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Another World 〜【勇者】が愛した仮想世界〜  作者: 明日乃灯
第一章 【勇者】の残光

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第13話 覚醒、そして

 〔【願い】を確認しました。異能:【不倶退転(イザナミ)】を獲得。その能力に伴い、〈アバター〉を作り替えます〕

 

 瞬間、脳にそんな声が響いた。

 言葉の半分も意味がわからない。


 だが、いまはそんなこと、どうでもいい。

 

 「──っ!あぁ、ああ、アン、アンッ!」

 

 体の支配権が俺に戻っていた。

 自由に声を出せる。拳を握りしめられる。立ち上がることができる。アンを助けることができる。

 何が起こっているのかわからない。

 ただ、動ければそれでいい。


 「その手をッ、離せぇええッ!」


 あの声を聞いてから、なぜか、俺の体は仮想世界の姿であるはずなのに、さっきまでと違って重く感じる。

 それに、握りしめる拳の、自分の力によるその痛みを感じることができる。

 

 まるで、それはさっきまで欠けていた感覚が突然追加されたように。


 「なに!?邪魔だ人間!ええい、兵士よ!こいつを気絶させろ!」


 またしても、この想いは届かない。

 俺の拳は、兵士の一人に易々と受け止められる。そして彼は空気よりも軽いと言わんばかりに、片腕で俺を持ち上げて、遠くへと勢いよく投げ飛ばす。

 二度経験した地面に叩きつけられる感覚は、一度目とは大きく違っていた。

 それは現実で、高所から受け身も取れずに感じるものと同じ。

 

 間違いない。『痛覚』が追加されている。


 痛い。顔面から地面に激突した。鼻の骨が折れていてもおかしくない痛みだ。ツー、と俺の顔から何かが流れる感覚がする。痺れる腕でかろうじてそれを拭って確認すると、真っ赤な液体だ。

 血。血だ。なぜ、この体に血が流れている。


 どくどくと心臓の音がうるさい。現実でもここまでの怪我をしたことがない。動揺する。思考が整理できない。痛みが抑えられない。


 「操られているとはいえ、獣に毒された人間は不快だ。あとで牢屋にぶちこんでおけ。……さぁ、儀式の続きをするぞ」


 俺は薄れゆく意識の中で、必死に目を開け続ける。

 彼が、短剣を持ち直して、アンの心臓にそれを突きつけているのが見える。


 そうだ、何も状況は変わっていない。

 

 俺がすべきなのは、痛みに悶えることじゃない。アンを、助けることだ。


 「……っが、がァあァあああ!」

 

 まだ、止まることはできない。


 「っ!一体なんなのだこいつは!兵士よ、処刑を許可する!邪魔をさせるな!」


 それを待っていたと言わんばかりに、槍持ちの兵士が、武器を構えた状態で、アンの前で待ち構えている。

 彼女を助けにこのまま進めば、間違いなくその槍は俺の体を貫く。

 きっと、そうなったら俺は死ぬ。


 だが、俺は立ち止まれなかった。立ち止まりたくなかった。正しい判断をしているかもわからない。ただ、動き続けたかった。


 「まて、まてユウキッ!止まれ!」


 そのアルスの声も聞こえない。

 俺は走るのをやめない。


 アンはもう目前だ。だが、彼女よりも前に、槍という凶器が俺に殺意を向けている。


 選択は、変えない。


 ついに、俺の腹にその鋭い刃が突き刺さった。

 

 「──っ、ッぷハっ」

 

 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。肺に大きな杭がうちこまれているようで鈍くて鋭くて痛い。内臓がかき混ぜられているかのように痛い。血が沸騰しているかのように熱くて痛い。腹以外の神経が切れてしまっていて全ての感覚が一ヶ所に集まっているかのようで痛い。息が入らない、呼吸する穴からは血の塊が吐き出していて、苦しくて痛い。


 だが、それは足を止める理由にはならない。


 「っぁああ゛あアああア゛ぁあ!」

 

 槍に貫かれながら、俺は前に進む。

 ぐちょぐちょと内臓が破壊される水の音が聞こえる、感じる。それでも、進む。

 

