表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第一章 【勇者】の残光

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/56

第19話 契約

 「───500年前の【勇者】、シラヌイユナ。」


 俺は耳を疑った。

 だって、シラヌイユナという名前は、不知火悠那という世界でたった一人の大切な妹のものであり、彼女自身が【勇者】だと語りはじめたのは、ほんの一年前からのことなのだから。


 「まだ目覚めたばかりで外の世界の様子を知らず、何も手がかりはない。きっと長い旅だ。だのに、見ず知らずの赤の他人に手伝ってほしい、なんて軽々しく頼めるものではないのはわかっている。……それでも、我は、ユナに会わなければいけないのだ。もう一度、頼む。ユウキ、力を貸してくれないか……?」


 いまだに、カルナと重なる彼女の面影についての理解はできていない。

 でも、次に返事する言葉は明確だ。

 これで、本当に断る理由はなくなった。


 「──あぁ、命に替えてでも、カルナの願いを叶えよう。悠那は、ユナは、俺の唯一無二の妹なんだ」


 俺の誓いを聞いて、彼女は喜びの表情を浮かべた。だがその表情は、その後俺が続いた言葉によって、きょとんと目を丸めたようなものになる。

 そして、彼女は笑った。


 「……、っははは!ユウキ、そうか!ユウキが『お兄ちゃん』だったのか!……そうか、やはり、ユウキの行動は、本当にユナと似ているんだな」


 あまりの出来事に思わず笑ってしまったかと思えば、彼女は急に静かになり、まるで俺を憐れむかのような顔でそう言った。


 「ユウキ──『お兄ちゃん』のことだったらずっとユナが我に語っていたからなんでもわかるぞ。毎日美味しいご飯を作ってくれたり、優しく撫でてくれて世界で一番頼れる人だ、とかな。ー


 そうか、そんなことを思ってくれてたんだな。

 俺はジワジワと目に込み上げてくる熱いものを抑えて、笑って誤魔化した。


 「なんだか恥ずかしいね……。……他にユナはどんなことを言っていたの?」


 俺は、俺が求めていた、仮想世界の中でのユナという記憶について知っている人物に会うことができて、嬉しくて、ついそう尋ねてしまった。


 「ふっふっふ、うーん内緒にしておこうか。ユナはこういうのを勝手に言われると怒りそうだからな。だが他のことならいっぱい話してやろう!親友のことについて話せるのが、我はいまとてつもなく嬉しいのだ!」


 親友。妹がそう自信満々に言われていることが、なんだか俺も嬉しくさせる。

 彼女が【魔王】だとか、悠那が【勇者】だとか、きっとそんなことは関係ないのだろう。


 そうして俺たちは本人がもういない空間の中で、その一人の優しき勇者のことを話し合った。


 「一つきいてもいいかな。俺は、悠那が世界を救ってほしいと願ったからここに来たんだ。カルナも同じことを言った。……でも、カルナはユナを生き返らせるっていったよね。それは、できるの?」


 お互い話が弾んだあと、進んだ時間を自覚して、俺は思い切ってずっと疑問に思っていたことを尋ねた。

 生き返らせる。叶うなら、俺は俺の全てを犠牲にしたって、悠那ともう一度会いたい。

 でもそれは不可能だと思っていた。けれど彼女の話を聞いて、俺はその常識を変えられるのかもしれないということに、かすかな希望を抱いた。


 「【復活魔法】というものがある。……しかし、それは死後数時間経ったモノには効果がない。500年前の人間の遺体など、いくら強い魂があろうとも蘇生は不可能だ」


 カルナは俺の手を握る。


 「しかし、【異能】という、人の願いが強く宿った魂ならば、それは、世界のルールを書き換えるということは可能だ」

 

 【異能】は人の願い。

 願えば、“蘇生”が、もう一度悠那と会うことが、可能。

 俺は唾を飲み込む。


 「そして、それはユウキが持っている。どれ、ステータスを見せてみろ、【異能】の名前が刻まれているはずだ」


 言われるがまま、俺はステータスと念じて久方ぶりのあのホログラムを出現させた。

 レベルの欄は相も変わらずそのままであり、各能力のパラメータの数値もぱっとしないもので特に注目せずに読みとばしてしまう。

 なぜならば【スキル】の欄の下に、見覚えのない新しいものが追加されていることに気付いたからだ。

 

