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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第一章 【勇者】の残光

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第28話 誰が兄だ

 「アルスから、離れろぉぉッ!」


 自分でもどんな感情を抱いているかわからない。

 俺は考える間もなく、手で種を握ってそれを〈成長〉させる。

 狙いはもちろん、アルス、の形をした何かだ。


 必ず捕まえて、彼を、死んだ彼をもう一度寝かしつけるために。


 『落ち着けっ!まずは観察からだ!』


 カルナの静止の声が聞こえるが、一度放出したそれは、もう消すことができない。

 猛スピードで伸びる植物はそのものを捉え───ることはできなかった。


 「っ!?どこに消え……」


 確かにその瓦礫の上に奴は立っていた。

 しかし、植物を伸ばしたその後、俺が瞬きをした文字通りその一瞬で、俺の視界から奴が消える。

 焦って俺は周りを見渡した。

 どこに隠れた、どこへ逃げた。

 

 そんなことを思った数秒にも満たない時間の後、俺の腹部に強烈な痛みが訪れる。


 「──ガッっ!?」


 刺す、じゃない、鈍い痛み。

 いや痛いを感じるその前だった。

 俺は腹部を中心に、トラックにでも轢かれたような強い衝撃を受けたのだ。

 それは、足ではもちろん吸収し切れない。


 宙を舞う。

 時間が引き延ばされている感覚がした。

 世界は反対になった。

 空が海になった、海が空になった。

 

 何が起きているか、頭が理解しようとすると、引き延ばされた時間が急速に縮む。


 空を飛んでいた。

 はずなのに、俺の背中は翼など生えておらず、気がついたら体は何かの中に埋まっていたのだ。


 背中の、感覚がない。


 だが尋常ではない痛みが俺を襲う。

 

 目だけが唯一動かせる体の部位だった。

 

 俺は必死にそれを使って状況を把握しようとする。

 広がったのは噴水の広場だった。

 いや、さっきまでとは違う。

 真反対の位置、高すぎる位置。

 

 そして、さっきまで俺が立っていた位置には、アルスの姿をした奴がいた。


 理解、できた。

 今俺は、あいつに吹き飛ばされたのだ。

 ここまでおよそ、百メートル。斜め上方向。

 常人だったら確実に死んでいてもおかしくない。

 

 俺は首を動かせるようになった。

 自身の体を見た。

 身体は予想通り広場の壁に、強引にめり込まれている。

 そして腹部には大きな穴があった。

 酷い出血と、臓器が破裂したような痕があった。

 

 脳の機能にもダメージを受けたように、思考の速度がゆっくりになり、不快で臭い、生暖かい赤い液体がどこか心地の良いものに変わっていく。

 

 だがそれを受け入れてはいけない。

 俺は“意思”を持って、もう一度目を瞑る。


 そして、開く。

 頭は寝起きのように冴え渡っていて、体は、完全に元のカタチに戻っていた。


 「ユウキッ!?大丈夫か!?」


 カルナの声が聞こえた。

 埋め込まれた俺を心配そうに見つめて、叫んでいたのは、具現化した、空中浮遊する女の子だった。


 声に、応えたかった。

 けれど、俺は、絞り出すような、情けない言葉しか出てこなかった。


 「……あ、あぁぁ、あいつを、どうすれば、どうすればアルスを、アルスを……ぉ、ッ!」


 俺は、無力だ。

 

 アルスの死体が何者かに乗っ取られていることはわかった。

 それは許せない、助けてあげなければならないと思っている。


 しかし、対峙して、その攻撃を受けてもうわかってしまったのだ。

 

