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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第一章 【勇者】の残光

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第33話 新しい情報と島

 「ほぉ!速い、速いぞ!あの島がもうあんなところに!」

 

 俺はこの船の最下層にあった貨物室から抜け出し、一階層上に登り、そしてそのすぐそばから見える、ほどほどに大きな窓で海を見ていた。

 音こそ聞こえないが、ザパーンと波を立てているような、荒々しい迫力とこの船の速度を間近で見ることができている。


 この地下にたまたまあった貨物室に身を隠すまで、ざっとこの船がどんな構造なのかを見てきたが、まず外見からもかなり大きいことがわかる。

 現実で例えるならば、形は豪華客船のような上に大きな建造物が建てられ横に広い物ではなく、まさに軍艦といった縦長の突破力を重視した無骨なデザインの塊だ。

 ここへ来たのは、あの島の殲滅のためなのだ。観光客用のためなどではなく軍用のものであるのはまぁ当たり前の話だろう。

 それでも、船上には大砲のような大きなものは取り付けられていなかったが、そこは魔法の世界。おそらく船同士での戦いもできるのだろう。全く異なるような文化をこのようなところからも感じられて、少し面白い。


 「我の時代はこんなものなかったな。というかそもそもこの国自体、新興国家だ。ふーむ、人間の発展とは実に面白い」

 

 五百年前の世界か。……そもそも、このゲームの世界ってどれぐらいの文化レベルを想定しているんだ?街並みもだが、だいたいこの手のものの相場は中世ぐらいだと思っていた。しかし、これは別に古くもないしむしろハイテクノロジーのように感じる。

 ……魔法がある世界でそんなこといったって、考えても無駄か。


 「でもこれだけでも随分楽しいね。ずっとここで着くの待つ?」

 「なにを!まさか。こんな窓越しじゃなくて上に行って生で見るぞ!」


 半分返事を予測しながら冗談めかして言った言葉にストレートに乗っかるのを、俺は少し笑ってしまった。


 「わかったよ。じゃあ更に上の階段を……」


 そう言いかけた瞬間、この鉄の塊の上を、ツカツカと歩く硬い靴の音が聞こえる。

 その音を出していたのは、人間だった。

 男の人。ガタイがよく、白くて薄い動きやすそうな防具をつけた、まさに戦う人、といった感じの人。

 

 あの街に人間が攻め入ってきた時、そこにいたたくさんの兵士たちも同じ服装をしていた。

 ……いや、彼は見覚えがある。あの兵士の中で、指示を出していたリーダー格の人だ。

 

 そう観察しながら息を押し殺して、窓に体をよせていると、その兵士はまっすぐこちらに向かってくる。


 もしや、バレた?いやそんなことはないよな、と見つかったら船から投げ捨てられるかもというドキドキ感を味わっていると、それを杞憂にして、俺の前を平然と通り抜ける。


 「ほら、バレてない」

 「……ちょっと疑ってごめん。……これ、声も聞こえなくなるんだ」


 結構大きな声量だったカルナに見向きもしなかったあたり、霊体で発する声は届かない仕様なのだろう。

 

 そう無事に危機を乗り越えたのだが、彼がここを通り過ぎていったことが、少し気になって後ろを振り返る。

 その兵士の手には、内容がわからない、白い紙が握られていた。

 あれは、なんなのだろう。


 「ねぇ、あの人についていってみてもいい?」

 「あぁいいぞ、元々探検だからな。時間が潰せれば良いしそれが面白いのならば尚いい!」

 「ありがとう」


 そうして、バレないと知りながらも、適度に距離感を保って後ろをついていき、とうとう彼が立ち止まって、その先のドアを叩く。



 「失礼します。王子。報告がまとまりました。」


 彼がそうはっきりと言いながら礼をすると、扉の奥から、何者かが、聞かせろ、と彼を招く声が聞こえてくる。


 「はやくはやく、我らも聞くぞ!面白そうだ」


 カルナに背中を押されて走っているような状況になりながら、ギリギリその扉が閉まる前に入室を完了する。

 ここに入る前彼が言っていたような、王子がいる、重要な部屋なのだろうか。


 その場所には十歳程度の俺とそう変わらない若い青年と、壮年の、かなり覇気のある剣を携えた兵士が、二人ソファの上に座っていた。


 「話せ。島の状況を伝えろ」


 喋ったのは、兵士の方だった。


 「はッ。まず島の被害ですが、市街地の中心部の建物のほとんどが戦いによる崩壊。ですが沿海部や離れのところまではダメージはありませんでした。同様に、森、山のなかの軽い調査では、戦略魔法を放ったような環境を変える攻撃跡も確認できません。魔物の大移動、スタンピードも発生しておりましたが大した損害もなく鎮圧し、おそらく島の戦いとは関係のないものと思われます。……しかし、ひとつ、不思議なものがあり、壊れていた街の中心に、このような植物が不自然に置き捨てられていました。


