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1 転生


 この物語の主人公は野々瀬(ののせ)(ひろ)。どこにでもいるオタク系男子だ。趣味は一番好きなゲーム及び最近ハマってるゲーム及び一番難しいと思うゲームである『let's respect』をすることだ。

 『let's respect』は日本語で「リスペクトしましょう」という意味だが、このゲームがその名前なのは出てくる塾の名前がリスペクトだからだ。略は『レツリス』という。

「あー!早く帰って『レツリス』やりたいんだけど!勉強なんて必要ないじゃん!」

「そんなこと言うなよ拓!お前はいつも勉強めんどいいらない嫌いっていうくせに高得点じゃねぇか!」

「うるさい!」

 友人と口を利きながら、拓は信号を見ずに横断歩道へ一歩踏み出したもちろん、拓はそのことに気がついていない。

「あー、帰ったら『レツリス』の攻略をーー」

「拓!!避けろぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」

「ーーーえ?」

 プウウウウウウウウ!!!!!!

 拓がクラクションの鳴る方を見た時には目の前にトラックがいた。

 グシャッと生々しい音がして、視界が真っ赤に染まった。

「ーーーーー!?ーーー!!ーー!ーーーーーーーーーー!?!?」

 ああ、俺、死ぬのか。拓はそう思いながら目を瞑った。

 友人の声が聞こえない。ただ、ドク……ドク……ととても遅い心臓の音しか聞こえない。真っ暗な闇に入ってく。

(……最後に『レツリス』の攻略したかったな……まだ未クリアなのに…)

 そう思いながら拓は泥沼に落ちていくように意識を落とした。



 ◇◇◇



「ちょっと!中庭に変な不審者いるんだけど!?」

「うわぁ……なんでぇ?」

「僕の記憶の中ではこう言う出来事をなんと言うのか……」

「ちょっと黙ってくださいまし?起きろですわ」

「お……起こすのってかわいそうじゃ………」

「そんなことより先生が呼んでたけど?」

「そんなことなの?これって」



 ◇◇◇



「……ん、あれ……俺、何を………」

 拓は目が覚めると、知らないベッドの上にいた。窓から射す日光が眩しく目を閉じると、お昼寝をしているようで心地よかった。

 拓は目を閉じながら、どうしてここにいるんだろう、と考えた。

(なんかの会話を聞いた気が……あれ、なんだっけ……思い出せない……)

 窓を見ないようにして、部屋を見渡す。机に丁寧に置かれている包帯や絆創膏、床に散らばっている何かの紙、本棚に仕舞われている難しそうな医学の本。おそらくここは医務室や、保健室などの類の部屋だろう。

 すると、コンコンコンとドアを叩く音がした。拓は、どうぞ、と言うべきか悩んだが、ここは自分の知らない場所だったので、言わずに黙ることにした。そして、ガチャリと音を立ててドアが開いた。

「失礼します……あ、起きてたんだね」

 入ってきたのは茶色の髪をポニーテールにして、卵色の瞳をした少女。少女はニコリと微笑みながら、こちらへ歩いてくる。拓はその少女に見覚えがあった。

「初めまして、私はイリス、イリス・オーラディオ。よろしくね」

 身長一五六cmで、体重は四七kg。誕生日は八月一九日、血液型A型、好きなものはスナック菓子、嫌いなものはピクルス。『レツリス』人気ランキングではいつも一位をとっていた『let's respect』のヒロイン……拓の頭の中にその情報が一気に流れ込んできた。そして、数秒後、拓は今目の前にいる少女が『let's respect』という神ゲーのヒロインということを理解した。

「え……えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!?!?!?!?!?え、い、いい、今!いい、いいい、イリス・お、オーラディオって言いましたか!?」

「うん、言ったけど、それがどうしたの?」

 ふふっと笑いながら首を傾げるイリス。拓はそれを見て思わず心臓を抑えたくなった。

(いや、待て待て待て待て……どんな夢だ!?こんな夢あっていいのか!?『let's respect』のイリス様と会話してるって神じゃん!え、夢だよね!?現実であって欲しいけど!)