 あれは、強すぎる。

 生き返ることがどうした。

 理解する間もなく俺は、生き返って何もできずに死んで、生き返ってまた何もできずに死んで、それを永遠に繰り返すだけだ。


 心が折れてしまいそうだった。

 涙で、何も目に情報が入らない。

 俺は、また諦めてしまうのか。


 「ユウキッ!」


 そんな俺を、現実に引き戻したのは、引き留めたのは、小さな女の子の、【魔王】の心だった。


 「言っただろう!我はお前に一生ついて行く、と!我と一緒に戦うんだ、前を向け!」


 契約を結んだ者は、互いに心を共有する。

 俺のこの感情も、想いも全部向かいの彼女に伝わっているはずなんだ。


 でも、彼女の、この熱く滾るような情熱と、勇気の心音が、俺にも伝わるんだ。


 「お前はここで諦める人間じゃない!それが、」



 「──ユナの、お兄ちゃんなんだろっ!?」



 俺は、再び目を覚ます。


 「──あぁ。あぁ!俺が、不知火悠生だ!」


 俺の中にあるのはもう迷いじゃない。

 名前のない力が全身を巡って体を動かしている。


 めり込んだ壁を足で蹴った。

 高低差十メートルぐらいあっただろうが、そこへ構いなく自由落下する。

 多少の骨は折れただろう、だが、もう怯まない。

 俺はユナのたった一人の兄なんだ。

 彼女がそうしたように、ほんのわずかな光でもいい、一パーセントでも希望があるのなら、この命が尽きる限り、何度でも立ち向かう。

 

 「カルナ、ありがとう。作戦を考えてくれるか」

 「……!任せろ!まずは観察だ、あいつの動きをよく見る……っと今のでHPはどれぐらい減ったか?」

 

 ステータスを開く。

 [17052/120]、直前に確認はできていなかったが、一時間で四千は増える俺の体力から計算すれば、この街に辿り着いたぐらいはざっと計二万は越していたはずだ。

 一撃で三千。

 おそらくだが、あれは本気の攻撃ではないだろう。兵士に襲われたアンと俺たちを助けてくれた時の攻撃は、これよりもっと重そうだったから。

 形ばかりの“HP”という不思議な表記がゼロになると何が起こるかはわからない、異能が発現したての、アンが殺される前のあの時だって俺は生き返ることができたのだから。

 だが、無闇に死んでいいということは決してないだろう。何かしらデメリットがあって必然だ。このHPが消失する前に、奴を無力化させたい。


 「うむ、どうせ生き返るなら死んでもいいという気楽さはいかん。何よりも生きたいと思えてこそ、勝利が見える。……そして、あいつ、あそこから動かないぞ」


 前を向いて奴を見ると、俺を吹っ飛ばしたその位置から変わらず、どこかうつろな表情でずっと宙を見ていた。

 攻撃しなければ反撃してこないのか?

 それならば、時間はあるし、まだ手の打ちようも見つかる。

 

 だがその期待は虚しく、奴の顔が動き、不気味なまでに俺を一点に見つめた。


 「っ、そうはいかないか。」

 

 俺を敵として認識したのだろうか。

 なんであろうと、あまりゆっくりしてる時間はなさそうだ。


 「我が活路を見出す。それまで奴をここに引き留めておいてくれるか?」

 「あぁ、任せろ」

 

 カルナは上に飛び、俺は前へ走る。

 俺たちは分離して、勝利を掴むために別々の方向へ進み出す。

 カルナなら絶対に助け出せる方法を考えられる、その全幅の信頼をおいて俺は奴だけを見ていた。

 

 その対象もまた、動き出す。


 「ぁア゛あ、あ」

 

 また軋むような声が聞こえた。

 そして姿を消す。

 また、同じ攻撃か?俺を吹き飛ばすあの威力のパンチ。

 それを警戒して、俺はまっすぐ進むのではなく、壁沿いを走っていた。

 なぜならば、ここで今俺がしては行けないことは、海に落ちての退場。

 海の中に落ちてしまえば大きな時間ロスにもなり得るし、そもそも戻ってこれるかもわからない。

 

