第21話 夜明け前の現状確認
「このあたりでいいかな。……でも本当にいいのかな勝手にもらっちゃって」
『いいさいいさ。お金は払ったんだ。有効活用してもらった方がこの剣も嬉しかろう』
「……なんかすごく魔王みたいだね」
『これでもかなり倫理観のある魔王だぞ?ユウキは勇者よりも勇者してるな!……ユナは我よりも自由だったなぁ』
俺たちは街の外に出て、平原とまではいかないが、地面が芝で満ちている少し開けた場所に到着した。
俺の左腰には剣の鞘とその本体が取り付けられている。
これは【剣術】のスキルの確認のために街の露店に放置されていたものを勝手に拝借したものだった。
盗むのは流石にゲームだろうとアウトだろう、と店頭価格のお金を置いてきたのだが、それでも不安なのが先程の会話だ。
……ユナは勇者だからという理由で民家の家に入って壺を勝手に割ったりしていなかっただろうか。
『それじゃあもう一度ステータスを見せてみろ!きっと色々増えているはずだ』
「わかった。『ステータス』。」
言葉と共にウィンドウが表示される。
◇
名前:ユウキ 種族:人間
職業:『冒険者』lv1
HP:8542/120 MP:30/30
STR:15
DEF:10
DEX:14
AGI:9
スキル
〈剣術〉 〈状況理解〉 〈鑑定〉
異能
【不倶退転】
・〈████〉
・〈██████████〉
【████】
加護
【支配者】
〈無垢な子供の玩具箱〉フラグメントボックス
◇
比較しようもないが、明らかに平凡だということがわかるステータスを飛ばして、なぜか黒塗りの異能と新しく増えた加護に注目がいく。
「この加護ってやつがカルナの能力なんだね。黒塗りでわかんない異能はどういうことなの?」
『あぁ【支配者】は我の権能で……ってまてまてまて!?お主HPの値どうなっとるんだ!?』
俺は彼女が驚く理由がわからずに、一度読み飛ばしたステータスをもう一度見てみることにする。
………どうなってるの!?
「……まぁ死なないんだし、HPがどうなってようと構わないか」
少しは驚きはしたものの、すぐに冷静になってこの表記の意味を考えることにする。
『ユウキ、お主あり得ないほど順応性高いな……。たぶん異能の黒塗りのスキルのどちらかがこの体力の正体だな。いくら異能といっても世界のシステムであるステータス表示そのものに影響を及ぼすのは稀だし初めて見た』
カルナの言葉を聞きながら何気なくステータスのその数字を見ていると、8542から8543へ。分母は変わらず分子だけが1ずつ変わっているのがわかった。
もしかしたら体力の上限を超えても、変わらず回復し続けられる。そんな能力なのかもしれない。
『黒塗りの表記についてだが、それは異能にかかわらず、何か異常な進化が起きて、解析が追いつかなかった時になるものだ。時間が経てばやがて見えるようになるさ。そのHPの増加のように発動はするのだから、できる限り夜が明けるまでにどんなものなのかを検討ぐらいはつけておきたいな』
それじゃあ【不倶退転】は一度保留……っと、その下にまた隠される黒塗りの何かにもどこか引っかかる。
「この下のものはなんなのかな。書き方的に異能が二つあるみたいだ」
『どれどれ。……なるほどな。まず異能とは人の持つ大きな願いが、それを叶えるために異能として発現する。したがって、異能を持つ人も限られているし、願いの数と同じように通常異能は一人一つまでだ。だがこれは二つ目の異能で間違いない』
「二つ目?いったいどうして」
『使った覚えがあるんじゃないのか?ほれ、ユウキの胸には我の他に誰がいるんだ』
そこまで言われて俺は、その異能の正体、そしてそれが持つ願いを思い出すことができた。
胸を、心臓を一つ撫でる。
「……アン。あの木を大きく育てさせたのは、君の異能だったんだね」
詳しい情報をステータスは何も語らないが、あの時この目で見たことは紛れもない真実であり、彼女の異能は、彼女の心臓の力と同じように、自然に大きな恵みを与えてくれるものだった。
『そして我の【支配者】で残っていたスキルは〈玩具箱〉か……、他のモノが消えたのはまあしょうがない。だが!これはかなりの当たりだぞ!ユウキの能力、そしてこの獣人の子の能力にもあっている!』
カルナの音量が1段階上がって、どこか俺の中から俺のものではない高揚心を感じる。
「この〈無垢な子供の玩具箱〉ってのはどんなスキル?」
『これは自身の支配下に置いた生物を“変形”できる能力だ。キメラ等も作れるし、自身も変形の対象内だ。変形にHPを犠牲にするため我はあまり使う機会はなかったが……ユウキの能力ならばかなり使い勝手の良いものとなるだろう!』
キメラ……は倫理的にどうなのかとか色々思ってしまうが、彼女の口ぶり的にやれることが幅広いのだろう。とりあえず脱出のための手掛かりが欲しい俺たちとしては適しているかもしれない。
これでとりあえずステータスの復習、能力名の確認は行った。
夜は短い。片っ端から実際に使用してみて、この能力たちの理解を進めてみよう。
まずは〈剣術〉。
「はぁっ!」
『ほう、発動はできるのか。……だが物にあたってもノーダメージだから意味はないな』
「やっぱり。うーん剣放り投げても、俺が行った『攻撃』だから変わらずダメージはゼロか」
『それに………なんか、遅いな。ユナだったら初級の技でも雑木林を一振りで伐採できていた』
「ユナってそんなすごかったの!?」
次に〈状況理解〉。
