第4話
予定より少し早く、列車は中央駅――すなわち、チェリー家の領地へと到着した。
ここまで来るのも、なかなか疲れたわ。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫よ」
「おっと、平気かい?」
「まだ大丈夫です」
「このあと、少しだけ列車で移動してから本邸に向かうよ。我慢してくれ」
「はい」
私たちは駅のホームで列車を待ち、それほど待たずに次の列車が到着した。
そして、本家の屋敷へ向かうために乗り換えた。
その屋敷は、他国の王城に匹敵するほどの大きさだった。
敷地内には小規模な駅が設けられていて、わざわざ馬車での移動をしなくても済むようになっている。
列車が屋敷内の駅に着くと、そこから馬車で本邸まで移動した。所要時間は約5分。
「ゆっくり休んでおいで」
「はい」
私は自室へ向かった。後ろには荷物を抱えたエメリーがついてくる。
部屋に入ると、豪華なベッドが目に入った。
疲れた……
私はそのまま、ふかふかのベッドに身体を投げ出した。
本来なら、こんなに疲れるはずじゃないのに。
でもこの病気のせいで、昔より疲れやすくなっている。
しかも昨晩は列車のトラブルで乗り換えもあったしね。
*
コンコンッ
「母さんよ」
荷物を整理していたエメリーがドアを開けに行く。
「ジェン、具合はどう?」
母は美しいブロンドの髪と丸い眼鏡が印象的な人だ。
その顔には、どこか焦りがにじんでいた。
「お父様に聞きましたか?」
「ええ、聞いたわ」
母は少し悲しげな顔で、私のベッドの横に腰掛けた。
「私は、そんな簡単に死んだりしないわ」
「生き延びてみせる」
「ジェニファーは本当に優秀な子。
成績も良くて、王立学院を飛び級で卒業して……」
「だって、早く外の世界に出てみたかったんだもん」
母は優しく私の頭を撫でてくれた。
「今日はお父様、いくつかの王国へ出向かないといけないの」
「戦争の件ですよね?」
「ええ」
「戦争、早く終わるといいな……」
*
「ロバート、戦争を宣言した王国に関する資料をすべて用意してくれ」
「かしこまりました」
執事が部屋を出て行った。
現状、宣戦布告した側はかなりの策略家のようだ。
戦争を宣言しておきながら、敵が誰かを明言していない。
じゃあ、誰と戦うつもりなの?
また北方諸国と……?
私は新聞を手に取り、戦争に関する記事を読み直した。
――グランド王国は、一体何を考えているの?
まさか……
「こちらが関連するすべての資料です。情報部からのものも含まれています」
「……で、諜報部は?」
「こちらです」
1枚の紙が手渡された。
光の加減で、文字が見えにくい……
紙を手に取ると――
「これは……!」
「すぐにアレスクラザス行きの列車を用意しろ!」
「かしこまりました、旦那様!」
*
昼食の時間。私は食堂で食事を取っていた。
父はテーブルの上座に、母はその左隣に、
私は父の右隣に座っている。
「どこの王国へ向かうつもりなんですか?」
「まずはアレスクラザスだ。その後は様子を見て決める」
「アレスクラザスの王は、どう反応すると思う?」
「例によって中立を保つだろう」
「でも……」
「でも、何?」
私はそう問いかけた。
「もし父の予想が正しければ――
アレスクラザスは今回の戦争で中立ではいられないはずだ」
「じゃあ、今回の戦争って……これまでで一番大きなものになる可能性があるってことですか?」
「その通りだ。さすが俺の娘、鋭いな」
「今回は、アレスクラザスが我々の側に立つことになるだろう」
「我々の側って……?」
「……父の予想が当たっていれば、の話だ」
「そろそろ時間だな」
昼食を終えると、父は出発の準備に向かった。
*
屋敷の正門前――
「行ってくるよ。夜には戻れると思う」
そう言い残し、父は馬車に乗って屋敷の駅へと向かっていった。