 彼は報告をしながら、袂から、緑色の異常なまでに太くて長い植物を取り出した。

 ……あれ、俺がアルスを捉えるのに使った植物だな。


 「ふむ。誰か土魔法を使って戦った奴がいたのだろう。人の方はどうだった」


 「はッ。人的被害なのですが……、以前にも報告した通り、いまだに一つの死体も見つかっていません。昨日我々が送った兵士たちすらも、そして第七王子の切り札、【星級職】の【炎剣豪】も……です。さらには反乱を起こしたという敵の獣人も確認できません。数隊の兵士を残らせて探索を続けていますが、通信魔法で連絡は届いておらず、不可解な状況になっています。」


 ……たぶんみんな地下の大樹の栄養にしたやつだな。それよりなんだその剣豪とかいう強そうな人は。


 「……!?まさか、【炎剣豪】も消されるほどの事件だとはな……」


 やはり名前通りそのようなリアクションになるほど強い敵のようで、しかしそれすらも上回るのが、確実にそいつを倒したのはアルスであるという事実にも驚いている。


 「ですが、一つ大きな発見がありました。あの島の地下に、もうひとつの街があったのです」


 彼がそういうと、座っていた、青年と老兵は眉を顰める。

 ……もしかしてこの人たちは、地下で働かされていた獣人たちのことを知らないのか?


 「なんだと?そこには何があった。あの第七王子は地下都市でも作っていたのか?」


 「いいえ。その地下は、人の手で管理されている、とは言うことができないほど荒れていました。死体こそありませんが、大量の血痕がその地に残っていたことから、そこが主戦場だったのではないか、と推測しています。……そして、その地下の内部には、それら全てを覆い尽くすほどの神話のような巨大な木が広がっていました」


 神話のような木。そう発した瞬間にさらに場の雰囲気が、ピリッと変わっているのを感じた。

 間違いなく、これは俺が成長させたあの大木のことだ。


 「なに?それではダンジョンがあの島に眠っていたというのか?」

 

 ダンジョンという聞き慣れない用語についてカルナに尋ねたくなるが、どことなく声を発してはいけない雰囲気が出ているため、言葉が聞こえないにしても、少し怖くて言えなかった。

 

 「ダンジョンのようにモンスターが自然発生していないため、その可能性は低いと思いますが……」

 「あの島の、異常なまでの鉱物資源の元になっていた可能性が高い、ということだな」


 そう遮るように口を開いたのは、十代半ば程度の青年だった。身なりが兵士のような武装ではなく、青い高価そうな衣服を召していたため、おそらく、彼が王子なのだろう。


 「はい。その可能性が高いと思われます。その地下から鉱山への道が繋がっており、希少度の高いアイテムがいくつも確認できました。」


 次に兵士が笑って、王子に声をかける。


 「これは、思わぬ産物でしたな。島の位置、それに地下資源。かなりあの島は恵まれています。出兵の要請を受けたのは我らライゼン王子の陣営のみ。第七王子の死体こそ確認できませんが、上手くいけばあの土地すべてと保護している住民を我らのものにでき、のちの継承戦で大きな切り札となりますぞ」


 ライゼン王子、第七王子、継承戦。

 ……そういえば、アンを刺したあの人間、王位継承がどうとかいっていたような気がするな………。

 これはいまとてつもなく、面倒くさそうなことに関与しているのかもしれない。時間の猶予はなく、一刻も早く動き出したい俺たちにとってはあまりにも複雑で長すぎるような内容だ。


 「なんだか面白そうだな」

 「……ユナを探してから、ね。」

 「もちろんわかっている!にしても群島国の王位継承戦とはな。島ごとに各々の領地を持った王権候補がいるとかなのだろうか。まったく、人間の争いというのは面白くて飽きないな」

 