 拓は思わず自分の頬をつねった。その結果、感覚があったので拓はこれが現実と認めざるを得なくなった。拓は推しに会えて嬉しい!という喜びと、なんで推しと会話できてるんだ?という困惑で頭がいっぱいになった。

「急に頬をつねって大丈夫?」

「あ、いえっ……こ、ここって、ゆ、夢じゃないですよね…?」

「あはは、寝ぼけちゃってる?ここは現実だよ」

 その言葉を聞いた瞬間、拓は急に頭痛がして頭を抑えた。頭に生前の記憶ーートラックに轢かれた時の記憶が急に流れ込んできた。つい先ほど、イリスについて思い出したからだろうか、と考えた。

 拓はどうしてあの時トラックに轢かれて死んだのに、今生きているんだ?と疑問を持った。

「大丈夫!?頭痛いの!?」

「あ、いや……だだ、大丈夫です」

 拓は状況整理を頭の中ですることにした。


  トラックに轢かれた

  ↓

  転生して、『let's respect』の世界に来た

  ↓

  何かのアクシデントで医務室に運ばれた

  ↓

  今


「ならいいんだけどね……私たちは君がリスペクトの中庭で倒れていたから医務室に運んできたんだ。君がなんであそこにいたのかは気になるけど、それは後で確認するね。とりあえず、名前は?」

 リスペクトーーそれは『let's respect』の塾の名前である。『let's respect』は塾に通う主人公が塾にいる全員を『国立魔法高校グランデール』に合格させ、その上でヒロイン全員に好きになってもらうという超高難易度のゲームである。ついこの間、大学受験編がでたので買ったが、死んでしまったためプレイできていないのだ。

「え……野々瀬拓です」

「ノノセヒロ……ノノセが名前?」

「いえ、拓が名前です」

「……遠くの国からきたのかな?ヒロくん、よろしくね」

「えっと……よろしくお願いしますイリス様」

 流石に推しに呼び捨てをするわけにいかないし、無礼な態度を取るわけにいかない。そして、これまでもガチファンとしてキャラ全員を様付けで呼んでいた。あと、様付けしといたほうがなんかいいような気がしたからだ。

「あっはは!様付けなんていらないよ?イリスって気軽に呼んで」

「じゃ、じゃあ…イリスさんで」

「ん!それでいいよ、じゃあ、セズラ先生に報告しにいかないといけないから待っといてね!」

 セズラ先生とは、この塾の講師である。若くて生徒からも人気がある。

 イリスはそう言って立ち上がり、医務室から出て行った。そして、入れ替えで誰かが入ってきた。

 若菜色のデコだしローポニー。琥珀色の瞳は優しくて触れたら壊れてしまいそうだ。そして、丸メガネという可愛らしい形の眼鏡をかけている。

 名前はネネ・ユーヒリスト。身長一五一cm、体重四二kg、誕生日十月一日、血液型A型、好きなものはクッキー、嫌いなものはゴーヤ。攻略難易度は比較的簡単だったはず。大人しい性格でコリスのように可愛がられがちだが、『彼氏』にはメンヘラ対応をしている二重人格。頭はリスペクト内で三番目にいい。

「え…ぁ…ぅ……」

「えと……は、はは、初めまして…?野々瀬拓です」

「の、ノノセ…ヒロ……な、名前はど、どっちです…か……?」

「あ、拓です」

「じゃ、じゃあ、ノノセさんと……呼ばせて、いただきます…」

 名前を聞いてきたのに苗字で呼んでくるところもかわいいな、と拓は思った。

 拓は『let's respect』は箱推しだが、その中でも最推しというのも存在する。残念だが、ネネやイリスはニ推しである。

「えっと……ネネ・ユーヒリストです……その……い、医務室の管理は基本的に私がやってますので……その、よろしくお願いします……」

 人見知りで陽キャが苦手、そして声も小さくて周りから嫌われがちな子に見えるが、実は懐に入った相手には甘えん坊で、素直でかわいいとなるギャップ萌えキャラなのだ。『let's respect』の中でもトップレベルに人気のあるキャラクターと言っても過言ではない。回復系魔法を得意としていて、それは講師を超えるほどとも言われている。魔力もリスペクト一位なほど多いとされている。しかし、攻撃魔法、防御魔法は壊滅的で使えないため、回復特化なのだ

