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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第二章 砂漠王朝編

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第38話 二日めの朝

 「『Another World』。起動。」


 ベッドの上でそう俺は呟くと、三回目の浮遊感を味わった。

 これからあの世界に戻る。

 簡単な食事をしたり、身の回りのものを全て片付るなど、再びログインすることができる準備を二時間もかからないうちに完了した。


 カルナたちを待たせているんだ。


 カーテンを開いて外を見れば、もう真っ暗だ。

 だが不思議と眠たくない。

 今は何月の何日だっけ。そういえば時計は見たけど日付は全く覚えていない。学校はどうなっているんだっけ。


 ……いや、そんなことは今の俺にとってはどうだっていい。

 現実逃避だとなんだと言われようが、今の俺の居場所は、生きている意味は、もう一つの世界にしかないからだ。


 

 足が地面につく感覚がした。

 ベッドで寝ていたはずの自分が、まっすぐ立っているのを自覚してから、目を開ける。

 あたり一面が暗闇の世界だった。

 

 この景色も何度目か。


 しかし、いつもとは違って、最初からその空間には“誰か”がいた。


 「おかえりなさい。あなた。」


 彼女は布で顔を隠していた。

 謎が多い人物だけれど、彼女の名前は知っている。


 「ただいま。イザナミ。」


 空虚な世界には俺とイザナミの二人のみ。

 目を開けた瞬間、遠くの方へいた彼女に向かって、歩きながら話しかける。

 

 「もう一度、会えたね。嬉しいよ。」

 「私もです。あの後もずっとあなたの視界から、外の世界を見ていましたよ。綺麗な景色でしたね。」

 「そうだね。絶景だった。……イザナミにもまたそんな素晴らしいものを見せるために旅をするよ。」


 彼女もまた、ずっと“孤独”だった身。

 どこか上から目線だ、という自覚もありながら、俺は心から、俺の心から生まれた彼女に告げる。


 「……!ふふっ、ええ、お願いしますね。」


 顔はよく見えないが、それでも彼女が笑っているのが伝わった。

 

 「……それでは早速、船の上にお戻りになりますか?まだ目的地には到達していませんよ。」


 船が大陸に着くまでには七時間の計算。ログアウトしてから二時間も経っていないためそれは想定内だ。

 少し時間があると俺は思い、目の前の彼女に質問をする。

 

 「戻る前に……聞いてもいいかな。他のプレイヤー……トラベラーにも、こんな空間や、君みたいな子がいるの?」

 

 あの世界で二十四時間、現実で八時間経った現在でもまた、存分に大拡散されたネットの情報収集能力を用いて【異能】について調べても、そのヒット数は依然ゼロのままだ。

 ひょっとすれば【異能】は、トラベラー関係なく少数のものにしか発現しないのではないか、と思いもしたが、それならチュートリアルの時に出てくる火の玉は、イザナミがそうであったように、のちのその人の異能である必要があるはずだ。


 あれこれ考えても埒があかないため、一番理解しているであろう彼女に俺は尋ねたのだった。


 「『こんな空間があるの』と問われれば答えは“イエス”です。ここは現実とあの世界を繋げるための中継地点のようなものですから。」

 「じゃあトラベラーは一度ログインするたびにここに来るんだ」

 「ええ。入るには一手間かかりますが、出る、ログアウトには、あなたが体験した通りここを経由しません。」


 確かに言われてみればそうだ。あの世界でログアウトボタンを押して呟けばすぐに現実に戻って来ることができた。


 「そして『私みたいな子がいるのか』と問われると、それは自信を持って答えることはできません。……あなたに言うのも、といったことではありますが、そもそも私自身、あなたの【異能】であるということしか、確固たる証明はないのです。」


 彼女はゲーム上の、トラベラーを導く特別な存在。

 しかし、俺は彼女の境遇も知っている。


 「……そっか。記憶がないまま、知識だけ持ってここにいたんだもんね。必要のないことだからって知らされていないこともあるか。」


 別に答えを得られなくたって構わないのだ。

 まだゲームがリリースして一週間も経っていない。時間が経てば情報も増えることだろう。


 だが彼女は想像以上にそのことに落ち込んでいる様子だった。

 必要のない謝罪を述べながら、彼女は話す。


 「お力になれず申し訳ありません。……ですが、【異能】はトラベラーひとりひとりに必ず宿る、願いの塊。それが私のように、姿を持ったり、声を持ったり。……“心”を持ったりしているかはわかりません。しかしきっとどこかに私たちのような人がいるはずだ、とそう私は思います。」