 そういう中世的な話は、現代日本の、さらに理系の高校生としてはあまり馴染みのないもので理解し難かったが、隣で興味津々に考察を広げるカルナを見て、やはり、自分よりも遥かに人生経験が豊富な【魔王】だったのだと感心する。

 彼女と一緒に旅をすることは、自分にとてつもない影響を与えてくれるのではないか、俺はなぜか自然とそう思った。


 「ん?どうかしたか、ユウキ?」

 「……いや、ユナを、世界を助け出せたら、一緒に旅を続けよう。面白い世界を冒険し続けよう」

 「……!あぁそうだな。楽しみだ!」

 「〜〜!」

 「もちろん、スズもね」


 そんな和やかな会話を、目の前で堅苦しい報告や会議を繰り広げられながら続けていた。


     ◇


 「それでは、失礼しました。調査の継続を兵士たちに告げてきます。」


 幾分かの会話が続き、ついに最後の報告を終えた兵士が、ソファから立ち上がってそういった。


 「あぁ、よろしく頼む。私もここまで同伴した甲斐があった。戦闘の恐れがあると思っていたが、拍子抜けだ。私たちの島に戻ったら、地下洞窟の調査に必要な魔道具と冒険者を雇って、またすぐに向かおう」


 「はッ。すぐに手配しておきます。」

 

 「いや、良い。私がやっておこう。それよりも君は休んでくれ。敵はいないと言っても森の方で野生の魔物と交戦したのだろう?」

 

 「……!優しき心遣い、感謝いたします。出発は到着の翌日の早朝で間違いありませんか?他の連れ帰ってきた兵士たちにも、しばしの休息を取らせたいと思います」


 「そうだ。その者たちにもついてきてくれて感謝するとの伝言を頼む。報告ご苦労だった。」

 

 王子がそういうと、兵士は正しく敬礼をして、頭を下げ、この部屋から出ていった。

 なんだか、この世界の人間はみんな厳しくて悪魔みたいなものだと思っていたが、どうやら優しい人もいるようだ。というかあの第七王子とやらが最低最悪の人間すぎた気がする。


 「それでは、私もそろそろお暇しようと思います。ライゼン王子こそ、気詰めなさらず、ゆっくり休んでください」

 「あぁ気遣い感謝する。ありがとうダレス軍隊長」

 

 そうしてまた今度は、軍隊長と呼ばれていた兵士が、挨拶と礼を交わして部屋から出ていった。


 ……俺たち、いつ出ようか。


 「うーん、なかなかに面白い話だったな。もうあの島に戻ることはないが、この国のこの人間たちの行方は気になる」

 「カルナ、すごい話を聞いてたもんね。なんだか怖かったし話の内容もあんまり理解できなかったな」

 「それも仕方あるまい。ユウキはこの世界にやってきたばっかりだ。政治や戦争も年をくえばわかるようになる。……ま、ユナに比べればぜんぜん理解力も、思考力も高いと思うぞ?」

 「……こういうの、ユナも苦手だからなぁ」

 「わからない何かがあれば、彼女は全ての解説を我に任せていた」

 「ユナ………………」


 そうやって王子一人だけになった部屋で、その隅に俺達が立って会話をしていた。

 

 もうこれ以上ここにいてもな、と思い退出をカルナに告げようとしたところ、その一人の青年が独り言をこぼす。


 「……必ず、僕がこの国の王になる。そして、変えなければならないんだ。この国を。」


 漏れ出るように吐かれたその言葉、それは自分を勇気づけるためだったのか、ふぅ、と息を吸って、彼は自分自身で頬を叩いた。


 「よし!まずは冒険者ギルドへの手配だ!がんばるぞ!」


 その姿は、先ほどまでの凛々しい振る舞いとは違い、年相応らしい若い弛みがあった。

 一人だと思って気を抜いたのだろう。

 それに驚いたけれど同時に微笑ましく思ってしまった。


 「……そろそろ、ここから出るか。邪魔しちゃ悪いしな。」

 「うん、そうだね。甲板に出て海を見に行こう」


 俺はその王子を尻目に、扉へと向き合った。

 あの兵士が退出した後、それは一つの隙間もなく、しっかりと閉まっていた。

 こっちを振り向くなよ、と思いながら一瞬だけ霊体を解除して、その扉を開く。

 突如開いたドアに王子は驚いているようだったが、そこに誰も訪れなかったことに、気のせいだと思うことにしたようだ。

 ……もう、カルナの考えが俺にも移ったのか、やはりちょっとやそっとじゃバレないのではないかと変な自信を持つようになってしまった。


     ◇


 俺たちは階段を上り、広い大きな船の甲板の前の扉に辿り着く。


 その扉は開いていた。

 船内も電気のような暖かい光が、隅々まで届いていたが、外からやってくる光はやはり別格だ。

 まだ朝を過ぎて、昼に差し掛かった程度の空。

 日の光はまさに今が全盛期と言えるほど降り注いでいる。

 

