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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第一章 【勇者】の残光

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第25話 弾丸と大樹

 作戦と手持ちの能力の再確認をした。

 その間、怪物はその場をうろうろと徘徊していただけで俺たちからの距離はそう遠く離れていない。


 おそらく、俺は一度は死ぬに違いない。

 いくら復活できるとはいえ、生身の体と感覚は同じ。痛いのは嫌だ。けれどそれ以上に痛みを天秤にかけても傾かないほどの、冒険心がそこにはあった。


 さぁ、始めようか。

 俺のこのゲーム初めての、戦闘を。



 『──走れ!』


 

 きっかけになったのは、コウモリの〈超音波〉。

 戦いにおいて何より大事なのは、情報。

 怪物の足音で大体の位置はわかりはするものの、特殊な反響音がなければ、森の構造を正確に理解し走り抜けるのは不可能に近い。

 これはひとまず、足を使えるようにするためのひとつの作戦。


 「GUOOOO!!!」


 奴も音に敏感な種族なのだろう。

 高音すぎて普通の人間だったら聞き取れない音も、そいつにとっては居場所を教える合図でしかない。

 すぐさま、その怪物は両手を前にし、弾丸の如き岩の礫を放とうとする。

 先ほど避けられたのはたまたまにすぎない。

 木の後ろに隠れてもあの破壊力ではきっとそれも無意味だ。


 ならば、俺がとった行動は。


 『目を瞑れ!』


 真っ暗闇の森の中。

 そんな状態でも歩ける動物は、きっと基本夜目が利くという意味になるだろう。

 しかし夜目が利くいうことは、すなわち光に敏感であるということ。

 目に光を当てられれば、それに耐性がない限りどんな生物でも目を背ける。


 まして、夜行性の動物にとって、突然現れるその光は、天敵である。


 ──森の中に、閃光走る。


 『……!よし、予想通り目を抑えた!今だ場所を変えろ!』


 最初の礫を防ぐための策。

 それは光であり、それを生み出したのはランタンのような魔道具である。

 魔道具とは魔力を電気のように用いて使用できるモノであるがゆえ、与える電気を増やせば電球はより明るくなるのと同じように、魔力を最大限与えれば、それは一瞬の森を輝かす光になり得る。

 俺は〈超音波〉と同時にそれを怪物めがけて投げた。

 上手くいくかわからなかったが、これは成功だ。怪物は俺を見失っている。


 「〈成長〉ッ!」


 次に俺が行ったのは、走りながらの怪物めがけて植物成長。

 一度の〈超音波〉のおかげでかなり視界がクリアで、急成長する植物は狙い通りその怪物に当たる。

 そして植物はまだ成長をし続け、岩のような皮膚に何重もツルを複雑に絡み合わせてその怪物を縛り付ける。

 俺はそれがより強固になるように種をもう一度使いながら、怪物の背後に来るように走る。


 「GUOOOOOOooooo!!!」


 怒るような声と共に怪物は動き出す。

 やはり、レベルが違う。

 たった一つの種でコウモリを縛り付けたものよりも、じっくりと、成長速度も密度もあげているはずなのに、いとも簡単にその鎖を振り解く。


 しかしそれは、想定内だ。


 次の瞬間、怪物は体勢を崩す。


 『足だ!いいか、両腕に気をつけろ油断は命取りだ』


 俺は体に巻き付く植物と同時に、怪物の足元に、動いたら引っかかるような硬い輪っかを作っていた。

 体に植物を巻かせたのはそれに気付かせないようにするため。

 あまりの体重の重さに足元の植物は破られてしまうが、予想外の障害物に怪物は一瞬反応が遅れる。

 それで充分。俺は手に仕込んだ三つ目の種で、膝、足首など、自分の手を使って簡単に解けないような場所を重点的に縛った。


 次は目。

 あの礫が発射されたら逃げられない。だから相手の動作の出鼻を全部挫いて、攻撃できないようにする。

 それが第一段階の作戦だ。

 

 総評。それは当初の理論はどれも全て正しくて、順調に上手くいっていた。


 相手が、怪物でなければの話であったら。


 「───GYuUUUA!!」

 

