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5 二度目の医務室、最推しと二人


「ん……くぁ……あー……いててっ……体いたすぎ……」

 拓が目覚めると、そこは医務室だった。カゼアと戦ったのは大体三時前と考えればいいだろう。そして今の時刻は四時四五分……大体二時間近く寝たということだろう。拓は体を起こして頭をぼーっとさせる。

(あの時……なんか、感覚で魔法打ったけど……あってるのかなあれ……〈ディソナンス〉って確か結構強めな技……あ……あれ……?か、カゼア様に……)

「起きたか」

「うわぁっ!?」

 拓が声のする右を見ると、カゼアがいた。カゼアはメガネを外していて、拓が付けたはずの傷もなかった。

「あー……相打ちらしい。ユーヒリストが言ってた」

「…ね、ネネさんですか?」

「ああ……お前、東洋から来たんだな」

「か、かかか、カゼアさんは……その、と、東洋になんか、し、知り合いでもいるんですか?」

 カゼアは東洋出身だ。元の世界の地図だったら中国とかモンゴル辺りだ。西洋に来た理由はゲームクリア達成の番外編出てくるらしいが、クリアできていない拓はまだ知らなかった。

「……まあ、いるにはいる……それよりお前……俺の名前教えたっけ…?」

「あ……」

(やらかしたー!!!!そうじゃん、カゼア様まだ名乗ってなかったじゃん!やらかした!?ど、どどど、どうしよー!?)

「え、あ、えーと……せ、セズラ先生が、かか、カゼアくんと、い、いぃ、言っていたじゃないですか!ね!?」

「……言ってたな。あと君付けするな、反吐が出る」

 カゼアは少しうんざりとした顔で拓を見ていた。拓はというとカゼアと反対の方を向き、悶えていた。

(あーやばい!きたー!!!カゼア様の毒舌ボイス!!この毒舌はファンにとって最高なんだよー!!もうこれだけでご飯四杯いけると言っても過言ではない、ただし五杯は無理だけど……反吐が出る、まあちょっと悲しいけど……やばい、嬉しすぎて溶けそう…!あと、甘々ボイスも聴きたい……この間アニメイトで『レツリス』の全キャラ甘々ボイス集あったからなぁ……買ったけど死んだから聞けない……けど、この世界でいつか聞いてやる…!あれ、この展開ってラノベっぽくない?俺ラノベの主人公気分ひゃっはー!!)

 カゼアは、拓が何をしているのかがよくわからなかったが、気にしないでおこう、と思った。カゼアはあの戦いで負ったであろう傷の場所を見るが、綺麗に消えていた。

(……リスペクト中学三年生組で一番魔力が多いユーヒリスト……だけど、回復魔法特化型なんだよな……あれで攻撃使えるようになったらバケモノだからな……)

 カゼアは相手の長所と短所を見極めるのが得意だ。だから、魔力が多くなくても、相手の弱点を突き、リスペクトで五番目に強いという称号を得ることができた。

 拓は考えていた。この世界、『let's respect』の世界についてを。拓がいた世界とは違い、ここは魔法が使えて、何より推し(二次元のキャラ)がいる。ゲームの世界と考えるのが妥当だろう。重要なのは転移ではなく転生ということ。昨日、あの時、野々瀬拓は確実に死んだ。

(ゲームクリアをしても、元の世界に戻らないと考えるのがいいだろう……じゃあ、普通に過ごす……?)

 これが拓の考えた結果だった。ゲームクリアしても元の世界で死んでいるのだから帰ることはないだろう。となれば、クリアしてもこの世界にいると考えておいた方がよさそうだ。

「……おいお前、名前は?」

「え、か、カゼア様に名乗るほどのものでは……」

「言え」

「の、のの、ののののの、野々瀬……ひ、ひひひ、拓です…!」

「……ノノノノノノノノノノセ・ヒヒヒヒヒロ……?長い名前だな」

「い、いえっ…野々瀬拓です…!」

「ノノセ・ヒロ……東洋ならヒロが名前だよな?」

「はひっ!」

 拓はカゼアから目を逸らして、平常心を保とうとする。

(お、おお、推しがぁ…!推しが俺のようなそこら辺によくいるオタク系男子の名前を覚えている……!やばい、嬉しすぎて目から涙とビーム出そう……!俺をこの世界に連れてきてくれた神様…!もう、満足しすぎてやばいです!感涙です感涙!俺、ずっとこの世界で暮らしていたい…!平常心平常心……カゼア様の前で涙流したら変人って思われるし、ビーム出したら引かれちゃうかもしれない……保てぇ……保つんだぁ……)

 拓はしっかりと心臓を上からギュッと抑えた。ほぼほぼありえないが、心臓が飛び出すのを抑えようとしたのだった。

「……じゃあノノセって呼ぶ。俺はカゼア・コルセリオン。その……さっきは不良品って言ってすまなかった……」

 カゼアが拓に向かって頭を下げた。拓は急な出来事に思わず固まってしまった。

「ヒョロヒョロで弱そうな見た目してるから雑魚だと思ったけど、全然強かった。だから……言われて傷ついたと思う……」

「全然そんなことないです」

「口ではそう言っても心は傷ついているだろ?」

「いや全く……」

 なんなら罵倒されて嬉しかったけどな、と思った拓だったが、それはカゼアには強がりだと思われたらしい。カゼアはさらに頭を下げて言った。

「……急に中庭で物音がして見に行ったらお前がいて……不審者だって思った。正直今でも疑ってる」

「え……」

「けどお前は、バンバン魔法を打ってこなかった。無駄打ちをしていなかった……だから、大砲から来たのも信じられないけど本当かもしれないって思った」

 大砲から来たのは嘘だけど、と思った拓だが、そんなことを言ったらシナリオは崩れるし、説明がややこしくなってしまうので口を噤んだ。

「それに、お前、まだ若いだろ?何歳?」

 拓は、一七歳が元いた世界の年齢だが、ここで正直に言ったらリスペクトには入れない。なぜなら、リスペクトは中学三年生までだし、中三じゃないと、シナリオ通りに進まないと考えた。

「十四歳……だと思います」

「だと思いますって……記憶ないのか?」

「はい……ちょっと覚えてなくて……」

「まあ、ジジイには見えないしかと言って赤ちゃんにも見えない。なら同級生だな」

 拓はカゼア様万歳!と思っていたが、これを周りから見ればどうしてその結論に至ったと突っ込まれるだろう。

「俺は……認めてやるよ。お前がリスペクトに入るのを。セズラ先生には合格って言っておく。だから、他の審査でヘマして落ちて入れなくなるなよ?」

 顔を上げてニカッと笑ったカゼアをみて拓はまた心臓を抑えた。

(……これは俺の心臓が持たないかもしれない……カゼア様達と会えて浮かれていたけど……そもそも審査に受からないと入れないんだった……)

 こうして、拓のリスペクト審査は幕を開けたのだった。

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