第40話 新しい武器、不穏な砂煙
『お!あれをみろ!新しい植物だ!』
砂埃が舞う砂漠のど真ん中、あるものが視界に入ると頭の中で言葉が響いた。
新しい植物。そこには緑色の海辺に打ち上げられた昆布のような不思議な物体だ。
それに無性に惹かれ、カルナも近づけと暗に言っているので、次の街までの軽く舗装された一本道を少し外れて観察しに行くことにした。
『ふむ。やはりこれは[デザートウィッチ]という植物で間違いないな』
「へぇ、砂漠の魔女……か。博識だねカルナ。」
『ふふふ、伊達に長年生きてきたわけではない。物騒な名前だが、この植物は生きていくための面白い特徴があるのだ。』
俺にスキルとして最初に備わっていた〈鑑定〉の出番を置き去りにして、脳内ウィキペディアの彼女が細かく説明してくれる。
大きさとしては、高さは膝あたりまでなのに対して、横幅は二メートル程度もある、まさに横たわった巨大な昆布だ。
「面白い特徴って?」
『過酷な環境で生きていくために、体を守るための分厚い表層と、それがあるものの使用を最小限にし、逃がさないように蓄えているのだ。……ほれ、剣で突き刺してみろ』
あるもの?と疑問に思いながら、言葉通りアイテムボックスからいつしかの剣を取り出し、その植物の端っこを軽く切りつける。
分厚い見た目に反して、案外簡単に刃が通った。
剣が植物の表と裏を貫通した瞬間、あるもの、いや、ただの水が少しずつ流れ出した。
放出されていくのは微々たる量だが、その勢いが止まる様子はなく、それがかなりの量の水を保っていることがなんとなく感じられた。
その水が全て出ていく前に、そのブニブニとした表皮に触れて、アンの異能を用い傷を補修する。
「やっぱり魔法の世界といっても水は必要なんだ。……にしてもすごい、こうやってここの植物は生きているんだ。」
『砂漠の植物は、自らの種を増やすというよりも長く生きてその個体数を増やす生存戦略をとっているものが多い。このデザートウィッチという名前は、魔法のように長く生きる存在なのが由来だ。たぶんこの大きさのものは千年は軽く生きているだろうな』
そう驚きの数字を伝えられながら、自分の歳よりもはるかに長くこの世界を見ているその植物に、敬意の念と共に、傷つけてごめんね、と優しく表皮を撫でた。
『これは新しい武器になり得るかもしれんな。種子をもらっておけ』
「……あ、確かに。いろいろな植物を扱うことができれば、拘束以外にも〈成長〉の役割が増やせるかもしれないね。」
〈成長〉といえば、あの島で見つけた[カナツリ草]という薬草にもなる、茎が長い植物を、自由自在に伸ばして何かに絡んで捕まえるという使い方しかしてこなかった。
だが、このような形も元の大きさも違う種を〈成長〉させたらいったいどうなるのだろうか。
俺は気になって、カルナのアドバイスを聞き入れて、老植物から種子を拝借してそれを手に握りしめる。
少し離れたところに移動してから、俺は砂の地面にその種を蒔いて、そこに触れ、〈成長〉と強く念じた。
その瞬間、何度目かの異能の発動を示す、光が手と地面から現れる。
一瞬のうちにその植えた種は、芽を出し、双葉を出し、根を広げ、大きく、大きくと体を伸ばし始める。
三秒もかからない一瞬の間、ついにその植物は、横のオリジナルの千年生きた植物と同じ大きさになった。
成長の代償となった俺のHPは120ポイント程度。もともと使っていた植物より大きく消費し、超過回復なしの状態であればレベル1の体力と同じという、即死のコスパだが、それが千年分と釣り合うとすればまだ良心的か。
『これは……防御に使えそうだな』
「防御?」
『あぁ。この植物はさっきユウキがやったように斬撃には弱い。しかし、体の中に蓄えた水を守るため、表皮は衝撃に強く進化しているのだ。そして耐久性があるだけでなく砂粒を弾くために弾力性もある。」
「なるほど。……どこでも生やすことができる盾と考えれば、とても強そうだ。」
俺はその“新しい武器”である種を、成長させたその植物からたくさん採取して、アイテムボックスにしまった。
次の街までの一本道に戻り、俺は改めて、周りの景色を見る。
砂しかないと思っていたその場所は、よくみるとところどころに緑がある。
そこにあるのは、一つの確かな命。
過酷な環境で育つそれらは、俺に新しい道を与えてくれる。
……本当に、カルナといると、自分の人生の視野が広がっていくようだ。
◇
まだ人間が住むような街には到着していない。
だがしかし、俺の興味とカルナの指示により、植物に関わるいろいろな寄り道をしながらも、俺たちは少しずつ、大きなオアシスへと近づいていた。