 「ひっ!な、なんだこいつ……!あ、悪魔だ……!」


 腹が傷ついただけだ。手足は動かせる。こいつを押し除けて、俺はアンの元に辿り着く。そして、あの人間を、殺す。


 血まみれの手が槍使いの兵士の体を押して、生きた人間の執念という恐怖からか、彼はその武器を手放した。


 「な、何をしている!早くこいつを殺せ!お前ら!」

 

 槍だけが腹に刺さったまま、俺は、一歩ずつ、歩みを止めない。


 そんな俺をようやく真に恐れる敵と認めたのか、アンを抑えていた二人の兵士が抜刀して、震えながらも俺に躊躇なくそれを振り落とした。

 

 無意識のうちに俺は頭を腕で守っていた。


 目を開けた時、俺の全ての感覚はゼロになってはいなかった。

 腕、いや腕を繋ぎ止めていたところから感じる痛みで、自分の生存を確認した。


 血が、俺自身の血があり得ない勢いでそこから放出されている。

 けれど、不思議と腕だと思っていた場所からは何も感覚を覚えない。


 俺はそのすぐに、目の前に無様に転がっている物体が、俺の腕「だった」ものだということに気づいた。


 そうか、今度は、腕を切り落とされたのか。


 頭に登っていた血を強引に吐き出してくれたおかげで、妙に思考がクリアだ。そんな事実を冷静に考えられる自分に少しの恐怖も覚える。


 地面を見る。腹からと腕から、俺の血は絶え間なく外に流れ続け、血の池が作られている。医者を目指していたからわかる。いや、誰だってわかるな。これは、致死量だ。


 槍が俺を貫いている場所は、身体のど真ん中だ。心臓が無事であるはずがない。

 これほど多くの血を流せば、もはや痛みすらも感じずにすぐに意識がなくなって、そのまま死ぬだろう。


 だが俺が感じるのは痛みだけ。足は動ける。脳もどこかスッキリしている。


 なぜかはわからない。だが俺にとってそれは好都合だ。


 「と、とまれっ、とまれ!おい!首だ!早く首を切り落とせ!」


 もう一人の兵士が、俺に対して追撃の構えをした。

 頭を狙っている。こんな状態でも未だ生きている俺がどこまでいったら死ぬかはわからないが、首を飛ばされたら普通死ぬのが人間だ。まだ生きたいのなら避けるべきだが、足が重い。変な感覚、自分の体じゃないみたいな。それに頭を守るための腕も、もう無くなってしまった。


 俺はその一撃を正面から喰らう選択しかない。

 だが、このまま死ぬわけにはいかない。


 せめてもの抵抗として、俺は絶対にその剣から目を離さなかった。すべての光景を目に焼き付けようと、死の寸前まで目を見開いた。


 世界がゆっくりに見える。

 死という絶望の前に、生という思い出を振り返る時間を与えるように。

 だが俺は絶望するつもりはひとつもない。死んでも必ず生き返って、こいつらを殺す。このふざけた世界を壊す。

 俺は永遠に感じるその時間の中で、その剣先だけを見続けた。


 そして、横薙ぎの一閃が、俺の首を切り落とす。


 体と視界がズレていくような、不思議な感覚を感じる。肉体の痛みから切り離されたようで、どこか楽だ。このまま眠ってしまいたい心地よさ。安心感。俺には力がない。何を足掻いたとしてもあいつらに勝てるわけがない。それならいつかの時まで力を蓄えるために今は諦めて、このまま寝てしまったほうが自分のためになる。


 ……それで、いいわけがないだろう。

 次にリスポーンしたら?いつこの世界に帰って来れるんだ。そいつらを殺しても、今、アンが死んでしまったら何の意味もない。

 そうだ。俺は、まだ、死ねない。


 〔〈浅き夢██、酔い██ず〉〕


 俺は、生きていた。

 朧げながら誰かの囁く声がした。落ちかけていた意識が、はっきりと、いま再び覚醒した。

 なんなんだこれは。

 まだ感覚があった。切り離されたと思っていた俺の胴体がなぜか存在しているのだ。それどころか、確実に自分のものじゃなくなった瞬間を見たこの腕さえも元の場所にくっついている。さらにあれだけ辛かった痛みももう感じられない。腹に開けられた槍の跡が綺麗さっぱり消えている。

