……確かにカルナが見える目があるね。」


 微妙にズレた回答をして俺たちはまたも話しながら歩き始めたのだった。



    ◇


 

 「なるほどなるほーど!やっぱりカルカルーナからしても、あのDDってやつ放置したらまずいって思うもんなんやなぁ」

 「あぁそうだトラさん。立地的にも金回収的にも彼らがこの場所を放棄するメリットはないし、仮面はおそらく保持しているであろうDDが眠るアイテムボックスの破損をずっと気にしながら戦っていた。あれには『売ったら金になる』以上の利益が、それも全てをかなぐり捨ててでもお釣りが来るレベルの何かがあるに違いない。」


 さらに時間は進んで、いつのまにかあり得ないほど打ち解けていたカルナとトラはDDの正体についての議論を進めていた。


 ……まずはどこから話を振り返ろうか。

 あのトラの絶叫から、俺はカルナの正体を元【魔王】であることと、今は色々あって俺に取り憑いていると大雑把に話した。

 だいぶ困惑していたが、もう俺の存在に割り切ったように「やっぱり面白いやつやな」と豪快に笑いとばしたことでとりあえずカルナの存在を認めたらしい。


 そしてカルナを羨ましがってか、俺の体からスズも勝手に飛び出してきたところまたもやそれも視認することができて、トラに体内シェアハウスでもされとんの?ともはや呆れられながら突っ込まれた。


 ちなみになぜトラが二人を見えるかの理由を検証したところ、どうやらフレンドという機能が原因であるらしかった。フレンドを解除すれば見えなくなり、またフレンドになれば再び見えるようになったとのことである。

 なぜフレンドの機能が?と思うが、二人のことをずっと隠し続けるのも面倒なので、大人しくこの便利機能を使わせてもらうことにしよう。


 そして次は……カルカルーナについてだな。

 俺を突然ユッキーと呼んだようにどうやらトラには人にあだ名をつける癖というか習慣があるらしく、カルナと名乗った2秒後に「じゃあカルカルーナやな」と名付けた。名付けられた本人は爆笑していた。それでいいのか、ほぼカルボナーラだぞ。

 さらに追加でスズをリンリンと名付けた。名付けられた本人は声を鳴らしながら宙を舞っていた。それでいいのか、ほぼパンダだぞ。


 「……撤退は2日後、……そんならやっぱ叩くなら明日、やな」


 トラは小声でそんなことを呟いた。

 叩く?と何をか疑問を口にしようとしたその時、痛いぐらいの太陽の光が全身を包み込んだ。


 「ッ、……あ、大通りだ。……よかったようやくついたね」

 「おおおお!また太陽が拝めるなんて!」


 いったいどれほど歩いたか、話は盛り上がりそれほど時間が過ぎ去った感覚はなかったが、今はもうおそらく5時を過ぎる濃い太陽の色だ。

 まあその理由は、トラの極度の方向音痴と、気の赴くままに勝手に歩くカルナのせいであるのだが。

 ……明らかに同じところをぐるぐるまわっていながらも気づかないフリをして話を長引かせた俺もかな。


 「思ったより長引いてしまってごめんなぁユッキー。」

 「いや、大丈夫だよ。トラさんはこれから報告があるんだっけ?」


 チンピラに遭遇する前に言っていたようなことを思い出してそう尋ねる。

 

 「あぁそうやな。……ユッキー、早速やけど明日暇か?」

 明日?と思うが、察しが悪い自分ではない。その質問を行う意味はただひとつだろう。

 明日というのは、この世界での明日のこと。


 「うん。……バーグラが撤退する前に、本拠地を攻撃するんだね。」

 

 質問から一歩進んだ答えに、よくわかってるなと優しく笑って彼は首を縦に振った。


 「そうや。叩くなら明日、現実世界ならその三分の一がベストタイミング。……今からオレがお偉いさん方やフレンドに掛け合ってできる限りの戦力を揃える。そして、明日、襲撃決行や。」


 メガネの奥が鋭く光る真剣な瞳。

 その作戦を最初に聞いたのは俺であるということ、つまり戦力として数えられているということに、手を握りしめて決意する。

 重大な“何か”が起こる前に、彼らを止める。


 その緊張感と使命感を抱くのは俺だけではなかった。


 「ふふ、面白くなってきたなユウキ。」

 「〜〜!」


 運命を共にする二人がいる。


 「わかった。マフィアの真実を暴こう。」

 「よっしゃ!決まりや。今一番頼りにしてるのはどんな人間よりも、ユッキーやからな!」


 言葉にプレッシャーを確かに感じるが、それは心地よい重さだ。依存ではない、信頼。それが嬉しい。


 「もうバーグラファミリーの本拠地の場所はわかっているの?」

 