「いまのところ〈追跡〉しか使えないみたい」
『〈追跡〉は便利だな。初級だから精度は悪いが探索には必須だ』
「レベルを上げたら他に使える能力が増えるの?」
『あぁ剣術も然り。〈状況理解〉はたしか〈索敵〉、〈空間把握〉が使えたはずだ。まぁユナはそんなものがなくても「野生の勘!」とかいって全部運と力で解決していたな……』
「そんな豪快だったのユナ!?」
そして〈鑑定〉。
「うーん、[カナツリ草]って名前と、見てわかる特徴とか簡単なものしか書いてないや」
『〈鑑定〉はほとんどの職業でも、あるいは種族としても最初からある基礎的なものだ。レベルが上がれば敵のステータスも見れるようになる』
「……俺はずっとこのままか」
『いや、スキルレベルとジョブレベルは別で成長できるはずだ。ジョブの方は戦うことにより経験値を得てレベルを上げるが、スキルの方は使い続ければ自然と上がる。……まぁジョブレベルとまったく関連がないと言えば嘘になるのだが』
「なるほど安心したよ。……ちなみにユナはどうだった?」
『【勇者】の権能で敵の弱点から相手の全ステータスを見ることができていたな』
「……本当にすごい【勇者】だったんだね」
スキルは終わり、【異能】の実験に移る。
「【不倶退転】。……つぶやいてもなにも起きないか」
『おそらく、体力がゼロになったら何かが起こるんだろうな』
「………痛みはあるから、まだ死ぬのは怖い」
『誰だってそうさ。だがまぁ我も強要はしたくない。別の観点から調べよう』
「………いや。………〜〜ッ!」
『おいユウキやめろ!無理をしなくてもいいというのに、剣で手のひらを刺すな!』
「死ぬほどのものじゃないし、俺が必要だと思ってしたから大丈夫だよ。………ほら、みて。もう傷が塞がってる」
『……HPを確認させろ。20減ってる……いや今減った状態から増えたな』
「超過した体力を消費して傷を癒す感じなのかな」
『その説が濃厚だな。……まったく、自分を顧みないところはユナそっくりだ。そういうところ、我は好きだが、あまり誰かを悲しませるなよ』
「………わかった。」
次はアンの【異能】。
「よし、[カナツリ草]よ〈成長〉しろ。──すごい。こんなに一瞬で大きく」
『やはり植物の成長を促進させる能力か。これはかなり面白そうだな!』
「種からも発芽させられるのかな。……っとあったあった。〈成長〉。……うん可能だ。でも不思議だね。土がないこの手のひらでもかわらず成長できるし、根がまるで俺に巻き付いてるみたいだ」
『この世界の絶対的なルールとして、無から有は作れない。だからおそらくユウキの体の生命力を宿主として成長しているのではないか?……ほら、どんどんHPが減っている』
「……なるほど。地下の巨大樹は俺のHPではなく街全体の地面の栄養を吸っているように見えた。つまり予想が正しければ“成長や体力を司る生命力を他のものに移せる”能力といったところなのかな」
『あぁ異論はない。これはユウキの自動回復とかなりシナジーが高いな。植物以外のものでも試してみよう』
「そうだね。……ありがとう、アン」
最後にカルナの能力。
「カルナが言ってる権能ってなに?異能とは違うの?」
『権能はシステムから認められたある概念の行使権。特殊な【星級職】や【星級種】へと到達すると、世界でそのたった一人が使える力。我のは【魔王】になった時に得たものだ。いまはかなり制限されているがな』
「なるほど。……とにかく使ってみようか。どうやったら使えるの?」
『自分の支配下だと思った生物に触れればあとはもう自由にできる』
「…………本当に魔王みたいな能力だね」
『我はそんな非人道的なことはしてなかったぞ?それよりもユナの方が……いや、なんでもない。自分の体を作り変えることもできるぞ、そっちをやってみてくれ』
「ユナの方が!?……まぁ自分の体を変える方をやってみるよ。えっと、『手よ伸びろ』とか考えればいいのかな───ってえぇ!?本当に伸びた!?」
『ははははは!客観的に見るとめちゃくちゃ面白いなこれ!』
「ちょっとカルナー!?これどうやって元に戻せばいいの!?」
そんな愉快な実験を続けてから、軽く一時間半。
俺たちは全ての能力の大まかな内容と使い方を考えることができた。
空は本格的に真っ暗になった。
人ももういないこの島も、電気なんてものはなくただ自然と同化して静まり返っている。
その中にポツンと一つ小さな光を、平原の中心にランタンのようなものを置いてそれを囲むように俺は座っていた。
これは、街の外に出る前に、剣と一緒にカルナが必要だから買っておくべきだと言われたものだった。もちろんお金は払った。
こんなサバイバルといってもおかしくない、見知らぬ土地の真っ暗な場所でも俺が怖さを感じず、むしろ面白い、ワクワクするものだと思っているのはカルナのおかげだ。
『ユウキぃー!次は森に行ってみよう!早くプランAを試すのだ!急がないと夜が明けるぞー!探検探検!』
ずっとこんな彼女の声が頭に響いているからだ。
喧しいといえばきっとそうなのだろうが、俺はその彼女の明るさに助けられていると、そう思える。
カルナとたくさんの話をした。まだ出会って半日すらも経っていないのに、運命を共にするかのような相棒のような存在だと、心で理解している。
「そうだね。森の魔物の調査に行こうか」
俺はランタンを持って、平原の奥、街からさらに離れた薄暗い森へと、歩き出した。
ワクついてきました。