 

 死後の世界?現実?いや、目の前には変わらない洞窟の薄暗い景色と、人間と、アンの姿がある。

 

 彼らのその顔を見れば、やはり、彼らの世界でもあり得ない状況が起きていたことはわかる。


 俺は、正真正銘、復活したのだ。


 さっきの声が原因か。いや、深く考えるのは意味がない。それよりも、今すべきはアンを助けること。


 「……せよ、その手を……ッ、離せよッ!!」


 足が軽快だ。思うように動く。

 一心不乱に駆ける俺の目の前を、怯えながらもまだ兵士が立ち塞ぐ。だが、俺は、もうそれに目もくれない。


 体が斬られる。槍で貫かれる。首が飛ぶ。

 痛い。だがもう慣れた。慣れるべきなんだ。


 必ずアンを助ける、そんな執着が、俺を復活させる。それを信じて俺は、この絶望の苦痛を歩み続ける。


 そして、ついに、俺は辿り着いた。


 「ひっ、ひぃぃいい!?〈服従〉〈服従〉、〈服従〉っ!か、〈看破〉!……なぜだ!なぜきかない!お前はレベル1のままであるはずだろう!僕の前にくるんじゃない!」


 彼はそういって怯えている様子だった。だが、その左手はまだ、アンを捕まえたままだった。離す気は毛頭ないように思えた。

 アンは信じられないような目をして、俺を、血だらけの俺を見ている。

 アルスも、いまそんな顔をしているのだろうか。


 彼らが動き出していないことをみるに、奴隷契約というのはきっと時間で縛られるようなものではないのだろう。

 彼らがいいというまで動くことができない、そんなふざけたルールでも存在していてもおかしくない。

 だったら俺は、そいつに、もうやめてくれ、と言わせるために何度死んでも殴り続けてやる。


 「あ、悪魔……!悪魔が!僕の島に入ってくるんじゃない!僕の所有物を取るんじゃない!」


 この期に及んで、まだそんなことを言うのなら、俺は止めない。

 生命は誰かに所有されるものじゃない。


 全ての憎しみと、想いと誇りを、拳に強く、握りしめて。


 そして思いっきり、殴った。


 そこには、腕が何かを押し出すような、力が全て何かに伝わるような、そんな快感は、


 存在しなかった。


 「───?」


 何が起きているかわからなかったのは、俺だけじゃない。俺に殴られた彼もわかっていない。

 

 俺の攻撃が効いていない。


 効いていない、そんなレベルの話でもない。もしこの世界にも物理法則が存在するとしたら、俺が持つこのエネルギーは少なからず、相手に衝撃として伝わるはずだ。

 それなのに、なぜ、彼自身だけではなく、彼が身につけている服もアクセサリーも、そよ風が吹くよりも揺れていない?


 屈強な体で阻まれたというよりも、透明な壁で衝撃全部が俺自身に返ってきたようだ。


 なぜ。わからない。俺はその事実をもう一度確認するかのように、再び、拳を握って、殴る。


 効いていない。届いていない。

 痛い。指の骨が折れているようだ。


 再び殴る。


 効いていない。


 再び殴る。効かない。再び殴る。効かない。


 なんで、なんで、なんで俺の拳が届かないんだ。どうして、ここまでして、どうして、なんで。何度も、何度も、何度も、何度も殴り続ける。だが、その拳の一つも、彼の趣味の悪い黄金のガラクタにさえ、傷もつけられない。


 「……っふ、ふふっ、ふはははは!なんだ、やはりレベル1のゴミクズではないか!レベルが90を超える僕がお前如きに殺されるわけがなかったんだ!」


 うるさい、うるさい。うるさい!