 「【異能】、【不倶退転】……」


 間違いなく、そこにはそう書かれていた。

 あれは聞き間違いではなかった。

 そしてその下には虫喰いのように【██】と隠された文字が二つほど並んでいる。なんだろうと押してみても変化は何も起きず、さっぱりだ。


 「ほう、その能力の説明はあるか?」


 【不倶退転】のその文字をタップすると今度こそ反応し、ずらっと……ではなく、ただの一文、説明らしきものが表示される。


 「えっと、『命の理を否定する能力』だって。……なんかすごい大雑把だね」


 否定とはいったい。アバウトな説明に対してそう言葉もつきたくなる。


 「スキルならともかく【異能】ならそんなものだ。個人が願って初めて生まれるものだからな。世界のシステムすらもまだ把握できていないのだ。最初は漠然としたものから次第に自分の望むものに変化して自ずと使い方もわかることが多い。……だが、死を“否定”か。……大変だったな。よしよし、我が撫でてやろう」


 なぜいきなりそんなことを、と思いながら彼女の顔を見れば、瞳はとても哀れみと慈愛の念が込められていた。

 茶化しているわけではない、真剣な表情。

 そこで俺は、『願う』、という言葉がどれほど大きなものかということに気付かされる。

 命を否定する、そう心から願ったのは、母と父と、悠那とアンが死んで、それを認めたくなかったから。


 願いは人の過去。


 きっとカルナはそれを想像したのだろう。

 少し気恥ずかしいけれど、俺はその手を受け入れていた。


 「ありがとう、カルナ。……うん?なにか続きが書いてある」


 端的すぎる説明文の横には、更なる文字が現れていることに、カルナの手を退けてから分かった。

 すぐにそれを見た。


 その言葉は、俺に苦い記憶を想起させた。


 「【制約】か。『他者への攻撃の禁止』とは、なかなか厳しいものを誓ったなぁユウキ」


 カルナの言葉の通り、そこに書いてあったのは異能のデメリットとも言えるものだった。あの人間を殴っても、ひとつも傷つけられなかったその正体。

 

 「誓った覚えはないんだけどね。……【異能】についてまだあんまり理解できてないんだけど、その制約って必ずあるものなの?」


 トラベラー間にも一切共有されていないその概念。

 不思議な力なうえ、さらに制約、という発動条件が複雑に組み合わさっていると思えば、かなり難しそうなものだ。


 「いや、『制約』は基本願いが重すぎるものに付くものだ。のちのち自らに縛りを貸して能力を強くする方法はあるが……、曲げない意思を持ち、全てを賭けてもいいと思えるほど最初から強く願える奴など、お前とユナぐらいしか我は見たことがない。そしてその『制約』の内容は変えることはできない」


 彼女から明かされるユナの秘密にまたも驚かされる。

 そうか、ユナもなにか【異能】を持っていたのか。しかも、制約をつけてしまうほどの強い願いを。


 「だが『制約』は自身が叶えたい、と思ったことを、その言葉の根幹まで叶えてしまおうとするときに生まれる。……難しい説明だが、さっきユウキは誓った覚えはないと言ったな。本人が表面上は望まないことでも、深層意識ではそれを望んでいるその曖昧でチグハグな想いが制約として機能するのだ。」


 深層ではそれを強く望んでいる?

 俺はホログラムに書いてある文字を見た。

 『他者への攻撃の禁止』。

 

 ……そうかもな、あの人間たちを心の底から恨んで、そんな世界を壊してやるなんて思ったけれど、全員死ねば、全部壊せば解決するなんて思ってないんだ。

 それに死を否定するものが、人を死に追いやってどうする。

   

 「だが、そうだな。つまり、ユウキはレベルがあがないということになるのか」


 そのカルナの言葉は、俺が考えもつかなかった、大変な事実を指摘していた。


 「た、たしかに…………、人を倒すことでしかレベルが上がらないなら、ずっと強くなれないよね?……死なないだけで、避けもできないし攻撃もできない。まずユナのもとに辿り着けるかすらも怪しいな」


 早々にこれからの旅路が不安になる。対峙したあの騎士たちのレベルこそわからないがレベル一では歯も立たない。そして外にいるであろう魔物にも余裕で負けるに決まっている。