俺はアイテムボックスの内容を確認できるウィンドウをみて、種類が増えたその種を眺める。
水を蓄える長寿の盾の植物のほかに、俺たちはまた新しく二つの有用そうな植物を見つけたのだ。
まずは一つ目。
「お、あれはサボテン?」
『あの棘のある多肉植物のことだな。あれは[ボンバーカクタス]。……触ってみろ。面白いぞ」
「ねぇ名前的に絶対爆発するよね?」
『やはりバレるか。まぁ冗談だ。そうだ、あの植物は触れると──っておいッ!?なぜ触れたユウキ!』
『〜〜!?』
「わぁすごい爆発した。」
『お前というやつは本当に……。ユナとそっくりだ』
「ふふっ、嬉しいね」
『全く……。この植物は生き物に接触すると、それに反応して身を守るために棘を飛ばす。そしてその棘は種の役割も兼ねているからこうやって遠く離れたところにぽつぽつと育っているのだ。』
「なるほどね。この種も貰っていこうか。」
『うむ!ダメージを与えることはおそらくできんが、爆発の時に大きな音が鳴る。陽動にはなるだろう!』
というわけで得たスタングレネードサボテンと、もう一つ。
「……うん?あれって……植、物?」
『ん?おお、よく気づいたな!周りと色が同化していて我も一瞬わからなかった』
「確かに見にくいね。この植物は敵にバレないようにこうやって生存してきたの?」
『ふむ、それもあるが……。これの名前は[サンドイーター]。葉をよく見てみろ。口のようなものがあるだろう?こいつはそこから砂を取り込むのだ。』
「確かに口がある……。砂って栄養あるんだ。」
『普通はないさ。だが他の植物が砂を食べないからこそ、砂を食べても生きていけるように進化してきたのだろうな。色が変わるのはその食生活のおまけのようなものだ。」
「なるほど他の植物と被らない別のものを食べる……、そういう生存方法もあるんだね。」
『あぁ、そしてこの植物は……、触れてみろ』
「わかったよ──っと、おお!砂を吐き出した。…………え?は、吐き出しすぎじゃない?」
『と、捕食者の意識を逸らすためにこのような砂煙を作り出せる。』
「ケホッケホッ、……視界を遮られるのか。これもいいね。種を貰っていこう。」
そんなこんなで得た煙幕食砂植物。
三つの新しい武器を手に入れた俺は、柄にもなくその効果を実戦で確かめてみたいと、魔物を探し求めてしまっていた。
だが厳しすぎる環境のせいなのか、そこそこの時間歩いていても、一匹も凶暴な生物を見つけることができない。
人間が通るのを想定した道がある、といっても手入れもされておらず、人間の手が生態系を変えているとは思えない。
『うーむ……。魔物がいないことは別に良いことなのだが、あまりにも少なすぎるな。五百年前はこのあたりはワーム種がうじゃうじゃと生息していたものだが』
カルナが脳内の俺の言葉に応えて、彼女も疑問に思っていたことを知る。
ワーム……、ミミズのようなうねうねした虫のことだっけか。砂漠にうじゃうじゃと巣食うそれら。
……それの実際の大きさがどんなのかはわからないが、あまり考えたくもないな。
「考えられる原因とかある?」
『ふむ……。まぁ我らよりも先にこの砂漠を通った人間が魔物を全部倒したという説も全然あるな。』
「まあそれもそうか。……あれ?俺たちより先に街を出発した、車に乗った人たちはどこの道を通ったんだろう。もしかしてその人たちが倒してくれたのかな」
こんな獣道の砂漠とはいえ、一応ここは超大陸の港と街を繋ぐ場所であり、人通りも多いはずだ。それならば一般の客や車に乗る人に被害が及ばないようなつくりになっていてもおかしくない。
車に護衛人が乗っていて、それらから身を守ってくれるとか。
あるいは便利な魔法もあることだし、一見こんなガラクタな道でもしっかりと機能してそれらを近付かせないようにしたとか。
『……いや。おそらくその可能性たちはないな。魔物避けの魔法もあるにはあるが、この道に見られん。……そして今気づいた。戦闘があったという説はやっぱりなしだ。ワームと戦う時は地面に潜って派手に暴れられるため戦闘痕は荒れるはずだ。』
「……全然綺麗だね。」
『あぁ。だがここに魔物が完全に存在しないとも言い切れない。』
「というと?」
『車を引っ張っていた生物、サンドキャメルはワーム種の天敵だ。それにここら一帯の食物連鎖の頂点でもある。あぁみえて力もあるし足も早い。それに穏やかで人懐っこい。実は古来からあれに乗るだけで魔物避けになるのだ。』
「サンドキャメルって肉食なんだ……。じゃあ車に乗ってる人は魔物の危険をスキップできるってわけね。」