 殴り続けながらも、彼は喋るのをやめない。


 「悪魔!お前は、死なないだけだ!はは、この【白狐】とお前になんの関係があるか知らないが、残念だったなぁ!助けられなくて!こいつはもう僕の所有物なんだよ!」


 そのねっとりとした不快な声が俺の脳を通るのを塞ぐことができない。

 なんで、助けられないんだ。俺は、この子の救世主の〈トラベラー〉じゃなかったのかよ。

 

 視界に、何度目かのホログラムが現れる。


 『異能:【不倶退転】の制約により、他者への攻撃が禁じられています』


 俺はその文字の内容を理解できなかった。したくなかったんだ。


 「……な、なんだよそれ……、なんなんだよ!それは!」

 

 この拳が無意味だと知った。

 俺は、誰も助けることができないのだと、そう知ってしまった。


 次第に拳を作るための力も、必ず守ると決めたその心さえも、徐々に衰弱していってしまって、ついに俺は、縋るように膝をついて、彼に、世界に反撃することをやめてしまった。


 「お前ら!こいつを取り押さえろ!力がないことがわかった!殺すんじゃない、少しも動けないように固めろ!」


 兵士が命令に従って俺の周りを取り囲む。

 腕が強引に引っ張られる。


 捕まってしまったら、さっきみたいにもう一度アンを助けに行くことができないことがわかっていた。

 

 それでも、抵抗する気はもう起きなかった。


 どれだけ俺が命を賭けたって、誰の命もその天秤は傾きもしないということを知ったから。


 俺は力がない、いや、どうやら他人を攻撃することができないらしい。こんな、こんなどうしようもない、身の毛もよだつような絶対的な悪でさえも、俺は、罰することができない。

 制約だがなんだかしらないが、それが世界の定めた、俺という人間の生き方だっていうのか。


 俺を縛り付けるその二文字を頭の中でずっと反芻して、なされるがまま、兵士に腕の骨を折られ、羽交締めされる。


 抵抗すれば、まだ、アンは助かる。その可能性は確実に存在する。でも俺が諦めてしまったら、針の穴より小さいのその可能性が、完全にゼロになる。

 

 わかってるよ、わかってる。でも、俺は動けないんだ。

 こんな俺に何ができるんだよ。


 「それでは!改めて、儀式を行う!とくと見ておけ、獣人、それに悪魔よ!僕たち人間の糧となることを喜ばしく思うがいい!」


 そんなことは許せない。

 そう想う心も、次第に薄れていってるのがわかってしまった。

 あんなに怒っていたはずなのに、今の俺にはどこかどうでもいいようなものに思えてしまって。


 アルスがアンの名前を叫ぶ声が聞こえる。

 俺は彼の表情を見るために振り返ることもできなかった。きっと、焦っている、怒っている、そして俺に、失望している。


 絶対に助けるってそう言ったのに。

 ごめん、ごめん。ごめんアン。アルス。

 俺は、もう動けないんだ。


 血で覆われた赤く染まる視界、その閉じかけの目の中、アンの表情が見えた。見えてしまった。


 どんな悲しい表情をしているのだろう、どんな怒った表情をしているのだろう。

 彼女の期待を裏切ってしまった。あの石碑の前で約束したはずなのに。

 本当に、ごめん。俺は君たちの救世主じゃなかったんだ。こんな、まだ生きているのにすべてを諦めてもう動くこともできない俺は、君にはどう見えているのかな。平気で、叶えようともしない嘘をつく、最低な人間かな。

 彼女に呪われても、俺はそれを拒むことはできない。


 そんなことをずっと、言い訳がましく考えていた。

 

 だが、彼女の表情は、悔しさでも、悲しみでも、恐怖でも、怒りでも、失望でもなかった。


 彼女は、笑っていた。



 「──ありがとう、ユウキ。バイバイ、大好きだよ!」

 


 彼女の心臓は、短剣によって貫かれる。


 その瞬間、世界から、色が消えてしまったように感じたんだ。


 アンの髪の色、瞳の色、肌の色。


 そこにあるはずなのに、その色はまるで生気をなくしてしまったみたいに、他のどの色でも補えないような鈍い、透明な色。

 