 ぐるぐるに植物に巻きつかれた怪物は、その状態を一手で打開する。


 カルナからの話では、通常カタパルトベアードは両腕に備え付けられた発射台からしか岩を放出できないという。

 だから岩礫の射線から体をすぐに切れるように、背後に回り込んでから縛り付ける、と、俺は両腕のみを警戒していたのだ。


 しかし、そいつは異端。


 そう、その怪物は全身から岩の礫を飛ばすことができてしまった。


 「ッぐ!……っが、っあぁあ!」

 『なんだその技は……ッ!大丈夫かユウキ!?』


 全方位三百六十度の無差別攻撃。

 視認できていないはずの俺にもそれが当たる。

 腹部の右下あたり、これは、どこだ。そうだ腎臓だ。目で反応もできないその速度の弾丸が俺の肉体を貫通した。

 その痛みは『殴られる』なんてもんじゃなかった。

 地面に倒れて悶えても誰も文句は言えない言わせない、鋭い痛み。


 しかし俺はこれより辛い痛みを食らったことがある。首を飛ばされたことがある。


 少しの間辛抱したら、体の傷は塞がっていた。

 だから大丈夫だ。もう一度立ち上がる。


 『今の一発でどのくらい削れた?』


 ステータスと念じてウィンドウを確認する。

 HPの欄が大体16,000台だったものから[15403/120]と減少していることに気付く。

 HPが超過して回復するとはいえ、いまの一掠りで俺五人分が死ぬとは。

 やはり侮れない。だからこそ、面白い。


 「これは、まずいな。森が」


 全範囲攻撃の後、辺りを見渡した。

 鬱蒼と生えていた木々が見る影もなく岩礫によって薙ぎ倒されている。

 足元には大木が転がり、そして空には月がみえる。

 それはすなわち怪物にとって、ターゲットがどこに隠れているかを炙り出す手段でもあったのだ。


 『はは!立ち止まってられんぞ!なぁに、作戦の第二段階がやりやすくなっただけだ!むしろありがたい!』

 

 カルナのその声を聞いて、俺は後ろに向かって走り出す。


 これは逃げなのではない、勝ちの道筋だ。

 

 「〈成長〉ッ!」


 種での拘束が無意味なことを知った俺は、今度は怪物に向かって放つのではなく、視界を潰すようにその場で広範囲に植物を咲かす成長を行った。

 

 獲物に執着が強いタイプなのか。怪物は銃口を逃げる俺に向け、一発一発が大きく重たいそれを乱射しながら近づいてくる。

 

 あの光のせいもあるのか、命中率はかなり悪い。

 しかし、それでもこの腕を貫通し、足を抉ることもあった。

 その度に着々と俺の無限にあると思われていたHPは削られ始め消耗が見えてくる。

 

 「はぁ、はぁッ!このあたりか……?」

 『あぁここなら生きている木も多い!……砲撃が収まった。あいつは獲物を諦める奴じゃない、弾丸を回復しているだけだ。今が準備するチャンスだ!』


 岩の砲撃と地響きが鳴り止まない、永遠に感じる地獄の体感時間の中、5分程度が現実として過ぎ去っていた。


 そして、ついにそれが静かになる。

 この、一瞬の休憩を待っていた。

 俺の持久力は無限、対して相手がどれだけ強かろうがあんな無茶苦茶な攻撃をずっと続けられるわけがない、そう信じて耐え続けていた。


 今が、絶好の機会なのだ。


     ◇


 『よし、いつでもいけるな!……来たぞ、第二作戦、開始だ』


 一分程度の小休止。

 さすが魔王、カルナの策は実践的かつ理論的だ。


 既に作戦は、実行されている。


 一挙手一投足全てがスリル満点の戦闘。

 次の戦いの火蓋を切ったのもまた、〈超音波〉だった。


 「……!GUAAAA!!」


 もう慣れた。居場所は丸見えだと言わんばかりに、〈超音波〉を放った木の裏を正確にそれがぶち抜く。

 

