2 ネネとセズラ先生
「ちなみにですけどネネさん…これって誰かに見せますか?」
『let's respect』で出てくるキャラクターは主に二七人+主人公。二七人のうち、二四人が生徒、三人が先生。生徒は、一〇人の男子と一四人の女子と分けられる。その一四人の女子の中にイリスとネネは入っている。
「えと……み、見せて欲しいなら、見せますよ……?」
「いや、逆です!見せないで欲しいです!」
拓は両手を思い切り振り、首をブンブン振ってダメということを伝える。ネネはその様子が面白かったのかクスッっと笑う。言葉だけ聞けば、バカにしているように聞こえるが、単純に多分悪意ゼロで笑っているだろう、と拓は考えた。
時刻は約午後二時三〇分、拓が起きて約一〇分。拓には起きてからの出来事が一分のように感じられた。
正直、前の世界ではオタ友はいても、オタクのことを色んな人にバカにされて、居心地がいい場所とは言えなかった。でも、推しのーー神ゲーの世界に来るだなんて、最高。
(ゲームクリアしてやる……)
すると、コンコンとドアを叩く音がした。拓はゲームを始めたばかりで、ドキドキワクワクウキウキの時を思い出す。誰が来たのかは、あっさりと思い出せた。ネネが、はい、と答えて扉を開ける。
「失礼するね。ネネさん、ありがとう」
入ってきたのは二〇代のように見える三三歳の男性。子供が二人いる『リスペクト』の先生。元いた世界での、『レツリス』人気ランキングでは、見事に男性キャラ人気ランキング一位を獲得していたーーセズラ・ヒズメル。焦茶色のショートに萌葱色の瞳。身長一八〇cm、体重六五kg、誕生日八月一五日、血液型A型、好きなものは肉で嫌いなものは抹茶。爽やかな感じの見た目でフレンドリーな性格。生徒には優しくて愛嬌がある。
「いえ……私の前にはイリスさんが世話していたので…」
「うん、イリスさんから聞いたよ。こんにちは、ヒロくん。僕はセズラ・ヒズメル。気軽に先生って呼んでね」
「は、はい。セズラ先生」
セズラはニコッと微笑んで、拓に束になっている書類を渡した。軽く一〇〇枚はありそうだった。拓はこんなシーンもあったなと思いながら受け取る。
(お、おお、推しが目の前に二人!?神すぎないか!?俺前世の行い良すぎなんじゃない!?え!やばいこの紙ずっと触ってたいかも!?)
拓は感情を表に出さずに、ニコリと微笑み返して一番上にある文字を読む。
「『リスペクト入塾方法』……?え、ぉ、おお、俺‥こ、ここっ、こけっ、ここに入るんですか!?ととと、と、というか、い、いいんですか!?」
「うん、まあ、審査は受けてもらうけどね」
「セ、セズラ先生……わ、私はいない方がいいのでは……?」
(俺はファンに殺されないようにひっそりと生きるのか…?いや、でもこの世界を思う存分堪能したいし……でも、恨み買ったらどうしよう?この世界魔法あるから一瞬で殺される可能性もあるし……)
ネネはセズラと拓の会話を邪魔しない方がいいと考え、セズラに聞く。その間、拓は書類をペラペラ適当に見ているように二人からすれば見れるが、内心は全く別のことを考えていた。しかし、心を読める魔法なんて存在しないのでわからないが。
「いや、僕は初対面のおじさんと二人きりはきついんじゃないかなと思うんだけどね」
(というか、医務室って毎日通えるのかな?ネネさんと一緒に二人きりで手入れとか超最高じゃない?ってダメダメ……失礼なことを考えたらいつか心を読む人が現れたらやばいことになるよね……今のうちに練習しよ……)
「わ、私も出会って数分なので初対面ですけど……」
