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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第二章 砂漠王朝編

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第36話 知られ始めるAW

 「…………。……っ。」


 意識を取り戻した。

 不思議な感覚だ。直前まで寝ていた状態に近いのに、寝ぼけることなく、完全に脳が覚醒している。

 バイザー越しの天井を眺めながらいると、お腹のあたりに酷い違和感、空腹を感じた。

 

 「……よいしょっ、と。」


 とりあえず動き出そうかと、顔に装着しているヘルメットをとって、ベッドから起き上がることにする。

 そういえば電気をつけたままだったな、と思いながら、自分の声が少し嗄れていることに気づいて、横に置いてあったペットボトルの水を飲み干した。


 それにしても、本当に、あの世界はここと何も変わらないんだな。


 滑らかで美味しい水を、喉で感じながら、俺はそう思った。

 あのゲームの世界でも俺は水を飲んだし、さらには食事もした。

 味覚含めた五感もすべてが現実と同程度だったのだ。


 しかし、ゲームの世界で食う寝るを済ますだけでは、この現実の体は満足しないようで、俺の胃袋は水以上のものを求めようとその音を響かせている。

 

 それを落ち着かせようとキッチンの方へ向かうために、立ち上がると、ふと、何かを思い、俺はなぜか声に出してみたくなった。


 「……カルナ、いる?」


 もう俺はゲームの世界と現実の区別がつかなくなっているのかもしれない。

 

 残念ながらその言葉に返ってくるものは何一つなく、虚しさだけがこの部屋に反響した。


 「………いるわけないか。……食べよう。」


 どこにいても何かが話しかけていた、あの騒々しさの寂しさを感じて、俺は自室を後にする。

 

 そうやってついた先は、当然、キッチンだ。


 その前に立って、俺は少し悩む。

 お湯を入れたらすぐにできるような即席麺にしようか、肉でも焼くか。

 長期間ゲームに没頭するための、どちらの食材もすでに買い込んでおいた。


 そこまでして、俺は、今は何時だ?という疑問が浮かぶ。腹が減っているのは確かだが、朝ごはんか夜ご飯かでだいぶメニューは変わる。

 まずいつログインしたっけ、とわずかな記憶を思い出しながら、閉ざされたカーテンを開ければその答えがすぐ目に入る。


 グレーの地面。真っ黒な空。

 現実もあの世界と同様、夜だった。

 都会の薄暗い光が、夜なのに鬱陶しいほど地面を照らしているのはもう見慣れた光景だ。

 

 部屋に掛けられているアナログ式の時計を見れば細かい時間まで知ることができた。

 時刻はおよそ午前一時半。

 夜の中でも、さらにその夜、深夜だ。


 健康的なものを食べるべきだとはわかっているが、カルナたちを待たせないためにも、それに“深夜”といえば、といった考えで俺は即席麺を手に取って、お湯を沸かし始める。


 そのボタンを押した後の少しの待ち時間、四つの椅子が並ぶ食卓に、一人座って、天井の明かりを見つめる。


 「………はぁ。」


 ため息が、漏れ出てしまった。


 なぜそれをついてしまったのか。

 自分でも理由がよくわからなかった。

 でも、俺は不気味なほど静かなこの家に、何かを思ってしまったのだろう。


 辺りを見渡せば、一人で住むのには明らかに広すぎる部屋。

 四つの席。四人分の食器。

 あるべきのものが、そこには欠けている。


 ……だめだな。

 俺は、まだ、家族を失ったことに、本気で向き合えていない。


 突っ伏して、俺は再び、あの世界のことを想う。

 真っ先に浮かんだのはカルナの顔。そして、アルス、コウモリ、鎧の熊、スズ、美しい街と海の景色までも。


 現実で言えばたったの八時間。俺は二十四時間分の経験をしていたことが、いまだに信じられなかった。


 特に何をするわけでもなく、ただ物思いに耽っていれば、存外、早く時間が過ぎる。

 お湯が沸いたことを知らせる音に引き戻されて、立ち上がった。


 とぽとぽと線一杯までお湯を注ぎ、蓋をして、そこから更に三分待つ。

 

 俺はその長いような、短すぎるような時間の中で、小型の電子機器を取り出して暇を潰そうとした。

 

 調べたいものがあったのだ。

 それはあの世界、『Another World』というタイトルのゲームのこと。

 以前訪れたそれの攻略サイトは、まだ情報が足りておらずほぼ空白の状態だった。

 

 時間の経った今ならなにかためになるものも増えているだろう。

 そう思って、それを検索する前にあるものが目に止まる。


 「……すごい。こんなにニュースになってる。」


 情報社会の現在、誰もが見ることを避けられない場所に、堂々と『Another World』についてのニュースが一面に飾られていた。

 気になってそれをタップし、記事を表示させれば、俺が体験したその“全て”が鮮明に書かれていた。


 「現実と全く変わらない五感。人間と判別がつかないNPC。そのうえで使える魔法やスキルと呼ばれる不思議な力。

 我々が求めていたものがそこにはあったのだ。」


 そんな著者の本心すらも見え隠れする、興味を惹かざるを得ない記事が、まるでリアルのような写真と共に全国、全世界に拡散されている。


 これは。と俺は思い、人と手軽に交流することができるソーシャルネットサービスを開いて『AW』の反応を調べることにした。


 想像以上の、広がりだ。


 わざわざそれを検索しなくても、すべての人がそれについて呟いていて、トレンドも埋め尽くしている。

 八時間前はまだこれほど広がっていなかったはずだ。

 少し調べてみると、テレビやさっきのあの記事、有名インフルエンサーの紹介によって、世界中で瞬く間に広がり、その“真実性”が確証されたことが原因のようだった。


 どうやら、あまりの反響に生産が追いついていないらしい。


 それが真実であると証明される前に買った勇気ある人たち、ネット上で「第一陣」と呼ばれる人たちは、その素晴らしさを語り、品薄で買えなくなってしまった多くの人たちはそれを羨望している。


 おそらく、これから先、より多くのこのVRが発売されるようになれば、あの世界に多くの人がなだれ込むことになる。

 あのゲームは個人で完結するゲームではなく、リアルタイムで世界が共通されている。実際、その中で、アバターを身に纏った本物の人間を見つけ出し、交流することができたという書き込みも見つけた。


 悠那があのビデオの中で言った言葉が本物ならば、トラベラーが集まると、ゲームの攻略が進み、それが“クリア”されてしまったらその世界が崩壊してしまう。


 俺は複雑な気分のまま、その騒ぎを眺めていた。


 時間は既に、三分をとうに越していた。


 「…‥早く、戻ろう。」


 電子機器を閉じて、箸を取り出し、伸びたそれを啜り始める。 

 何かに急かされるように、いつもよりも早く、手が動いていた。



       

定型分:感想、高評価等励みになるので、お願いします!!!

本当に、お願いします。


毎日、19:00更新。ストック尽きるまで。

───


短いけどごめんなさい。

Another Worldは長ったらしので、あっちの世界での略称は「エーダブ」らしいです。

オータムウィンター?

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