「……き、きき、気軽に呼んでくださいネネ様」

「さ、様付けなんて……恐れ多いです………よ、呼び捨てとちゃん付けと様付けとあだ名以外でお願いします……」

 それってさん付けと呼べと暗に言っているものでは?と思った拓だが、顔を青ざめながら言うネネには正直に言えず、ぐっと言葉を飲み込んだ。

「じゃ、じゃあ、ネネさんと呼ばせていただきます」

「は、はい、お願いします……」

「お、お願いします……」

「そ、その……わ、私は回復魔法の持ち主……というか、家系なので……け、怪我した時には、たた、頼ってくださると治します…」

「ぁ…あ、ああ、ありがとうございます…!け、こけっ、け、敬語、はは、外していいですよ?」

「そ、そんな……の、のの、ノノセさんこそ、は、外していいんですよ?」

 ネネは手をもじもじさせて、頬をほんのり赤らめながら自信なさげに言う。こう言う仕草がファンの心臓を止めるのだと拓は思った。拓は心臓がバクバク言ってるのを気のせいだと思うために声を荒げて反論した。

「いやいや!推しにタメ口なんてヤバすぎだと思いませんか!?俺はタメ口なんてしたら他のファンに頭刈り取られてしまいますよ!そうならないためにかわいいかわいい推しに外していいよ?って言われても敬語になってるんです!というか、タメ口なんて恐れ多すぎます!俺は俺のルールを突き進むつもりなので!理解!してくださると!助かります!」

「は、はいぃ……」

 ネネは一歩、一歩ずつ後ずさってカーテンのそばまで行く。頰のやわらかい赤はすでに消えていて顔が青ざめている。拓は目を瞑って言ってるのでそんなこと一切分からずネネが怯えているのもわからないという感じだった。

「あと、ネネさん!俺は別に敬語が癖ってわけじゃないですし!確かに推しに敬語を外せと言われたらそれはとってもご褒美ですけど!俺にはハードルが高すぎるんです!もうちょっと期間を置いてからでお願いできませんかね!?」

「ひいぃぃ!!」

 はぁ、はぁ、とノンブレスで言った拓は顔を上げて前を見ると、そこにネネはいなかった。クルリと周りを見渡すと、カーテンにくるまっているネネを発見した。

(はっ、俺って……推しを怖がらせてしまった………?)

 ファンとして失格すぎる行為をしてしまったという自覚をして拓は布団を思いきり頭からかぶった。

「ね、ねね、ネネさん……ご、ご、ごめんなさい……すす、すみません……ほ、ほほ、本当に…反省してます……あぁ、ファンとして失格ですね……あはは……」

「い、いえ……ちょっとよく分からないワードもありましたけど…なんか……ノノセさんはタメ口に対して恐怖でも抱いてるんですか…?」

「え…?」

 予想の斜め上の回答をしたネネに呆気をとられて、拓は思わず布団から頭を出してぽけーっとする。ネネはカーテンから一歩も動いていないが、目は拓のことをしっかり捉えている。

「わ、私は……その…しょ、初対面の人にタメってのはちょっと良くないと言う気がして……というか、へ、変人だと思われてしまうと思いますし……だから、その……ノノセさんも言ってたように……期間を置いてからでいいですかね…?」

 へにゃりと微笑んだネネは昼の明るい陽射しを浴びて神々しかった。風もそよそよ吹いて髪は揺れている。カーテンを掴んでいた手は、先ほど恥ずかしかったのか口に手を当てているためはなれている。その数秒を拓は数分と感じて、何時間も見ていたいと、思った。

「……は、はい……期間を置いてからで」

 二人で笑い合ってから、ネネがこちらに歩いてきて、拓の近くにある椅子に座った。すると、上着のポケットからメモ帳とボールペンを取り出した。

「はい……で、でで、ではまず、怪我がないか確認したいんですけど……痛いところはありますか?」

「先ほど神々しいネネさんを見て一瞬心臓を押さえたくなりました」

「それは痛いっていうんでしょうか…?……まあ……心臓病にかかってたら大変ですね」

「俺はこの世界に来て良かったんですかね」

「……厨二病の症状ですね。なら問題なさそうです」

 ネネはニコリとしながら、メモに「厨二病」と書いた。もしこれがゼズラ先生に見せられるとなった時……他の人にもバレた時……すごい変な目で見られそうなので想像しないために考えを放棄することにした拓であった。

リメイク済み

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