 もちろん叩くにしても叩く先が必要だ。彼らが必ずいるような、大事な何かを保管するようなアジトが絶対にあるはず。でも普通ならその場所は秘匿されて見つけにくいような。

 そこまで考えたところ、トラはふっふっふと不敵な笑みと共に、一枚の写真をアイテムボックスから取り出した。


 その写真は、先ほどの争いで撮影したであろうものだった。

 仮面の頭のてっぺんから爪先までの全身が映っている、そんな写真。

 

 「オレの【異能】は全身を写真に収めた人物の動向が、撮影開始から三日間全て把握できる。」


 彼と食事中に話した【切り取られた刹那(シャッターチャンス)】に関しての説明を思い出す。確かにあの時、ちょろっとだけだったが写真を撮った相手を尾行できる能力があると確かに言っていた。

 いったいいつ撮っていたのだろうか。

 俺にも仮面にも気づかれずに遂行した、豪胆さと予見能力に素直に感心する。

 

 「ほう。やれることが多様で便利な異能だな。それは。」

 「オレもそう思うわー。こいつのおかげでレベリングも捗ったしなぁ」

 「レベリング?」

 「魔物倒してレベル上げることをそういうんやけど、飛んでる魔物の動き止めて落下死させたり、希少な魔物をわざと逃がして巣を見つけて放火したりして……、今多分一番トラベラーん中でレベル高いんやないかな」


 レベルが上がらない俺にはその作業は縁のない話だが、やってることはかなり卑怯めいたものの一方、自身の持つ異能の特性を把握してその方法を思いつくトラにまたもすごいと思わざるを得ない。


 「まだあの仮面は移動中やな。国の外の砂漠猛ダッシュしてんのがわかるで。」

 「へえそこまでわかるんだ。……でもちょっと不思議だね。トラが倒したあの3人は誘拐、テレポートしてどこかに送ることができたけど、術者は自分をワープさせないんだ。」

 「それに関しては我に仮説がある。ワープ──空間転移魔法は複雑かつあまりにも関わる分野が多すぎる。移動先の確認のための魔力感知、座標の演算能力、記憶能力。精密性に非常に関わる精神の強度。さらには魔力消費も多すぎて実戦向きじゃあ使い物にならん。少なくとも500年前はな。」


 カルナは少ないヒントから、俺もトラも唸るほど、敵の能力をロジカルに紐解き始めた。


 「だが魔法理論、世界のシステムというのは簡単に進化せん。よって魔法でワープしたのはあり得ない。あの仮面が人を消して見せたのは【異能】に違いない。」

 

 そうか、この世界には【異能】とはまた別の概念として【魔法】もあるのだと改めて気づかれる。


 「異能は、魔法という法則性に従って引き起こされる奇跡とは違う、世界のシステムを超えた本物の奇跡だ。だが、異能は得た能力の現実への影響力に応じて必ずどこかで帳尻を合わせようとする。」


 「……それが制約?俺が生き返る代わりに他者を攻撃できないような。」


 「そうだ。何かを得るには何かを犠牲にする。それが『蘇生能力と引き換えに攻撃禁止』のようにルールで縛りつけるのもあるし、『植物を成長させるのにHPを支払う』というように何かの交換もあり得る。ワープ理論の細かいところを全部無視して異能で実行するのにはなにかしら相応のコストが必須だろう。」


 トラは顎に手を当てて少し考えたあと議論に参加した。


 「ふぅん。んじゃあそうやなぁ。……対峙してみてあいつの能力のルールに思い当たるのは、『自分をワープさせられない』、『相手をワープさせるには触れなければならない』、とかか?」

 「あと俺たちを飛ばして自分の身を守らなかったってことは『戦っている相手を飛ばせない』、もしくは本拠地に繋がってるから飛ばしたくないみたいな『ワープ先が一つしか設定できない』みたいなのもありそうだね」


 戦闘中は思い浮かばなかったが、確かに何でもかんでもどこかへ飛ばせる能力なら強すぎる。クールタイムだとかルールだとかで縛られて調整されていたのか。


 「なかなか勘が鋭いな二人とも!我が言おうとしていたことが全部言われてしまった。少し長くなってしまったが……、伊達に長生きしていない我がこの話をした理由は伝わったか?」


 俺とトラは同時に頷く。


 「異能力持ちの相手との戦いにはその異能のルールの把握からってことやろ?」

 

 トラとの同じ答えにカルナは笑った。


 「うむ!正解だ!相手ができることよりも、できないことを把握した方が戦闘に有利である。戦いとは『その条件なら自分は最強である』の押し付け合いだ。抜け出すためにはその条件の脆い箇所を突いてこっちのターンにすればいい。」


 それには確かに理論的な面もあるし、長生きしたからこその実践で経験した深みがある言葉でもある。


 「……なるほどな。いやぁ、めっちゃ勉強になったわ。情報屋の立つ瀬なしや。ほんまにありがとうカルカルーナ」

 

 それほどでもないさ、と言うカルナを横目に見れば、その視界の先には、路地裏とは打って変わっての露天商や街でパフォーマンスを行う踊り子などの派手な絵面が視界に入っていた。