 俺はその日差しに目を覆い隠して、太陽を睨みつけようとすれば、自らの体が透明なことを忘れて、自分の腕すらも太陽の光が貫いていることに、不思議な感覚を覚えていた。


 一歩を踏み出そうとするよりも先に、スズがはじめに外に出る。次にカルナが。そして最後に俺が。

 幽霊と魔王が日の光を浴びて大丈夫なのか、とは思うが、どうやら心配無用だったようで、非常に嬉しそうに動き回っている。


 「おお!いい天気だな!こんな満足に日の光を浴びられるのなんて、五百年ぶりだ!実に気持ちがいい!」

 「〜〜♪」

 「うん、すごくいいね。風も心地良い」

 

 俺は深く深呼吸をして、体の全身を伸ばしてその体に風を受け止めようとする。

 風も感じる。霊体なのに?と思うが、イメージ次第、そういうものなんだろう。

 それにしても、本当に、気持ちがいい日差しだ。

 行ったことはないが、バカンスに代表されるような南国気分を感じてしまう。

 あまりにも五感が現実と遜色なく、これがゲームなのだ、ということに忘れてしまいそうになる。

 横ではしゃぐカルナとスズを見れば、ゼロとイチで構成されるようなただのゲームではないことはわかる。まるで本当に第二の世界、異世界に来たような感覚だ。


 「海も綺麗だ。もうあの島も見えなくなってしまった。……む?……スズ、ユウキ、みろ!あそこに海の魔物がいるぞ!」

 「〜〜!!」


 カルナが指差した海の先には、現実世界で鯨に例えられるような、巨大な海洋生物がその体の一部を水面から露出させていた。

 かなりデカいし、強そうだ。泳いで海を渡るという無謀なことをしなくてよかった。そう心から思うと同時に新たな生物に心が高鳴っている。

 

 「あ!こっちには鳥がいるよ。カモメみたいだ」

 「おお!集団で塊になって飛んでいる!船と同じぐらいの速さだな」

 「……そういえば、飛ぶ生き物で思い出したんだけど、あのコウモリたちに、お礼、いえなかったなぁ」


 目に映るのびのびと羽ばたく鳥を見て、一晩の間、行動を共にしたあのコウモリを思い出す。

 彼は暗闇の目となってくれただけではなくて、最後の最後、俺たちのピンチを助けてくれた。

 もう一度会いたかったがそれも叶わず。せめて人間に捕まることなく、あの仲間たちと共に過ごしていってほしいと願う。


 「そうだな。我も音で空間を捉えるというのは初めての体験でなかなか面白かった。……またいつか会えるさ。その時に礼を言おう」

 「……だね。少しの別れなだけだ」

 「あぁ。何年何百年も生きていたら、また一度会った誰かと巡り会うことができる。一期一会なんてものは信じない。……死んだ親友に、もう一度会えることさえできると、我はそう信じている」

 

 並んで海を見つめる、カルナの横顔を見た。

 綺麗な、可愛らしい少女の顔には、憂いの、寂しそうな表情が一つ浮かんでいた。

 俺はその表情に何かを思って、その言葉を、海の方に向いてから投げかける。


 「俺もそう信じるよ。絶対に会える。絶対に。」


 何の根拠なんてないし、何をできるかもわからない。だがしかし、俺はもう一度、ユナに、悠那に会いたいんだ。


 「……ありがとう。これからも、よろしくな。ユウキ」

 「うん、よろしくね、カルナ。」


 二人並んで、口数を少なくして、ただずっと高速で移り変わる海の表情を見ていた。



 もうすぐ、地平線の奥底から大きなシルエットが見えてくる。

定型分:感想、高評価等励みになるので、お願いします!!!

本当に、お願いします。


毎日、19:00更新。ストック尽きるまで。

───


ちなみに一年後からのネタバレですが、王子とか継承戦の話はまだ出てこないので覚えなくていいです。

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