 彼女の胸に突き刺さる、黄金だけが、歪にその体の存在を主張している。


 「……あ、あ、ああぁ」


 声が漏れ出た。


 俺は、自分の選択を後悔した。


 アンは、今、死んでしまったんだ。


 その光景が、脳裏に焼き付く。

 離れない。離れない。離れない。離れない。


 アンは最後笑っていた。どうして、どうしてありがとうなんてこの俺に言ったんだ。

 だって、俺は君を助けられなかったじゃないか。

 責めてくれよ、貶してくれよ。

 そしたら俺は自分を無責任な偽善者だって、そう償って、この世界から消えることができたのに。


 「あぁ、ああぁああアあ!」


 俺は、あの時、まだ動けた。

 もう無理だって、彼女の命を、諦めてしまったのは俺だったんだ。

 

 こんな気持ちになるなんて、思っていなかった。


 彼女を助け出す他の方法はいくらでもあったじゃないか。

 でも、俺は、自分自身のエゴと妥協で、立ち上がるのをやめてしまった。

 

 俺は、ただの一般人だ。

 誰かを救うヒーローになれなかった。

 そんな存在に、幼い頃からずっと、なりたかったんだ。

 困ってる人を助けられる、そんな優しくて、強い人間に憧れた。母を、父を、悠那を笑顔にしたかった。でも俺はできなかった。誰一人もう生きていない。俺だけがのうのうと生きている。


 だから、第二の世界で、どこかそんな存在なれると思っていた。


 『救世主』。

 あの石碑の前で、俺はアンに確かにそう言われた。

 奴隷。見るに耐えない、そんな虐げられている人々は、ヒーローという存在が現れるのには、最適な舞台だと、そんな自分勝手で傲慢なことを思ってしまった。

 〈トラベラー〉という言葉が、俺を、まるでゲームの主人公かのように望むもの全てを助けることができるのだと、そう錯覚させてしまった。

 

 だから俺は、あの時、あんな軽々しく「救う」なんて言葉を使ってしまった。


 「………!ユウキ、動け、動け!」


 それがどうだ。

 俺ができるのは、生きることだけ。

 なんだ、第二の世界でも変わらないのかよ。

 誰かが死んでいくのに、俺はその人のために命を投げ出すこともできずにただ生き延びるだけ。


 「動くんだ、ユウキ!お前は悪くねぇ!」


 この場に俺は必要なかったんだ。アルスが動けていれば、きっとこんなやつら簡単に退けられていた。対して俺は無様に、絶対助ける、なんて言っておきながら、何も結末を変えられない。


 「お前が救えなかったんじゃない!そいつらが悪なんだ!動け、動いて逃げるんだ!お前は、まだ死んでいい存在じゃねぇんだよ!」


 もう、俺はいいんだ。

 

 いいんだよ。


 息をするのも、生きているのも、もう疲れた。


 悠那も、アンも。笑顔と、優しさが魅力的な少女だった。きっとそんな二人のことだから、残された俺のことを「私の代わりに生きていて」なんてそんなこと思ってくれていたかもしれない。


 なんて、贅沢な思い込みなのはわかってる。


 でも、ごめん。俺は、君たちを救えなかった俺は、もう生きている理由なんてないんだ。


 「ユウキッ!動けええエえッ!」

 

 ざしゅっ、そんな擬音語が俺の首から流れ出る。

 何度聞いたんだ。何度足掻いたんだ。


 兵士の一人が、俺の首を切り落としていた。


 何も感じなかった。

 

 アンが死んでから、音が、耳から耳へ通り過ぎていた。だから俺は、手足を抑えていた人間が一人少なくなっていて、その人間が武器を構えて背後からゆっくり近づいているのを気づくこともできなかった。


 俺は復活できる能力があった。

 首を落とされても、大量の血を流しても、痛みと共に蘇る。


 何故なのかは、俺が一番知りたい。


 でもそれを望んだ理由は知っている。


 アンを助けたかったから、まだ死ぬべきじゃなかったから。

 その決意を胸にしたら、俺は命を何度でも再生できた。


 でも、じゃあ、今は?

 なんのために命を再生する?

 誰かを助けるため?


 まさか。もう、アンはいないんだ。


 俺が、生きたい、そう思える理由は、どこにもない。


 だから、俺の命は、その時。


 

 完全に途絶えたんだ。


 


妹キャラが、大好きです。

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