 いつのまにこんなところまで来たのか、来た時よりも少し落ち着いて静かになった、けれどまだ騒がしく陽気な街並みを見て感慨に浸っていた。


 「そういえばもうすぐギルドに着くんやけど……、どうする?ユッキーも一緒にギルド長と話す?明日の作戦会議多分行うで。」


 その提案は願ってもない話だ。ギルドという組合はファンタジー世界では頻出である一方この世界でのギルドについては詳しく知らない。だがその単語はユナの病院内での話の中でよく出ていた。ユナを深く知るための交流を深めるチャンス。すぐに返事をしようとした。


 だが、俺の発声を遮るように、無視はできないほどの大きさのウィンドウが視界を埋め尽くす。

 それは楽しい仮想世界から現実世界に引き戻す警告だった。


 〔警告:睡眠不足を感知。ログアウトを推奨。〕


 ……これは流石に苦笑いせざるを得ない。


 「……ごめんトラ。生きたいのは山々なんだけど、睡眠不足ですって今言われちゃった。」


 彼は俺の謝罪を聞いた一瞬少し残念そうな顔をしていたが、理由を聞いて、安堵の笑いをひとしきりしたあと許してくれた。


 「はっはっは!なんや、睡眠不足なら仕方ないわな。俺もたまーにあるでー?それ今ここにいる自分はなーんも眠くないからログアウトしたなくて嫌やけど、あっちに行った瞬間秒で気絶するぐらいすぐ眠れて気持ちいいんよ。」


 一応現実世界では目を瞑ってゴーグルをかぶっているが、それは睡眠判定ではなく疲れは溜まっているのか。

 まあそれもそうか、めちゃくちゃ脳使ってゲームしているわけだし。


 明るく見送りだす準備を始めるトラのその一方、「えー」と文句を言う一人と一匹。


 「これからが面白いんだぞ?ユウキー。」

 「〜〜……」


 ぶーぶーと不満げな顔をするカルナと、今は実体化しているため体を貫通するが、俺のお腹をずっとアタックし続けるスズ。

 そんな彼女たちが可愛らしくて、まだ帰りたくないと言う気持ちと共に笑顔になりながら謝った。


 「ごめんごめんって。すぐ戻ってくるから。」


 そう言った俺になぜかカルナは、ふっ、と顔を緩めて暖かな声色でこう言った。


 「なぁにただの冗談だ。急がなくとも良い。……ゆっくり体を休めてこい。それがユウキのためだろう。こっちを気にするな。」


 優しく穏やかな言葉は俺の心に温もりを与える。 

 カルナと感情と思考も共有している。だからきっと俺のこの気持ちも伝わっているはずだが、あえて言葉に俺はした。


 「ありがとうカルナ、スズ。……じゃあトラさん、一回ログアウトして寝てくるね。」


 「おう!カルカルーナの言う通りゆっくり休んでこい、現実での体調ってここでも結構影響するらしいから健康にな!……あ、それじゃあ明日、ギルドの前、丁度この場所でゲーム内時間五時に集合に調整しとくわ!8時間しっかり睡眠してくるんやでー!」


 しっかり俺の事情も考えてくれているトラに礼を言いながら、俺は空中に出現させたウィンドウのログアウトボタンを探す。


 8時間後。……いま現実で何時だ。寝落ちする前に目覚ましをセットしておかないとな。

 そう思いながら、カルナの目を見て見つけたログアウトボタンを押す。


 それじゃあ、またね。


 俺の意識がこの世界から剥がれていくような、感覚が最後だった。


    ◇


 「………ん、……んん……っ、」


 現実に戻って始めに感じる、体を動かすことの重さにはまだ慣れない。

 暗闇の部屋、脳内で声が聞こえない静かな空間。


 前までは当たり前だったのにそれが今や違和感の原因だった。

 だが今に限ってはそんな違和感よりも………


 「…………はっ」


 危ない。これは危ない。今気を失っていた、というやり確実に睡眠していた。

 トラがいうようにもう体の活動限界はとうに超えているようで、いつ気絶してもおかしくない眠気が常時襲っている。

 

 こんな感覚は初めてだ。

 頭にヘルメットを被った状態でも余裕で熟睡できるその状況に、俺は最後の力を振り絞って、脱ぐことから始める。

 

 でももうそれが限界だ。

 意識がはっきりしない。


 無理やり起きるよりも……、これは……、もう寝た方が健康にいいな…………。


 おやすみ…………。





 ………っ!目覚ましだけ、かけとかないと!

 

 

VRっぽくレベルシステムがあるものも好きですが、異能バトル系っていいですよね。誰が最強、とかじゃなくて、雑魚能力でも条件次第でいくらでも勝ち筋が見える戦いが好きです。

……まあ、この世界もレベルでゴリ押しされたらきついんですけど。

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