 彼女も自らの存在に思うことがあるのか、一人ではないんだと言っているように、願う様子を見せた。


 「そうだね。……【異能】はトラベラーに必ず宿る……か。」

 

 彼女の言葉でやはり、確信した。

 まだ情報がないだけだ。時間が経てば、トラベラー個人個人が自らの願いを自覚して【異能】が生まれるようになる。

 そうすればきっとその真実もすぐに知ることができるだろう。

 

 俺が今その追求のために行えることはなにもない。

 ただそれを知る前に、時間を有効に使って、日々を過ごすだけだ。



 「そろそろ、行きますか?もう窓から朝日が見えてきましたよ。」


 ここは真っ暗闇の空間なはずなのに彼女はそう言った。

 彼女はここにいながらも外の世界の様子も見ることができる。きっとそれは嘘ではなく、もうすぐ大陸に辿り着くことになるだろう。

 俺はそれが少し名残惜しく感じながらも、首を縦に振る。


 「……うん。行くよ。」

 「わかりました。それでは私が扉を開きます。」


 チュートリアルが終わった時に、いつのまにか現れた、豪華な装飾の、大きな扉。

 どうやらログインのたびにこれを通り抜ける必要があるらしい。

 

 彼女の言葉の合図によってその扉はゆっくりと開く。そこからは光が差し込んでいた。


 イザナミの温かな手に優しく押され、その先へと、導かれる。

 

 「それじゃあ、いってくるね。」

 「ええ。いってらっしゃい。良い旅を。」


 送り出す彼女の姿をみて、俺は、心に何かを感じた。


 ただいま。いってきます。

 そんなことを誰かに言えることが、俺はとても嬉しかったのだ。

 現実ではもう誰もいないから。

 

 ……トラベラーは【異能】を確実に宿す。

 

 それじゃあユナは、いったいどんな【異能】だったのだろうか。


 そのようなことを考える一瞬の間、俺の思考はぷつっと途切れて、別の世界に転送された。



     ◇



 体が重力に従って後ろに引っ張られているような感覚がする。


 少しだけ弾力のある地面。いや、ベッドか。

 ベッドの上でゲームを起動して、立ち上がる空間を挟み、そしてまたベッドの上で目を覚ます。……やはり限りなくリアルに近い世界がもうひとつあるとは不思議なものだ。


 俺は体を動かしてベッドの外へ足を出し、そのまま立ちあがった。

 寝る前に閉めなかったカーテンからは、茜色の丸い光が、海一面に反射して、今が“朝だ”ということを精一杯告げている。

 それを見て、つい気持ちよく伸びをしてしまった。

 その瞬間、俺ではないもう一つの声が頭に響く。


 『ふぁあぁっ、……んーっ。……ん?……お、おはようユウキ』

 

 それは俺の体に住む同居人、カルナの声だった。

 彼女は俺がログアウトしている間、まるで睡眠していたかのように寝起きの様子で、なぜか少し恥ずかしげにあいさつの言葉を送った。


 「おはよう。カルナ。……どうだった?」

 『どうだった……って、なんだか、とても気持ちよかったなぁ……』


 まだ寝ぼけているのか、虚げに、なんとなくも掴みきれない返事をし、俺の体から出て、声だけだった存在が形を持つように変形していく。


 「よい、しょっと!」と彼女は言って、窓の光を存分に浴びられるベッドの側面に座る俺の横に、勢いよくダイブした。

 彼女のすり抜けられる体質のせいか、まったく空気が抜ける音もしなかったが、柔らかい毛布に、幸せそうな顔をして顔を埋める少女の顔は、先の言葉通りとても気持ちよさそうに見えた。


 「これが……睡眠というやつかぁ」

 「………え。もしかしてカルナって寝たことなかったの?」

 「魔王に睡眠などいらんのだ……。もう魔王じゃなくてよかったぁ……。今の姿が一番幸せだぁ……。睡眠……。」

 「一番がそれでいいんだ。」


 そんな衝撃の事実に驚きはしたが、まぁ睡眠って一番生物にとって無防備な瞬間だからな……。明らかに強そうな魔王はその無駄を省いてもおかしくないよな、とどこか納得し始める俺がいた。

 

 「……それじゃあカルナは封印の五百年、ずっと起きてたってこと?」

 「うむ。“寝る”という感覚もわからんかった。……ユウキがこの世界から消えた瞬間、我の体が真っ暗な世界に放り込まれたのだ。なんだこれはと思って探索しようとしたが、もう思考がおぼつかないのなんの。動くやる気も出ず、我の思うままに行動したら、いつのまにか……、ふわぁ、……寝ていた。」