 「っぐ、ぅ、ぅあああ!」


 案の定俺は、その攻撃を腹に喰らう。

 だが、さっきまでの俺ではない。俺は、恐れずに目を見開いていた。

 アルスの顔が間近に見えた。

 この距離なら、はっきりとわかる。

 彼は、アルスじゃない。

 アルスのような優しさに包まれた瞳も、温かい手の温度も、燃えるような心も、感じない。

 それは、ただの屍だ。


 壁に体を押し付けながら歩いていたおかげが、今度は吹っ飛ばずに壁に大きな亀裂を入れさせながら踏みとどまることができた。


 痛みに耐えながら俺は叫んだ。

 そしてすぐに再生して、彼の、その腕を掴む。


 「アルスから、出ていけッ!」

 

 握りながら、そう願った。

 すると、俺の手が発光する。

 幾度も見たことがある光、けれどその時のその光は、確実に誰かの遺志を感じたんだ。

 

 「が、ぁ、?」

 

 触れた箇所が、彼の皮膚が汚れた赤暗色の色から、綺麗な鮮紅色に変化している。

 爛れた体が、生まれたてのように、潔白さを示すように変化している。

 

 これは治療だった。

 俺の異能の力で彼の傷を癒していた。


 そして、その奥に宿木を広げる、何者かを、追い出そうとしていた。


 「ぁアア゛あぁア゛ァ゛!」

 

 彼は痛みに悶えているかのように叫び出す。

 悲鳴のようにも、何かの言葉のようにも聞こえる。

 困惑して見つめていた俺は、いつのまにか正気に戻った奴に、三度目の衝撃を喰らっていた。

 今度は重さが乗った、感情を持つ、攻撃だった。


 俺は壁にさらにめり込む。いや、もうその壁は衝撃に耐え切れられなかった。

 一気に壁が瓦解し、俺は広場を抜けて、街の方へ制御できないその体が飛び出していた。


 家が一軒、二軒、三軒と、俺を弾丸として貫通し崩れ去って行く。


 もう痛みこそ、投げ出す理由にはならないが、露店も全て吹っ飛ばして薙ぎ倒すその威力は、驚愕せざるを得ない。

 

 残りHPが一万を切る。

 どのくらい時間を稼げるか。

 だが、少しだけ希望が見えたような、そんな感覚を、あの時俺は掴んだ。


 「ユウキ!……憶測に過ぎないが、できるかもしれない。あいつを引き剥がすことが!」


 倒れ込む俺を、空から急いで駆けつけながらそんなことを言う彼女がいた。

 かもしれない。それでもいい。


 「聞かせてくれ!カルナ!」


 「あぁ、とりあえず話す前に、ユウキの体の中に戻らせてくれ、この姿では長持ちしない。それと、出来る限り距離を置いて街の中を走れ。HPを温存しなければこれから話す方法は使えない」


 カルナの声に頷いて、立ち上がり、そして街の中を駆け出す。

 彼女は俺の中に入り、ふーっと息をついてから、その作戦の概要を話し始めた。

 奴は俺の姿を見ていたようだが、逃げる俺を追うことはない様子だった。


 『作戦、というより、先ほどユウキがあの者の腕に触れた瞬間、我の目には、あのレイスが追い出されて体から離れているのが見えたのだ。すぐに戻ったがな』


 なるほどやはり、あの光は、幽霊に効果があったのか。


 『もう一度あれを起こすんだ。物理攻撃が通用しないレイスをユウキは討伐することはできない。しかし、我ならば出来る。我は物理世界で暴れるあいつに干渉することができない。しかし、ユウキならば出来る。』


 そうか。

 相手は死体と幽霊。

 俺たちは人間と魂。


 『我らならば、いや我らしか、あの者を止めることができない。……力を貸してくれるか?相棒。』


 返事は一つ。

 

 「こっちのセリフだよ。……もちろんだ。」


 大胆不敵に笑う、相棒のその声が何よりも頼もしく感じた。ユナの知り合いだから、ではない。今はただカルナという一人の人物に、心から信頼している。


 『それでは、作戦を話そう。』

 

定型分:感想、高評価等励みになるので、お願いします!!!

本当に、お願いします。


毎日、19:00更新。ストック尽きるまで。

───

「兄」って言葉、かっこいいですよね。

口に足がついているだけ。それでも自立して安定感があるのですから

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