そうやってカルナと会話をしながらも、変わらず俺たちは歩き続けている。
ユナの元へ行く、という本筋からだいぶかけ離れていて、かつ、そんな小さなことを真剣に話しているのは、この世界の現象が“ゲームだから”という領域で済まされず、しっかりとした因果関係があり、それを解明しようとするカルナがいるからだろう。
こうやって話している瞬間が、俺は面白く感じているのだと思ってしまう。
『あの街の異常なまでの警告看板をみただろう?徒歩を控えろといっていたのは暑さだけではなく、魔物がいるからだと我は思ったのだ。』
「……って、それ初めて聞いたんだけど。」
『ははは、言ってないからな』
「……。まあいいや、じゃあやっぱり魔物がいてもおかしくはないんだよね。」
『おかしくはない……が、限られた情報だけであれこれと考えすぎるのも良いことではない。次の街についたら理由を聞いてみることにしようではないか。』
この会話の着地点はここらでおしまいにしよう。
次の街への楽しみがひとつ増えたところで、俺は相槌をひとつ打つ。
「そうだね───っ、……カルナ。何か、倒れてる」
俺は、あるものを砂漠の奥に見つける。
その色は、種として手に入れた植物の色ではない、砂よりも濃い、茶色の体毛と、白い布の何かだった。
『あれは……、ッ、サンドキャメルとその車だ!』
カルナの大きくなった声と同時に、俺はそこへと走り出す。
噂の、砂漠の案内人と、それに載せられる人間たち。
俺はこの魔物一匹も見つからない、カルナが言うおかしな事態と、その目の前の光景が、どことなく関連していることのように見えて、いてもたってもいられない気分になったのだ。
◇
「誰も……いない?」
遠くにあったその事故現場に近づいて、倒れたキャビンの中を見れば、中にいたであろう人たちはみなどこかに消えているようだった。
いたであろう、と俺が思うのはキャビンに剣や鞄、アクセサリーが乱雑に転がっていたから。
誰かがそこにはいて、何かが起きて、全てを置いて逃げざるを得なかったそんな状況が推察される。
『外を見てみろ。』
少し人の温かさを感じる荷物に触れて考えていると、カルナからそう言われ、車の外に出る。
その車の動力源であった、キャビンを繋ぐ生き物であるサンドキャメルは地面に力無く横たわっている。
心のどこかでそうはならないでくれ、と生物の呼吸、心臓の鼓動、〈鑑定〉までも使って確認してみれば、そのどれもが俺の望みを否定していた。
死亡。
俺は言葉には言い表せないような気持ちで、救ってあげたかったと自分勝手に思いながらも、まだ俺の力は死んだ動物を生き返らせることができない事実に拳を握りしめる。
じゃあその死因は、と体を探ってみても、外傷が一切見つからずなにも推測のしようがない。
死体は腐ってはおらず、一日も経過していないだろう。俺たちが砂漠に出る前に出発した車があったはずだ。通るなら同じルート。
もしや、その車が、これ?
それは、まるで人間だけが攫われたような、そんな不可解な謎を残している。
『……これは、確実に何か事件が起きている』
「……うん。俺でもわかるよ。足跡も一つもない。ここでなにが、どうやって……?』
『魔法も異能もある世界だ。方法を知ることはほぼ不可能だ。』
俺の頭によぎったのは、人の誘拐。
確証はない、が、道端でこの動物が倒れて、乗客が降りて歩いたとは思えないのだ。
魔法での犯罪。
そんなものがあってしまったら、一体世界はどうやって秩序を維持しているのだろうか。
その押し寄せる不安を、カルナが遮った。
『大丈夫だ。その謎を突き止めるために作られた魔法もある。全てが無秩序な世界ではない。……早く街へ行って衛兵に報告しよう。我らにはそれしかできない。』
ユナが愛した世界が、決して犯罪にまみれた世界ではないことを、彼女は俺を安心させて言い聞かしてくれた。
「……そうだね。うん。街へ急ごう。」
強く決心して、早く行かなければならない理由をもうひとつ作る。
だがその前に、横に倒れて、奇怪な死を遂げたままのサンドキャメルを眠らせるように、植物を使って一本道の外へやり、そのまま砂漠の土地に埋めてやった。
いつか、理不尽な死を遂げたものを生き返らせるようになりたい。
そんな生命の常識を否定して、我儘で、利己的で、傲慢な願いを抱いていた。
定型分:感想、高評価等励みになるので、お願いします!!!
本当に、お願いします。
毎日、19:00更新。ストック尽きるまで。
───
方向性は定まったかな?
植物が武器なので、ご当地的な戦い方ができます。




