第31話 霊体と脱出
31 霊体と脱出
「じゃあ、これからどうやって島を出ようか」
俺を縛り付けていた気がかりももう消えた。
当初の目的であった、島からの脱出という難題をどうやって解決しようか、ようやく本気で考え始められそうだ。
『今から鳥や魚を探すのも、人間がいる分難しそうだからなぁ。………そうだ、こういう時のためのプランDがあったではないか!』
プランD?と一緒になってそれらを考えた俺さえも、もうすっかり忘れてしまって一瞬思い出す作業が必要だった。
「あぁ、あれだね。船に忍び込むやつ」
『そうそれだ!今なら森へ行っているようだしな、チャンスではないか!?』
船に忍び込むやつ、という名前の通り、バレないように隠れて不法入国しちゃおう!というのがプランD。
これまた欠陥ばかりで、ノリで考えついたようなものなのだが、まあこの状況を考えれば一番現実的か。
「でもどうする?今でも船に最低限の人は残っているかもしれないし、そもそも航海中にバレるリスクもある」
『まぁそれもそうなのだが………、ふむ。待て、ユウキ。一回こいつのスキルを確認してくれないか?』
「〜〜?〜〜!」
二人でうんうんと唸っていると、俺の体を、ツンツンと……とは感じないが擦り寄ってきて何か言いたげの、白い塊が顔を覗かせる。
全然意識していなかったが、この子も一緒に穴を降りてアルスとお別れをしていたのだ。
そういえばカルナが支配権を移すとか言っていたっけ、と俺は指示に従ってウィンドウを開く。
〔コネクト対象:イノセントレイス→〈霊体化〉
残りコネクト数:1〕
そこには〈超音波〉や〈反響聴〉などを授けてくれていたコウモリの名前は消え、新しく、イノセントレイスという種族名のスキルが増えていた。
「〈霊体化〉……、これまた不思議な名前のものだね」
『やはりそれか。……ふっふっふ、もう安心安全だな!早速〈霊体化〉を使ってみろ!きっと面白いぞ!』
カルナが言うならだいぶ愉快なことになるんだろうなと、ただ思いながら、〈霊体化〉をタップして、新しくコネクトする対象に選ぶ。
すると、能力の使用を意図せずに、突然俺の体は重たいしがらみ、くびきから解放されたかのような、不思議な感覚を得た。
浮遊感、ともいえる。いったいなんなんだ、これは。
体が飛ぶように軽い。どんなマッサージ師でもこんな感覚を提供することはできないだろう。
異能を得てからゲームの世界でも疲れを感じるようになってしまったこの体は、きっと散々走り回ったせいか、全身に疲労が溜まっていたのだろうな。
そんなことを思いながら、俺はあたりを見渡した。
少し、周りの景色が低くなっているような気がした。
……いや、本当に体、飛んでないか?
「〜〜♪〜〜♪」
「う、うわっ!浮いてる!?なにこれ、ってどうすれば止められるの!?」
『はっはっは!ようこそこちら側の世界へ!これが〈霊体化〉。こやつや我のように自由に浮いたり、物を貫通したり、他者から見えなくなったりすることができる!いやぁいい能力だ!我々にうってつけ!』
「たしかにこれは便利だ……。……でも動き方は教えてくれないんだね、カルナ」
「まー我はすぐにできたからなぁ。才能と慣れだな!気合いで覚えろ!」
いったい俺に何が起きているのかと言うと、生身の体から自由に解放されてしまったせいで、まるで重力という法則すらも失ってしまったかのように体がずっと浮き続けてしまうのだ。
一応体のどこかの部位に力を入れれば、高度を下げることができそうなのだが、四肢に縛られてしまう人間の慣れてしまった感覚のせいで、うまく操縦することができない。
「……ほっ、はっ!と。やっと地面に足がついた。……そういえば、これがレイスの力なのは分かるけど、カルナのその体もこれと同じ物なんだ」
『まぁ概ね似たようなものだが、厳密に言えば、我のとは少し原理が違う。これはいってしまえばただの魔力の塊で体を構築しているだけ。我のは魔力と魂というものを混合させて生きている。……ま、難しいからおいおい話すさ』
「そう、だね。ここから出てから聞かせてもらおうかな」
俺はその会話をしながらも、この体を動かし続けていた。
カルナのように一回転したりはできないが、上昇したり下降したりはある程度調整できるレベルまで整った。
さぁ、いろんな遠回りをしたが、巡り巡って最終的に、脱出のための手段を得ることができたのだ。
あとはもう船に忍び込み、人に見つからないように待つだけ。
俺は浮力を持ったこの体で、洞窟の天井を目指した。
光がそこから射し込んでいた。希望のようにも思えた。吸い込まれる魅力があった。
地下と地上の、ちょうど半分まで辿り着いた。
その時、不意に何かを思って、俺は振り返る。
眼下に広がる壮大な景色。
そこは、確かに戦場だった。
崩れた家屋、汚れた道。
だがしかし、そこに、一切の屍が存在しなかった。
どうして?とは思ったが、洞窟を埋め尽くす大樹を見ればすぐに理由がわかった。
大樹は、この土の栄養だけでなく、死体をも使って成長していたのだ。
「……みんな、天に還れたのかな」
『……あぁ。この大樹のおかげで、未来永劫土地に縛り付けられずに自由になれた。人間も、獣人もな』
もう一度俺は上を向く。
今度はその光が、天国へ導くもののように見えた。
「……本当に、さよなら。いってきます。」
俺はもうこの場所に戻ってこない。
だから、アンやアルスと、カルナと出会えたこの町に別れを告げて、そして、光の先を見る。
人間も、獣人も、いまはただ、安らかに。
ただ願う。
短いな。今日は追加でもう1話。