ネネは拓を見ながらセズラに意見を伝える。セズラも拓を見ているが、その顔には思いっきり不安とかかれていた。拓は二人の視線に気づいてすらいず、頭の中でいつもの世界とこの夢のような神ゲーの世界について考えていた。
(ゲームの世界だったとしても全員いるのか?全員いなかったらモチベ下がるし……増えててもあれだなぁ……やっぱりこういうのは……)
「「「うーん……」」」
「ヒロくんはどう思う?」
「…全員いた方がいいかと思います」
「あ、き、聞いてたんですね。……じゃあ、この状態で聞いときますね……」
ネネはボールペン付きのメモを上着のポケットにしまい、姿勢を正して視線を拓からセズラに向ける。セズラはその視線に気づいてニコッと微笑んだ。
「じゃあヒロくん、今から質問するから答えてね?」
「あっ、えっ、はい…?」
(やばい混乱しすぎて何も聞いてなかった……セズラ先生とネネさんの会話……うわぁ…レアシーンなのに聞いてなかった……録音しとけばよかった…って、この世界に録音機なんてないかもしれない…!ああ…もったいないことをしちゃったぁ……)
拓は思わず頭を抱えたくなったが、推しの前で抱えてしまうのは失礼だと思い、何とか布団を力強く握ることで抱えることを回避した。
セズラは拓の返事を聞き、大丈夫かな?と思ったが言葉を続ける。ネネは居心地が悪そうにしながら聞く姿勢を作った。
「まず、出身は?」
「日本の東京です」
「ニホンのトウキョウ…?」
「あー……」
(そっか日本ないんだ……)
この世界……『let's respect』はハイファンタジーで、日本という国が存在しなかった。リスペクトがあるのは『シャデーラ王国』という、元の世界には存在しない国だ。ちなみに、『国立魔法高校グランデール』は『シャデーラ王国』と隣国の『マキシファ帝国』の間にある。どちらの国にも属す特別な魔法高校だ。
日本は元の世界の世界地図でいうと東洋なので、拓は再び質問に答える。
「東洋の国です」
「と、東洋!?そんな遠いところから!?」
「こ、ここは西洋ですよ……!真反対では…!?」
セズラは椅子から思いっきり落ちるかのように驚いて、ネネは欠けているメガネがパリンッと割れそうな勢いで目を見開いている。
「な、なんか、起きたらいつの間にかここにいて……俺にも何が何だかよくわからないんです…」
「うーん……じゃあ次の質問かな?誕生日は?」
「え……せ、セズラ先生、い、今の流れでそれ聞きますか…?」
「僕は入塾する可能性がある子にはこの質問は必須だと思うけど?」
「……理解しかねますが、続けてください……」
ネネはジト目でセズラを見るが、セズラは気にしずに拓をニコニコしながら見つめる。拓はゲームで誕生日を聞かれたことがなかったので、少し戸惑った。
『let's respect』のゲームは、主人公が最初に自国の大砲に間違えて入って『シャデーラ王国』に飛ばされる。最初のワンシーンでそれが表された時、拓は困惑していた。そして、拓のように裏庭に飛ばされ、初日は医務室で終える。そこから一週間審査で入塾というシナリオだ。
「八月の一六日です」
「僕と一日しか違わないね」
「八月一六日……」
「よし、次の質問しよっか」
セズラ先生は先ほどの笑顔が消えて真面目な顔になった。緊張感がほぼゼロだった医務室が、急に氷のように冷たいピリピリとした雰囲気になった。ネネの肩が少しピクッと動き、若干猫背だったのに、今はピーンッと背筋を張っている。ついでに言えば、目が若干怯えているような感じだ。拓はというと、ネネの数倍緊張している。ベッドのシーツをギュッと握り、背筋は思いっきり伸ばして頭の中で別のことを考えるようにしていた。そして、セズラの口が動き、こう言った。
「ヒロくんは……どうやって、ここにきたんだい?」
リメイク済み