 言葉通りにそうであるとは思わないけれど、この世界は、ゲームなのだ。

 レベルという、ステータスという概念があるゲームで強くなれないことは詰んでいる。


 俺は本当に死なない、だけ、なのだ。


 「安心せい、我を誰だと思っておる!【魔王】であり、【勇者】の大親友だ!目的が果たされるまで、何があってもユウキの力になることを誓おう!」


 それはとてつもなく頼りになるものだった。

 そしてそんな自信満々に胸を叩く姿が、どうしようもなく悠那を思い出させるんだ。


 「まあ元、【魔王】だし、この体じゃ本来の力の億分の一も出せないがな!」


 そうやって何も大丈夫じゃないことに豪快に笑ってみせても、俺はもうレベルが上がらないことに対する不安はなくなっていた。

 きっと大丈夫だ。この子なら、カルナとならまたユナに会うことができる。


 「さて、いろいろ説明は済んだか!それではさっそく、世界を救うための『契約』を行うことにしよう!」


 「『契約』?」


 疑問の言葉を口に出すと、カルナはニヤリと笑いながら何かの言葉をつぶやいた。ボソッとしか聞こえなかったが、それは日本語ではないことだけが確かだった。

 そして突然地面になにかの模様が刻まれ始める。

 まるで魔法陣のように円形に広がる幾何学的な図形。

 どういう仕組みだとか、何だこれはとか、驚く俺を見ながら彼女は説明を続けた。


 「あぁそうとも『契約』だ。契約とは『約束を取り決め反故できないようにする』言葉通りの意味でもあるが、我とそれを結ぶということはすなわち『一心同体になる』ということも意味する!」


 一心同体……?

 言葉のイメージが漠然としか掴めないが、どこか、俺に宿ったと言われるアンの心臓が思い浮かぶ。


 「【魔王】だった我と交わす契約は、契約者同士の体と心を共同化することで、約束の縛りを強め、我の権能である[支配者]の一部の行使を可能にする!平たく言えばユウキの身体に我が入り込んで力を貸すと言うことだ!いろいろルールはあって難しいのだが、私の能力とユウキの【異能】はきっと相性がいい。まぁ『契約』を結ぶことでパワーアップしてユナまで近づくことができると捉えてもらっても構わない!」


 どうやら本当に、一心同体、という名前通りの契約みたいであった。

 俺の体に入り込むというのなら、今目の前にいる幼い少女の姿をしたカルナは一体どこに消えるんだ、とも思うが、ここは魔法があるファンタジーの世界だし、彼女はその最高峰の魔王だ。きっとなんとでもできるのだろう。


 だが、俺が疑問に思ったのは、その原理ではなく、理由の方だった。


 「俺にとっては利益がありそうだ。けど、カルナにとってはどうなんだい?死なない【異能】があるといってもきっとカルナの方が強い。俺の体に入り込むんじゃなくて、別々で動いた方が君はやりすいんじゃないのかな」


 俺はアンの全力疾走にすら追いつけない。億分の一になっているとはいえ、力を取り戻していけば魔王だったカルナの方が強いだろうということは間違っていないはずだ。


 「なるほどそういうことか。……正直なことを言うが、我は500年前力を使い果たした。そして今もまだ完全体とはいえない。消えゆく命を『自分自身の封印』と『島から出ることができない』いう縛りを決めることでなんとかこの世に繋いだのだ。しかも封印を解いてもまだ後者は機能している。だが、それを解く方法がこの『契約』だ。我がユウキの心の一部となることで我という身体がユウキに統合され別の存在になり縛りを免れる……、ま、簡単にいえば我はユウキに取り憑かなきゃ何もできないということだな」


 明け透けな答えだったが、なるほど理にかなっている。

 それにお互いにウィンウィンなことは変わりない。


 「改めての改めて、我と『契約』を結んでくれないか?」


 魔法陣はすでに完成していた。その円の中心には彼女ではなく、俺が立っていた。


 「必ず後悔はさせないと誓おう。そして何度も言おう。ユナともう一度会うために、世界を救うために、ユウキの力が必要なのだ。……それでも良ければ、我の手を握り双方の真名と誓いを声に出せ。我の真名は、もう知っているな?」

 

 彼女は手を差し出した。

 その手は小さくて、少し震えているように見えた。

 きっと彼女もずっと不安だったのだろう。


 安心してよ。今更裏切ったりは絶対にしない。

 俺は、その手を強く握る。


 「不知火悠生、アグラ=カルナ=シラヌイ!ユナを生き返らせ、世界を救うまで、共に闘うことを誓おう!」

 

 魔法陣が紫色に光始め───



 ───光がやんだ頃には、カルナは目の前から消えていた。

当初はルビとか色々考えていたのですが、なんか考えるのもめんどくさくなったので技名や職業は基本的にそのまま呼んで構いません。

【異能】だけルビを振ります。かっこいいので。


【不倶退転】と書いて【イザナミ】です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