 それは確実に、〈超音波〉を放った者の体を貫いた。もちろん、その攻撃を普通の生物は耐えられはできない。

 確実に死に至るものだった。


 ──次の瞬間、怪物の耳元からもう一つの〈超音波〉が放たれる。


 「GAa!?!?」


 探知のための声ではなく、鼓膜を突き破ることを目的とした、攻撃の音。

 それを放ったのは、一途に俺と共に行動してくれていたコウモリだ。

 怪物は、もう砲撃どころではない。


 『今しかない!ありったけ使い切れ!』


 最初の〈超音波〉を放った者、礫によって頭を粉々に粉砕された、俺が、カルナの合図と共に地面に触れる。


 「大樹よ、〈成長〉しろッ!」


 よろけた攻撃体勢を解いた怪物の足元から、緑色の光が溢れ出す。

 それは真上にいるものへの警告を兼ねていた。

 怪物はそれに気付かない。


 『貫けっ!』


 怪物の足元から、黄色に輝く月まで届かんとばかりに、大樹が育つ。

 植物のつるの域ではない。断面半径三メートルを超える大樹が、怪物の体を貫いて咲き誇った。


 「GA………GU……U……」


 俺の攻撃は全てゼロになるため、木が体を貫いたといっても死ぬわけではない。

 

 しかし、その大樹は。周りの木の栄養を全て吸い取って作られた大樹は、暴れる怪物でさえも押さえつけ、無力化するのには充分なものだった。


 「……止めた。やった、出来たよカルナ!」

 

 柄にもなく、吠えも出来なくなるほど縛り付けられたその怪物の姿を見て、己の初めての戦いのその結果に喜んでしまった。

 もちろんまだ慢心などしていない、けれど、俺は今生きているということが何より嬉しかったのだ。


 『あぁ!やったな!……我の無茶ぶりによくぞ付き合ってくれた。──これが我らの初勝利だ!』


 勝利。

 獰猛で頑強な怪物を木の中に閉じ込める。

 それが俺たちが描いていた勝利の形だった。


 その過程をもう一度振り返ってみよう。


 作戦は第一段階と第二段階に分かれていた。


 第一段階で相手の力の確認と、陽動と、第二段階への準備。

 これは強力な光を一度のみ放てるランタンを使って達成させた。あれがずっと使えていたら良かったのだが、俺の魔力というものが低いのもあり、一瞬だけの強い光しか起こせなかった。

 だがそれでもおおまか成功。全方位攻撃という相手の切り札のようなものも出せたのも大きかった。


 いよいよ第二段階。これは力のない俺が怪物に届き得る〈成長〉という力に賭けていた。


 いつも小さな種を用いて成長させていたのは、持ち運びやすいからである。

 カルナとの1時間に及ぶ実験の末、この能力は自身の生命力を他の植物に移すことができるだけではなく、他の植物の生命力もまた同様に移すことができることがわかった。

 この力があるからこそ、俺は地下の町であんな大きな木を生やすことができたのだ。あれはあの墓地に残る全ての栄養が一点に集まることによってできたのだと推測した。


 だから俺は、あらかじめ壊されていない木が多く生えている場所を探し、それが持つ全ての栄養、生命力を、その一点に集中させることで地上に大樹を生やすことができたのだ。


 しかし、それには多くの時間がいるし、怪物をその場所まで誘導しなければならなかった。


 そのために、俺は〈超音波〉というスキルを用いた。

 

 それが警戒されるのも、放ったら最後、今度は一発で狙い撃たれてしまうこともわかっていた。

 だからこそ一番読みやすい行動なのであり、チャンスであるとカルナは言った。

 

 コウモリは陽動の要であり、死んではいけない。

 故に死んでもいいこの俺が、〈超音波〉を放ち自ら囮になったのだ。

 〈無垢な子供の玩具箱〉というスキルはコネクトとやらで、服従している魔物のスキルを一つだけ自分も使えるようになる。

 俺はいままで、それの〈反響聴〉というスキルを借りて視覚代わりにしていたのだが、もう見る必要はなく〈超音波〉に変えただけなのである。


 岩が顔面に直撃して、何の比喩もなく破裂したその瞬間は痛いなんてものではなかったが、それが流れを変えたのだ。


 背後から強力な音の爆弾を喰らわせたその場所は、誘導地点ドンピシャ。あらかじめ力を蓄え準備していた植物を呼び覚まし拘束に成功。


 かくして、カルナと俺の初めての戦いは、大勝利という結果を獲得したのだった。

ロジカルな戦闘を目指してます。

というかフィジカルはユウキ的にもう無理です。頭使っていくぞー!

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