 なるほど。俺が現実に戻っている間、カルナも別の世界にいてそこで寝ることしかできそうにない、ということか。

 その体験を聞いて、彼女の存在、“魂”と彼女は呼ぶその体についても、より深く聞こうとしたが、よだれを垂らして満足そうに目を閉じる姿を見れば、何か言うのは野暮だと思ってやめた。

 まぁ兎角、カルナが寂しそうにしていなくてよかった。

 ずっと独り寂しくこの部屋でいたら、これからそうおちおちとログアウトできなくなるところだった。


 俺はほっと息をついて、窓の外を見る。

 そして、思い出す。


 「……あれ、スズは?」


 最初の島からこの旅に着いてきてくれている、あの子はどこに行った?

 俺は可愛らしいフォルムをした、綺麗な鳴き声を持つスズを求めて後ろを振り返る。


 目の前に広がったのは真っ白の光景だった。

 それは部屋の色でも、布団の色でもなかった。


 「………〜〜……!」


 スズの体そのものだったのだ。

 

 「わっ、おはようスズ……って、ちょっと」

 「〜〜!!」

 「おぉスズー、おはよう朝から元気だなぁ」


 スズは俺がその存在に気づくやいなや、怒っているような声をあげて、そして俺の体に猛アタックしてくる。

 残念ながら〈霊体化〉していなかった俺の体は、虚しくもそれをすり抜けてしまうのだが、スズが訴えていることもわかり、俺は意志を持って〈霊体化〉し、甘んじてその突進を受け止める。


 「ごめんごめん、心配させて悪かったね」

 「〜〜♪」

 

 この子は俺たちがこの世界にいなかった間、おそらく、逃げもせずずっとここにいたのだろう。

 寂しくさせてごめんな、と俺は触れるようになったこの手で存分にその頭を撫でてやった。

 するとスズは嬉しそうに鳴き、手と体に擦り寄ってくる。


 ……なんか、本当に可愛いな。

 子犬というか、ペットというか。体はもちもちしているし体温はひんやりとしている。

 それでこんなに懐いてくれてるし人の言葉もある程度わかる。

 うちの家は父の影響で動物を一匹も飼ったことはないが、今そのはじめてを体験している気分だ。とてつもなく癒される。


 そのようにして、俺は存分に二度寝を決め込んでいるカルナを尻目に、スズとたくさん触れ合い、朝の時間を有意義に使っていた。


 そしてこの世界に戻ってきてから十分程度が過ぎた頃、窓の外から、変わり映えのしない風景だったものから“何か”が現れ始める。


 「カルナ、カルナ起きて」

 「ん、んぅーあと五分……」

 「……そのセリフ人生で初めて言えたんだ。」

 「……あぁ。一度言ってみたかった。」

 「そっか、……じゃなくて!ほら、もう着くよ!あれが、大陸だよね」


 その“何か”とはもちろん陸地のこと。島から島へ移動した時とは違う、横一列に並ぶ途切れない遠くの影。

 それは、超大陸オデッセイの港を表していた。


 「たい……りく……?……大陸!?そうか!もうついたのか!こんなことしている場合ではない!早く行くぞ!」

 「お、テンション戻ってきた。」

 「睡眠もいいが、まずはユナだ!はやくいこう!」

 「うん。そうだね。……でもまだ到着までは時間かかるから、そんな急いで立ち上がったって何もできないんだ。」

 「じれったい!それならばもう一度寝たい!」

 「……ふふっ、じゃあ到着前にもう一回甲板上がってみる?面白いのが見れるかも」

 「むむ!それならいこう!もちろんスズもついてこい!」

 「〜〜!」


 騒がしくも、賑やかなカルナの声がこの部屋に響き渡る。

 いつの間にか、たったの一日の間にその虜にさせられてしまったのか、俺はその声を聞いて嬉しい気持ちになる。

 現実にはもう誰もいない。

 けれど、この場所には彼女がいる。

 

 いまはただ、現実のことなど何も考えず、ユナともう一度会うため、彼女たちと旅をするため、ずっとこのゲームの世界に閉じこもっていたい。



 〈霊体化〉して彼女にも触れられるようになった手で、彼女の手を握って、外に出た。


 次の一日を迎えるために。

定型分:感想、高評価等励みになるので、お願いします!!!

本当に、お願いします。


毎日、19:00更新。ストック尽きるまで。

───


そういえば誤字等あれば連絡くださいね。

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