第5話「班決めと、雪の予感」
九月中旬、まだ暑さが残る。
ホームルームで、露草先生が黒板に大きく書いた。
【修学旅行】
その瞬間、教室がざわっとする。
「北海道だって!」
「スキーあるじゃん!」
「やば、楽しみ!」
あちこちから声が上がる。
青藤七星も、少しだけ背筋を伸ばした。
修学旅行。
クラスで過ごす、特別な2日間。
――その言葉だけで、胸が少し浮き立つ。
⸻
「はいはい、落ち着けー」
露草瑞貴先生が、軽く手を叩いた。
「班はな、男女3人ずつ。異論は認めん」
「えーーー!」
一斉にブーイング。
「交流を深めるためだ。以上」
にやっと笑う露草先生。
絶対、楽しんでる。と柳裏葉は密かに思っていた。
⸻
青藤七星と刈安直哉と若竹翔真は互いを見合わせた。
「……だよな」
「だよな」
「……だな」
3人は、無言でうなずき合った。
いつもの3人。
そこまではいい。
問題は――女子。
(……誰と組むんだ)
青藤七星も刈安直哉も若竹翔真も、内心かなり焦っていた。
女子と、そこまで話したことがない。
特に修学旅行とかいう一大イベント。あまり見せたくないような姿も見せるわけで。
話しかける勇気なんて、ない。
「どうする?」
刈安直哉が小声で言う。
「誰か来てくれないかな」
若竹翔真が本音を漏らす。
「……無理だろ」
青藤七星は正直だった。
3人で固まって、動けずにいる。
完全に“余り枠”だった。
⸻
そのとき。
「……ねえ」
後ろから、やわらかい声。
振り向くと、そこにいたのは――柳裏葉。
隣には、真朱瑠衣と二藍すみれ。
「もしよかったらさ」
柳裏葉は、少しだけ緊張した笑顔で言った。
「私たちと、一緒に組まない?」
一瞬、時間が止まる。
「……え?」
青藤七星の声が裏返る。
そんなことに気づくこともなく真朱瑠衣が元気よく続ける。
「ちょうど3人だし!」
「ね?すみれはおっけー?」
二藍すみれも、こくりとうなずく。
「……いいと思う」
青藤七星は、ふと答えた。
「う、うん……ぜひ。てか、照柿とか紅鳶たちはいいの?」
「助かる〜!あー、あいつらは別の女子たちと組むって。いつも一緒だし、たまにはいいでしょ」
柳裏葉が、ぱっと笑った。
⸻
こうして、班は決まった。
【一班】
青藤七星/刈安直哉/若竹翔真
柳裏葉/真朱瑠衣/二藍すみれ
黒板に書かれた名前を見て、
青藤七星は、じわじわと実感してきた。
(……2日間、一緒……)
やばい。
冷静でいられる気がしない。
⸻
「で、次」
露草先生が言う。
「2日目3日目は、スキーかスノボな、希望出せ」
クラスが、またざわつく。
「俺、スキー」
刈安直哉が即答。
「俺も」
若竹翔真が続く。
「……俺も」
青藤七星も頷く。
3人、安定のスキー派。やったことないしな、と3人は頷いた。
⸻
「私たちは〜」
真朱瑠衣が手を挙げる。
「スノボ!」
「うん」
二藍すみれも静かに言う。
「私も」
柳裏葉も続く。
「ボードあるし」
青藤七星は、思わず見る。
「……持ってるの?」
「うん。マイボード」
「すご……」
素直に感心した。
「私らもだよ」
二藍すみれと真朱瑠衣も言う。
「……え、三人とも?」
若竹翔真が驚く。
「本気勢じゃん」
「まあね〜」
柳裏葉は照れくさそうに、でも得意気に笑った。
⸻
露草先生のもとへ行き、事情を説明すると。
「ほーう、マイボードか、いいねえ。じゃあ、許可な」
あっさりOK。
「ちゃんと管理しろよー」
「はい!」
三人は元気よく答えた。
席に戻る途中。
青藤七星は、ちらっと柳裏葉を見る。
楽しそうに話している。
スノボの話。
雪の話。
北海道の話。
(……知らない一面、また増えた)
ボードに乗る柳。
きっと、かっこいいんだろうな。
想像して、胸が少し熱くなる。
気づけば。
修学旅行が楽しみで仕方なくなっている自分がいた。
――彼女と同じ班だから。
そんな理由が、
いちばん大きいなんて、
まだ知る由もなかったけれど。




